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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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第八話 【お誘い】

長かった夏休みが終了し、私たち学生は本業の勉強がまた始まった。

「……ということなのでXを左に移行して答えを導きます。はい、では次の問題に行きます」

流れるように進んでいく数学の授業。この先生の声はまるで子守唄のようで、すぐに眠くなってしまう。そのため、この授業では大半の生徒が眠りの国へ招待されてしまうのだ。全く、罪な先生だ。そしてそんなこんなでようやく授業終了のチャイムが鳴る。

「はい、それでは今日はここまでにします。課題は問題集の52ページまでやっておくことです」

皆、先生の言葉など耳を貸さず、思い思いに伸びをしている。しかし、数学の先生はこの光景に慣れているのか、微笑ましげにクラスの光景を見つめた後、教室を去って行った。

「ねぇ、真奈〜」
「美樹」

美樹が”さっきまで寝てました!”と思い切り顔に書いたような表情で私の所へやってきた。

「次音楽だって〜。行こ〜」

いつもより語調が穏やかで、間延びしているような気がする。

「分かった。ちょっと待ってて。ロッカーから教科書取って来るね」

私はそう言って席を立ち上がると、自分のロッカーへと向かった。すると、偶然にも逢坂くんに遭遇した。

「おはよう、綾川さん」

相も変わらず逢坂くんは、噂の爽やか王子様スマイルを振りまいている。いや、本人が無意識にやってるだけなのだが。

「おはよう」
「さっきの数学の授業、寝てなかったの俺と綾川さんと凜だけだったよ」
「そうだったの。ていうか、何でそんなの観察してるの」

私は笑いながら言うと、逢坂くんは照れ笑いを浮かべながら言う。

「いやー、趣味ですよ趣味」
「嫌な趣味ですねー。悪趣味って言うんだよ?」
「綾川さんに言われると余計に傷つくなあ」
「え!?ご、ごめん」
「冗談」

そう言って、可笑しそうに笑う逢坂くん。この時間が永遠に続けばいいのに……。そんなことを思っていると、私の帰りが遅いためか、心配してロッカーの方まで見に来た美樹が私に声を掛けた。

「真奈〜行くよ〜?」

丁度扉の死角になって逢坂くんの姿が見えないらしい。普段の美樹なら「どうぞお構いなく続けてください」とニヤニヤしながら言いそうなものだ。

「は〜い。今行きます〜」

私は逢坂くんに別れを告げると、歩き出した美樹を追いかけた。

――LHR終了後

「今日も一日お疲れ様!」

そう言って美樹がオロナミンBを私に差し出しながら言った。

「いや、あの私には部活と言うものが……」
「そういえば真奈はバトミントン部だったね!」
「その幽霊部員みたいな言い方やめてください」

私は笑いながら言った。

「え?でも、浅井とのことがあった時ってずっと家に居たんじゃ……」
「あれは体調不良って言って休んでただけだよ。その他は毎日行ってた」
「そうだったの!?このあたしとしたことが……情報不足だった」
「いや、そこの情報要らないでしょ」

そんなことを言っていると、優那が迎えに来た。

「真ー奈!部活行きましょ!」
「はーい。それじゃあ、バイバイ」

私は美樹に手を振って、優那と共に部活に参加した。

「今日はスマッシュの練習しまーす」

先輩の声が体育館に響く。もっと先輩は怖いものかと思っていたけれど、そうでもなかった。

「真奈ちゃん!あたしと練習してくれない?」
「違うわよ!真奈ちゃんは私と練習するのよ」
「だって恵利はこの前一緒にやってたじゃなーい」
「それを言うなら麻衣香もでしょ?あたしなんて一回もやったことないわよ〜」

そう、なぜかいつも私の取り合いが先輩の中で始まるのだ。

「あ、あの先輩……?」
「真奈ちゃんはあたしと組むわよね!?」
「私と組むでしょ?」
「いいえ、あたしと組むでしょ!?」
「じゃ、じゃあ、”どれにしようかな”で決めます」

先輩の視線が一気に集中するのを感じながら、私は始めた。

「どれにしようかな天の神様の言うとおり」

私が指差したのは麻衣香先輩だった。

「やった!」

麻衣香先輩が軽く1メートルくらいジャンプした。

「運に見放されたわ……」

そう言って、恵利先輩は分かりやすい挫折のポーズをとる。それを宥める様に他の先輩方が慰める。

「な、なんかすみません……!」

私がおどおどとしていると、先輩の表情がどんどん緩んでいく。まるで「幸せ」とでも言うが如く。

「あの……」

私がそう言うと、先輩方ははっと我に返る。

「思わず天使の微笑みに見惚れてしまった」
「あたしも。もしかすると真奈ちゃんに出会うためにあたしは生まれてきたのかもしれない」
「女子バトミントン部にいてよかった〜」

なぜかそんなことを口々に言う先輩たち。私は訳が分からず、取り敢えず練習をしましょうと声を掛けた。

――3時間後

「ありがとうございました!」

女子バトミントン部員の声が一斉に体育館中にこだまする。ようやく部活動が終了したのだ。しかし1年生はまだまだ帰れない。後片付けをやるのも下級生の務めだ。

「真奈〜」

優那がふらふらした足取りで私に近づいてきた。

「どうしたの?」

私はネットを畳みながら尋ねる。

「先輩に真奈のメーアド教えて頂戴って言われて、本人の確認なしでは渡せませんって断ったら追いかけまわされて……」

優那って何気に凄い度胸の持ち主なんだなあ。先輩に刃向うだなんて。
そんなことを思っていると、本当にぱたりと倒れて大の字になった。

「だ、大丈夫?」
「うん。ちょっと休憩」

そう言って笑う優那。本当に可愛らしい。そういえば、石島くんとは上手くいってるのだろうか?

「ねえ、優那?」
「んー?」
「石島くんとはどうなの?」
「啓太と、ど、どうなのとは?」

少し挙動不審になり始める優那。何かあったのだろうか。

「上手くいってるのかなーと」
「う、上手くいってるんじゃないかな?えへ、えへへへへ〜」

わざとらしい笑いを浮かべる優那。これは何かありそうだ。

「そっか、よかった〜」

私はそれだけ言うと、折りたたんだネットを体育館倉庫へと運んだ。

――帰宅後

「ただいま〜」
「おかえり」

母が私を出迎えてくれた。

「先にお風呂に入っちゃいなさい。汗、気持ち悪いでしょ?」
「うん」

私は頷くと、自室へと向かった。そしてお風呂の準備をした後にスマホを確認。すると、美樹から連絡が。しかも56件という尋常ではない数だ。

「どうしたんだろう?」

私は不思議に思いながらメールを開けると、本当に大変なことが書いてあった。まさに情報屋にしか仕入れられない情報がそこにはずらりと並んでいた。



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