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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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「あ、あの亮さんがあの子っていうのは理解できたんですけど……どうして今日、明かしたんですか?」

私がそう問うと、亮さんは一瞬悲しそうに顔を歪ませたあと、私に一歩詰め寄った。

「やっぱり、真奈ちゃんは覚えてないの?」
「覚えてないって……?亮さんに会ったのは春だというのも憶えてますし約束のことも覚えてますよ?」
「だったら何でわかんないの?」
「え……?」
「今日で僕がこの地を発ってからちょうど10年なんだよ?」
「10年……。ああ!!そういうことですか!私を迎えに来たということですか」
「そういうこと!なんだ、やっぱり知ってるんじゃないか」

今度は亮さんが満足そうに微笑んでまた一歩詰め寄った。なんだか今日の亮さんは表情がすぐにコロコロと変わる。前にあった時はただ微笑んでいるだけ、というようなイメージだったのだが。

「さあ、それじゃあ契約を結ぼうか」
「け、契約……?」
「そう、契約。僕の恋人になってくれるんだろ?」
「え……」

私はその言葉で頭が真っ白になった。私が亮さんと付き合う……?そしたら逢坂くんじゃなくて徹くんにはこの気持ちを伝えることはできなくなるの?そんなの嫌だよ。でも、あの子が迎えに来てくれた……。でもあのころの無邪気な笑顔じゃない。どこか……。私はそう思いながら、ちらりと亮さんを見上げる。どこか陰があって、執着の炎が燃え上がっているんだ。

「どうしたの?」

またまた亮さんが私に一歩近づいた。あと二歩ほどで私達の距離はゼロになってしまう。

「亮、さん……」
「ん?」

亮さんは笑顔のまま再び一歩詰め寄った。

「亮さんは、どうして私を迎えに来たんですか?」

その質問に眉を訝しげに顰めた後、亮さんは私をゆっくりと見た。

「どうして、って君と約束したし。それに……ずっと君のことが好きだったから」

照れもせずにそう言う亮さん。その気持ちは有難い。でも、亮さんあなたは間違ってるんだ。きっと自分でも気づかないうちに歪んでいったんだ。今私が見て思うことはそれだ。亮さんは変わってしまった。私が知っているあの子ではない。
――無邪気なあの子の姿は彼の中にはもうどこにも、ない。

「亮さん」
「何だい?」
「その気持ちはとても有難いし、嬉しいです」
「うん」
「でも、その好きは恋愛感情の好きじゃないと思いますよ?」
「どうして真奈ちゃんはそう思うんだい?」
「だって、私に思いを伝えているときの亮さんの目があまりにも冷たかったから」
「……っ!そんなことないと思うけど?」

動揺しながらも何とか言葉を紡ぐ彼。本当は亮さんだって自分でも気が付いてたんだ。

「亮さんはただ約束を果たそうと執着してただけなんですよ」
「違う」
「もう私には恋愛感情はないんでしょうし」
「違う」
「私なんか忘れてもっと素敵な恋を……」
「違う!!」

あまりにも大きな彼の声に肩がびくりと反応する。

「違うんだ。この気持ちは執着なんかじゃない。こんなに好きなんだ。愛してるんだ。どうして真奈ちゃんはわかってくれないの?」

そう言って亮さんは最後の一歩を踏み出した。そして私の肩を無理矢理つかんで引き寄せ、キスをしようと顔を近づけはじめた。その時の私には焦りというものはなかった。ただ、ああ、ファーストキスが奪われてしまうと思っていただけだった。だって時間の問題的にも展開の流れ的にも私が亮さんのキスから逃げられないことくらい、大分前から気が付いていたから。まさか少女マンガじゃあるまいし、徹くんが来てくれるわけでもないんだし。だから私は諦めた。……私は心の中でそう呟くと嫌々ながらも目を瞑った。そしてその瞬間を迎えようとした途端、私の背後から人の声が。亮さんは慌てて目線を私から私の背後へと移す。そしてその声を掛けてきた人物を捉えたのか、一瞬にして表情が曇る。

