【〜秋の夜長に〜SS小説大会にご参加いかがですか?】■結果発表!(2016.11.30 管理人更新)集計し精査した結果、壬崎菜音@壬生菜さんの「マッチョ売りな少女」(>>39)が1位となりました!壬崎菜音さん、おめでとうございます〜!今回ご参加くださった皆様、誠にありがとうございます!投票してくださった皆様にも深く御礼申し上げます!次回SS大会にもふるってご参加ください。****************************【日程】■ 第13回(2016年9月3日(土)18:00〜11月26日(土)23:59)※実際には11月27日00:59ごろまで表示されることがあります※小説カキコ全体としては3回目のためまだ仮的な開催です※ルールは随時修正追加予定です※風死様によるスレッド「SS大会」を継続した企画となりますので、回数は第11回からとしました。風死様、ありがとうございます!http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?mode=view&no=10058&word=%e9%a2%a8**************************【第13回 SS小説大会 参加ルール】■目的基本的には平日限定の企画です(投稿は休日に行ってもOKです)夏・冬の小説本大会の合間の息抜きイベントとしてご利用ください■投稿場所毎大会ごとに新スレッドを管理者が作成し、ご参加者方皆で共有使用していきます(※未定)新スレッドは管理者がご用意しますので、ご利用者様方で作成する必要はありません■投票方法スレッド内の各レス(子記事)に投票用ボタンがありますのでそちらをクリックして押していただければOKです⇒投票回数に特に制限は設けませんが、明らかに不当な投票行為があった場合にはカウント無効とし除外します■投稿文字数200文字以上〜1万字前後まで((スペース含む)1記事約4000文字上限×3記事以内)⇒この規定外になりそうな場合はご相談ください(この掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」にて)■投稿ジャンルSS小説、詩、散文、いずれでもOKです。ノンジャンル。お題は当面ありません⇒禁止ジャンルR18系、(一般サイトとして通常許容できないレベルの)具体的な暴力グロ描写、実在人物・法人等を題材にしたもの、二次小説■投稿ニックネーム、作品数1大会中に10を超える、ほぼ差異のない投稿は禁止です。無効投稿とみなし作者様に予告なく管理者削除することがありますニックネームの複数使用は悪気のない限り自由です■発表等 ※予定2016年11月27日(日)12:00(予定)■賞品等1位入賞者には500円分のクオカードを郵便にてお送りします(ただし、管理者宛てメールにて希望依頼される場合にのみ発送します。こちらから住所氏名などをお伺いすることはございませんので、不要な場合は入賞賞品発送依頼をしなければOKです。メールのあて先は mori.kanri@gmail.com あてに、■住所■氏名 をご記入の上小説カキコ管理人あてに送信してください)■その他ご不明な点はこの掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」までお問い合わせくださいhttp://www.kakiko.cc/novel/novel_ss/index.cgi?mode=view&no=10001******************************平日電車やバスなどの移動時間や、ちょっとした待ち時間など。お暇なひとときに短いショートストーリーを描いてみては。どうぞよろしくお願い申し上げます。******************************<ご参加タイトル 一覧> ※敬称略>>1 『宇宙(よぞら)のなかの、おともだち。』 Garnet>>2 『キミの夢』 霊夢>>3 『大切な場所』 レオン>>4 『最後の英雄』 月白鳥>>5 『星空と秘密の気持ち』 霊歌>>6 『夕焼け月夜を君と』 PLUM >>7 『焦がれし子宮』 めー>>8 『知』 茶色のブロック>>9 『儚い少女』 茶色のブロック>>10 『 white lilydie 』 PLUM>>11 『音を通じて』 奈乃香>>12 『月下美人。』 鏡杏>>13 『小さい頃からスキだったの』 ユリ>>14 『折り鶴』 御影>>15 『妄想を続けた結果、こうなりました。』 のあ>>16 『夏の日の物語。』 レオン>>17 『恋するティラミス』 ゼロ>>18 『貴女の望むもの』 奈乃香 >>19 『貧血少女』 PLUM>>20 『ねぇ』 はてなの子 >>21 『記念日には、貴方の言葉。』 はずみ >>22 『君も私も爆発だよ☆』 茶色のブロック>>23 『Reason for the smile』 ユリ >>24 『彼は未来を見る研究をしていた』 葉桜 來夢>>25 『Love me only』 ユリ>>26 『ワタシとアナタ』 はてなの子>>27 『匿名スキル』 とくだ>>28 『アナタだけ』 レオン>>29 『秋の夜長に君を求めて』 蒼衣>>30 『受け継がれる想い。』 レオン>>31 『素直になってもいいですか』 たんぽぽ >>32 『color』 蒼衣>>33 『二度とない日々へ』 深碧>>34 『破られた不可侵条約』 たんぽぽ>>35 『だーれだ』 ろろ>>36 『堕天使』 鏡>>37 『複雑ラブリメンバー』 とくだ>>38 『してはいけない恋……?』 マシャ>>39 『マッチョ売りな少女』 壬崎菜音@壬生菜>>40 『空想森の中で。』 ニンジン×2>>41 >>46 >>49 『あおいろ』(1)(2)(3) &>>42 『星の降る日』 安ちゃん>>43 『この感情は。』 みりぐらむ>>45 『やさいじゅーす』 とくだ>>47 『はづかし』 沖>>48 『Trick or love!』 PLUM>>50 『月が綺麗な夜』 小色>>51 『一番は』 草見 夢>>52 『名前』 草見 夢>>53 『人が死ぬとき』 草見 夢>>54-55 『天使と悪魔と』(1)(2) 草見 夢>>56 『人生最後の現実逃避』 みかん (2016.11.19 更新)
