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恋桜 [Cherry Love]  ――完結――
作者: 華憐  (総ページ数: 176ページ)
関連タグ: 恋愛 三角関係 高校生 美少女 天然 
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番外編 【いい天気になりそうね。】

「んー、いい天気!」

私はベッドの上で軽く伸びをしながら、窓の外を見る。私の部屋から見える紅葉の葉が紅く染まっている。徹と付き合うことになってから1か月後。日本は秋を迎えていた。

「真奈〜?起きなさい。もう9時よ」
「は〜い」

私は軽く返事を返して、ルームウェアへと着替える。そして今日の予定を考えながらリビングへと向かった。

「ふぁ」
「おはよう。もう、欠伸なんかして。どれだけ寝てるのよ」
「11時間」
「真顔で答えないの。ほら、朝ご飯。ここに置いておくね。今日も母さん、仕事だから遅くなる。だから自分で作るか食べに行くかしてね。それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」

相変わらず、よくあれだけ速く喋れるなあと感心しながら食卓へ着く。

「美味しい」

母が作ったイングリッシュマフィンは絶品だ。私の鉱物のひとつでもある。とろとろと蕩けだす半熟卵がたまらない。そうして無我夢中で食べていると、いつの間にか手の中には何も残っていなかった。

「んー、完食。ごちそうさま」

私は1人で手を合わせてお馴染みの言葉を言い終えると、立ち上がってシンクまでそれを持って行った。そして軽く水洗いをして食洗機の中へ。そしてそのまま洗浄スタートのボタンを押し、食器洗いを機械に任せた。勿論、食洗機の中には私が今使ったお皿だけじゃなくて、昨日の夕食に使ったお皿だって入ってるんだから。

「さ―てと、何しようかな?憧れの1人旅でも行ってみようかな。といっても近場を1人でぶらぶら回るだけだけど」

私はそう言いながら自室へと戻る階段を上り、自室へ入った。そしてクローゼットを開け放ちどれがいいか考える。

「せっかく秋なんだし。赤っぽいものを……」

そう言ってクローゼットの中の服を見回すと、1つ私の目に留まるものがあった。それはつい最近買ったばかりの赤いチェックのワンピースだ。少し抑えめの茶色がかった赤に所々入る緑のライン。そして、裾にはアンティーク風なレースに一目ぼれして買ったものだ。

「よし、これにしよう」

私はそれをぱっと手に掴み、そのワンピースに合わせて、全身をコーディネートした。そして出来上がったファッションスタイルに満足すると、鞄の中に財布や携帯を詰め込んで、少し低めのヒールを履けば、完全に秋スタイルへと変身。普段はしないが今日は気分が良かったため、鏡の中の自分に微笑みかけると、「上出来」と呟いて扉を開けた。大分、肌寒くなってきた風が私の体を包み込む。

「よし、行こう」

こうして私は駅へ向かって歩き始めた。そして駅に着き、電車に乗り込んだ。すると、意外なことに同じ車両に徹も乗り込んできた。しかし、徹の隣に居る男性と話し込んでいて全くこちらには気付かない。私はそれを見て少し拗ねながらも、聞き覚えのある男性の声に耳を傾けた。

「いやあ、今日は徹から誘ってもらえるなんてね。どういう風の吹きまわしだい?」
「別に。ただちょっと申し訳ないなと思っただけだよ」
「ほお?何が申し訳ないんだい?」
「その、真奈を俺の彼女にした、こと……」

これでその男性が誰かが分かった。顔はこちらからは死角で見えないが、確実に亮さんだ。

「別にいいよ。徹が無理矢理真奈ちゃんを奪っていったわけじゃないしね。彼女の選んだ道なんだから、僕はそれを咎めたりしないし止めるつもりもないよ」
「兄さん……」
「ただ、もし真奈ちゃんが僕の胸に飛び込んできたなら一生離さないけどね」
「兄さん……?」
「何だい?」
「そんなこと絶対ないから安心して?」
「ほお、それは楽しみだね」

声は普通だし、笑顔で会話しているようにも見えるけど、なんだか火花が散っているような気がするのは私だけですか?

「それよりも、今日はどこへ行くつもりしてるんだい?」
「あれ?言ってなかったか?」
「うん、僕には何の口も聞いてくれなかったからね」
「誰の所為だよ?」
「さあ」
「まあ、いい。最近できたここから2つ先の駅前の喫茶店。凄い反響ならしくてさ、ちょっと興味があったんだよ」
「へえ。それで気に入ったら連れて行くと?」
「……」
「図星かい?本当に徹は分かり易いね」
「煩い」

一体誰をその喫茶に連れて行くんだろう。気になるところだが、現状として尋ねられる場合じゃない。ああ、どうやったら聞けるかな。とかそんなことを考えているうちに、2人は下車してしまった。

「あ、ああ……」

私は扉が閉まる瞬間に手を伸ばしてみたが、2人はそんな私の存在に気付くはずもなく、兄弟の会話を楽しみながら改札を超えて行った。ただ社内に空しさだけが募る。そしてそうこうしているうちに、私の目的地へと到着。私は渋々自分の鞄を肩に掛けなおして降りた。

「さっきの空しさの分、思い切り楽しんじゃおう!」

私が元気いっぱいにそう言うと、周りの人から怪訝な目で見られたが、気にしないふりをして、通りへと足を踏み出した。

この通りには私のお気に入りのファッションブランドやら何やらがたくさん入っていて、気分が滅入った時や、嬉しかった時など、頻繁に来る場所だ。もう常連となってしまったような店だってある。その中にとあるカフェがあるのだが、そこは知る人ぞ知るというもの。この前たまたま歩いていたら見つけ、入ってみたら、価格もまあまあ安くて、ご飯もスイーツも絶品だったものだからすぐにお気に入りになったのだ。私は今日も買い物をし終えたらそこへ行くつもりである。まあ、夕食が今日は家にないことだし、そこで済まそうかなという考えだ。

「わあ、これ可愛い」
「そのラインがかわいらしいですよね。今年の秋、流行間違いなしのものです。ご試着されますか?」
「はい!」
「ではこちらへどうぞ」

私は店員さんに付いて行き、色々試着した。そして徹とのデートに着て行ったらいいだろうなと思った3着を買うことにした。それからあれこれ回って、気が付くといつの間にか5時を回っていた。そろそろカフェへ行く時間である。実はいうと、そのカフェ、歩いて行くとなかなか遠かったりする。

「さーてと、行きますか」

私は一声自分に掛けると歩き出した。

そして、30分後――

「着いたあ」

私は大きく息を吸って吐いた。相変わらず、可愛らしい木の家だ。夕日色に染まっているところがたまらない。暫く私はぼーっとこの風景を眺めていると後ろから声を掛けられた。驚いて振り返るとそこには凜が。

「凜!?」
「よお」
「どうしてここに?」
「それはこっちのセリフ。てか、真奈もこの店知ってたんだな」
「うん、つい最近知ったところだけど」
「まあ、取り敢えず入るか」
「え?あ、うん」

なんだかちぐはぐな会話を不審に思いながらも凜の後へと続いて行く。そして可愛らしい気の取っ手をゆっくりと引っ張ると、店員が迎え入れてくれた――と思ったらそれはなんと美樹だったのだ。

「み、美樹!?」
「真奈!?どうして凜と一緒にいるのよ」
「いや、さっきそこでたまたま会って」
「へえ?」

美樹が意味深な目で私と凜を交互に見る。しかし凜が「真奈の言う通りだ。それより客をいつまで待たせる気だ?」なんて言ったものだから、美樹は仕方なく仕事へと戻った。


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