複雑・ファジー小説

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頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~
日時: 2020/12/26 11:22
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: fMHQuj5n)

【頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency!〜】

 異世界“アンダルシア”。その世界にある、魔法の栄える王国でのお話。
 アンディルーヴ魔導王国。その片隅に、不思議な店がありました。
 その名前を、『頼まれ屋アリア』と——。
 木造の店の入り口に掛かっている看板には、こんな文言が刻まれている。

『頼まれ屋アリア、開店中!
 願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』

 店を経営するは魔導士の姉弟。
 これは、そんな二人と、店に訪れる様々な依頼のお話。

  ◇

 連作短編集です。一章につき依頼が一つです。
 更新はアイデアが浮かび次第なので不定期です。
 舞台は「魂込めのフィレル」に出てきた大陸国家シエランディアの東方、北大陸です。
 それでは——

「頼まれ屋アリアへようこそ。あなたの依頼はなぁに?」
「言っておくが、面倒事はお断りだからな」

——————

【主要キャラ紹介】

・アリア・ティレイト……(17歳)
 全属性魔法使いの少女。「頼まれ屋アリア」の店主でもある。明るく素直で正義感が強い。正義感を暴走させて、トラブルを引き起こすこともしばしば。困った人を見ると放っておけない。人と関わることが得意で、店では接客担当。背中くらいまでの長さの赤い髪に赤い瞳、赤いワンピース。しっかり者のお姉ちゃんだが、弟には過保護で鬱陶しがられることが多い。家事が得意。
「頼まれ屋アリアへようこそ! あなたの依頼は何かしら? あたしたちが叶えたげる!」

・ヴェルゼ・ティレイト……(15歳)
 死霊術師にして固有魔法、血の魔術を使う少年。アリアの弟で、店では会計役を務める。基本的に冷静だが、やや好戦的な面を見せることもある。人と関わることが苦手で、普段は店の奥に引っ込んでいる。「自分は周りより出来る」と思っているがまだまだ青い。黒髪黒眼、黒のマントを羽織り、背中には死神の大鎌。首からは素朴な笛を下げる。何かと暴走しがちな姉のブレーキ役。
「死霊術師は長く生きない。オレが早死にするのは自明の理。……怖くないって言ったら、嘘になるな」

・デュナミス・アルカイオン……(生きていたら17歳)
 ヴェルゼの傍にいつもいる灰色の亡霊。ヴェルゼの大親友だが、ヴェルゼを守って命を落とした際に、奇跡によって霊体として地上にとどまれるようになったという。元天才死霊術師で、死後もその力の一部を使える。温厚な性格で、仲良しゆえに喧嘩ばかりの姉弟の仲裁役となっている。アルカイオンという貴族の子だが、捨て子だったらしく本当の素性は不明。
「死んでるのって不思議な感じ。眠りもしないし食べもしない。……でもちょっと、寂しいかな」

・ソーティア・レイ……(16歳)
 異民族「イデュールの民」の少女。白い髪に赤い瞳を持つ。内気で臆病ではあるが、強い芯を持つ。
 ある日、彼女は頼まれ屋アリアに転がり込んできたらしいが……?
 直接魔法を使うことは出来ないが、直前に放たれた魔法に限ってコピーして使える「魔法転写」の才を持つ。また、一般人には見えない魔法素《マナ》を見ることが出来る。
「わたしはもう……何も出来ない弱いわたしじゃないんですよっ! 任せてください!」

————————

【目次】(変わる可能性大です。とりあえず仮)

 プロローグ 新しい居場所 >>1 ——1456年3月

【第一部 帝国暦1457年の依頼たち】>>2-

 第一の依頼 パンドラの黒い箱 >>2-9 ——4月
 第二の依頼 人形の行く先 >>10-12 ——5月
 第三の依頼 色無き少女の願い事 >>13-18 ——6月
 第四の依頼 双頭の魔導士 >>19-29 ——7月
 第五の依頼 アーチャルドの凍れる姫君 >>30-33 ——8月

 番外 死霊ツイソウ譚 >>34-42 ——1456年5月
 ヴェルゼ誕生日編 いつか来る春 >>43 ——12月2日

 第六の依頼 権力色の暴力 >>44-51 ——9月
 第七の依頼 黄昏のアムネシア >>52- ——10月
 第八の依頼 運命を分かつ白双 >> ——11月
 第九の依頼 満ちぬ月の傀儡使 >> ——12月