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――――― 2 ―――――「 私やっぱり、完璧な場面作りがしたかったな。 ちょっと負けた気分、残念な気分 」文化祭を明日に控えての最終ミーティングがごく簡単に済んで、練習三昧だった昨日までよりも早めに校門を出た僕を呼び止めた先輩は小走りで横に並んで来ると、前置き無しに言ってきた。「 正直に白状するとね、今はそんな感じ 」先輩と僕の間でそんな始まり方をする話題はただひとつ、例のキスシーンしかない。そして僕は、学校の施設を使わせてもらう部活の劇なんですから仕方ないですよ ‥‥ と当たり障りのないボンクラ意見で、なだめ役に回るしかない。「 そういう正論で押されちゃったら、引き下がるしかないけど ‥‥ 」並木道の先を軽くにらみつつ少し口を尖らせて愚痴る今の先輩は、部長としての肩書きを一時的にオフにしているようだった。「 ‥‥ 悔いを残したくなかったんだって本音を、君には言っておきたかっただけ 」その後は駅に着くまで、先輩と僕は秋の夕暮れの中を小声よりもさらに声を落として、劇中のセリフを掛け合いながらゆっくりと歩いた。駅の吹き抜け階段でそれぞれのホームへと進む別れ際に、先輩は気持ちを切り換えた口調で 「 明日は頑張ってね 」 と笑顔で励ましてくれた。はい、と軽く一礼して階段を登って行こうとした僕だったが、先輩の浮かべるその笑みが、どこか捉えどころのない不思議な揺らめきを帯びたように見えて、なんとなく踏み出した足を止めた。直前の口調には似つかわしくない、ちょっと困ったような、何かを持て余すような少し複雑な笑顔だった。まだ言葉が続くのだろうか、と待つ僕に向かって先輩は小さく口を開きかけたように見えたが、すぐに考え直した事がわかる眼差しとともに普段の表情を取り戻すと、力無く手を振っただけでその足音は通路の先へ去って行く。なぜそうするかの理由が曖昧なまま、僕はその後を追いかけていた。 何かを言わなければならないと焦りつつ一度も利用した事のないホームへ上がってみると、やや遠めの場所に立っていた先輩は驚いた顔で近づいて来た。「 どうしたの 」ちょうど到着した電車を気にする事もなく、先輩はいぶかしそうに問いかける。「 何か言い忘れたことでもあるの ? 台本の確認かな 」僕は告げるべき言葉を思いつかず、馬鹿みたいに棒立ちになってしばらく先輩を見るだけだったが、口が勝手に無難なフレーズを音にしてしまう ――― 先輩も頑張ってください、とだけ、やっと言えた。うわダメだな自分、と自己評価するしかない。 こんなの、わざわざ追いかけてまでして伝える内容じゃない。でも先輩はこんなありふれた言葉に、このホームに僕が現れた時よりもびっくりして息を飲んだ。そして絶句したまま少し挙動不審なくらい眼を泳がせてから、こくっと頷いた。「 うん ‥‥ 頑張るよ 」あれ。 ちょっと意外だ。 先輩みたいな人でも、本番前には気弱になったりするのだろうか。「 あっ走りなさい、電車来るよ!」突然叫んだ先輩は、僕がいつも使うホームを明るく指差す。「 走れば間に合うから!」 の声を背に受けて、先輩が急に元気になった理由が良く分からないまま、僕は素直に階段を駆け降りた。――――― 3 ―――――劇の本番というものは、客席から浴びる無数の視線によるわずかな興奮を除けば、演じる者からすると退屈な一面を持ってもいる。練習で幾度も耳にしたセリフに幾度も口にしたセリフ、そして幾度も繰り返した位置取りと仕草。仮に何かアクシデントが起きたとしても、それすら大抵はリハーサルのどこかで誰かがすでに出くわしていて、いざという場合にはどう対処すれば収拾できるかが分かっているほど念入りな準備を、僕たちは済ませている。だから文化祭当日、満員の講堂でプログラム通りの時間に幕が上がって僕たちの劇が始まるとすぐに、成功の予感はその場にいる演劇部員の全てに広がり、共有されていった。うまく行ってるなんてもんじゃない ─── 完璧だ、と僕は思った。舞台上の演者だけでなく、効果や大道具を担当する裏方のリレー作業までもが見事な出来で進行していく。中でも、ヒロイン役の先輩が作り出す存在感は別格だった。 物語を活き活きと動かし、客席の人々を魅了して作品の世界へと引き込む力量は素晴らしいの一語に尽きる。 その輝きは共演する僕や他の演者にも影響を与えて、どこか普段とは違う、実力以上の境地を実現できているようにも感じられた。「 ここまでは完璧だよ 」場の節目に舞台袖に下がり、汗取りと水飲みに入った僕に副部長がささやいた。ありがとうございます、と頭を下げかけた僕の視界に、反対側の袖でハンドタオルを額に当てている先輩の姿が小さく入って来る。 こっちを見ていた ――― まるで今のささやきが聞こえていたみたいに。「 私やっぱり、完璧な場面作りがしたかったな 」先輩は昨日、そう言った。 完璧、という言い回しの使いどころと基準は人それぞれだ。 先輩にとっては、これはもしかすると悔いの残る、完璧という表現にふさわしくない劇になってしまうのかな ‥‥ そんな考えが、ちらりと自分の頭の中に浮かんでしまう。やがて、問題の場面がやって来た。 直前ぎりぎりになって演出を差し替えたキスシーンだ。戦いに参加する決意を変えない主人公に失望して立ち去ろうとするヒロインを、愛の告白が引き止める。私は君を愛している、必ず君の元に帰ってくるよ、と。『 それは本当 ? 』振り返って問いかける先輩の美しさは、僕が内心たじろぐほどだった。神に誓って、と返答する声が震えず誠実な響きを保てたのは、練習の賜物だ。『 でも、今になって愛を知っても悲しさが強くなるだけだわ。 私は嬉しい、嬉しいのに 』この人は本当に信じられない位きれいだ、と思った。言葉を重ねつつ、先輩と僕は歩み寄っていく。声が交わされるたびに相手へと歩を進め、舞台の中央で、ついにはお互いの息がかかるくらいにまで二人を隔てる空間はせばまろうとしている。わずかに上気した表情で僕を見上げる先輩の顔が、すぐ目の前にあった。客席が固唾を呑んで次の展開を見守っているのがわかる。そして、暗転のきっかけとなる最後の言葉を、ヒロインを受け止めるために腕を広げた僕が先輩に語り終えるのと同時に、全ての照明機器から光が断たれ、講堂は墨のような暗黒の底に沈んだ。それに応じて音楽と砲撃の効果音が徐々に大きくなって、これがトラブルではなく劇中の演出なのだと控えめに伝えようとする。 慎重に計算された音響が効を奏して、客席からのざわめきは起きていない。その間に僕と先輩は数歩離れ、次のセリフに入るタイミングを測る ‥‥ そうなるはずだった。