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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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「それじゃあ、聞かせてもらおうか」

亮さんは腕を組みながらこちらを見た。彼は最終的には私が自分を選ぶと思っているのだろう。ああ、笑える。その自信。私だって本当にあなたのことが好きだったのに。幻滅してしまったわ。

「まず最初に私が好きな人は……」

私がそう口を開いた途端、2人が生唾をのむような音が聞こえるほどの静けさが広がった。恐らくまず最初に結論を出されるなんて思ってもみなかったのだろう。亮さんもこれは驚いた、というような目で私を見ている。

「徹くんです」

そう告げた途端、2人は硬直状態となった。亮さんは日本語が理解できないとでもいうような顔を、徹くんは現実が信じられないとでもいうような顔をしている。

「真奈、今なんて……?」

徹くんはまだ現実味が帯びないのか、私にもう一度同じ言葉を言うように言った。

「好き。そう言ったの」
「うん、それはわかるけど……どうして?」
「それを今から言うの」
「ああ、そうか。変なこと聞いてごめん。……続けて?」
「うん。……私がなぜ徹くんを選んだのか、亮さんにはわかりますか?」

まだ放心状態の彼にそう問いかける。すると、彼はようやく我に返って答えた。

「いいや、全く分からないね。サプライズか何かかい?」
「いいえ」
「おや、そこまではっきり言われるとね〜。こっちだって現実味が帯びるってものだよ。それで?判断根拠は?」
「……あの子が徹くんになったからです」
「言ってる意味がいまいち理解できないんだけど」
「ええ、私自身も亮さんの立場なら何言ってるのかわからないと思います。ですから今から補足を。……私は私が過去にあった亮さん、つまり私が”あの子”と呼んでいる男の子の性格を好きになりました。そしてあなたが去って行った後も思い続けていました。でも、ある日私に転機が訪れました」
「ほお、それが徹との出会いと」
「そうです。私は徹くんと出会って、胸が締め付けられるような痛みを抱えながらも、どんどん好きになっていきました。これが好きだと気付いた時になぜこんなにも胸が痛いのだろうと考えました。そして私が出した結論は……あの子が帰ってきたという喜びと、私が忘れられているのではないかという不安、でした」

そう、私が徹くんを見て、急に寂しくなったり嬉しくなったり、胸が締め付けられたり……。きっとこの感情の数々はあの子と徹くんが重なって見えたから。やっぱり私は今もあの子を追いかけているんだ。情けないなあ。

「そしてそれを知ってからますます徹くんが好きになっていきました」
「……なるほどね。小さい頃の徹は本当に僕に憧れていたからね。なんでも僕と同じことをしたがったんだ。性格さえも似せようとしていた。そんな徹が愛おしくて仕方がなくてねえ」

そう言いながら亮さんは徹くんのほうを見た。徹くんは無表情で亮さんを見つめ返している。

「でもある時、僕は本気で好きな子ができた。まあ、それが君だったんだけど。それで毎日毎日遊び続けて、将来はこの子を絶対お嫁さんにするんだとか思ってた。だけど、父の転勤の所為でここを離れなくてはならなくなった。本当にあの時は自分の無力さに脱力したよ。まあ、それで転勤先でなんとかやってたんだけど、いつも僕の頭の片隅にあったのは真奈ちゃん、君のことだった。そして君を想い続けるうちにどこかで歪んで行ってしまったんだろうね。変な解釈までしてしまった。勝手に真奈ちゃんをフィアンセか何かと勘違いしていた。……ここまで自分でわかっていても真奈ちゃんを諦めきれない。……これは執着なのかな?それとも本当に好きなのかな?僕にはもうわからない」

そう言って自虐気味に笑う亮さん。私はそんな彼を見て、非常に居た堪れなくなったが、なんとか踏みとどまった。もしここで亮さんに手を差し伸べれば、きっと私は亮さんに傾いてしまう。そんな気がしたから。

「ごめんなさい。やっぱり私はずっとあの子が好きで、その子に似た徹くんが好きなんです。でも徹くん」

私は徹くんのほうを見る。

「私はあの子に似ているからという理由だけで徹くんが好きになったんじゃない。徹くんの、徹くんだけの性格にも惹かれたんだよ。だから、私はあの子だけを見てたわけじゃない。……なんだか言い訳みたいになっちゃったなあ。まあ、言い訳なのかもしれないけど」

私はそう言いながら自嘲した。すると徹くんがふっと柔らかな微笑みを浮かべた。そしてそのまま私に近づいてきて、ふわりと抱きしめた。

「徹、くん……?」
「さっきの話を聞いて、俺は正直ショックを受けたよ」
「……」

私は何も言えなかった。ただ唇を噛み締めて立ち尽くすことしかできなかった。

「ずっと真奈があの子を追いかけてただなんて信じたくなかった。それに真奈が俺に恋した理由もあの子だったなんて……全く俺はどれだけ兄さんに負ければいいんだよ」

そう言って徹くんはまた笑う。

「でもさ、最後の言葉は本当に嬉しかった。真奈が恋してくれたきっかけがあの子でも、真奈が俺に恋し続けてくれた理由があの子でも、最後の最後は俺という存在を真奈は見てくれたんだ。それだけで、十分だよ」
「徹くん……」
「真奈、好きだ」

心地よく耳に響く徹くんの声。肌寒くなってきた風が私の頬を撫でる。

「俺と付き合って」

私は嬉しすぎて涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら言う。

「はい。お願いします」

そう答えた途端、さらに徹くんが私を抱きしめる力を強くした。すると後ろから小さな拍手が聞こえてきた。

「やあ、おめでとう。お2人さん」
「兄さん……」
「亮さん……」
「ははは、2人ともそんな顔をしないでくれよ。僕だってこうなることはほとんど予想済みだった」
「え?」
「だけどやっぱり僕の気持ち、真奈ちゃんにちゃんと伝えたかった。そうじゃないと変われない気がしてね、自分が」
「そう、だったんですか」
「辛い思いを一杯させてごめん。これからは徹と幸せになって」

そう言い終えると、亮さんは私の頭を撫でた。そして今度は徹くんのほうを見て目で会話した後、手を大きく振り上げて「それじゃあ」と言って、坂を下っていく。私はそれを引き留めることもできず、ただただそれを見守っていった。

「ようやく」

そんな静けさを破ったのが徹くんの声だった。

「どうしたの?」
「ようやく真奈が俺の恋人になってくれたなって」

そう言われたとたん、顔が紅潮していくのがわかる。

「真奈、可愛い」

徹くんはそう言うと、頬を撫でながらキスをしてきた。軽く触れるキスだった。

「さあ、帰ろう」
「帰ろうってどこへ?」
「学校だよ。お月見、あるだろう?」
「ああ、そういえば」
「よし、行こう」

そう言って徹くんは私を開放し、私の右手を握った。私はそれに驚きながらもそれに応える。ぎゅっと握り返すと、徹くんはこちらを見ながら、指を絡めてきた。所謂恋人繋ぎだ。

「徹くん、私にはレベル高すぎるよ……」
「そんなことないよ。さあ、行こう」

こうして月明かりに照らされた2つの影は、仲良く並びながら歩いて行ったのだった。





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