 番外 幸せの地はいずこ >> ——1455年

  ◇

【第二部 1458年は忙しい】 >>

 第十の依頼 笛の音たどれば ティレイト姉弟編 >> ——1月
               ソーティア編 >>
               デュナミス編 >>

 第十一の依頼 厄災の虹結晶 >>
 第十二の依頼
 第十三の依頼
 第十四の依頼 正義の在処 >> ——5月

  ◇

【第三部 1459年の静かな夜】 >>

 第 の依頼 転生勇者のアンチテーゼ >> ——2月
 第 の依頼 砂漠に咲かせ、雪の華 >> ——7月
 最後の依頼 黄昏の果てで君を待つ >> ——12月

  ◇

【最終部 1460年と共にさよなら】

 今に至るエルナス >> ——1月

  ◇

 過去の依頼1 毒色の装身具 >> ——1457年1月

 番外 風邪っぴきアリア >> ——1458年2月
 番外 灰色の真実 >> ——1458年10月
 番外 毒薔薇のローゼリア >> ——1457年7月
 番外 人魚の泪 前編 >> ——1458年11月
 番外 人魚の泪 後編 >> ——1456年7月
 番外 ある新年に願う >>
 番外 頼まれ屋の休日 >>

 過去編 遠い日のエルナス >>
 過去編 幸せの地はいずこ >>

Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.23 )
日時: 2020/10/18 10:20
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: z5ML5wzR)


 アリアとソーティアの作った夕飯を皆で食べ、翌朝。

「おはよー、ヴェルゼ! そしてお客さんも!」
「お、おはようございます……」

 いつも通り、階段の下へ降りるとアリアとソーティアが迎えてくる。
 今日はルーヴェも目覚めていたみたいで、双頭の魔導士は危なげなく階段を下りてきた。

「今日、行くのよね」
「今日、行くんだぜ」

 確認し合うように姉と言葉を交わし、ヴェルゼは食卓についた。
 料理をするのも選択をするのも、いつも姉の役割だった。ヴェルゼは生まれてこの方、家事というものをやったことがない。幼い頃は母が、母が死んでからは母代わりとなった女性が、故郷を追放されてからは姉が、それぞれやってきた。それを当たり前だと思っていた。
 その日の朝食は焼いたパンにバターを塗ったものと蜂蜜を掛けたヨーグルト。いつ客が来るのかわからないこの店の食事はいつも質素だ。ヴェルゼのパンにはサラミが挟まっていた。血の魔術で血を失いがちな彼に配慮して、あえて肉を多めにしてくれたものと見える。アリアはそういった些細な気遣いの出来る子だった。

「……いただきます」

 挨拶をしてご飯を食べる。双頭の双子は右手と左手をそれぞれで器用に使い分けて、お互いの頭に食べさせていた。
 腹ごしらえを終えて、早速出発だ。セウンの町へ向かって歩き出す。町の場所は地図で確認しているので問題ない。そのまま歩く。
 いつか、眠り病で全滅したという町、セウン。そこに行けば、ルーヴェの眠りについて何かがわかるはずだから。

  ◇

 遠くにセウンの廃墟が見えた場所で、ヴェルゼは一行を止めた。

「この辺りでいいだろう。……血の呪い《ブラッディ・カース》を掛けるぞ」

 言って、黒の瞳でルーヴェを見た。ルーヴェは真摯な顔で頷いた。
 では始める、とヴェルゼはナイフを構える。

「血の呪い《ブラッディ・カース》、紅の接続《ロート・ノードゥス》!」

 唱え、昨日包帯を巻いた場所とは少しずらし、右腕へナイフを振り下ろす。飛び散った血液が赤い帯となってルーヴェの首に巻きついた。
 傷口に包帯を巻きながら、満足げにヴェルゼは頷いた。

「ふむ、これでいいだろう。ただ、この呪法は術者の血液を消費する。そう長くは続けられないから……さっさと行くぞ」
「待って」

 ルーヴェが歩き出そうとするヴェルゼを止めた。

「防御魔法……掛けていかないと、ね?」
「……そうだな」

 ヴェルゼは頷いた。
 ルーヴェが天に右手を差し伸べ、詠唱を開始する。

「あまねく照らす父なる空よ、守護のヴェールを我らが元に」

 短い詠唱。その直後、輝く光が薄い膜となって、ヴェルゼたちをそれぞれ包み込んだ。
 はにかむようにルーヴェは笑う。

「これで瘴気から守れるよ」

  ◇

 町の廃墟へ入る。建物は皆倒壊し、屋根の残っているものは珍しい。至るところに白骨化した遺体が転がっており、町がこうなったのはずいぶん昔のことなのだと思わせる。そこには死の空気が漂っていた。