しかし先輩の顔も息吹きも、僕の前から去っては行かなかった。そうする代わりに、僕が大きく広げた腕の中へ先輩はふわりと体を預けると、彼女の唇はそのまま止まることなく進み続けて、僕の口元にそっと押しつけられた。僕は何もできない。 拒めなかった。 先輩と僕はただごく自然に、相手の背中に手を添えてじっと支えあう。誰からも見えない闇の中で、僕たちは抱きあったまま本当の口づけによってそのシーンを演じていた。完璧なキスシーンを。気がつくと砲撃の効果音に、人馬の喧騒が混ざり始めていた。場面が進もうとしている。 少しだけくらくらする頭のどこかで、次のセリフが瞬いた。ゆっくりと先輩の頬が離れていく。 柔らかな感触を失った僕は我に返り、腕の力をゆるめた。しなやかな体が微笑むように抜け退いて、温かさだけを残したまま真っ暗な中で数歩下がる気配がする。一人になった僕はセリフを発するために、大きく息を吸い込んだ。‥‥ それ以降を結末から言えば、劇はわずかな失敗もなく最高の出来に仕上がった。 評判も上々だった。自分でも信じられない事に、演者としての僕はあのキスに動揺しなかった。 多分あの時、思考のどこかでは、今の自分が劇の主人公で、今の先輩はヒロインなのだと ─── 二人の行為は役柄を反映したアドリブのようなものなのだと ─── 理解していたのだろうと思う。僕と先輩が、劇を始点にお互いの距離を縮めたりするといった事もなかった。受験を控えた先輩が一、二年生に演劇部を託して去っていく時も僕は彼女にとって一人の下級生に過ぎなかったし、最後に二人であのシーンを振り返って話をしたりもしなかった。ただ、あの劇の後の、三年生が卒業していくまでの数ヶ月、校庭やカフェテリアでたまに先輩と目が合った時に、あの迷うような、まだ自分がどうするか決めかねているといった風の、捉えどころのない独特な笑顔が一瞬僕へと向けられる事はあった。 それは僕たちだけが共有する、誰も知らない秘密のシーンを演じた二人にしか理解できないサインのようなものだった。卒業生同士が集まる部の同期会で再び顔を合わせる機会が増えても、僕と先輩は今だにあの時の数秒間を話題にした事がない。 言葉にしてしまえば、それはその途端に今ある形から何か別のものとして色あせ始めるような気がするのだ。それでも、ふとした会話の切り替わりに先輩があの頃と変わることのない謎めいた笑顔を浮かべ僕を見つめている時には、いつかはこのゆるやかな暗黙のルールをどちらかが踏み越える時が来るのかもしれないと、そっと考えてみずにはいられない。
百合。野原に可憐に、そして儚げに咲き誇る。皆さんは、百合の花言葉を知っているだろうか?『恋』や『純粋』、『威厳』など様々な意味合いがある。だが、花言葉には良い意味だけが載っているわけではない。『呪い』『死』『滑稽』。思ってもいないものが出てくる。繋げていくと、愛憎の縺れ(もつれ)で死んでいった人が遺した、最後の愛の証だと感じられはしないだろうか。愛の呪い。其れこそ、本当に伝えたい花言葉。花はやがて枯れる。まさしく、愛と呼ぶに相応しい。今日も百合は咲き誇る。その花を眺める人達の、終末など気にも留めないでーーーー
いつも脇役だった。俺、藤沢 礼於(フジサワ レオ)は、何に関しても普通、容姿だって悪くはないはずだけど、決してすごくいいって訳じゃないはずだ。それに比べて親友の霧刃 雄飛(キリバ ユウヒ)は頭もいいし優しいし、更にイケメンと呼ばれる類いの人間だ。そんな雄飛と、小さい頃からずっと比べられた。雄飛は主人公に相応しい存在として、みんなから認められている。今も、昔も。俺はいつでも、雄飛の引き立て役だった。「雄飛!カラオケ行こうぜ」「ずるーい、私も雄飛くんと一緒に行きたい!」眉をハの字にして、困った顔の雄飛。隣でどうしていいかわからず、みんなの方をうかがい見ている俺。そんな俺たちを取り囲むクラスメイトたち。俺が最近気になってる茶髪で控えめな、照南 心花(テラシナ ココナ)は教室の窓際の席で、いつものように端っこで本を読んでいた。「カラオケ行くのはいいんだけど、行くなら礼於も一緒に...」俺はびっくりして振りかえった。こいつ、俺を巻き添えにしようとしてる!結局、いくことになったカラオケには、ネタ的な意味で誘われたらしい照南さんは、カラオケでも本を読んでいた。俺は勇気を出して話しかけてみることにした。「て、照南さん、何読んでるの?」俺の方を見た照南さんは、とても可愛らしかった。茶髪の髪はサラサラだし、目がぱっちりしていて、とても美人だ。「『真実の中の嘘』って本」「え、俺もその本読んでたんだ!」運命のような偶然に俺は歓喜した。すると、急に照南さんは頬を染めた。「そうなの?私この本好きなの」しばらく本トークで盛り上がっていると、俺は何故かポツリとこぼした。「俺、いっつも脇役だったから、照南さんと話せて嬉しい」すると、照南さんは急に真剣な顔になった。「脇役って言うけど、それなら、主人公になる努力はしたことあるの?」そう言ったあと、照南さんはそそくさと帰ってしまった。俺は、その言葉が耳から離れなかった。いつも逃げてばかりだったことに、今初めて気づいた。いや、昔から気づかないフリしてただけかも。俺は、目まで隠れるほど長かった前髪を切った。髪をさっぱりさせて、服だって地味なやつじゃなくて、今まで着たかった服を選んだ。主人公に、なれる気がする。教室に入ると、驚いたような顔をした皆が一斉にこっちを見ていた。昨日必死に『教室に入るとき 挨拶』で検索して練習したのに、まだ変だっただろうか。雄飛が、こちらを見ていた。「ゆ、雄飛!おはよう」駆け寄ると、「おはよう」と小さく言って顔を背けられた。やはり、変だっただろうか?泣きそうになったとき、視界の端に照南さんが映りこんだ。「おはよう、礼於くん」名前で呼んでよ、と付け足される。その顔はとても嬉しそうで、俺は赤面した。あとから聞いた話だと、雄飛は地味な俺を引き立て役として使っていたので、俺がイメチェン?してきたときに、自分よりイケメンは要らないと切り捨てたらしい。あの悔しそうな顔は忘れられねぇよ、と新しく友達になった田中くんは笑った。俺は、主人公になった。でも、その表現はちょっと間違ってるかもな。俺は、最初から主人公だった。ただ、主人公じゃないって思い込んでただけ。今俺は、初カノとして心花も手に入れられて、自分らしく生きることができて、本当に幸せだ。君たちも、ほんとは主人公なんだぜ?誰だって、生まれつき主人公の権利を持ってるんだ!Thank-you fin
