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*74*
「それではバス、出発いたします」
ガイドさんの声でバスは出発した。
「今日、ガイドを務めさせていただく、黒川と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
そう言ってお辞儀する黒川さんに皆が一斉に拍手をする。
「ありがとうございます。さて、皆様は今日、沖縄へ向かわれるとのことですが…」
こうして、ガイドさんとの談笑は終わり、持参のお菓子を食べても良い時間となった。
生徒の中にはお菓子を食べながら、トランプやUNOをしている人もいた。
そして、私と美樹、逢坂くんと凜もその一人だった…。
「…はい、上がり!俺の勝ちだね」
「また〜?逢坂強すぎ〜!」
美樹が不満そうにしながら、賭けていたお菓子を渋々差し出す。
「ありがとう〜、枝下さん!」
満面の笑みでそれを受け取る逢坂くん。
「美樹でいいわよ」
「じゃあ、美樹。ありがとう」
逢坂くんは早速美樹からもらったお菓子の袋を開けている。
私と凜も賭けていたお菓子を逢坂くんに差し出す。
「綾川さんも凜もありがと〜」
嬉しそうにしながら逢坂くんは私たちが差し出したお菓子を受け取る。
「いやー、俺、お菓子あんまり持ってきてなかったからさ。助かったよ」
「お蔭でこっちはほとんど何も残ってねーよ」
逢坂くんの隣の席の凜は、窓を見ながら不機嫌そうに言う。
「そんなことで不機嫌にならないでよ〜。俺のお菓子あげるからさ」
「何で俺があげたお菓子を俺が貰わないといけないんだよ!新種のいじめか?いじめなのか?」
「そんなことないよ。俺はただ凜の悔しさ滲み出た表情が見たいだけで…」
「それがいじめだよ!」
「これをいじめと言うのかい?いや、知らなかったなー」
「最後、棒読みだぞ!」
「そうだったかなー」
いつもの口喧嘩が始まった。
これはもう日常茶飯事であり、担任である日野先生も咎めるつもりはないらしい。
というか、日野先生は女子に囲まれて大変なことになっている。
「先生!私のも受け取ってください!」
「先生!口開けてください!私があーんしてあげますから!」
「あはは、気持ちは嬉しいんだけど…ここバスだからね?一端席に着こうか。もうすぐ高速道路に入るわけだし…」
「嫌です!先生がお菓子を受け取ってくれるまで、私、座りません!」
「私も嫌です!先生にあーんしてからじゃないと、死んでも死にきれません!」
「そうは言われてもねぇ…」
日野先生は困った顔で苦笑い。
女子の皆さん、沖縄に着いてからでも全然問題ないじゃないですか。
今、ここでやらなくてはいけないことでもないでしょうに…。
と一人冷静に考えていると、学級委員が立ち上がった。
「ちょっと、あなたたち、席に戻りなさい!」
「でも、委員長…!」
「そんなの、飛行機の中でも沖縄でもできるでしょ!今、やる必要性を私は感じないわ!」
学級委員長である花澤さんの眼鏡がきらりと光った。
花澤さんの眼鏡がきらりと光ると、激怒の前触れ、ということを既に承知している女子らは、「はーい」と肩を落としながら自席に戻って行った。
そんな様子にガイドさんは苦笑い。
日野先生も苦笑い。
私も苦笑い。
…でも、何やかんやで楽しい修学旅行のスタートを切れたようだ。