「こんなところで、何か見つかるのでしょうか……」

 ソーティアが不安そうな顔をした。
 するとリーヴェがソーティアの方へ首を向け、にっこりと笑った。

「こんなところだからあるんじゃろう。瘴気の漂うこんな廃墟に、わざわざ訪れる者など普通はいまいて。本の置いてある場所を目指すが良かろう」

 町を少し歩いた時だった。不意に妙な音がした。それは骨の軋むような、聞いていて怖気を発する音だった。

「……何の音だ?」

 振り返ったヴェルゼと、そこらに転がっている髑髏の目が合った。ヴェルゼは確かに見る。その髑髏が、ニタァと笑みを作ったのを。
 背筋に怖気が走った。

「……このッ!」

 反射的に背から鎌を引き抜き、向かってきた一体を横薙ぎにする。骸骨の頭と胴が分離した。その頭は笑っていた。

「え? え? 何? 何なのよ?」
「杖を構えろ」

 混乱する姉にヴェルゼは囁く。

「死霊の気配がする。人々の亡骸に悪霊がとり憑いて、悪さをしているとオレは見る。転がっている骸骨に気をつけろ。そいつらは皆……敵だ」

 アリアの目の前で不意に骸骨が跳び起き、その腕でアリアを貫こうとする。アリアは炎の魔法を浴びせてこれを撃退した。

「気をつけるのじゃ! 広範囲で炎の魔法を使ったら、貴重な資料も燃えてしまうぞ!」
「細かい制御って苦手なのよねっ! ったくもう!」

 リーヴェの言葉に、アリアは苛立たしげに返事をした。
 リーヴェも炎の魔法で援護しているようだが、その勢いは弱めである。ルーヴェと身体を共有している以上、リーヴェが魔法を使いすぎたら、防御魔法を張っているルーヴェにも影響が出てしまうということだろうか。
 骸骨は鎌で斬っても死なず、バラバラに分離したパーツで襲ってくる。ヴェルゼの斬撃はこの場では不利だった。
 攻めあぐね、何か他に手はないかと懐を探った手に何かが触れる。それは報酬としてリーヴェの差し出した、炎魔法が使えるようになる赤い指輪だった。属性魔法に適性のないヴェルゼだが、これを使えばもしかして。
 この世界“アンダルシア”の呪文詠唱はアドリブである。頭の中にある魔法イメージをしっかりとした形にするために、魔導士たちは詠唱を行う。効果の大きさに比例してその分詠唱は長くなるが、ベテランの魔導士は短い詠唱で大きな効果を生み出すことが出来るらしい。
 ヴェルゼは指輪を左手に嵌め、炎の魔法をイメージした。試しに詠唱。

「赤く染まれ、白き骸《むくろ》よ!」

 狙ったのは、骨だけをピンポイントで燃やす魔法。属性魔法は不慣れだが、細かい制御には自信があった。感覚的に魔法素《マナ》を組み、組んだそれを破壊してエネルギーを生み出す。
 瞬間。
 ぼうっと火柱が立ち上った。それは今まさにヴェルゼを襲わんとしていた白い骨から。しかしそれは近くに転がっていた何かの書物も燃やしてしまう。

「ああっ、もう何やってんのよ馬鹿! 属性魔法はあたしに任せて、あんたは余計なことしないの!」

 アリアに頭をはたかれた。済まない、と返事をして指輪をポケットに仕舞った。
 誰だって魔法を使えるようにする代物らしいが、慣れぬ者が使った場合、上手くいかないのが道理である。ならば、とヴェルゼは鎌を構えた。この鎌で障害を排除するのみ。
 しばらくして、ソーティアが歓声をあげた。

「あ、ありました! この病に倒れた人の日記です! これを読めば何かわかるかも――って、きゃあっ!?」

 上がった悲鳴。
 先行していたソーティアの背に迫るのは、骨の腕。ソーティアは胸に日記を抱きかかえ、思わず目を閉じた、
 その時。
 ふわり、穏やかな風が吹いた。


「やあ、遅れてごめんね」


 現れた灰色の人影が、ソーティアを貫く寸前で骨の腕を止めていた。
 ヴェルゼは驚きに目を見開く。

「デュナミス!」

 灰色の人影は悪戯っぽく笑った。

「今からでもこのメンバーに、入れるかな?」

 もちろんだ、とヴェルゼは頷いた。
 デュナミスは亡霊である。数年前か。ヴェルゼは悪しき死霊を追って遠い町まで来ていた。その先で出会った天才死霊術師の少年デュナミスと大親友になったが、旅の最後、デュナミスはヴェルゼを庇って死んでしまった。しかし「死にたくない」デュナミスの想いと「死なせたくない」ヴェルゼの想い、そしてそれぞれの死霊術が絡み合って奇跡を起こした。その時の奇跡のお陰で、デュナミスは亡霊であるにもかかわらず冥界に呼ばれることはなく、ヴェルゼの相棒として、ヴェルゼが死ぬまで一緒に居続けることが可能となったのだ。
 デュナミスは亡霊であるがゆえに、決して死ぬことがない。それに透けた身体を実体化させることだって出来る。そんな彼の登場は、とても心強いものだった。
 ヴェルゼは相棒に問うた。