俺には今、気になる女子がいる。ーーでもそれは、「好き」という気持ちに近いのかもしれない。初めて彼女を知ったのは、まだ中学校に入学して間もない頃だった。俺は隣町からこの町に転校してきたばっかりで、知らない人ばかりでクラスに馴染めなかった。そんな時、廊下で話す3人組の女子の1人に目が離れなくなってしまった。(顔は見覚えのないから、違うクラスだな・・ −−・・可愛い)くしゅっと笑った笑顔を見たとき、そう感じた。確か、後の彼女になる女子もクラスが一緒だった。でも、付き合ってみたら家までついてくるぐらい束縛されたので、たった一週間で別れてしまった。別れる際の言葉は 「俺、沙希のこと好きだから」と気持ちを正直に伝えた。そして呼び出しを頼んだ。・・でも言えなかった。なぜなら、単純な理由。面識がないからだ。話したこともない。まだ何も知らない。 そのままじゃ、好きとかいえない・・・ーーーそして今はクラスメイトだ。俺は、彼女のことを知ろうとしている。少しずつ。まだまだ中学校生活は残っている。その間に、想いが伝わればなぁ・・・・その時の俺は、彼女の想いを知る由もなかった。 「好きです!付き合ってください!」 「・・ごめん」 【END …thank you reading!!】
「寂しいと思う事はありませんか。 誰も分かってくれないと思いませんか。 誰かを特別に思う事がありますか。 誰かに特別に思われる事がありますか。 自分が好きですか。 自分を誉めてあげていますか。 自分の長所を答えられますか。 自分は大切な人間だと思えますか」 夏は嫌いだ。 湿度と汗で張りつく服、湿る肌、やたらと乾く喉。なにより暑い。風も生ぬるく、視界はたびたび熱に揺らぐ。四六時中湯船のなかを泳いでいるような気分になる。町全体、いや、もっと広い範囲だ。出口がない風呂場。なんて恐ろしい場所だろう。 自室のエアコンの冷気で生き返ると、もう一度外出しようという気持ちなどたちまち失せる。 どれだけ世間さまに後ろ指を指されたって構わないから、夏の間は私を引きこもらせてほしい。「疲れた……」 着替えなきゃ。湿った服が気持ち悪いと思うのに、座布団に寝転んだまま立ち上がる気力もない。このままだと汗が冷える。私は胃腸が弱いので、この後の地獄を想像するのは容易だが、着替えるの面倒くさすぎる。 ああ、お腹すいたな。勝手にご飯できないかな。無茶苦茶な事を思いながら台所をじっと見つめる。洗い物たまってるから片付けしたくないな……。 着替えたら、洗い物をして、料理をして、食べて、片付けをして、洗濯物を干して、録画していたテレビを見れたら見て、四時にはもう一度出かけないと。待ち合わせに間に合うように。『私、あのお店行きたいな〜。あと駅前にカフェ出来たって! 千夏も行くでしょ? 店員がイケメンらしくてさ〜。あっ、千夏彼氏いなかったよね、狙っちゃいなよ〜! そういえば私の彼氏が最近〜』『千夏ちゃんどうする? どこ行く? 私は千夏ちゃんの行きたいところがいいなあ。……映画? あ〜……良いけど、私今月お金なくて……』『ふーん、でもさ、それよくある事じゃない? そんなに悩むような事でもないじゃん。それよりあたしの方が大変なんだから! 聞いてよ、昨日ほんっとムカついて!』 待ち合わせ……嫌だな――――。 私が一人暮らしを始めたのは、県外の大学への進学が決まった去年。親と離れて生活するのは初めての事だった。 能天気なものであまり不安はなく、薔薇色の大学生活を思い描いていたおめでたい記憶――現実、一人暮らしというものはそんな優雅なものではなかったのだけれど。大学の課題も多いしね。 才能のなさを感じて趣味に疲れて、大学に疲れて、家事に疲れて、人付き合いに疲れて……自分の人生の色は薔薇色なんて鮮やかなものではないと気がついたら、もう疲れるどころか冷めた。 何故生きねばならないのか。思考は哲学へと飛ぶ。 しかし死ぬのは怖いので、惰性で生きている次第だ。 スポンジを握り、皿を磨いていく。一枚、二枚……。「ジャーン!!」「えっなになに怖い怖い怖い、えっ?」 突如吹き出た煙に驚きシンクに皿を落とした。ガシャンと耳障りな音が鳴る。「ああっ! ちょっと! 何するんですか!! そんな上から落として割れたらどうするの〜!!」「こっ怖い怖い怖い怖いんだけどなに」「ていうかね、そもそもそんな安い洗剤でゴシゴシ洗っていいもんじゃないんですよ! 魔法のお皿なんだからあ!!」「いやパン祭りの皿だもん! パン祭りの皿が喋ってる!!」 気のせいじゃない! 慌てて換気扇を回す。あ、しまった泡つけちゃった……。 煙が晴れると、私の半分ほどの身長のおじさんが大事そうに皿を抱いていた。私の家のシンクのなかで。小さいおじさんが。泡まみれのパン祭りの皿にハグしてる……。 目眩がした。これは多分本気の体調不良だ。脳が状況を理解する事を拒んでいるのだろう。「貴方ね、前から言おうと思ってたけど、お皿の扱いが雑なんですよ! 強いにおいの洗剤でガシガシ洗うわ、汚したまま平気で三日洗い場に放置するわ、電子レンジにかけるわ!」「パン皿電子レンジ可じゃないの!?」「魔法のお皿なの! 特別なの! 他よりデリケートなの!」「め、面倒くさ……」 よろめき冷蔵庫に寄りかかる私を一瞥し、おじさんはふぅと聞こえよがしにため息をついた。おい、このおじさん性格悪いぞ。「で?」 で? ……私が言いたい。私は何を促されているんだ。「願い事は?」「願い事……?」「分かんないかなあ。あれよ、あれ。ランプを磨くと願い事を叶える魔神が出てくるヤツ。僕はお皿の魔神なんですよ。本当はシルクで拭ってくれるまで出てこないつもりだったけど、貴方あんまりにも酷い顔してたから、おじさんサービスね。サービス」 話ながら、おじさんはシンクから床へどすっと降りた。洗剤の泡が飛び散る。 私はといえば、台所の掃除しなきゃ、だの、おじさん立っていると中年らしいぽっこりお腹が目立つな、だのをぼうっと考えていた。分かってる、これは逃避。分かるけどこの向き合いきれない現実どうにかならないかな……。「ちょっと〜? 聞いてます?」「あ、はい、願い事ですよね。ランプの魔神は三つまで? でしたっけ?」「ランプはね。けど、僕が叶える願い事は一つだけ。魔神もピンキリな訳よ」「へ、へえ〜……」 生返事のお手本のような生返事をした。 それきり会話は途切れ、おじさんはこめかみを指でほぐしながら私の答えを待っているようだった。分かる、それ気持ちいいよね……。あ、今度はお腹かき始めた……。「……あの。