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*162*
私達はグラウンドで午後の部の開幕を聞き届けると、それぞれの参加競技に全力を注ぎ、気付けばダンスパーティーとなっていた。ダンスパーティーでは男子が女子を誘わなければならないという伝統がある。そのため女子は胸を躍らせ、男子は緊張するのだ。この時に告白をしてカップルとなる者も多いという噂だ。そういう訳で私は少し期待しながら待っているわけなのだが、一向に逢坂くんは私を誘ってくれるような気配はない。彼を待っている間に、すでに25人も断ってしまった。とても心がいたたまれる。中には格好よくて、女の子にさぞ人気なのだろうなというような他学年の先輩にも声を掛けられた。しかしそれも断った。
「はあ」
思わず漏れる溜息。
「何?徹を待ってるの?」
今の今まで気にならなかった”徹”という美樹の呼び方に苛立つ。しかし、それは逢坂くんから言ったことなのだから私が起こる義理はない。握りしめていた拳の力を抜き、力なく美樹に笑って見せた。
「ごめん。何でそんな元気ないのかはだいたい察しが付くけれど、あえて外して聞くわね。……あたしが先に誘われたから怒ってるの?」
美樹はそう言って可笑しそうに聞く。本当、なぜわざわざそんなことをするのか聞いてやりたい。いや、私だって本当はわかっている。彼女なりの配慮だ。少しでも私の気を彼から逸らして、楽にさせようと思っているのだろう。
「そんなんじゃないよ。まあ、美樹はもう踊る相手決まってるみたいだけどね」
「えへへ〜!いいでしょう?この学年でトップ5には入るイケメンくんに誘われちゃったのよ〜?やあ、告白されたら即OKだな」
一人でニヤニヤしながら頷く美樹。ああ、新たな恋が始められそうで良かった。そう心から思った瞬間だった。
「名前なんて言うんだっけ?」
「新條くん。名前は優真だよ?もう、完璧よね!」
「あ、あははは……」
私はあまりの美樹の興奮様に、少し引き気味に苦笑いを返す。
「もう何よ!真奈ったら。自分から聞いてきたんじゃない!」
「ごめんって〜」
私達はいつものような会話を繰り広げていると、誰かが美樹の後ろに立った。私は誰だろうと美樹の後ろを覗き込む。すると、先程美樹に話しかけていた新條優真くんがそこには立っていた。美樹は慌てて「新條くん!」と振り向くと、彼は少し可笑しそうにしながら「それじゃあ行こうか」と言って歩き始めた。美樹はそれについていき、暫く歩いてからこちらを振り返ってウィンクをしてきた。恐らくそっちも頑張ってというような意味合いだろう。私はそれに対して大きく手を振りかえすと、こちらに背を向けて走り出した彼女の背中を見送っていた。
「あと10分でパーティーか……」
私は校舎の時計を見上げてまた溜め息をついていると、いきなり時計から逢坂くんの顔が私の瞳に映った。私はびっくりして硬直する。
「綾川さん、どうしたの?溜息ついて」
「う、ううん。何でもないの」
「そっか。あ、ダンスパーティーのペア、まだ空いてるのかな?」
「……も、もちろん!!」
「本当?よかった!それじゃあ、あと少ししかないしね、急ごう」
逢坂くんはそう言って、座り込んでいる私に手を差し伸べた。私はその行為に甘えてその手を握り、立ち上がった。そして、ダンスパーティーに参加する人が招集されている場所へと2人で仲良く歩いて行った。