お嬢様に虐められて虐めましょう。
作者/ 黒猫ミシェル

第二十一話
「ぅ…あ、…ん?」
「気付いたかい、聖花?」
目を覚ました聖花の目に真っ先に映ったのは、微笑む洸大の顔。
その爽やかな微笑みを確認した途端、聖花は怒りに支配された。
「洸大っ!!良くもあたしを嵌めたわね!?」
「…まずは落ち着いてよ」
洸大が聖花を連れて来たのは、ある町外れの古臭い場所。
華族の洸大が、足を踏み入れること自体おかしな町。
華族の中には、こんな町がある事すら知らないで死んでく者もいるのだから。
「落ち着け!?良くもぬけぬけと!!あたしの身体にあんな物打っといてっ!!」
「聖花?君はただの一般市民だ。僕だからまだ喋っていれるんだよ?」
「っ…」
さっきまでの事が、頭の中を掛けていく。
自分は、売られたのだ。
信じていた義親に。
仲間だと思っていた、洸大に。
「何よ…殺しなさいよっ!?これから薬に頼る人生より死んだ方がマシよっ!!」
「だから、落ち着いてって言ったでしょ?」
「落ち着いて?んなの知ったこっちゃない、わよ…」
威勢をはる聖花の表情は、優れなかった。
自分がこれからどうなるのか、まるで分からないのだ。
お金はない。
頼れる身内も、友達も。
全部、奪われたのだから。
「聖花、ごめんね」
「は?何が!?謝るなら…最初から裏切るんじゃないわよ!!」
「裏切ってないよ。むしろ、お礼を言って欲しいぐらいだね」
「は!?お礼!!?寝言は寝てから言うんだよ。華族様?」
被肉を言う聖花に、洸大はゆっくり語り始めた。
第二十二話
「…そんな事…信じられるはずないでしょ!!?」
その話に、聖花は目を釣り上げた。
どこまで自分をバカにすれば気が済むのだ。
そんなに、人を見下すのが好きなのか、滉大は。
「信じないか信じるかは君次第だからね。…じゃ、聖花」
「なによ…」
「僕は麗華ちゃんの所に戻るから、ここでちゃんと暮らしていくんだよ?」
憎々しげに自分を睨む聖花を、滉大はいつもと変わらない笑顔で見つめる。
その笑顔が、その優しい表情が、もう本当のソレではない事を、聖花は知っていた。
彼に一番似合う言葉、甘ちゃんでも、偽善者でもなんでもない…ただの
「evil spirits...」
「あはは、知ってるよ。…pitiful,kiyoka?」
「早く帰ってッ!!」
最後に滉大は聖花の手の甲にキスを落とし、急いでそこを擦る聖花を尻目に、去って行った。
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ!!」
「あら、あなたが聖花さん?」
「はっ?…あんた誰…ッぅ!!?」
「口の利き方に気を付けなさい。私は今日からあなたの主。一条ゆかりです」
手の甲が赤くなってもまだそこを擦る聖花の前に、綺麗に着飾った女が現れた。
品の良いフレームのメガネに、高く結った髪とシワ一つないドレス。
このゴミだらけの場所で、彼女は浮いていた。
「一条…ゆかり?ぃッ」
「ゆかり様、でしょ!?」
「ぁ、はい…ゆかり様」
「はい、舐めて?」
頬に手型がついた聖花は、わけもわからずゆかりの靴を舐めさせられた。

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