じゃあ、私、もっと……生きやすくしてください」「生きやすく? あ〜、なんか貴方見るからに生きにくそうですもんね」 失礼な言葉にイラッとする。けれど、見てくれから分かるぐらいの不器用さである自覚もあった。つまり図星。二倍腹が立つ。おじさんは悪びれず納得したように頷いている。ええい、もう。「そう、私ね、生きづらいんです。生きづらいの。友達もいないし、お互い全然好きじゃないけど友達のふりして付き合ってる子達とは話も合わなくて、見下されてて……サークルじゃ私だけ嫌な先輩にキツく当たられて、大学の授業楽しくなくて、バイトもキツいし変な客多いし、道歩いてて向かいから来たおばさんたちは横並びのまま譲ってくれないし、エアコンのかけすぎでお腹壊すし、電気代高いし、ブスだから彼氏なんかできないし。でも私悪くない。だってしょうがないじゃないですか。生まれつき、生まれた場所とか、持ってるものから違うのに、当たり前に比べられて。恵まれた人達と同じようにできなきゃ駄目って言われるんです、それがどんだけ不得意な事でも、おかしくありません?」「ああ〜、発言がもうね、貴方ホント向いてないね。社会で生きるのに向いてない。いるわ、こういう若い子。おじさんたくさん知ってますよ貴方みたいな子」「だから、生きやすくしてください。何でもいい。顔でもお金でもコミュ力でもいい。それか、物凄い才能をください。誰にも負けないような天才にしてください。それがいいです」 おじさんは黙り込んだ。 何だよ、出来ないとか言うなよ、とおじさんを睨み付ける。凄く虚しくなった。こんな、小さい、ふざけた訳の分からないものにしか強気になれないのか。私は。「よし、貴方に才能をあげましょう。世の中の人間の顔が全部パンに見える才能です。ジャーン!」「ハア!?」「あのね、貴方のそれ、おじさんアカンと思いますよ。『周りよりできてないから駄目』、『もっと凄い人がいるから駄目』、私なんか私なんか……。『こんな人達とは気が合わない、嫌だ、でも我慢して付き合わなきゃ』」「ちょっと……それ私の真似ですか? キツいんですけど。ふざけんな」「無い物ねだりの人ってね、例え何をあげたって上手くいかないんですよ。考え方が一番不幸だから」「おい――」「嫌だったらやめれば? なんでやめられないの? 何が怖くてやめたくないの? 生きたくなくなるぐらい嫌な事から逃げないでいつ逃げる気でいるんですか。本当に逃げたくないの? 頑張れないんでしょ? どうして無理できる気でいるのかなあ〜」 もう殴ろうと思った。おじさんをキツく睨みつける。 殴る、殴る、殴る…………。 殴ったら、傷害罪になるんだろうか。ぴたりと動きが止まる。「ほらね。どうせ貴方ぐらいの考えすぎな子は、自分でストップかけられるんだから。自分が良ければいいじゃない! 頑張りなさいよ千夏さん!」 お皿の魔神ことおじさんは帰っていった。来たときと同様、突然煙に包まれて。私にはどうしようもない。かなり腹が立っていたけど、言い返したい事が山のようにあったけど、シルクのハンカチでお皿を拭っても拭ってもおじさんは帰ってこなかった。言い逃げしやがった。 四時からの約束はドタキャンした。そして寝た。エアコンとめて扇風機とアイスノンして寝た。翌朝スマホを確認すると、うわべ友達から昨日の動画が送られてきていた――メロンパンと蒸しパンとピザパンが流行りの服を着てカラオケで笑っていた。見てくれどんだけカオスだよ。嫌味らしき言葉も添えられていたけれど、これを打ったのは所詮メロンパン。脱力感。凄まじくどうでも良くなった。 ランプの魔神はランプのなかから登場するけれど、おじさんの帰る場所を私は知らない。もしお皿のなかに居るなら……と考えると恐ろしいので、おじさんが抱き抱えていた魔法のお皿は簡易な神棚を作って祀っておいた。お供えものは食パン。殴るのは諦めたから、もう一生出てこないでください、と念じながら置いている。 そして、最近パンを見すぎてご飯派になった。秋の米祭りでご飯茶碗くれるキャンペーンがあれば文句なしなんだけどな。 おしまい 読んで頂き、ありがとうございました!
これは、とある世界の忘れられた物語――。 ある国に、エクセリオという若き指揮官がいた。彼は翼をもつ異民族「アシェラルの民」の長であり、「錯綜の幻花」の異名を敵味方問わずとどろかせる魔導士でもある。 彼は幻影の魔導士だ。ただし、並いる幻影使いとはわけが違う。彼が操り人々を惑わすのは、「実体のある幻影」なのだから。 通常の幻影が惑わせるのは人の視覚のみで、幻影に触れればその手は幻影をすり抜ける。つまり、「触れればばれる程度の幻影」である。 対し、「実体のある幻影」とは、触れればきちんとした感触が残り、リンゴなら香りはするし味もする、それなりの重さがある、など、その幻影は人の五感に働きかける。人の体温や鼓動すらも真似出来るのだから、誰がこれを見抜けようか。 「錯綜の幻花」の名の意味は、「複雑に入り混じって本質を分からなくする幻の花」。「実体のある幻影」使いのエクセリオらしいあだ名である。「錯綜の幻花」エクセリオが住んでいたのは、小さな村。 そこは小さな村だけど実力主義で、特に魔法の才能の優れた者は次の村長になれた。 ――昔々、そこに一人の少年がいた。 名をメサイア。救世主の名を持つ彼は、天使の生まれたとされる日が誕生日だった。とても優れた炎の魔導士で、誰もが彼に注目し、彼をたたえた。 彼は幼くして多くのものを与えられ、何をしても褒められ喜ばれ、まさに人生の絶頂期にいた。――そうさ、エクセリオが生まれて、彼が壊れるまでは――。 あとから生まれた「錯綜の幻花」はあまりにも優れすぎた。メサイアなんて、簡単に凌駕していた。その才が認められた彼はすぐに、次の村長候補となった。かつてメサイアが何の不自由もなく座っていた椅子を、横から奪うように。 そしてメサイアは壊れ始めた。救世主として望まれ、その役目を果たし続けた果てに、新入りによってその座を奪われて。 彼は「救世主」としての生き方しか知らなかったから、堕とされて、何をすることもできなくなった。 そして、ある日、彼は自殺した――。 少し何かが違っていたらまだ、何とかなったかもしれないのに。 かくて救世主は偽りとなり、その名は誰からも忘れ去られた。 ★ おれの名はメサイア。名の意味は救世主。本当の名はメルジアというんだが、音はまあ似たようなものだろう。あ、意味は違うぜ? メルジアっていうのは「炎」って意味なんだ。 おれは「アシェラルの民」の始祖、アシェールの生まれたとされる日に生まれた。