「デュナミス、例の調査は」
「済ませたよ。とりあえず、この悪霊たちを撃退すればオーケイ?」
「任せた」

 頷き、ヴェルゼは皆に声を掛けた。

「ソーティアが資料を入手したらしい! これ以上ここにいるのは危険だ、一旦帰るぞ!」

 ヴェルゼの声に従い、皆、町の入り口へ向かっていく。ソーティアがぺこりと頭を下げた。

「あの、ありがとうございました」
「同じ頼まれ屋の仲間じゃないか、当然だろう?」

 デュナミスは優しげな笑みを浮かべ、ソーティアの背中を押した。
 ヴェルゼとデュナミス。二人だけが町に残る。死霊術師である彼らには、やらなければならないことが残されていた。
 この町で骨に潜み、操っていたのは悪霊だ。しかし霊である以上、鎮めなければならない。それが死霊術師の役割である。
 ヴェルゼはいつも首から下げていた笛を、そっと口に当てた。そんなヴェルゼを守るように、デュナミスが身体を実体化させた。
 全ての悪霊を骨の器から解放出来たわけではない。だが、少しでもいい、鎮めなければ。
 ヴェルゼの笛から清浄な音楽が流れ出す。

「暴れるな、眠れ。冥界への路《みち》はここにある」

 その音楽に乗せ、歌うようにデュナミスが囁いた。骨の器から解放された魂たちが、きらめきながらも天へ昇っていく。それは幻想的な光景だった。
 だが、そうしている間にも他の骨たちが向かっていく。デュナミスはそれらをヴェルゼに近づけさせんと遠ざけ続けた。死者であるデュナミスならば、いくら傷付いたって死ぬことはない。
 それからしばらく。骨から解放された魂を皆、冥界に送り終わり、ヴェルゼはデュナミスに守られながらも町から出る。町の入り口では、アリアたちが心配そうな顔をしていた。

「ヴェルゼ! もうっ、全然戻ってこないんだから、心配したわ!」
「姉貴は過保護過ぎ……」

 アリアの方へ向かおうと伸ばした足は、何故折れたのだろう。
 何故、皆がこんなに大きく見えるのだろう。

「……ッ」

 ヴェルゼは激しく息を切らし、地に膝をついていた。
 当然のことだろう。血の呪いでただでさえ血を消耗しているのだ。その状態で骨どもを撃退し、弔いの儀式まで行って。アリアのように膨大な魔力量を持つわけではなく、魔法の技術でもって戦ってきたヴェルゼがこうなるのも自明の理だった。
 ヴェルゼの不調につられ、ルーヴェの顔色が悪くなる。ヴェルゼはナイフを取り出し、それで空を切った。するとルーヴェの首に巻きついていた血の帯がはらりと落ちて、ルーヴェの顔色が元に戻った。
 が、そこで限界だった。視界が明滅する。アリアの悲鳴が耳に聞こえたのを最後に、ヴェルゼの意識は消滅した。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.24 )
日時: 2020/10/20 09:16
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


「ったく……ヴェルゼったら。無茶し過ぎなんだから」

 意識を失った弟を見、アリアは溜め息をついた。
 どうしようかと考えた結果、アリアがヴェルゼを背負って帰ることになった。「重いなら手伝うよ?」とデュナミスが申し出たが、大丈夫と首を振る。
 背負った身体は軽かった。とても、十五歳の男の子とは思えない。

「ヴェルゼ……あたしよりも軽いんじゃないかしら。このまま力を使い続けたら、そのうちに抜け殻になって死んじゃわないかな……」
「死ぬよ」

 答えるデュナミスは、どこまでもにこやかに、かつ冷静に。

「長生きした死霊術師なんていないよ。僕だって死んだし、ね。ヴェルゼは君よりも早く死ぬ運命なんだ。力を使うなって言ったって……君は今の魔法なしで生活できると思うかい? それと同じこと。ヴェルゼが命を削って魔法を使うのは、彼が彼である証拠」
「わかっては……いるんだけど」

 アリアは背負ったヴェルゼの方を見る。固く閉じられた目、苦しげな表情。幸せに長生きしてほしいとは思うけれど、それは絶対に叶わない夢で。
 暗い雰囲気になった一行を、ソーティアが励ました。

「えっと、帰ったらみんなで例の日記を読んでみましょう! それで色々情報をまとめて、ヴェルゼさんが目覚めたら伝えるんです。どんなことが書いてあるんでしょうね?」

 彼女なりの精一杯。そうじゃそうじゃとリーヴェが乗った。

「凹んでおる場合か? この先、こんなことは何度もあるじゃろう。そんなことより今を見よ」
「うん……」

 こくり、とアリアは頷いた。
 その顔には、いつもの笑顔。

「そうよね、そのとおりよね! あたしったら、どうかしていたわ」

 けれどヴェルゼなら見抜けただろう。その笑みが、無理をして作ったものだと。
 ヴェルゼが力を使うたび、その命の時間は減っていく。
 どんなに別れたくなくったって、確実に別れは迫っていた。

