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デッドバスター 
作者: KING ◆zZtIjrSPi.  (総ページ数: 151ページ)
関連タグ: 友情 バトル 
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*64*

 だが、彼にはダメージは一切ない。むしろ、見えない何かでカバーされているような……。
 
「な……っ」

 自分の攻撃が効かないことがあるのか―――。
 そう思った花京院を見透かしたようにアトラスは彼の顔面に手をかざす。

「―――俺の前にひれ伏せ“凍れ”」
「ちく……しょ……!」

 ―――終わる。
 体に冷たい痛みが走る。
 そう思った花京院。
 すると、ものすごい勢いで引っ張られる感じがした。

「やっと見つけたわよ!空悟!」
「竜堂……」

 花京院を救ったのはかぐやだった。
 勢いよく走り込み、スライディングをする勢いで彼を引っ張り出しアトラスの攻撃を避けたのだ。
 ポカーンとする彼にかぐやはニッと笑いかける。
 しかし、アトラスを見た瞬間表情が静かなものに変わる。

「……アンタ、誰?」
「…………っ!!」

 アトラスはかぐやを見た瞬間、美しい緑色の瞳からツウッと一筋の涙がこぼれた。







「……こんなにも早く、再会できてこのアトラス歓喜でございます……っ!」

 優雅に。
 アトラスは腕を心臓に充て、跪く。
 その光景にかぐやも、花京院も戸惑うことしかできなかった。
 だが、そんな2人にかまわずアトラスはかぐやにスッと手を差し伸べる。
 その表情は恍惚としていて、最上級の幸せそのものだった。

「さぁ、こんな醜く汚らわしいこのような国を捨て、我々と帰りましょう我が姫よ!!」
「何言ってんのよアンタ!人違いじゃないの?わたしは姫じゃないわ!」

――先手必勝。
 かぐやは否定の言葉を吐く。
 彼女は携えていた斧を握り、アトラスに振りかざす。
 アトラスは微笑を浮かべながら軽々とその攻撃をかわした。
 そして困ったように手をかざす。

「お止め下さい我が姫よ。我はあなた様と戦う気など決してございません」
「……どういう……ことよ。ちゃんと説明しなさいよ!」
「どけ竜堂!」

 彼女に付き従う素振りしか見せないアトラスに戸惑いを隠せない。
 攻撃態勢がかぐやから消え、堪えきれなくなった花京院は如月でアトラスに斬りかかった。
 だがアトラスは指一本で受け止めていた。

「――――おい」

 先ほどの甘い声から一変、底冷えしたような低い声が聞こえる。
 その声は花京院に向けられたものだ。
 彼を見ると、花京院を見る視線が凍てつくように冷たかった。

「下賤の者め。貴様ごときが割っていい話ではない!!!!」
「な……!!」

 ダン!
 怒りを表情に浮かべながら。
 アトラスは手を地に打ち付ける。するとビキビキと音を立てて氷が発生する。
 しかも、ただの氷ではない。
 ドンドンそれは巨大化していき、ある区域いっぱいにこの氷は発生した。
 花京院を襲う氷河。彼はジャンプしてよけたり、如月で切り刻んだが、少しの油断が生まれ鋭くとがった氷河に腹部を貫かれてしまった。
 花京院はじわじわと溢れ出す血を抑えながら辛そうに着地する。

「……くそが……っ」
「空悟!大丈夫!?」
「我が姫よ。そのようなもの、気にする必要はありません。さあ、帰りましょう―――……」
「いやよ!」

 そう言ってかぐやは睨みつけるようにアトラスを見上げる。
 腹部を抑える花京院を庇いながら。
 そんな彼女に花京院は“彼”を重ねていた。

――――空悟には手を出させねぇ!
――――大丈夫か?空悟?

(……こんな風に俺を庇った奴はいなかったな、そういや。両親さえ俺を捨てて、友人だって思ってたやつすらも俺を裏切って。そんで、ムカついたやつら全員半殺しにして。でも……帝さんだけは俺を認めてくれて……)

 コツ、とアトラスの白いブーツの音で花京院は一気に現実に戻された。
 アトラスはススス……。と懐からレイピアを抜いていた。
 そして、それを花京院に向けていた。

「……かぐやさまはお優しいからな。きっとこのような薄汚れた存在にでも慈悲をかけてしまうのだな。ならば!我が排除してくれよう――――っ」

 ブンッと勢いよく花京院の頭上にレイピアが振りかざされる。
 カチャッとかぐやは斧を握って立ち上がる。

「させない!」
「……我が姫よ、失礼ながら少しお止まり願いたい」
「なによこれ!?」

 ビキキ、と斧を持つ腕も、両足もアトラスの氷によって固定されてしまっていた。
 このままでは数センチ先にいるにもかかわらず、花京院を助けられない。

(くそ!どうすれば……空悟!)

 必死の形相でかぐやは花京院を見る。
 だが花京院は虚ろな目をしていただけだった。

(……このまま斬られりゃ帝さんのとこにも行けんだろうな)
「……死ね。俗物よ!!」

――――ジャギン!!!!
 アトラスは力いっぱい、レイピアを振る。
 と、肉が切れる音と、溢れ出す血が空を舞った。


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