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*56*
【番外編 希望】えーと、本編ではキャラたちの設定を生かせるかわからないので番外編と言うかたちで設定をいかしたいと思います。
ーーーーあれは、オレが世間のことを全く知らなかった時の話。
両親を失う前の、小さいころの物語ーーー……。
「父ちゃん、母ちゃんただいま!」
「お帰り、聖。おやつできてるから手を洗ってきなさい。かぐやちゃんも郡司君も」
「「はーい」」
聖の母、ゆかりはそう優しい声で聖を先に続いてかぐや、郡司が神宮司家に入ってくる。
リビングで新聞を読んでいた聖の父、海人は微笑みながらかぐやに目を向けた。
「かぐやちゃん。今日も帝君は仕事かい?」
「そうよ!兄さん、今日も頑張ってるわ」
「そうかぁ、郡司君も可愛い妹を持って幸せだろうね」
海人は微笑ましそうにかぐやの頭を撫でる。
嬉しそうにかぐやもはにかんでいた。
すると、リビングから聖の悲鳴が聞こえた。
「かぐやさーん!」
「………郡司、また聖のおやつ取ったんでしょ!」
「この世は弱肉強食だからな」
「聖に返しなさいよ!」
「やだね」👋😃
「かぐやさーんっ!」
お菓子を郡司に取られて大泣きする聖。
だが郡司は反省する様子なしだ。
聖を庇いながらかぐやは、はい、と自分のお菓子であるアイスを差し出した。
「仕方ないわね。あげるわ、だから泣き止みなさい!」
「あ、ありがとうございます〜っ!」
「優しいなぁ、かぐやは」
「お前のせいだよ!」
飄々とアイス二本頬張る郡司をガルルと聖は睨み付けた。
「あ、いけない。醤油切らしちゃったわ。買いにいかないと。でも、もう鍋に火をかけちゃったし……」
「じゃあオレが……」
困ったような声を上げたゆかりに海人がソファに座っていた腰を上げた。
だが、そんな彼の前にかぐやと郡司が立ち塞がった。
「海人さん!わたしと郡司が行くわ!スーパーで醤油を買ってくればいいんでしょ?」
「でも悪いわ。いいのよ、かぐやちゃん」
「いえいえ、聖のアイス食べたお詫びとしてこのぐらいはやらせてもらいますよ」
ヒラヒラと手を降りながら郡司は飄々と笑う。
海人は行かせてやれと言わんばかりに困ったゆかりに目配せした。
そして納得したようにゆかりは二人を見た。
「………わかったわ。気を付けてね」
「オレも行く!かぐやさん」
「ダメ!聖はゆかりさんお手伝いをして!」
「はー……い」
少し項垂れたように聖はゆかり方へ向かう。
ゆかりは苦笑いしながら彼の肩を叩いた。
「さあ、いくわよ郡司!」
「はいはい」
ーーーーーーーーこれが、不幸の始まりだなんて思いもしなかった。
両親と二度と会えなくなるなんて。
オレにかぐやさんたちが出ていった数分後は、記憶にない。
※
「………り。聖!しっかりして!」
「………あ、……う」
「殲滅者は排除したわ!しっかり気を持って!」
かぐやさんの悲痛の叫びで目を覚ます。
体が痛い。虚ろな目で自分の体をみると、溢れるぐらいの血が出ていた。
そして、見慣れた家も無惨に破壊されていた。そして残骸となった殲滅者の姿もあった。
ただただ、涙が出た。
そんなオレに追い討ちをかけるような光景が眼下に広がった。
郡司は真剣な面持ちで二人の脈を取るが、暫くしたら首を左右にゆっくり降る。
「………だめだ、ゆかりさんも海人さんももう………」
「そ、んな………!」
郡司の言葉にかぐやさんは手を押さえる。
そんな二人を見て悟ったのは両親の死。ピクリとも動かない両親にオレは泣くことしかできなくて。
さあっと、髪の毛から何かが無くなっていく感触を覚えた。
「やだ、やだよ………」
「聖っ!」
そこからまたオレはショックで気を失った。
病院で目覚めたあと、郡司や医者に言われたことは両親が死んだこと。そして祖父母がオレを引き取ること。
だけど、いくら親しいはずの郡司の言葉すら耳に入ってこなくて。
色素が抜けたオレの髪と心が比例しているのだと思った。
日々、涙を流すだけだった。
「……あと少しで退院ですって。よかったじゃない」
「………はい」
丁度お見舞いに来ていたかぐやさんはあえて両親のことに触れないように花瓶の水を入れ換えていた。
郡司と同じく、彼女の話をまともに聞けなかった。
「アンタのお婆ちゃんたち心配してたわよ。早く元気になんなきゃね!」
「………もう、どうでもいいです」
聖の言葉にかぐやは眉を潜めた。
そして不快そうに言い放つ。
「……なによそれ。どういう意味よ」
「そのままの意味です。もうどうでもよくなりました。父ちゃんも母ちゃんも家も全部無くなって………もういきる意味なんてないんです!」
堪えきれなくなったオレの涙は溢れ出す。
嗚咽を漏らしながら拳をベッドに打ち付ける。
痛かった。だが、心の痛みに比べればどうってことはない。
「オレも死ねば良かったのに!!」
「ふざけるんじゃないわよ!!」
パァァァン!!と、かぐやの強烈な平手打ちが聖の頬に飛んだ。
行きなりのことに思わず聖は頬を押さえる。
かぐやは顔を真っ赤にしていた。その目は今にも泣き出しそうで。
(何で、かぐやさんが………)
「冗談じゃないわよ!!アンタが死んだらわたしまで死にたくなるじゃない!!それに、あんな優しかったゆかりさんや海人さんがアンタに死んでほしいなんて死んだって思わないわよ!!!!ふざけないで!!」
「……………っ。が、ぐやざ…………っ」
オレのなかで何かがほどけたような感じがした。
今までの涙とは違う何か。
「ごめんなざい………っ。父ちゃん………母ちゃん………っ!!」
「アンタは生きなきゃダメなの!死ぬだなんて次考えたらわたしと郡司がボコボコにしてやるんだから!」
オレは大泣きしてかぐやさんに泣きじゃくった。
丁度入ってきた郡司も状況を把握したのかオレとかぐやさんを見守っていた。
ーーーーーそして、この日から決めた。
オレもかぐやさんみたいに強いヒーローになるって。
そんで、天国にいるであろう両親に恥じない生き方をするって。
でも、あんな強かったかぐやさんを襲った悪夢はこの事件から数ヶ月後だった。
そんなことがあってもかぐやさんは苦しい顔も泣き顔も見せなかった。
だから、あの時オレを救ってくれたみたいに。
今度はオレが助けるって誓ったんだ。