そして、この村では最も大切とされる、強き魔法の才を持っていた。 って、「アシェラルの民」を知らないって? まあ、そこまで有名ではないか。簡単に説明する。 「アシェラルの民」っていうのは、背に翼をもち、自在に空を舞うことができる人々のことだ。その翼を使えば空を飛べるとか思ってる奴らによって、その翼を求めておれたちは迫害に遭っている。ひどいものだよな、まったく。 話を戻す。おれが優れた魔法の才を持ってるってところだっけか。ともかくまあ、おれの村では優れた魔導士が村長になるっていう決まりがあってな。村長が元気な時は「次期村長候補」が一人だけ選ばれる。 で、おれはまさにその規定にぴったり当てはまってたってわけ。 だからだろうな、みんなには期待されるばっかりだ。おれは何にも言ってない。みんながただ、おれに期待しているだけだ。 おれはできる限り「いい子」を演じていたけれど、窮屈で仕方がなかったんだ。それでもおれは幸せだった。幸せだったんだ。 望むものは何だって手に入り、何をしても怒られない。道行けば「救世主様」と人々にかしずかれ、何やかやと敬われる日々。あのとき、おれは栄光のただなかにいた。多少窮屈であれ、これ以上望むべくもない日々の中にいた。そしてそれを、不変のものだと信じていた。 おれは必要とされていた。必要とされていたんだ。 誰かに認められるということは、本当に幸せなことだった。 そんなある日のことだった。とある名も知れぬ夫婦が子を産んだ。おれは七歳。七歳だけど、どこか達観していた。周りから寄せられる期待の波の中におぼれ、「救世主」になりきることにおぼれ、そんな日々をどこか遠くで眺めている自分がいた。 その子は少し特別な感じがした。生まれたばかりの頃から、その手に小さな幻影を遊ばせていた。 そしておれは危惧したんだ、その子がいつか、おれを超える魔導士になるんじゃないかと。 それでもおれは「救世主様」だからな。気に入らないという理由だけでその赤ん坊にどうこうなんて、できるわけがない。だからおれはその子を見守っていたのさ。胸の内に危惧を抱えながら。 そして悪夢は現実となる。 ★「我の後継ぎから貴公を除名し、エクセリオとする」 そんな知らせを告げるために呼び出されたのは、それから八年後のことだった。 その頃にはおれは十五になり、あの赤ん坊は空前絶後の才を発揮してそれをものにしていた。 あの赤ん坊――エクセリオの持つ魔道の才は、幻影の魔法。それもただの幻影じゃない。人の五感にさえ働きかけることのできる「実体のある幻影」を、自在に操る奇跡の力。 おれの「炎の魔法」だなんて話にもならない、あまりにも珍しく強大な力。その力の前に、おれの今まで築き上げていた地位「救世主」は崩壊した。「嘘でしょう、村長! どうか、もう一度、お考え直しを!」 敗北を知りつつも叫んだが無駄。「貴公の炎の魔法など、彼(か)の『錯綜の幻花』に比べれば弱々しいにも程がある。強き者は村長に、これ我が村の決まりなり。あとから生まれた者に負けたということは、貴公はそれまでの男だったというわけだ。――『救世主』メサイア。貴公の時代は終わったのだよ」 そしておれは、奈落に落ちた。 ★ 僕の前に、「救世主」メサイアという人がいたらしい。彼は優れた炎の魔導士。前の村長候補だったらしい。 だった、って過去形で話しているのは、メサイアはもう、候補じゃないから。僕が生まれたせいで、彼は人生の絶頂期から突き落とされてしまったのさ。 誰かが悪いんじゃない。これは仕方のないことだったんだよ。 これでも僕は、メサイアを救おうとこっそり動いてはいる。だって、これはあまりにも理不尽だって、心から思ったから。 これは偽善なのかな? ああ、きっとそうだよ。でも、偽善でもいいのさ。その先に待つ結末さえよければ。 村長は「救世主」なんかからは興味をなくして僕に夢中だけど。 ――僕が、助けるから。 僕はメサイアの悲しみの元凶。それでも。彼に何を言われたって。僕がこの町からいなくなれば、自然、メサイアに地位が戻るはずだろう? だから、近いうち、この村から出るのさ。そうすればきっと、みんな笑えるのだろう? 偽りの「救世主」として、僕があなたを助けるから。救世主様、待っていてね。 ★ あれから一カ月が過ぎた。かつて「救世主」として崇められていた影はいずこ。おれは完全に奈落に落ちた。 あの栄光の日々との差は、あまりにも歴然としていた。かつては望むものなら何でも手に入り、道行けば「救世主様」と人々にかしずかれていたが、今は……。 泥の中を這いつくばって物を乞い、道行けば「救世主風情が」と人々にけなされる。 日々の生活の糧を得るのに炎の魔法は役に立たず、「救世主」以外の生き方を知らなかったおれは途方に暮れ、恥辱屈辱に身を引き裂かれながらも慣れぬ物乞いをするしかなくなった。 それでも、どんな時でも。父さんと母さんはおれを愛してくれたから。おれは頑張ろうと思う気になったのさ。 おれの今生きている理由は「救世主だから」と言った聖人のような理由から、「両親のため」と言った俗っぽいものに変わってしまった。 ――それは、きっと必然だった。おれは――堕とされたからな。 そうさ、これが「救世主」メサイアの末路。 期待ばかりされて、その挙句捨てられ見損なわれて。 誰が――誰が信じてくれと言った!! 期待してくれだなんて、おれは一度も言っていない! 勝手に信じられ期待され「救世主」として崇められ。そこにはおれの意思なんてないっ! 「救世主」の烙印を押され、新たなる才が生まれたら捨てられて。 おれは使い捨ての道具だったのか!? おれのこれまで生きてきた日々は、一体何だったんだっ! こんな末路が待つぐらいなら、生まれない方がきっと良かった。 生きる意味もなくして、おれは――? どうなるんだ? どうすれば、何をすればいいんだ? 顔を上げれば天使像が見えた。おれが生まれた日に買ったらしい。貧困に耐えかねて家財を売り、寒々しくなった家の中。それでもまだ売られずに残っているこれは、おれへの愛の象徴か? それでも、やるべきことがあるんだ。 おれは、覚悟を決めた。 ★
