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*66*
*徹side*
俺はいつも朝は急ぐようにして教室へと向かう。
別に、遅刻寸前、とかそういう訳じゃない。
ただ…
「おはよー、綾川さん!枝下さん!」
綾川さんに早く会いたいだけ。
「逢坂くん!おはよー」
俺が挨拶すると、綾川さんも微笑みながら答えてくれる。
そんな様子を見て、俺は顔を赤くして少し照れてしまう。
「もー、何微笑み合っちゃってんのさー」
枝下さんが俺たちの仲を茶化してくるのも日常茶飯事。
まぁ、満更でもないけどね。
「あ、逢坂!」
「どうしたの?」
「来たところで悪いけど、1つ頼まれてくれないかな?」
何だろう?悪い予感しかしない。
でも、取り敢えず話を聞いてみるだけ聞いてみよう。
「何?」
「実はさ、逢坂の家見に行きたいなーって話になって」
「うん」
「だから、逢坂の家で勉強会もう一回できたらいいなー、なんて思ったんだけど…駄目かな?」
少し上目遣いで頼みごとをしてくる枝下さん。
しかし、俺は今それどころじゃない。
詰まる所彼女の”願い”というのは、兄さんに会いたいってことだよね?
どう考えても、勉強会したいって感じがしないし、俺の家を見たいってのは事実なのかもしれないけれど、それにしては期待を込めすぎた目で見てくる。
と、なればやっぱりさっきの推測は間違ってないよね。
「それ、兄さんが目的でしょ?」
俺は自分でも驚くくらいの冷たい声で言い放っていた。
「え…?」
枝下の驚いた声が聞こえる。
しかし、俺は構っていられない。
「だったら、そういうのやめてほしいんだよね」
それだけ言って、一瞬だけ綾川さんを見据えたあと、自分の席へと歩いて行った。
そう、俺は事実を知っている。
事実を知っているが故に彼女に知られてほしくない。
兄さんのことだけは特に、ね。
兄さんのことを知ってしまったら、きっと綾川さんは俺の元を去っていく。
兄さんだってそんな綾川さんを逃がすはずが…ない。
俺はそんな腹黒い感情を抱えながらSHRが始まるのを待っていた。
――4限目終了後
「枝下さん!綾川さん!朝はごめんね!」
俺はさすがにこのままでは不味い、と思い朝から口をきいていなかった綾川さん、枝下さんに謝った。
「ううん、いいよ?誰だって触れられたくないことだって1つや2つあるだろうし」
「綾川さん…」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。それだけで、お前許してもらえるとでも思ってんのか?」
凜が不機嫌そうに俺を見る。
ていうか、なんで凜が絡んでんの?
関係ないじゃん。
「何が?」
俺はケロッとした顔で逆に質問して返してやると、凜はすぐに頭に血が上ってしまった。
「何が、じゃねーよ!お前、真奈をどんだけ悲しませたのかわかってんのか?」
「え!?そうだったの!?てっきり、綾川さんは俺のコト、どうでもいいもんだと思ってたから…」
「そ、そんなことないよぉ」
綾川さんは力なく答える。
絶対勘違い、されたよね?
「そ、そんなに落ち込まないで!俺、綾川さんの悲しい顔見たくないから!」
「…!」
綾川さんはそのセリフに驚いて顔をあげた。
しかし、それと同時に自分自身にも驚いた。
そして暫く互いに硬直状態にあると、すかさず凜が入ってきた。
「なんだよ、その乙ゲーみたいなセリフ。気持ち悪い」
「男の君に気持ち悪いなんて言われたくないね」
「あー、そうかよ。色男」
「俺は色男じゃないよ。何度も言うけど…」
こうしていつもの口喧嘩が始まった。