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*36*
『訓練室に移動します。地形を選択してください』
かぐやと櫟、それぞれ訓練室の1室に入る。
訓練室で特訓する場合はストライド切れも痛覚も死もない。
それに加えていつどんな場所で殲滅者と戦うのかわからないため、色々な場所を想定した地形で戦うことができる。
市街地は勿論、建物の中、森の中、何もない更地――などなど。
「地形はどうするの?」
「勝負持ち込んだのは俺だし、竜堂先輩が選んで構いませんよ」
「あとで何か言うのは無しよ」
「わかってますよ〜。俺正々堂々と勝負する質なんで」
「そう……。じゃあ、ここにするわ」
ピッとかぐやはパネルを操作する。
次の瞬間、ヴン、と体が浮遊する感じがした。
かぐやが選んだ地形に転送されたのだ。
『地形―――市街地ノーマル。時間制限なし。1本バトル開始!』
ピーーー!と開始の合図がなる。
勝負の勝敗は極めて単純。相手の急所に攻撃を入れる。それだけだ。
櫟は市街地を見てどこか驚いたように辺りを見渡した。
「へぇー。Cランクの俺じゃあ苦戦するような地形選ぶと思ったのに。案外俺にも有利な地形ですね〜」
「別にアンタのためじゃないわ。あまり障害物がある場所って苦手なの」
「それは……わかりますよっ!」
最初は飄々としていた櫟だったが、次の瞬間悪鬼のような笑みを浮かべてカノンを迷いなくかぐやに打ち込む。
――カノン。遠距離用長銃武器ブレイブの一種。重い分、それなりの攻撃力を発揮するが耐久性には少し問題あり。
「トリガーにしては見えやすくて直線的な攻撃ね!普通トリガーは建物とかに隠れてじっくり打ちどころを探すのが常識“セオリー”なんじゃないの?」
「いやー。竜堂先輩。何か誤解してるようですから言いますけど……俺武器こそはトリガー用ですが実質的には……オールラウンダーですから」
「――――――っ!」
ドンッ!!
櫟は乱射するのを止め、一回動きを止めた。
そして、乱射するためのストライド量を【一気に撃ち放つ超攻撃力】に変えたのだ。
砲弾のような光線が市街地を包む。
「……おいこれ、櫟の奴がやっちまったんじゃ……」
「元エースってのもたいしたことねーな」
「えー?もう終わり―?」
ザワザワとギャラリーが騒ぎ出す。
優越感に櫟はカノンを肩に掛けながら微笑む。
だが、モクモクと立ち上る煙から人影が姿を現した。
「ゲホッ……。最悪!思いっきり煙吸っちゃったじゃない」
「う、嘘……!?オレのさっきの攻撃で倒れないだなんて……」
櫟は有りえないものを見る表情を浮かべる。
そして、一歩後退する。
「確かに最初の攻撃に比べると威力は比べものにはならないけど。だけど、“動きが単調すぎる”わ」
「!!」
一瞬の間に。
かぐやは櫟の懐まで近づいていた。
その手には斧を忍ばせてあり、いつでも攻撃できるということだ。
櫟のカノンでは、近距離で放てるがゼロ距離ではと問われたら話が別だ。
彼は―――負けると、悟った。
「……竜堂先輩。オレの敗因は何ですか?あと、元エースっていうのも逃げた臆病者って言うのも取り消しますね」
「アンタの敗因は自分のブレイブをちゃんと知り尽くせなかったこと。……それと逃げた臆病者は取り消さなくて別にいいわよ。本当のことだから」
「……そうですか」
――――ボンッ!
と、かぐやは櫟の体を斧で真っ二つにした。
負けたのにも関わらずどこか櫟の顔は満足気だった。
『櫟、生命体限界。緊急離脱』
そう機械的な声が聞こえると櫟の体は訓練室に移送された。
かぐやは市街地の作られた空を見上げる。
「逃げた……ね」
※
「いやー。流石エースだよな!貫禄が違うっていうか!」
「お前さっきまで元エースってのもあんなもんだって言ってただろうが」
「いや、あれはどう見ても……!」
「かぐやさん凄いなぁ……。同じ女性として尊敬しちゃう!私もあんな風になりたいなぁ」
「アンタには無理無理」
ザワザワと先程より騒がしい訓練室。
郡司は何かあったのか、と首を傾げた。
かぐやは郡司を発見すると、彼に駆け寄った。
「あ、郡司!意外に早かったのね!」
「ああ。……なんか騒がしいけど、なんかあったのか?」
「コレ?さっきまで秋良と戦ってたの。ほら……」
かぐやは櫟のほうを指差すが、彼はもう訓練室にはいなかった。
「あれ?どこに行ったの!?」
「秋良は自由だからな。もう違うところへ行ったんだろ」
「あ、秀也さん!」
「……櫟か」
廊下を歩いている櫟の前に歩いていた秀也の姿があった。
櫟は嬉しそうに彼に駆け寄る。
秀也はどこかボーっとしている。
「聞いてくださいよ!さっき竜堂先輩に勝負挑んだんですけど5分もしないうちに負けちゃって……」
「……竜堂……!?」
秀也は「竜堂」という言葉に目つきを鋭くさせた。
「まぁそれは置いといて。俺もうちょっとでBランクに上がれそうなんですよ!正隊員になったら三城隊に入れてくださいね!」
「………」
「ちょ、何で無視するんですかぁ!待ってくださいよ、秀也さん!」
いやそうな顔をしながらスタスタ歩き去っていく秀也を櫟は慌てて追った。