★ ――メサイアが死んだ――。 そんな知らせを受けたのは、僕が次期村長候補になってから二月が過ぎた頃。 死因は自殺。家の中にある天使像の前で、まるで見せつけるように首を吊って死んだ。 その家の正面の天使像の前には、「これが『救世主』の末路だ」と、皮肉にも取れる言葉の書かれた紙が縛りつけてあった。 そして「救世主」は、僕に遺書を遺していた。 もう一人の「救世主」 「錯綜の幻花」エクセリオへ ――おれはお前になりたかった――。 いきなり言って悪いが、それがおれの本心だ。正直言って、お前が憎かった。今まで座っていた栄光の椅子を、後から生まれたお前が横からかっさらっていったのだからな。これを書いている今だって憎いさ。もっとも、その頃にはおれはこの世にいないと思うがね。余計な検閲がなけりゃ、今頃お前のもとに届いてるはずだぜ。 これは遺書にして遺書にあらず。簡単に言えば、ただ本心を書き連ねた紙クズだ。かつて「救世主」と崇められ、その果てに「偽りの救世主」として捨てられた、救世主の名を持つ元次期村長候補のね。下らん世迷言かもしれないが、最後だしな、聞いてもらいたいんだ。 おれはかつて「救世主」として人々に崇められ、持ち上げられていた。でもそれをおれは望んでなどいなかった。みんなが勝手に期待して、おれの意思なんて関係なしにかしずいていただけだ。おれは別に、そんなのどうでもよかったんだ。ただ平穏無事に暮らせれば、それだけでよかった。そのために「救世主」にならなければならないなら、おれはいくらでもなった。 でも、違ったんだな。「救世主」って、幸せに暮らしてはいけなかったんだな? 「誰かの不幸をなくすため」、「救世主」として駆けずり回って、結局おれが傷付いても、「怪我の功名です、よくやりました」って、誰も心配してはくれなかった。今思えば、「救世主」って、体の言い不幸のはけ口にするための言い訳だったのかもしれないな。誰かのために献身するだけの、使い捨ての道具。その名前に「救世主」をあてていただけだったのだろうよ。 おれの本当の名はメルジアなのに、みんなメサイアメサイアっておれを呼ぶ。誰がおれの本当の名を覚えてくれていただろう? 結局のところ、みんながおれに見ていたのは「メサイア」――「救世主」ってことだけだったんだ。誰も「メルジア」を見ない。 ふざけんなよな! 勝手に「メサイア」に、「救世主」に不幸のはけ口になることを期待して! おれは「期待しろ」だなんて誰にも言ってなかった!! 普通の、ごくありきたりの日々を幸せに送りたかっただけだった! なのに結局、周りのせいでこのザマさ! 馬鹿みたいだよな、ああ、本当にバカみたいだぜ。これが「救世主」たる「メサイア」の末路。 笑ってくれ。「メルジア」なんて要らなかった。 否、最初からこの世にいなかったのさ……。 だからおれは自殺した。こんな地獄の中でずっと生きるなんて、到底おれにはできやしない。 そも、「救世主」の道を奪われたおれには、他に生きる道がなかった。 だってそうだろう? 「救世主」として生まれ、「救世主」として育ち、「救世主」として人々に接した。それ以外のことなんて何一つ教わらず、その必要もなかったからな。そして今のおれには何もない――。 死ぬしかないのさ。こんな暗黒の中に生きるだなんて、何も知らないおれにはできない。 ああ、家族は残ってる。みんな(所詮一部分だろうが)を悲しませることになるってのもわかってる。結論、おれは逃げてるんだよ、愚かなことに。 それでも――死ぬことで、わからせてやりたかったんだ。 一部の人だけでもいいから。自分が「救世主」として期待をかけた少年に、一体何をしてしまったのか。 「錯綜の幻花」に罪はない。だって、すべてを壊したのは大人たちだからな。お前が生まれなければ、って思ったことは何度もあるが。おれを本当の意味で壊したのは大人たちだから。 色々と話が紆余曲折したが、ここにおれは、遺言を残す。 お前のことは憎かったけれど、もしも立場が違っていたら、おれはお前のようになったのかもしれないと時々思う。 だから、聞いてくれないか。 言いたいことはただ一つ。《肩書きの前に押しつぶされるな》 「救世主」の肩書きに振り回されてきたおれだから、言えることなんだよ。これから先のお前には「錯綜の幻花」としての使命やら期待やらが待っているだろうけれど……。どこかおれに似ていたお前に、これを言いたかった。 お前はおれの次の、次期村長候補でもあるのだからな。 もしも生まれる時と場所が違っていたらきっと、おれたち、友達になれたのかもしれないぜ?。 以上をもって、おれの「遺言」は終了とする。 「救世主」の時代は終わったのさ。とうの昔に。 いつかの「救世主(メサイア)」 メルジア・アリファヌス ――僕は、泣いた。 メサイア、否、メルジアのために何とかしようと思っていた。なのに彼は早まって、その結果死んでしまったのだから。 彼を死なせたのは僕。頭の中ではどうしようもなかった、あえて言うなら大人たちのせいだととわかっていても、僕は涙と自責の念を止めることはできなかった。 その三日後にメサイアの父は自殺し、その十日後に母は病死した。 こうして一連の「メサイア騒動」、別名「救世主騒動」は幕を閉じ、大人たちは何事もなかったように日々を送っている。 子供が一人、自殺したのに。家がひとつ、つぶれたのに。「何事もなかったように」だなんて信じられない。 大人というものは醜いのだなと、僕は初めて自覚した。 ★ それから六年経ち、隣国の侵略によって王国は落ち、その戦い「聖戦」の際に村長も命を落とした。 そして僕が村長になった。今は亡きメサイアの代わりに。それだけでない。僕が「アシェラルの民」そのものの長となることが決定した。 これは何の因果だろうか。僕は望まずして、かつての「メサイア」の地位を超えてしまったのだ。 メサイアの手紙はいつも身につけている。 戦いが長引く中、僕に「錯綜の幻花」としての過剰な役割を、まだみんなが期待しているから。 メサイアの手紙は教えてくれるんだ。《肩書きの前に押しつぶされるな》 あの言葉はまだ、僕の中に生き続けている。大きな悲しみと、ちくりと感じる後悔とともに。 「偽りの救世主(メサイア)」なんて必要なかった。彼らに必要だったのは、単なる「はけ口」だったのさ。 こうしてこの物語は終わるよ。結局言いたいのはね、 僕の過去にはこんな物語があった、ただそれだけさ。 偽りのメサイア、否、メルジア・アリファヌスのこと、忘れない。 (Fin……)
