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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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それからの時間は早かった。互いに見つめあいながら踊るダンスパーティーは物凄い緊張したけれど、とても幸せで30分という時間があっという間に感じた。そして、ダンスパーティーが終われば体育祭の閉会宣言と成績発表を聞き、解散となる。私達青組は祈るようにして閉会式を迎え、校長先生の長い話もほとんど聞き流すようにして成績発表を待った。最後のほうは赤組と黄組の追い上げが凄く、優勝できるかどうか危ういのだ。

『……それでは成績発表に移ります。ではまず種目ごとの成績から。50メートル走、第一位青組。第二位黄組……』

ああ、もう!種目は後で言ってくれればいいのに!早く総合優勝を教えて!私はそう思いながらも平然とした態度で聞く。

『4×400メートルリレー男子、第一位青組。第二位赤組。第三位白組。4×400メートルリレー女子、第一位青組。第二位黄組。第三位水組。ちなみに青組は体育祭始まって以来の最高記録を残しています。また、同じく青組の綾川真奈さんの女子個人での成績も、体育祭始まって以来の最高記録です』

皆だんだん日が落ちてきているせいか、テンションが上がってきているようだ。読み上げる係りの人の声が途切れる度に盛り上がっている。そしてそんなこんなでいよいよ総合優勝の発表となった。それぞれの組の団長に緊張の色が走る。

『今年の総合優勝は……青組です!』

その途端、青組は狂ったように歓喜に満ち溢れた。私は足から力が抜けて、その場に座り込んでしまった。あまりの嬉しさに泣き叫んでいる3年生もいた。

『今年の青組はとても団結力が強く、一丸になって優勝を狙っているのが目に見えてわかりました。本当に優勝おめでとうございます!それでは優勝旗の授与をいたします。青組団長は前まで来てください』

その言葉でだんだん歓喜の声は止み、団長が歩みでた。そして優勝旗をもらったあと、私達青組に向かって高らかに優勝旗を掲げた。他の組からも拍手が沸いた。

『それでは、これにて体育祭を閉会することを宣言します』

パチパチパチという盛大な拍手が辺りを包み込んだ。


――7時30分頃

『はい。全ての片づけを終了いたしました。生徒の諸君、月見をしたい者以外は帰宅するように。以上』

先生の校内放送を聞き届け、私と美樹は校舎内へと足を運んだ。そして着替えた後、私はメールを開いて時間を確認する。

「まだ30分もあるなあ」
「ああ、亮さん?」
「そうそう。枯れた桜でも見ておこうかな」
「うん、そうしたら?まあ、あたしが一緒に待っててあげてもいいけど?」

意味ありげに美樹は笑う。それが何となく危険な感じがしたので、遠慮しておきますと言って断った。美樹は少しつまらなさそうにしながらも、言葉通りすぐに帰ってしまった。1人になった私は桜の木にもたれかかって待とうと考えていた。だが、校門を出た瞬間に、亮さんらしき人が桜の木の前でうとうとしているのが見えた。私は勇気を出してその人に尋ねることにした。

「あの……亮さん、ですか?」
「ん……?そう、ですけど。なんで僕の名前……?」

そう言いながら私の顔を見上げた亮さんは納得したように「ああ、なるほど」と呟いた。そしてそのあとは私に笑顔を見せ、

「ごめん。時間を取っちゃったかな?」

と申し訳なさそうに言った。私は慌ててそれを否定し、亮さんを安心させた。

「そっか。よかったあ。それじゃあ、立ち話もなんだし、少し歩きながら話そうか。ちょっと見てほしいものがあるんだ」

そう言うと、歩き出した亮さんを私は追いかけた。そして私が横に並ぶと彼から質問をいくつかされた。

「真奈ちゃんはずっとこの町に?」
「はい。ずっとです」
「1回も引っ越しとかしてないの?」
「あ、いえ。7歳の時に一度」
「そうなのか。一緒だね。僕も7歳の時にここを去ったよ」
「そうなんですか。でも私、亮さんをあまり見かけませんでしたが……」
「んー、どうなんだろうね?人なんて10年もすれば顔は変わるし」
「それもそうですね。私はいろいろな人と遊んでたもので、小さい頃に遊んだ友達の名前とか顔とかあまり覚えてないんです。恥ずかしながら」
「そうなんだ。僕もおんなじような感じだよ。たった一人の女の子だけは忘れられないんだけどね」
「好き、だったんですか?」
「嫌だなあ。どうして過去形?まだずっと好きだよ?今もずっと」

そう言って、亮さんは立ち止まった。私もそれに合わせて立ち止まった。そして私が右を見上げると、その先には――あの動物病院が佇んでいた。

「ここ……」
「見覚えある?僕はここを一時たりとも忘れたことがないよ?君を忘れられないでいたからね。真奈ちゃん」

私を愛おしそうに見詰め、亮さんは言った。つまり亮さんが……私が9年間思い続けていた”あの子”だったのだ。やはり、予想は外れてはいなかったのだ。

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