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*133*
13時の15分前に駅に来たはずだったのに……駅には逢坂くんが居た。しかもたくさんの女の子に囲まれて。
「ねえ。あたしとメーアド交換しない?」
「今から一緒に遊ぼうよ〜」
「どこの学校なの?」
その中心で逢坂くんは苦笑いをしながら丁寧に断っている。
「ごめんね。見ず知らずの人に個人情報は渡せないんだよ」
「ごめん。先客がいるんだ」
「秘密」
私はその様子を呆然と眺める。別に嫉妬してるわけじゃないのよ?元から逢坂くんがモテるのは知ってたし、今更って感じだけど、なんだかむしゃくしゃするの……。私は鞄の肩ひもをきつく握りしめた。いっそ、急用が入ったって言って、ここには居なかったことにしようかな?と思い始めた頃に、ようやく逢坂くんが私に気付いた。
「綾川さん!」
人波を掻き分けてこちらに向かってくる彼は入学式の時のクラス替え発表を見に行って来た時のような、同じ目をしていた。
「ごめん!待たせちゃったね」
「ううん。逢坂くんのほうが先に来てたみたいだし……」
私はそう言い終える前にふいと顔を逸らしてしまった。これじゃあ、本当に嫉妬してるみたいじゃない。逢坂くんの彼女でもないのに。
「ああいうのはよく居るからもう慣れてるよ。それよりも綾川さんが変な男に囲まれなくてよかったよ」
「え?」
「この時間は女性が多いみたいだね。よかったよかった。それじゃあ、行こうか」
そう言って逢坂くんは私に切符を渡す。私はそれを何気なく受け取ったが、代金を払っていないことに気付く。
「だ、駄目だよ逢坂くん!」
「ん?なにが?」
「代金も払ってないのに切符をもらうだなんて出来ないよ」
「そんな固いこと言わないの〜。数百円くらい奢らせてよ」
「で、でも……」
「それじゃあ、わざわざ今日綾川さんに来てもらったお礼。これならいいでしょ?」
「……うん」
「ほら、行こう」
私は逢坂くんに手を引かれて駅のホームの中へ入った。女性の視線が一気に逢坂くんと私に注がれているのがわかる。
「いやー、注目されてるねー。なんか面白い」
彼はこの状況を楽しんでいるようだ。
「面白くないよー」
私は頬を膨らませながら言う。すると逢坂くんは頬を突いてきた。
「わー、ぷにぷにしてるー」
「それ、太ってるってこと?」
「そんなわけないよ。可愛いってこと」
「か、かわ!」
私が思わず頬を染めると、タイミングよく電車がやってきた。
「これに乗ろう」
逢坂くんはすぐに頬を突く手を止めて歩き出した。私は慌ててそれについていく。そして電車に乗り、辺りを見渡した。昼間の所為か、かなり人が少なかった。ぽつぽつ座っているというような感じだ。
「空いてるねー!ラッキーだよ、俺たち」
そう言いながら逢坂くんは私の肩を押して、近くの席に私を座らせた。
そして、隣に逢坂くんが座った。思った以上にドキドキする。
「そういえばこの間凜ってば面白かったんだよ?」
「凜が何かしたの?」
「そうそう。部活終わりに一緒に帰ってたらさあ……」
こうして始まった逢坂くんのトーク。とても話し上手で、電車の中にも関わらず腹を抱えて笑いそうになった。何とか抑えたが。
『次は水雅咲〜、水雅咲です。お降りのお客様は忘れ物にご注意ください』
「お!もう着いたのか〜。楽しい時間はあっという間だね」
「そうだね」
私達が立ち上がるのと同時に電車は停止し、扉が開いた。私達は笑顔で扉を潜った。これから待ち受ける出会いにも気づかずに――。
「分かり易いんだよね」
真奈と徹の後に電車を降りた青年は帽子を目深く被りながら呟いた。