それは、風の冷たいある冬の日だった。空は、今にも雪が降り始めそうな曇天であった。そんな空の下、僕は何をする訳でもなく、一人でフラフラと歩いていた。他にすることがなかったのだ、何も。僕以外誰もいない部屋にいるのはとても退屈で、耐え難い寂寥を感じたので、こうして外に出て歩くことにしたのである。しかし、寒々しい冬の日に好き好んで散歩をする人間もいないもので、僕の寂しさは依然、和らぐことはなかった。―カサ。僕の足に何かが当たり、しんとした空間に乾いた音が響いた。見下ろしてみると、そこには在り来たりな花束が落ちていた。そうー薔薇の花束である。誰だって一目で分かるその特徴的な花束は、寂しげに空を仰いでいた。一体どうして、このような道端に薔薇の花束が落ちているのだろうか。誰かの落とし物ならば、交番に届けた方が良いかもしれない。まだ僅かに残っていた良心が、僕を屈ませてそれを拾わせようとした。しかし。僕は屈むのを途中で止めた。道に落ちていた花束は、いつの日か僕が貰ったものと同じ店のものであった。記憶の引き出しがガタガタと音を立てる。そして、その出来事を僕に思い出させた。そうだ、あれは丁度、今日と同じような冬の日だった筈。ここから近い場所にある海辺の公園に、僕は呼び出された。冬の海は勿論、とても閑散としていた。周りを見回しても、僕以外には彼女しかいなかった。僕がそこに現れると、彼女は半ば強引にその花束を渡してきた。突然の出来事に戸惑った。付き合ってください、とそれだけ言われた。結果として、僕はその勢いに押し切られてしまった。僕は彼女とはほぼ面識は無く、呼び出されたのも友人を通してだった。向こうは一目惚れであったらしい。それまで誰とも付き合ったことのない僕は、舞い上がってしまったのかもしれない。だからいけなかったのだ、僕は選択を誤ったのである。確かに、彼女は顔も整っていたし、性格も良かった。特に非の打ちどころがなかったのである。それでも、その交際は僕にとって息苦しいものであった。何故か?その当時、あろう事か僕には他に好きな人がいたのだ。だから、僕は最後まで彼女を好きになれなかったのである。我ながら、卑怯で最低で情けない人間だと思う。彼女は華やかな薔薇の花束を僕に渡してくれたのだが、僕は最初からその花を見ておらず、ずっとその棘に囚われていた。そしてそれは、双方の心をグサリと刺していった。―冬が終わると共に、その恋も終わった。彼女はどうして、と泣いて僕の服の袖を掴んだ。僕はただ、ごめんと言うしか無かった。それしか言えなかった。いつでも臆病な僕は、こんな時でさえ本当のことを口に出せず、そんな僕の言動は、宛ら薔薇の棘であったのだ。これは拾うことが出来ない、そう思ったから僕はそこで静止した。拾う資格は僕にはないのだ、きっと。しかし、これも自分がその思い出に触れたくないだけの言い訳かもしれない。そう思うと、急に僕は花束から目を逸らしたくなった。姿勢を元に戻し、空を見上げる。雪がひらり一片、僕の頬に落ちてきた。このまま降り続ければ、翌朝には積もっている事だろう。僕は家に帰るため、また歩き始めた。花束は、他の誰かに拾われるだろうか、それとも―。どちらにせよ、僕はもう関わることは無いだろう。駄目だ、拾え、という良心が最後に僕を振り向かせた。花束は寂しそうに転がっているだけだった。……もうどうしようもないのだ、僕も、花束も。棘の傷は、一生消えることなく僕の心を抉る事だろう。けれども、臆病な僕はそれを治す術を持っていなかった。僕は背を向けて、一旦記憶の引き出しをパタリと閉める事にした。
その男子中学生は、養護教諭の前で、A3の用紙を広げた。「原田くん、これは何?」「これは、僕がこの世界を放浪し、描きあげた地図です!」養護教諭は頭をおさえる。この原田という少年は、時折現実世界とゲームの世界を繋げて考えてしまう、空想好きな面があっていただけない。俗に、厨二病とでも言うのだろうか。さて、彼が広げている冒険の地図だが……彼女の目には、それが学校の構内図に見えている。そこには、ご丁寧にリボンのような見出しで囲って、よく分からない地名がいくつも書き込まれている。「原田くん、この『復活の泉』って何?」手始めに、真っ先に気になった場所を指摘した。原田は待ってましたと言わんばかりに語り始める。「そう、あれは雨季に入った頃のことです。僕は、悪の魔導師デイズパス・ド・ティー2世のかけた毒の魔法により、死の危機に瀕していました……」「梅雨が始まった頃、2-days-passed……2日間放置したお茶(tea)を飲んで、お腹を下したのね。それで?」彼女は原田の言っていることがわかるらしく、自分の言語に置き換えながら相槌を打っていた。「僕は、一度は死すらも覚悟した。でも、旅を止めるわけにはいかなかった。そんな時、この泉が僕の目の前に現れたのです!」原田はそうまくし立てて、机を叩く。「泉に入ると、驚いたことに、僕の体から毒がどんどん抜けていくではありませんか!九死に一生を得た僕は、無事に仲間の元へ帰ることができました……」「下痢になったけど、出し切ったらすっかり治って、無事に教室に戻れた……と。『復活の泉』って、3階の男子トイレのことなのね」原田はまだ話し足りないようだったが、そこで昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。彼は大人しく自分の教室に帰っていった。保健室に残された彼女は、止まっていた作業を再開する。パソコンに向き合い、マウスを動かしながら、何かを打ち込んでいた。「今月の保健だよりは、食中毒特集ね……」あなたの学校の保健だよりも、こうして作られている……かもしれない。
「はーい、後10分〜!」校庭から聞こえたのは陸上部の監督の声だ。トラックを走る陸上部の部員たち。「焔、お前あの子に何時告白するんだよ」隣に並んで走る朝霧がニヤニヤしながら聞いてきた。俺は視線を前に向ける。「お前、よくそんなに話せるな」「はぁ?お前だってまだまだ余裕そうじゃねえか。確かトライアスロンもやってたんだろ?」「まぁそうだけど…色恋沙汰の話は好きじゃないんだ。集中できないから今は話しかけないでくれ。それと暑苦しい」朝霧は溜息を吐いて少し離れて俺の後ろについた。コイツがいってたあの子ってのはそう、俺が今横目に見たなんとも冴えない女子だ。頭が特別いいわけでも無く運動神経抜群でもない。控えめすぎる奴だ。だがアイツは画力はかなりある。アイツの姿勢は可笑しい。両肩の高さが違う。そういう病気で手術を受けたため一年間運動が出来なくなった。よく見たらアイツ、スケッチブックを持ってる。陸上部を描いてるのか。「後5分〜」全身から汗が噴き出る。時計に目を向ける。後3分。3分が終わればアイツと話せる。一周走り終える度に1分ずつ時間が進む。そして後…。「はーい後5分〜!!」後5周走れば終わる。たった5周、そして1分前になった。