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*42*
「あの、お誘いはありがたいんですけど、私、あなたのこと、知らなくて…」
「やだ!なんて謙虚なの!?浅井の言う通りじゃん!綾川さん!あなた…絶対モテるわよ?」
恐らく、皆さん驚いたでしょう?なぜ内部生のあたしが外部生を知っているのかと。
簡単な話、先程も述べたように、中学時代に綾川という人物の話を浅井から聞いていたからだ。
「は、はい!?」
あたしの言葉に驚いて目を点にする綾川さん。
本当に、女子のあたしでも惚れそうなくらいに可愛い慌て方だ。
「もー、超可愛い!あ、それじゃあ、あたし達友達ってことで!それじゃあ、男子ども、GOODBYE!」
そう言って、あたしは綾川さんの腕をしっかり掴んで歩き出した。
無言の綾川さんに内心冷や冷やしつつ、何食わぬ顔で入学式会場へと足を進める。
そしてもう少しで式会場に到着する、というときに綾川さんが突然口を開いた。
「あの、えーっと、あなたは内部生、なんですか?」
一瞬驚いた。
あたしは綾川さんに自己紹介なんてしてないし、浅井もあたしのことを紹介した、という様子はなかった。
つまり、彼女はすべて推測であたしのことを予想したのだ。
「そうだよー?」
しかし、あたしには情報屋=常に同じ表情というイメージがあるので、それを守ってニコニコしながら、心の内を明かさずに答えた。
「凜とは友達、なんですか?」
「うん、男友達だね!あ、もしかして綾川さん、浅井と付き合ってんの!?」
自分で友達といいながら、心を痛める。
だって、友達以上の関係を、どうしても望んでしまっているから…。
だけど、あたしは”情報屋のあたし”を優先させた。
「う、ううん!そういうわけじゃないの。ただの幼馴染だよ?」
先程あたしに誘われた時より焦っている。
うーん、何だか掴めないわね。
もしかして、綾川さんは浅井のことが好きなのかな?
「そっかぁ。それは残念だなぁ」
そう言って、肩を落としたあたし。
これは情報屋のあたしを優先させた結果。
そんな自分に苦笑してしまうよ、本当。
そんなことを思いながらも、せっかく綾川さんから話しかけてくれたので、話を続けるために話題転換をした。
「あ、それよりさ!」
「はい!?」
「あぁ、そんなに硬くならなくていいよ!普通にタメでいいから!」
「た、タメですか…」
「そう!あ、そうそう!あたしの名前は枝下美樹!美樹って呼んでくれてもいいし、ミキティーって呼んでくれてもいいし…とにかく何でもいいよ!あなたの下の名前は確か…」
あたしは顎に手を添え、考える素振りを見せた。
すると綾川さんは、そんなあたしを見て慌てて自分の名前を名乗った。
「私は、真奈。綾川真奈、です」
「そうそう!真奈ちゃん!真奈って呼んでもいいかな?」
「う、うん」
「よーし、それじゃあ真奈、手始めにちょっと質問していい?」
「私が答えられることならば何でも」
「OK。えーっと、それじゃあ、浅井とは本当にただの幼馴染?」
「うん」
「逢坂くんって知ってるよね?」
「うん。今日一緒に登校したよ?」
「マジで!?やるね、真奈!」
「え?なんか不味かったかな?」
「不味いも何も、あの男子超モテモテだよー?もう噂になってるくらいだからね。学校来て数分しか経ってないってのに。やっぱイケメンは違うのねー」
一人で頷くあたし。
なんだか面白くなってきたわ!
「あ、話を戻すね!他に何か聞きたいことあったかな…?あ!思い出した。ねぇ、真奈には彼氏いるの?もしくは好きな人とか!?」
「か、彼氏なんて滅相もない!」
「えー!?真奈、すっごく可愛いのに彼氏いないの?」
「う、うん。てか、そんなお世辞要らないよー」
綾川さんはそう言って頭を左右に激しく振った。
「お世辞なんかじゃないって!…で?」
「で、とは?」
「好きな人はいないの?」
「す、好きな人!?」
「お!その反応は…居るわね。誰なの誰なの?」
「そ、それはちょっと…」
「そーだよね!また言いたくなった時に、話してくれたらいいし!」
綾川さんは一瞬意外そうな顔をした。
だが、
「うん、分かった」
と言って微笑んだ。
あたしもそれに応えるように微笑んだ。
「よーし、質問も済んだことだし、後は入学式だねー!第一印象は大切よね!」
「そうだね!」
「よっしゃ、あたし、超笑顔でいっちゃおう!って言っても、内部生だからあんまり変わり映えしないんだけどねー」
「それでも、その努力はいいと思うよ?」
「…わー!なんか嬉しい!」
「え?」
「だって、いっつもあたしの言葉って皆に流されがちなんだよねー!だから、まともに答えてくれたのって真奈くらいっていうか…」
あたしはそう言って、笑った。
もしかすると、初めて人に自分の心の内を表情に出してしまったかもしれない。
そんな心配をしながらも、それを忘れるかのように”いつもの笑顔”を浮かべた。
「ま、とにかくこれからもよろしくね!」
「うん!」
こうしてあたし達は、先程までは真奈があたしの後ろをトボトボ付いてきていただけだったのに、2人で仲良く並びながら、廊下を走り始めた。