  ◇

 頼まれ屋に戻り、ヴェルゼを部屋に寝かせた。「見張りをしておくねぇ」と申し出たデュナミスを部屋に残し、アリアたちは居間にやってきた。大机の上には件の日記が置いてある。
 発見者、ということでソーティアがそれを読むことになった。
 大きく息を吸い込んで、ソーティアが緊張した面持ちで内容を声にしていく。

「三月八日。新しい日記に変えた。町の入り口に魔導士みたいな変な奴がいたが、睨んだらいなくなった。近所のレィさんが眠ったまま起きなくなったらしい。過労だろう。しっかり休んでほしい。自分は特に問題もなく、いつも通りの毎日である」

 眠ったまま起きなくなった。眠り病の初期だろうか。
 アリアは頭の中で考察を始める。ソーティアが次のところを読んでいく。

「三月九日。レィさんの奥さんが仕事中にあくびをした。生真面目な彼女らしくない。今日はもう休んでいいと、言われているところを目撃した。最近少し暖かくなってきた。春の陽気にやられたのだろうか」

 話はそんなところから始まっていき、次第に町中の人に似たような症状が起こっていく様が語られるようになった。

「三月十八日。大変だ、レィさんが死んだ。眠ったまま動かなくなって、気が付いたら冷たくなっていたらしい。レィさんの奥さんも同じようにして亡くなった。八百屋のサーヤさんも、警備員のリューさんも。みんなみんな眠ったまま死んでいった。何かがおかしい。これは病なのだろうか?」

 そしてさらなる急展開へ。話を聞きながら、自分の顔が青ざめていくのをアリアは感じた。

「三月三十日。町中の人が眠ったまま死んだ。生きているのはもう自分だけだ。何処へ行けばいい。この町から出れば助かるのだろうか。そうだそうだこの町を出よう。出るのだ私はで……る? えっと……文字が歪んで読めないです」

 ソーティアはそのページを皆に見せた。
 そこにある文字は途中で歪み、判読不可能になっていた。まるで、うとうとしながら授業を受けた時のノートのように。
 考えられることは。

「……これを書いた人も、同じ病にかかってそれっきりになったってこと?」

 アリアは思わず身を震わせる。

「何よこれ、一体何なの。みんなみんな死んでいった……。これがセウンの町の滅びた原因なの!」
「落ち着くのじゃアリア・ティレイト」

 静かな声でリーヴェが言った。

「これは疫病ではない。疫病に見せかけた、魔法じゃ」

 断言する。

「日記の最初に、変な魔導士について書かれていたじゃろう。あの町……歩いてみてわかったのじゃが、妙に魔力の匂いが濃いのじゃ。あの瘴気も自然ではない。魔法によるものだとすれば、納得がいく」
「そんな魔法、存在するんだ?」

 純粋なアリアは、そういった暗い領域の魔法には疎かった。アリアが知っているのは属性魔法と回復、防御の魔法くらいで、ヴェルゼの死霊術のことも詳しくは知らない。
 あるね、と右の頭、ルーヴェが頷いた。

「人を……病気にさせる魔法。暗い魔法、良くない魔法。もしもあの町がそういった類の魔法にやられたとするならば、ぼくのこれも……解呪出来る可能性がある」

 にやり、とリーヴェが笑い、背伸びしてソーティアの頭を撫でた。

「ソーティア・レイ、よくやった。これで決定的な証拠が掴めたわ。あの町で感じた魔法の匂い……ルーヴェが眠ってしまう時のとよく似ている。これは……詳しく調査せねばのぅ」

 情報は共有できた。これでひとまず解散ということにして、アリアは皆に問うた。

「ところで! お腹空いてなぁい?」

 するとリーヴェもルーヴェも、子供みたいに目を輝かせた。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.25 )
日時: 2020/10/22 09:12
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


 夕飯を食べ終わり、それぞれが眠りについて翌朝。
 居間に降りてきたヴェルゼは、真っ青な顔をしていたらしい。
 ヴェルゼを見るなり、アリアが叫んだ。

「……ッ、ヴェルゼ! 消耗し過ぎたあんたは部屋で休んでなさいよ!」
「昨日の……日記は?」
「そんなことより」
「教えろ」

 ヴェルゼの黒い瞳が鋭く輝く。そこには有無を言わせぬ光があった。
 アリアは溜め息をついた。

「わかったわ、話すわよ。ご飯はあんたの部屋に持っていくから、そこで話をするわよ。あんたは絶対安静! わかったわね?」
「……話を聞かせてくれるなら」

 不承不承、ヴェルゼは頷いた。

  ◇

 アリアたちから話を聞いて、成程なとヴェルゼは頷く。
 布団から出ようとしたが、貧血からくる眩暈のせいで、そのまま布団の上にダウンした。
 苛立たしげに舌打ちする。

