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*134*
「わあ!初めて来た〜!!」
「そうなの?」
「うん!ここ、去年建ったばっかりでしょ?」
「確かそうだったような……」
「去年は受験だったし」
「ああ、そっか」
そう言いながら、私達はショッピングモールの中へと入って行く。そして入った瞬間に、あまりの人の多さに驚く。
「こ、こんなに人が……!」
「もしや綾川さんは人が多いところ苦手?」
逢坂くんが心配そうに私の顔を覗くので、私は右手をぶんぶんと振って否定した。
「う、ううん!そういうわけじゃないの。ただ3駅違うだけでこんなに違うんだなあと」
「そういえばそうだね。桜田駅周辺何て田舎だもんね」
可笑しそうに逢坂くんがクスクス笑う。
「まあ、取り敢えず逢坂くんのお母さんのプレゼント、探そう?」
私がそう言って逢坂くんの方を見ると、一瞬固まった。
「え……?母さんのプレ……あ、ああ。それね!うん、探しに行こう」
どこかぎこちない笑みを浮かべながら歩き始めた彼。んー、忘れてたのかな。と呑気な事を思いながら私も彼の後を追った。
「見て!これなんかどう?」
「本当だね、可愛いね〜」
私がショウウィンドウに張り付くようにしてスカーフを見る。どれもこれも高級そうだ。そもそも逢坂くんのお母さんってどんな感じなんだろう。
「ねえ、逢坂くん」
「ん?どうしたの?」
「逢坂くんのお母さんってどんな人なの?」
「どんな人?んー、天然で後先あまり考えずに行動するって感じかな?あ、写真あるよ」
そう言って逢坂くんはズボンのポケットからスマホを取り出して、私に写真を見せた。
「すっごい綺麗な人だね〜」
私は感動しながらその見せられた写真をまじまじと見る。口元がとても逢坂くんとそっくりだ。
「ありがとう、よく言われるよ。名前は雪菜って言うんだ」
「ぴったりだね!」
「そう?」
そう言いながら逢坂くんも私と並んで写真を見る。ん?並んで?私は思わず右隣に並んでいる逢坂くんの横顔を凝視してしまう。ち、ち、近すぎです!私は一人でそんなことを思いながら慌てていると、彼がスマホを閉じてポケットに仕舞った。
「美人な雪菜お母さんに似合いそうなもの、似合いそうなもの〜」
私はそう呟きながら、あれこれ店を覗く。あんなに美人ならなんでも似合うだろう。でも、やっぱり一番似合うものを逢坂くんからあげてほしい。
「雪菜お母さんは何か趣味とかあるの?」
「趣味か〜。そういえば聞いたことないなあ」
「あんまり話さないの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。いっつも面白い事言うから笑って忘れてしまうんだよ」
「へえ。楽しそうな家族ね」
私が逢坂くんの家庭を想像しながら思わず笑みを零すと、逢坂くんも笑顔で返してくれた。
「うん、楽しいよ」
「やっぱり家族は一緒にいて楽しい存在じゃないとね!」
「綾川さんの家族はどんな感じなの?兄弟とかは?」
「兄弟はいないの。一人っ子!まさに現代でしょ〜?駄目だよね〜、お母さん」
私はクスクス笑いながら言った。
「でも私のお母さんはね、雪菜お母さんとは違うけど、面白いんだよ?」
「そうなの?」
「うん。弁護士やってて朝とかしか会えないときもあるけど、面白いの」
「そっか。知的な方での面白さなんだね」
「うん」
「母さんは専業主婦だからなあ」
「あ、そうなんだ」
「うん」
こうして家族について語っていると、良さそげな店が。
「あの店はどうかな?」
「あそこ?行ってみよっか」
私たちが向かった先は手芸屋さんだった。重そうな扉を開けると、
「いらっしゃいませ〜」
と品の良い女性店員の声が店内に響く。内装はとても落ち着いた感じで、ダークブラウンで統一されている。そして家具もアンティークで統一、という風にどこか高級感がある。
「雪菜お母さん、趣味ないなら趣味をあげたらいいんじゃないかな?」
私が逢坂くんに提案する。
「趣味をあげる?」
「そう。刺繍なんかどうだろう?」
私はそう言いながら、近くにいた店員さんに尋ねる。
「あの、40代くらいの女性に人気の刺繍キットとかありますか?」
「ございますよ?どうぞこちらへ」
そう言って、その店員さんは店の奥へと進んでいく。私と逢坂くんは顔を見合わせてその店員に付いて行った。
「こちらです」
店員はキットがずらりと並んでいる棚の中の一部を示すと「ごゆっくり」と言って立ち去った。
「一口に人気と言っても一杯あるんだね〜」
私は感心しながらキットを見る。
「こんな所初めて来た」
逢坂くんは物珍しそうに店内を見る。
「ふふふ、そうだろうね」
私は小さく微笑みながら、気になったキットを棚から抜き取った。
「これはどう?雪菜って名前にぴったりじゃない?」
「本当だね、それにしよう。値段も予算内だし」
「うん」
私は頷きながらその商品を逢坂くんに渡す。
「母さん、喜んでくれるといいな」
逢坂くんは少し表情を綻ばせながら会計へと足を運んで行った。私はそれを嬉しく思いながら、ふと今何時だろう?と気になって時計を見る。すると、なんともう17時になっていた。特に私の家に門限があるというわけではないのだが、あれからもう4時間も立ったということに驚きを感じた。こんなに長い間逢坂くんと一緒に居たんだ。そう思うと自然と顔が火照ってくる。
『ほらね?デートよ、それは』
お母さんの言葉が思い出される。その前の下りを思い出していくうちに、逢坂くんに初め私が声を掛けたときの反応の理由が分かったような気がする。
『まあ、初々しい理由だこと!真奈、それをデートと言わずしてなんと呼ぶの?』
『え……?母さんのプレ……あ、ああ。それね!うん、探しに行こう』
まさか逢坂くんが私と買い物行きたかっただけなんて訳あるまいし、というか私なんかよりももっといい女の子だっていっぱいいるし、逢坂くんなら選り取り見取りだし……。と考えているとお会計を済ませた逢坂くんが戻ってきた。
「よし、もう17時だし帰ろうか」
「そうだね」
こうして私達は店を出た。そして数歩進んだ瞬間、逢坂くんの顔色が悪くなった。
「どうしたの?」
「え、いや、なんでもない」
「そう?顔色悪いけど?」
「大丈夫。もうすぐしたら治るよ。それよりも早くここを……」
逢坂くんがなぜか焦って私の背中を押し始めたとき、背後から男の子の声が掛かった。私にではなく、逢坂くんに。
「徹!なーにしてるの?」
逢坂くんは恐る恐ると言った感じで後ろを振り返る。私もそれにならって振り返った。すると、そこには逢坂くんにそっくりな青年が微笑みながら立っていた。