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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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*132*

私はお風呂の準備を投げ捨てて、急いで美樹に電話を掛ける。

『もしもし?』

昼寝でもしていたのだろうか。眠そうな声が受話器の向こうから聞こえる。

「あ!美樹?真奈だけど……」
「あ〜!メール見たのね!」

急に元気になった様子の美樹。

「そんなお気楽ごとじゃないでしょ!」
「え〜?そうかな?すっごい面白いじゃん」
「性格悪いよ〜」
「元からです」

そんな会話を続けるうちに、いよいよ本題に入った。

「あれ、本当なの?」
「この私(わたくし)がデマを掴むはずがないでしょう?」
「そ、それもだけど……藤崎先生がそんなことするとは思えないよ」
「どうかな?藤崎だよ?あの醜いおっさんだよ?女子高生に目が眩んじゃうことだってあるでしょ」
「……なるほど」

そんな理由で納得してしまう私も私だが、実際にそうなのだ。藤崎先生、本名藤崎信吾は私達高校1年生の古典担当だ。そしてセクハラおやじでもある。入学当初というよりも今もだが、私は常に纏わりつかれている。美樹も同じようだ。……どうやら美少女がお好みならしい。別に私自身は美少女だと思っていないので、なぜ藤崎先生のお好みリストに入っているのか疑問なわけだが。

「とうとう彼氏持ちの女子高生に手を出すとは……汚いねえ」

美樹が表情の読めない声でいう。

「石島くんはそれを知ってるんだよね?」
「恐らく。というか絶対ね。そうじゃなきゃ、優那のこと無視しないでしょ」
「う〜。優那可哀想。被害者なのに……」
「多分石島も心ではわかってるけど、優那が大事すぎて嫉妬してるだけなんだと思うよ?」
「でもこのままじゃ破局なんてことも有り得るわけだし」
「それもそうね。それはちょっと駄目だな」
「あ!」
「何?」
「良いこと思いついたよ!」
「どうしたの?」
「メールに書いてあったような行為をしたのであれば、藤崎先生を牢獄送りにすればいいじゃん」
「……可愛い顔からさらっとそんな言葉が出てくるとは」
「ん?」
「何でもない。そうか、それも1つの案だね。優那に言ってあげればいいか。よし、そうしよう。後はあたしに任せて!」
「うん。じゃあね」
「はいよ〜」

こうして私達の通話は終わった。凜とのことがあってから、私と美樹の仲は引き裂かれてしまうのかな、なんて考えたこともあったけれど、そんなことはなかった。やっぱり本物の友情は何があっても千切れることはないんだね。私は一人微笑んでいると、階下から母の声が。

「真奈〜?お風呂は?」
「はい、今行きます〜!」

私はそう返事してお風呂へと向かった。

――翌々日

朝起きて、何気なくニュースを見ていると特報が入った。

『特報です。昨日、午後9時頃、桜田高校1年の古典を担当していた藤崎信吾容疑者がわいせつ等の罪で逮捕されました。警察によると……』

現場まで取材に行ったりして、かなり大事になっているようだ。

「今日、学校あるのかな〜」

ちょっと学校がないことを期待してみたり期待しなかったり。

「どうだろう?あるんじゃない?」

母が最も現実的なことを言ったその時。固定電話に電話が掛かってきた。たまたま1番近くにいた私が受話器を取る。

「はい?綾川ですが」
『もしもし?桜田高校1年の浅井凜ですが』
「あー、凜」
『真奈か』
「うん。どうしたの?」
『今テレビ見てるか?』
「うん。藤崎先生逮捕だってね」
『そうそう。それなら話が早い。今日、学校は休みだ』
「え!?なんで!?」
『学校側もそれに対応するのに忙しいらしい。それに今日は金曜日だからたまには学生に3連休を、だってさ』
「そっか。それじゃあ、次の名簿の人に電話を掛ければいいの?」
『そうだ。よろしく頼む』
「了解。じゃあね」
『おう』

電話を終了したあと、連絡網を取りだし、次の名簿番号の人に伝言を回した。それを回し終わったあと、母にVサインを出した。

「お母さんに勝っちゃいました〜」
「あらら、私、負けちゃいました〜」

そんな暢気な会話をしていると、今度は私のスマホに連絡が。次は何だろう?とスマホの表示を見ると、”逢坂徹”の文字が。

「な、なんで逢坂くん!?」

私がスマホを持ちながら動揺していると、母からの痛い一言。

「好きな人?」

その目でいうの、止めてください。もうあなた、40代後半のアラフォーですよ?私がそんなことを思っていると電話が切れてしまった。

「あ……」

気付いた時には通話料金0円としか表示されていなかった。

「やっちゃった〜」
「もう!お母さんのせいでもあるじゃない」

私がむっとしながら楽しそうに言う母を睨むと、母は微笑んだ。

「いいじゃない。若人よ青春を謳歌せよってね」
「クラーク博士のパクリじゃん」
「ばれた?」

そう言って無邪気に笑う母。どうやら今日は午後出勤ならしい。時間に余裕がある様子だ。

「それよりもその逢坂くんって男の子にコールバックした方がいいんじゃないの?」
「あ、そっか!」

私は今更気づいたことに恥じながら、自室へ戻って電話を掛けなおした。するとワンコールで逢坂くんは電話に出た。

『もしもし、綾川さん?』
「うん。さっき電話取れなくてごめんね」
『あー、いいよいいよ』
「何か急ぎの用事だった?」
『あ、いや、その……』

口籠る逢坂くん。何かあるのだろうか。

『もうすぐ俺の母さんの誕生日なんだ』
「う、うん」

と、唐突だね、逢坂くん。なんて言えずに心の中に閉まっておく。

『それでさ、綾川さんに一緒に選んでほしいな〜と思って』
「私なんかでいいの?」
『寧ろ綾川さんだから頼んでるんだけど?』

その言葉で赤面しそうになりながらも、何とか抑える。と言っても電話なのだから逢坂くんにはばれないのだが。

「分かった。うん、一緒に行く」
『本当!?ありがと!』

無邪気に笑う逢坂くんの顔が想像できる。

『じゃあ、駅に13時集合で』
「分かった!じゃあ、また後でね」
『じゃあね』

電話が切れる音がした。そしてそれを確認した私は急いで母に報告する。

「お母さん!!」

私が物凄い勢いでリビングの扉を開けたせいか、座っていた母が数センチほど跳び上がった。

「今日!出掛けてくる!お昼はここで食べるけど!」
「あらあら。逢坂くんからのデートのお誘い?」
「デート?私はただ、逢坂くんのお母さんの誕生日プレゼントを一緒に選ぶだけなんだけど……」
「まあ、初々しい理由だこと!真奈、それをデートと言わずしてなんと呼ぶの?」
「え……」

思いもがけぬその響きに私は硬直する。

「ほらね?デートよ、それは」

有り得ないよ、そんなわけない!この私が逢坂くんにデートに誘われるわけがないよ。ただ友達だから一緒に選んでほしいって言われただけだよ。そう。そうだよ!もう、お母さんってば変なこと言わないでよね。

「何1人で頷いてるの?」
「何でもない。とにかく出かけます!」
「はいはい」

母は少し呆れた顔でそう笑った。

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