「くそっ、この身体がもっと強けりゃ……」

 文句を言ったって状況は変わらない。さてどうしようかと顎に手を当てる。
 少なくとも自分は動ける状態にない。デュナミスもきっとヴェルゼの傍にいるだろう。となると、現状動ける人はアリアとソーティアと、客人二人である。

「疫病の魔法……確かに実在する。だが、仮にそうだとして。何故あの町が狙われた? 原因を知らなければな」

 はーいとアリアが手を挙げた。

「なら、あたしが図書館に行ってセウンの町について調べてくるわ。狙われる原因が分かったら、その先のこともわかるかも!」
「任せた」

 ヴェルゼは頷いた。

「えっと……ヴェルゼ、さん」

 遠慮がちに、ソーティアが手を挙げた。

「あの町は魔法でああなったかも、ということですよね? ならば、魔法素《マナ》の見えるわたしが適しています。もう一度あの町に行って、わたしの眼で見れば何かがつかめるかも知れません」

 ソーティアは異民族『イデュールの民』の一人である。彼女の一族は何故か、目に見えないエネルギー物質である魔法素《マナ》を直接見ることが出来た。そんな彼女にとって、魔法の解析はお手のものである。
 しかしソーティアがセウンの町へ行くとして、あの町を安全に通るためにはヴェルゼの血の魔術は不可欠だ。アリアがぎろりとソーティアを睨んだ。

「言っとくけど、ヴェルゼはもう動けないから」
「わかってますよ、大丈夫です」

 ソーティアはルーヴェの方を見た。
 問う。

「ルーヴェさん、遠距離からでも防御魔法、掛けられます?」
「……距離にもよるけど、出来ないことは、ないよ」

 彼女が提案したことはこうだった。町の眠りの影響を受けないギリギリのところでルーヴェには待機してもらう。その先を、遠距離からの防御魔法に守られたソーティアが進む。

「ヴェルゼさん、あの指輪、貸して下さいね?」

 ソーティアの手に、ヴェルゼは赤い宝石のついた指輪を落とした。確かにこれがあれば、魔法の使えないソーティアでも自分の身を守れる。
 ソーティアは言う。ルーヴェの魔法に守られた状態で、この指輪を武器に魔法の痕跡の調査をするのだと。危なくなったらすぐ退散するから……と。そんな計画だった。
 ヴェルゼは難しい顔をした。

「悪くはない計画だが……ソーティアへのリスクが大きすぎる」
「じゃあ代わりに、あなたが血の呪いを使いますか?」

 ソーティアが華やかな笑顔を浮かべた。
 流石にそれは出来ないと、ヴェルゼは仕方なく彼女の計画を受け入れることにした。
 アリアはセウンの町を調べに図書館へ。ヴェルゼは休養を取り、デュナミスはその護衛。ソーティアは双頭の魔導士と共にセウンの町へ向かい、魔法の痕跡の調査。三つに分かれて行動することが決定した。

「そんなわけで、行ってきます」

 ソーティアの気弱な瞳に、強い輝きが宿った。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.26 )
日時: 2020/10/24 10:36
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: z5ML5wzR)


「あまねく照らす父なる空よ、守護のヴェールを我らが元に」

 ルーヴェの防御魔法を受け、ソーティアは途中で双子と別れる。
 たった一人で町の中へ入る。あの、動く骨だらけの不気味な町へ。
 怖くはない、と言ったら嘘になる。けれどソーティアしか適任はいないのだ、やるしかない。

「一人で行動するのは……里が滅ぼされて以来でしたっけ……」

 ソーティアらイデュールの民は、「異種族狩り」と称する人々によって迫害された。かつてソーティアはイルヴェリア山脈の奥地のカディアスという里で静かに暮らしていたが、そこもまた異種族狩りによって蹂躙された。
 生き残り、一人きりで各地をさまよっていた彼女。助けてくれたサルフという人物としばらく過ごし、別れ際に頼まれ屋アリアについて教えてもらい、今に至る。サルフに助けられてから、ソーティアは一人ではなくなった。
 一人になれば、思い出すのは里が滅ぼされた日のこと。固く眼をつぶり、首を振って記憶を追いだす。今目の前にあることに、集中せねば。サルフやアリアたちとの幸せな思い出を頭の中心に置いて、深呼吸して町へ入る。
 魔法素《マナ》を見る眼を起動させた。意識して視れば、確かにわかる、異様な魔法の痕跡。

