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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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第十話 【お月見】

*真奈side*

学校前へ着いた。門の前には警備員が立っている。どうやら今日限定で雇ったようだった。

「すいません、この学校の者なんですが、お月見に参加してもよろしいでしょうか?」

徹くんが2人分の学生証を警備員に見せながら言う。するとあっさり許可を出した警備員が門を人一人が通れるくらいの空間まで開けた。

「ありがとうございます。真奈、行こう」

そう言って、再び私達は恋人繋ぎをしたまま門の中へと足を踏み入れた。どうやらお月見はグラウンドの西の端の方でやっているらしい。ちょうど私達の現在地からは正反対の場所だ。

「少し歩かなくちゃいけないね。真奈、大丈夫?」
「うん。って、そこまで足弱くないよ」

私は苦笑しながら言う。全く、徹くんは過保護なんだから。

「そうだね、ごめん」

徹くんも自分の発言に苦笑しながら、歩き出した。時々すれ違う人たちに、私達の絡み合った手を凝視されるのを感じながらも手を放すことはできなかった。だって――嬉しいから。

「着いたよ?」

ずっとぼーっとしていた所為か、いつの間にかお月見の場所までたどり着いていた。徹くんが私を心配そうに覗き込んでいる姿が見える。

「大丈夫。ちょっと考え事してて」
「考え事?」
「うん、そう」
「それってどんな?」
「え?」

少し声を低くした徹くんを見て驚きながらも説明する。

「その、繋いでる手をすれ違う人に凄い見られたなーって」
「ああ、なんだ。そんなこと?」
「そ、そんなことじゃないよ!」
「ははは、ごめんって。……てっきり凜のことかと思った」
「最後聞こえなかった。なんて言ったの?」
「ううん、何でもない。それより団子を買おうよ。あそこで売ってるし」

徹くんにうまく話を交わされ、別の話題へと転換されてしまった。彼は前方にあるオレンジ色の光を放つ2つの屋台を指差す。私はそれを見て、団子の方へと意識が移ってしまった。

「うん。行こう!私、きなこ餅、大好きなの!」
「え?そうなの?」
「うん!なんか……変?」
「い、いやそういうことじゃなくて……」
「ん?どうしたの?」
「その……真奈に大好きって言われるきなこ餅が羨ましいなって」

そう言い終えた後の徹くんの顔の赤さと言ったらそれはもう、言葉に言い表せないようなくらいだった。しかしそれを言われた私も思わず顔が赤くなってしまった。

「そ、そ、そ……」
「そ?」

徹くんが私を不思議そうに見つめる。そりゃあ、そうだろう。「そ」だけ言ってるなんて不自然すぎる。勇気を出して言うんだ、私!!

「そんなことないよ!私、徹くんのほうが大好きだから!!」

自分の予想以上に大きな声が出てしまい、思わず口元を抑える。徹くんも目を見開いている。……そりゃそうだよね。いきなりこんなところであんなこと言われても迷惑だよね。私はそんなことを思いながら落ち込んでいると、急に徹くんが微笑んだ。私は訳が分からずおどおどする。

「本当真奈って可愛いなあ。あー、俺の理性が後どれくらい持つかわかんないよ。早く団子を買って食べよう?」
「う、うん」
「よし、決まり。それじゃあ、真奈、席を取っておいてくれる?俺が団子持っていくから」
「で、でも団子の代金……」
「そんなの彼氏の俺が奢るって。それじゃあ」

私は徹くんが去っていく様をただ見つめていた。だって今さっき『そんなの彼氏の俺が奢るって』って言ったんだよ?彼氏の俺……。やっぱり徹くんは私の彼氏なんだ。そう実感したとたんに嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになり、席取りに専念することにした。

「えーっと、どこがいいかなあ」

私は目を凝らしながら席を探す。大分目が暗闇に慣れてきたとは言え、やはり夜。石などに躓かないようにしなくては。

「んーと……」
「真奈っ!こっちこっち!!」
「……美樹?」

私は声のした右のほうを見る。すると私に向かって激しく手を振る人影が視界に入った。

「美樹!」

私はそう言いながら彼女のほうをめがけて走り出した。そして彼女の姿を完全に目にした時にはほっと安堵のため息を吐いた。

「やっぱり真奈だった!よかったあ」
「確証なかったんですか」
「はい!」
「そう自信ありげに言われると返す言葉もない……。って、あれ?美稀って帰ったんじゃないの?」
「んー、それがねえ、帰宅途中に新條くんから電話があって、一緒に月見できないかな?とか言われちゃって」

そう言いながら照れる美樹。完全に恋する乙女だ。

「良い感じだね。じゃあ、告白されたの?」
「真奈ってほんとストレートだね。まあ、そこが好きなんだけど。……ううん、それはまだ。今、団子のおかわり買いに言ってくれてる。そろそろ戻ってくると思うよ?」
「そっか。徹くんと同じだね」
「徹くん?真奈、あんたってそんな呼び方してたっけ?」
「っへ!?あ、ああ、その、こ、これは……」
「その動揺っぷり!何かあったんでしょう!?吐きなさい!」
「う、うう〜」

そんなわけで、先程までのことを全部美樹に話した。勿論、以前話したことのある過去の話を含めて。

「そっか。やっと2人は付き合ったわけね」
「美樹、知ってたの!?」
「このあたしに知らないことがあると思って?」
「いいえ」
「でしょう?あたしの情報に知らないことなどほとんどないんだから」
「あ、100パーセントとは言い切らないのね」
「当たり前よ。そんなので客に文句を言われたらたまったもんじゃないわ」
「すっかり商売人だね」
「情報屋よ」
「そうでした」

そう言いながら、私は美樹が取っていたという席の隣に座らせてもらい、徹くんの帰りを待った。そして暫くすると、新條くんが現れ、そのあとに徹くんが現れた。

「ごめん、真奈。待たせたね。少し混んでて」
「ううん、大丈夫。美樹と話してたから」
「そっか。てか、なんで新條が美樹の隣にいるんだ?お前美樹の彼氏じゃないだろう?」
「あ?うるせーな。こっちだって色々これからあるんだ。な?美樹」
「う、うん。そうなの、かな」

こうして他愛もない会話をしながら、暗闇に浮かぶ綺麗な月を見上げた。その様子はまるで、暗闇の中で見つけた希望のようだった。

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