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*75*
――――ズゥゥゥゥゥゥン……。
不穏な空気が、医務室を包む。
そこにいるのはかぐや、聖、櫟。
そして療養中の花京院だった。
その中で聖と花京院が禍々しい雰囲気を醸し出していた。櫟は知ったかぶりか、気楽そうにお見舞い品の林檎にかじりついている。
それに耐え切れなくなったかぐやは椅子からガタッと立ち上がった。
「もう、聖、空悟!なんて空気出してるのよ!アンタこのままだと穴開いたお腹治らないわよ」
「空気で病状が悪化するか。……つーよりこのガキがこっち睨んでんだよ」
花京院は顎でクイッとガキ――聖を指した。
聖はその言葉が気に食わなかったのか、カアッと顔が赤くなった。
「ガキじゃない!神宮寺聖だ!……あとかぐやさん汚い空気出してすみません」
「こいつ……っ」
かぐやにだけ従順な聖に花京院は匹匹と蟀谷に青筋を立てた。
そんな彼を見て櫟はケラケラと笑う。
「気にしないほうがいいですよー。聖、竜堂さんの前だといつもああだから」
「……だろーな」
リンゴの次はバナナを食べる櫟。
花京院は聖にしても櫟に対してもため息をついた。
そして問いただすように視線をかぐやに向けた。
「……ここに来るってことは帝さんを聞きに来たんだろ。……郡司がいないのに疑問を感じるが――そこのガキどもは同席しても大丈夫なのか?」
「わたしは……」
「よし!櫟、訓練室行って特訓するぞ!」
「えー?聖だけでやれば?俺まだパイナップル食べてない」
「いいから行くんだよ!」
空気を読んだ聖はかぐやにウインクしながら嫌がる櫟を無理やり医務室の外へ出した。
かぐやは我ながら後輩のレベルが別の意味でもレベルアップしていることに成長を感じていた。
「……邪魔はいなくなったな。そんで?どっから話すんだ」
「さっき言い忘れてたけど郡司は朝から見てないの。基地内にいた形跡はあったから梶原さんのとこに入るだろうけど」
そうかよ、と言いながら花京院はフウ、と息をついた。
かぐやは緊張した様子で身を縮こませた。
ようやく兄の死、つまり誰が殺したのかを―――……。
「資料室の本が破られてる、っつたな。あれやったの俺だ」
「はあ!?」
唐突に言われた言葉にかぐやは大きく目を見開いた。
まさか、こんな身近に犯人がいたなんて。
郡司ならわかっていたかもしれないけども。
だが、そこに突っ込んでいるわけにはいかない。先に進まなければ。
「……何で?まさかコーヒーとかこぼして破いたってオチじゃないでしょうね?」
「―――ムカついたからだよ」
「ムカついた?何に」
「クソ上層部の報告にだよ」
思い出したくもないのか、力の入らない点滴が打ってある右手を握った。
よくない話だと悟ったかぐやは眉をそっと顰めた。
だが、これが真実なのだ。
「……帝さんが死んだあと、上層部の奴らは何手書きやがったと思う?己の油断で自らの命を落とした愚か者……って書きやがったんだ!!あの人は油断なんかしてねぇ……。正体不明の殲滅者からC〜Bランクの隊員および一般市民を守るために自分で戦場に残って戦った英雄なんだよ!!」
ダン!と花京院は拳を打ち付ける。
よかった。兄のことでこんなに言ってくれる人がいただなんて。
ずっと、昔から皮肉・嘲笑の顔や言葉しか向けられなかった今、とても彼の言葉が救いだと感じた。
「よかった……」
すると。
ポーン。と頭上から放送が鳴り響いた。
『竜堂かぐや。至急会議室へ向かうように。繰り返します――――……』
しばらく頭上を見上げていたかぐやと花京院。
「……空悟」
「行けよ、呼ばれたんだろが」
「また来るわ」
顔を見て、頷き合うとかぐやは足早に医務室から出て行った。
そして花京院はぐったりしたように唸る。
「勇魚司令官“アイツ”……。竜堂の首飾り奪うとかしねぇといいけどな」