「綾川さん!危険だから早く兄さんから離れて!」

私は一瞬その言葉が理解できずに立ち尽くすが、数秒後にようやく理解し慌てて徹くんのほうへと走り始めた。亮さんに追ってくる様子はない。

「綾川さん!」

私は後ろを振り返りながら走っていたので、直ぐ近くに徹くんがいるとはつゆ知らず、思わず通り過ぎようとした。そんなところを彼に抱き留められた。

「全く、綾川さんは天然なんだから」

そう言って優しく微笑む徹くんにあの子の笑顔が重なる。その瞬間、私が徹くんを好きになった理由がわかった気がした。好きなことに理由なんてないというけれど、深層心理というものは案外単純なものだな。私はそう思いながら、お礼を言って自力で徹くんの腕から離れる。

「綾川さん、何もされてない?」
「えーと、一応は」
「一応って何?」

少し不機嫌そうに言う徹くん。私はその表情に恐怖を覚えながらも、これでは嘘を吐けないと察し、先程までのことを話した。すると、徹くんはゆっくりと亮さんのほうへと視線を移した。明らかに睨んでいる。

「ちょっと俺、兄さんと話してくる」

徹くんはそう言うと、私を置いて亮さんのことろへ向かおうとした。でも、私はそれじゃダメだと思った。私と徹くんと亮さんとで話して初めて解決する問題だと思ったから。だから私は慌てて駆け出そうとした徹くんの制服のシャツの袖をつかんだ。彼は驚いて振り返る。

「どうしたの、綾川さん?」
「私も、行く」
「でも、もしもう一回あいつに近づいたら何されるかわからな……」
「分かってる。でも、このまま終わりたくないの」

私は真剣に彼の目を見て言った。彼は私を見つめ返してくる。私はただひたすらにその眼差しを受け止めた。やがて彼のほうが降参したのか、私の手を握って亮さんのほうへと歩き始めた。

「やあ、徹」
「兄さん……ちょっと話をしようか」

静かに散る火花。私はそれを徹くんの横からただ見つめる。

「話、なんてする必要もないんじゃないのかな?」
「それはどういう意味だ」

いつもの徹くんではない。かなり低い声だし、話方だって微妙に違うし。

「だから僕のほうが先に約束してたんだから彼女をもらう権利は僕にあるだろってことだよ」

亮さんは私を見ながらそう言う。私は気まずくて思わず目を逸らしてしまう。

「恋に早いか遅いのか関係ない。こんなところで言うつもりはなかったんだけど……俺だって真奈のこと好きなんだけど」

え?……え?……ええ!?あの徹くんが私に!?好意を抱いていた!?
本当に!?本気で!?だとしたら凄く嬉しいけど時と場所が……。

「っは。所詮お前はであって数カ月の恋だろ?僕は10年も真奈ちゃんのことを思い続けてきたんだよ?徹にこの切ない気持ちはわからないのかな?」
「んなのわかんねーよ!それに真奈だって嫌がってたじゃないか」
「そうかな?僕からのキスを拒むつもりはなかったみたいだけど?」

再び私のほうへと戻される視線。うう、ずっと徹くんを見て話してくれればいいのに……。

「ほら、否定しないよ?」
「俺はちゃんと本人の口から事情を聴いたからそんなのじゃ俺は倒れねえよ?」
「へえ?じゃあ、これでも?」

そう言って亮さんは再び私の肩を持ち、今度こそ本当に私の唇に軽くキスをした。私にキスをした後、私の腰を強く引き寄せ、これでもかというくらいに微笑む亮さん。それを見てか、わなわなと徹くんの肩が震えだす。

「お前、今何やったんだよ?」
「何ってキス」
「は?なにやってんの?」
「だからキス」
「そんなのわかってんだよ!」

そう言って徹くんは私を亮さんから奪い去った後、思い切り抱きしめた。

「真奈は今だって嫌そうな顔をしたじゃないか」
「そう、だったかな?」

私は目の前にある徹くんの胸板にしがみつきながら2人の会話を聞く。……このままじゃ喧嘩別れだ。駄目。それは駄目。私が決着を、つける。私は改めて決心しなおすとゆっくりと徹くんの体から離れた。そして亮さんと徹くんの間に立ち、私は言った。

「私がこれから、私の気持ちを語りましょう」

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