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*3*
第一話 【桜並木】
*真奈side*
今月、4月を迎えた私は、晴れて高校1年生の身となった。
そして今日は入学式。
私は学校へ向かうため、通学路である桜並木を歩いていた。
「今年も綺麗に咲いたのね」
桜を見上げながら呟く私。
でも、誰かが返事してくれるわけでもなく、私の声は虚しく消える。
「あの子、今はどうしてるのかな…?」
不意に脳裏を過ぎるあの幼い頃の記憶。
そしていつも思うのは私の隣に居る名前も知らない男の子。
もう一度会いたい。
だけどそれは叶わぬ夢…。
そんなこと思いながら歩いていると、急に強い風が吹いた。
すると、地面に落ちていた桜が一気に舞い上がり、視界を覆った。
「え、何これ…?」
桜吹雪で前が見えなくなっていることに軽くパニックを起こしかけていた私。
そんなところを、名前も顔も知らない男の子に助けられた。
「君、大丈夫?ほら、こっち」
そう言って私の腕を強く引っ張る男の子。
私はされるがままにして、なんとか桜吹雪の中から脱出することが出来た。
「大丈夫?困っていたようだったから、つい助けちゃったんだけど...迷惑じゃなかった?」
そう言って私の表情を覗うようにを覗き込む男の子。
その男の子の顔はとても綺麗だった。
そして、その瞬間、私は恋に落ちた。
先程まで考えていた男の子のことなんか忘れて…。
「えっと、あの、その、ありがとう、ございました」
「あはは、いいよいいよ。嫌われてなくて良かった」
彼はそう言って笑った。
私もそれにつられて笑った。
「あ、そーだ!君、この制服ってことは同じ学校だよね?名前なんて言うの?俺はね、逢坂徹」
「私は…綾川真奈です」
「綾川真奈さんね!真奈…。いい名前だね!これからよろしく」
「えっと、よろしく、です」
「そんな暗い顔しなーい!あ、それと敬語使わなくていいから!多分綾川さん、1年生でしょ?」
「あ、はい、じゃなくて、うん」
「俺も1年だからさー、同級生ってことで、っね?」
「は、はい」
高鳴る鼓動を押さえつけながら私は彼との会話を学校へ着くまで続けた。
途中、何人かの女子に睨まれたような気もしたが、気付かないふりを突き通した。
「あ、あそこにクラス発表あるじゃん!俺、綾川さんの分も見てくるよ!ちょっと待ってて」
そう言って彼は人だかりができている所へ走って行った。
私はそんな彼の後姿を遠くから見ていた。
そして心の中で思った。
この後姿、どこかで見たことがある気がするの。とても寂しい気持ちになる…と。