「疫病の魔法、ですか……。見るからにおぞましい魔法式。……って、この式は!?」

 ある痕跡を見つけ、ソーティアは驚きに目を瞠る。そうかそうだったのかと手を叩き、見た痕跡を頭の中にしっかりと叩き込む。
 不意に殺気を感じた。反射的に飛び退けば、ついさっきまで彼女がいた場所を骨の腕が薙ぎ払っていた。
 赤い指輪を手に、ソーティアは不敵に笑う。

「魔法が使えないからって……何もできないわけじゃない……」

 魔法素《マナ》を視るその眼は、これまでたくさんの魔法を見てきたのだ。見識だけは、積んできた。
 赤い指輪をつけた手を握りしめる。感じたのは、確かな魔力の鼓動。行ける、とソーティアは思った。魔法の使えない自分だけれど、その原理は理解出来ている。
 唱えた。

「山の底にある爆炎よ! 胎動せよ動き出せ。眠れぬ者たちを包みこめ!」

 指先から、炎が爆ぜた。それは大きな壁となり、向かってきた骨たちを包み込んだ。

「わたしは……出来るよ。そう、わたしは! 役立たずなんかじゃ、ない!」

 指輪の力を制御して、最低限の敵だけを追い払い町の入り口へひた走る。全てを相手にしている余裕はない。そんなことしていたらきっと、指輪の魔力が尽きてしまうだろう。
 炎で道を切り開き、必死に走って町から出る。町の外までは、骨たちは襲ってこなかった。
 息を切らしながら、双頭の魔導士の待つ木蔭へと向かった。

「その様子だと、何か収穫があったようじゃな?」

 問うリーヴェに。
 ソーティアはびしっとルーヴェの首を指さした。

「そこに! 町で見掛けたのと同じ魔法の痕跡があります!」

  ◇

 頼まれ屋アリアに戻り、それぞれの成果を話し合う。ヴェルゼは黙って聞いていた。
 アリアの方は収穫がなかった。セウンの町は至って平凡な町で、疫病の呪いを掛けられる原因なんて見つからないという。
 ソーティアの方は大収穫だった。
 彼女は語る。セウンの町で見つけた魔法の痕跡のこと、それと同じものがルーヴェの首に巻きついていること。
 ソーティアが問うた。

「えっと……双頭の魔導士さま。町に眠り病をもたらした人物に、恨まれるようなことしました?」

 そもそも心当たりがあり過ぎるのぅ、とリーヴェは苦い顔をする。
 そんなことなら、とアリアが提案した。

「王都にね、客の過去を読み取る魔導士がいるんだって。その人の力を借りれば犯人が分かるかも!」

 ああ、と納得のいったようにヴェルゼは頷いた。

「幻想使イリュースか。話には聞いたことがあるが……。確かに、彼を頼れば良さそうだな」

 こういった呪いの類は、呪いを掛けた本人に解いてもらうか、本人の名前を知った上で、解呪師に解いてもらうかのいずれかの方法でないと解除できない。どちらの方法をとるにせよ、呪いを掛けた相手について知る必要がある。
 アリアがヴェルゼを見た。その顔には心配。

「じゃあみんなで王都に行く……ってことになるんだけれど。ヴェルゼ、体調大丈夫?」
「今日一日休ませてもらったからな。明日まで休めば問題ないさ。オレに気遣って出発を遅らすようなことはするな。こうしている間にも、呪いは進行しているんだ」

 ヴェルゼはちらりとルーヴェを見た。その目は閉じている。それに引き摺られているのか、リーヴェの瞳もとろんとしてきていた。
 王都出立は次の日にすることに決め、その日はそのまま休むことにした。

  ◇

Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.27 )
日時: 2020/10/26 09:01
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)


 翌朝。朝食を食べ終え、一行は王都へ。王都の入り口へ着く前に、アリアが皆を止めた。

「えっと……お客さんたちってさ、普通の……見た目じゃないわよね。王都の検問で止められたら嫌だから……ちょっとあたしの魔法に付き合ってくれる?」

 許可を取り、杖を構える。

「幻惑の風よ、風のヴェールに真実を匿え!」
 
 唱えた途端、巻き起こる風。
 そこにいるのは双頭の魔導士ではなかった。頭が一つだけある、普通の人間。その顔はリーヴェの顔をしていた。
 ごめんね、とアリアは謝る。

「幻影の魔法よ。えっと……しばらくルーヴェには喋らないでいてほしいの。王都を出たら解除するからね!」
「……大丈夫、慣れてる」

 リーヴェの首の辺りから、リーヴェよりもやや低い声がした。姿は見えなくなったけれど、ルーヴェは確かにそこにいる。
 じゃあ僕も、と言い、デュナミスがその姿を透明にした。だがヴェルゼはその存在を感じている。見えなくたって、彼は確かにそこにいる。
 準備を整え、王都の門をくぐった。アリアたちは、何も言われることはなかった。

