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*116*
「わわわ」
私が目の前に迫ってきた景色に口をぱくぱくさせていると、逢坂くんが振り向きながら言った。
「俺の腰に掴まればいいよ」
「え!?でも…」
「いいからいいから」
そう言って、逢坂くんは私の腕を彼の体に巻きつけるようにした。
初めて直に感じる逢坂くんの素肌。しっかりしていて、逞しい体つきをしていた。
…って、私変態みたいじゃない!
一人で突っ込みながら顔を真っ赤にしていると、急に浮遊感が私を襲った。
急降下をし始めた。そう認識したのは、数秒後のことだった。
「わあ――!!」「キャー―!!」
私と逢坂くんの声が重なる。
まだまだ急斜面を下っていく。ボートにはじかれた水が私達の体を濡らす。
「すっごーい!楽しい!!」
私はボートが水の上を滑る音に負けないように大きな声、というよりもほとんど叫んでそう言った。
すると、逢坂くんも頷きながら言った。
「俺も!綾川さんといると何でも楽しいや!」
私は顔が真っ赤になるのを感じた。
…どうしていつも逢坂くんは私にそんなことを言うんだろう?そんなこと言われたらますます本気にしちゃうじゃない。苦しいだけだよ。
私は逢坂くんの背中を見つめながら思う。
これはきっと私の恋が叶わないからってモテる逢坂くんに嫉妬してるだけだよ。終業式の日だって逢坂くん、3人の女の子から告白されてたし…。中には可愛い子だっていたのに。
どんどん思考がネガティブになっていく。このままでは”いっそ死んでしまおう”という結論に達してしまうのではないか?と自分で自分を心配し始めた時、最後の急降下がやってきた。ここを超えれば、あとはプールに投げ出されるようなものだ。
「綾川さん、来るよ!」
楽しげな逢坂くんの声。私も先程考えていたことが彼に伝わらないように笑いながら相槌を打った。
そして数秒後、ついにやってきた最後の地点。
「やっほ――!!」「わあ――!」
口々に叫びながらプールへと投げ出された。
何とか水に接近する前に息を止められたので、鼻の奥がツンとするようなことはなかった。
「あー、楽しかった。並んだ甲斐があったよ〜」
私はプールサイドへと向かいながら言った。すると、逢坂くんは
「そうだね〜。超楽しかった!」
と無邪気な笑みを私に向けてくれた。
私はそれだけで、顔が真っ赤になってしまいそうで、慌てて下を向いた。
そしてそのまま足だけ進めてプールサイドに辿り着き、手をついて自力で上ろうとした。
だが、それを阻まれた。誰に?
――逢坂くんに。
どうやら彼は私が下を向いて歩いているうちに、私を追い越して先にプールサイドに上がっていたようだ。
「真奈姫、綺麗な手を汚してはなりません。私が引き上げて差し上げましょう」
そう言って、逢坂くんはプールの中にいる私に向かって手を差し伸べた。私から見て、逢坂くんは逆光だったため、逢坂くんが輝いているように見えた。まさにお伽の国から来た王子のようだった。
私はゆっくりとその手を取り、逢坂くんに甘えて引き上げてもらった。
そのあと、少しよろめいてしまったところを逢坂くんに抱き留められた。
「わわっ!ご、ごめんなさい!」
私は逢坂くんの腕から離れて謝っていると、逢坂くんは苦笑いをした。
「そんな謝らないでよー。こっちだって良心でやってるんだから気にしないで」
益々その言葉に罪悪感を覚える。
「ごめ…」
そう私が言いかけた途端、私の唇に逢坂くんの人差し指があてられた。
「これ以上言ったら駄目」
そう言って微笑む逢坂くん。もう本当、ずるいんだから。
私はまた頬を赤く染めた。
そしてこのタイミングで美樹と凜が登場。
「お待たせー!どう?楽しめた?」
「うん!楽しかったよ!」
「それはよかった!それじゃあ、そろそろお昼頃だし、昼ごはんとかき氷、食べよ!」
「賛成!」
私が手を挙げながら言うと、逢坂くんはふと思い出したように凜に耳打ちした。
「やっぱり、俺は自腹?」
凜は今まで見せたことのないような最上の笑顔で言った。
「自腹だ」