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*51*
「あー、疲れたー!今日一日、すっごく長く感じた!」
夕日を背に美樹は私の前を歩きながらそう言う。
そう、今は下校中。
帰宅部の美樹はなぜかいつも部活動が終わるまで私を待っていてくれる。
「本当に楽しみなんだねー。そんなに楽しみなことって何かある?」
「そりゃあ、あるよ!」
「何?」
「そ、それは諸事情で話せないんだけど…」
「ふーん?」
こんなに慌てている美樹を私は初めて見た。
…もしかすると私はこの時から気付いていたのかもしれない。
彼女の淡い恋心に。
でも、それを私は認めたくなかった。
今の心地よい関係を壊したくなかったから。
でも、関係でも何でも、過去以外に変わらないものなんてない。
こんなことわかっていたはずなのに。
「何よ?その疑い深い目」
「別になんでもありませーん」
「なんかムカつく。あ!そっちこそあたしに何も話してないじゃない!」
「何を?」
「真奈の好きな人のこと!」
「え!?私、好きな人いるなんて言ったことないよ!」
「それでも顔に書いてあるの」
「嘘!?誰がいつの間に書いたのかな!?本当、最近はそういう悪質ないたずらが目立つよね」
「…慣用句が通じない。本当に、真奈って賢いの?」
「え?今の慣用句だったの?あ、そういえば!顔に書いてあるってよく言うね!ちょっと焦ってたみたい」
「へ〜?何に焦ってたの?」
「べ、別になんでもないよ?」
「嘘だね。あたしが情報屋なの忘れてないでしょうね?」
「え…?」
「たくさーん、真奈の情報、仕入れてるんだから」
「た、例えば?」
「そうね、小学2年生の頃、友達と喧嘩した後にムカついて、宿題だった”あのね日記”に、”あのね今日ね、友達にねムカついたんだよ。先生、人の黙らせ方って知ってる?”と記したとか、小学5年生の頃の運動会で大コケして、恥ずかしさのあまりに”今のは宇宙から見えない星が降ってきたんです”と訳の分からないことを突然叫びだしたりとか…」
「ちょっと待って!美樹さん、ちょっと待って?」
「どうしたの?真奈さん」
「いやー。聞いてる限り、私の黒歴史を掘り起こしているようにしか見えないんですが」
「…否定はしないわ」
「否定してよ!」
「じゃあ、否定する」
「信用できません。というか、どこからその情報、仕入れてきたの?」
「秘密よ。情報提供者の身柄の安全の確保は情報屋の責任でもあるのよ?これでも、情報屋って案外大変な仕事なの。情報は万金に値するからね!」
「そ、そう。なんでもいいけど、その話、誰にもしないでね?」
「さぁ、どうでしょう?夏休みの宿題全部やる、という交換条件をもとに真奈の情報を求めてきたらあたしも揺らいじゃうなぁ?」
「そ、そんなぁ」
私が力なくうなだれていると、美樹が笑い始めた。
「冗談よ、冗談。本当に真奈って面白いわね。友情が一番に決まってるでしょう?」
「本当!?ありがと!」
「でも」
「…でも、何?」
私が美樹の言葉に身構えると、美樹は優しく微笑みながら言った。
「でも、そのうちに真奈の好きな人、あたしに話してよね。信頼できる、と思ってからでいいから」
私はその言葉に”嬉しさ”というものを感じた。
本当に、心からの友達が出来た、と思えた瞬間だった。