  ◇

 王都を少し進み、「運命屋」と書かれた看板の前で止まる。ここを経営している双子はアリアたちの同業者で、アリアたちと同じく、人々からの依頼をこなして日々の糧を得ているらしい。件のイリュースはその一員なのだという。

「お邪魔しまーす」

 早速アリアが扉を開けると、一人の少年が出迎えた。

「やぁ、お客さん。運命屋に何の用かな?」

 黒い髪、白い瞳。着ているのは黒づくめの服。
 噂によると、運命屋の双子は他者の運命に干渉する力があるらしい。
 アリアの後から店に入ったヴェルゼが答えた。

「『過去の導き手』イリュースに用があって来た。どうしても読み取ってもらいたい過去がある」
「話を聞かせてもらおうか?」

 黒の少年に、ヴェルゼたちはこれまであった出来事をかいつまんで話した。成程、と黒の少年は頷いた。
 後ろを見ずに、声を掛ける。

「だってさ、イリュース」
「僕がいたの、わかってたの?」

 店の奥から、一人の少年が現れた。黄昏の空のような橙色の髪、宵闇の紫の瞳。
 彼は笑みを浮かべ、リーヴェに近づいた。

「いいだろう、読み取ってあげる。でも僕の能力って、少し特殊なんだ。この場にいるみんなにも、一緒に記憶の世界を旅してもらうよ」

 その手がリーヴェに触れた時、世界が暗転した。

  ◇

「双頭の魔導士。俺と勝負しろ」

 双子の背に声が掛かる。なんじゃ、とリーヴェは訝しげな眼を男に向けた。
 振り乱した銀髪に赤紫の瞳。異様な風体の男は声をあげた。

「大魔導士ヘイズ・ラグルーンが、伝説を倒しに来た」
「ヘイズ・ラグルーン? 大魔導士ではなく堕魔導士の間違いじゃろうが」

 呆れた顔でリーヴェは答えた。
 ルーヴェがリーヴェに言う。

「何か、嫌な気配。まともにやりあっちゃ駄目。逃げよっ」
「そうじゃの……」

 リーヴェがつっと目を細めた、瞬間。

「喰らいつけ淀みの底の大蛇よ!」
 
 声と同時、禍々しい紫の帯が、双子目掛けて飛んできた。

「不意打ちとは……卑怯なものよのッ!」

 その帯はルーヴェの首に巻きついたかと思えば、その場で霧散した。
 相棒を攻撃されたリーヴェの瞳に怒りが宿る。爆発的な魔力がその身の内から燃え出でた。

「空高き地の、烈風の子らよ! 獲物はそこぞ、とくと味わえ!」

 詠唱。唸りを上げて迫りくる風の刃が、反応する暇もなく男の身体を微塵切りにした。
 ふう、とリーヴェは息をつく。その頭に、ルーヴェが頭をもたせかけてきた。

「……何じゃ、ルーヴェ。あの男に何かやられたか」

 ううんとルーヴェは首を振った。

「なんか……眠いんだ……ふわああ……」
「わしが魔力を使い過ぎたせいかの。なら一旦、この辺りで休むとするかのぅ」

 にっこり笑い、二人して近くの木陰に来ると、木に頭をもたせかけて眠った。

  ◇

 現実に戻り、ヴェルゼは驚きに目を見開いた。

「今のは……何だ」
「僕の能力」

 さらりとイリュースが言う。

「僕はその場にいる人を直接過去の記憶に導いて、その記憶を追体験させることが出来るんだ。『過去の導き手』なんて呼ばれているのはそういうわけさ……」

 イリュースはふっと笑った。

「で? お望みの記憶は見つかったでしょ?」

 そうじゃの、とリーヴェは難しい顔。

「しかし……術者が死んでおったか。本人に解いてもらう、という方法は使えぬな。ならば解呪師を頼らねば」
「解呪師ならばカレッダの町にいるだろう。東国呪物店のリンエイを頼ればいい」

 黒の少年がぼそっと言った。

「俺は運命屋のデスト。今回は俺たちデスティニーが動いたわけではないし、お代は要らない。同業者さん、また縁があったら御贔屓に」
「あたしは頼まれ屋アリアのアリアで、こっちが弟のヴェルゼね。ふふっ、ありがとう。また会えれば面白いわね」

 アリアがデストに挨拶を返す。
 目的の人物の名は手に入れたし、次の目的地も決まった。
 ヴェルゼたちは王都を発って、カレッダを目指す。

  ◇


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