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*56*
「美樹〜!逢坂く〜ん!」
私は外で待っていてくれた美樹と逢坂くんを見付けて駆け寄った。
「ごめんね、待たせちゃったね!」
私がそう言って謝ると、美樹は笑顔で「全然大丈夫だよ」と言ってくれたが、なんだか逢坂くんは不機嫌だ。
「どうか、したの…?」
私が不安気に尋ねると、逢坂くんはふと我に返ったように優しく微笑んで「なんでもないよ」と答えた。
んー、絶対何かある気がする。
私はそう思って、逢坂くんを見つめていると、逢坂くんが慌てたように
「取り敢えず、ここで話してないで、歩き出そうよ」
と言った。
恐らく私の視線から逃れるためだと思う。
しかし、私はそれを口に出さずに「賛成」と答える代りに歩き出した。
「あー、今日はいい一日だったなぁ〜!あたし、今回のテストは10位台乗るかも!?」
「乗ってくれなくちゃ、俺が困るね」
「何それ、逢坂先輩。あたしにプレッシャーかけてるんスか」
「かもね」
「意地悪。てかSだ」
「Sで悪かったね」
そんなことを言って、2人で笑い合ってるのを見て、嫉妬してしまったのは、誰にも言わない。
「あ、そーだ!真奈!」
急に私の名前を呼ばれて、肩をびくりと動かした。
すると、美樹がまた笑いながら「そんなに構えないで」と言った。
私、思えばいつも美紀の言葉に構えてる気がする。
まだ、ちゃんと美樹のこと、信用してないってことなのかな…?
一人でそうやって不安に思っていると、美樹が恥ずかしそうに俯きながら耳を貸して、とジェスチャーしてきた。
私はそれに素直に従って、美樹の近くに耳を持って行った。
「何?」
「いや、さっきの話の続きなんだけど…」
「あぁ!今してくれるの?」
「う、うん。別に逢坂くらいにならバレても問題ないっていうか…」
「ん?今、俺の名前出てきた?」
「出てきてないよ!出てきてない!」
「そう言ってる割には、美樹、焦ってるけど?」
「そ、そうだけど…やっぱり知ってる人は少ない方がいいじゃん?」
「まぁ、確かに」
「それで、話を元に戻すけど、あたしの好きな人は…浅井なの」
私は一瞬思考回路が停止した。
浅井ってあの浅井だよね?
浅井凜のことだよね?
私の幼稚園時代からの幼馴染である、あの凜だよね?
そんな自問自答を繰り返した。
私は今まで、凜のことを兄のように慕ってきた。
なので、そこに恋愛感情が生まれるなんてことはなかった。
でも、傍から見ればルックスも良くて、多少ぶっきら棒で言葉遣いが荒いところもあるが、女子には魅力的な男子だったのだ。
それを、今思い知らされたのである。
「真奈?大丈夫?口、開いてるけど?」
「え?あ、ご、ごめん!ちょっと驚いちゃった」
「だろうね。あたしが見てる限り、真奈は浅井のこと、兄弟くらいにしか思ってないだろうし」
「え?凜だって私のこと、妹分みたいなものだと思ってると思うけどなぁ」
「本当にそうかな?」
そう言って、美樹は笑った。
でも、それは笑いではなかった。
寂しさを押し殺したような笑い。
この笑いは、出会った時から何度か見たことがあった。
でも、本当の意味をこの時の私は知る由もなかった。
美樹のこの寂しさを滲ませた笑いの理由を私が知るのは、もっと先の話なのだから…。
「そうだよー」
「…ま、真奈本人が言うんだし、そういうことにしておこう」
「はーい」
こうして晴れてお互いの好きな人を明かした私たちの絆はさらに深まった気がした。