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*79*
【かぐやが会議室に入る1時間前】
―――三城。お前に再び使命を与える。
―――はい。如何なさるのですか?
―――……今度こそ竜堂かぐやの首飾り――王の鍵を奪い取れ。強奪という形になっても構わない。一刻の猶予もない。
―――あちらは、必ず抵抗するでしょうが―――その時は?
―――愚問だ。最悪……殺し合いになっても構わない………。
(――……嗚呼、残酷だ。俺が愛してる女を殺せというのか)
俺は、目も合わせず命を出した勇魚司令官を凝視した。
それと同時に失望した。
王の鍵は世界を左右する。それだけは知っている。
だけど、だけど―――――……!!
No14 切望のフリージア
「……ったく、放っとけばいいのによぉ」
「………ダメ……。貴方の監視を梶原長官に命じられたの……。だからここにいて……」
病室には、鬱陶しそうに頭を掻く花京院。
そんな彼を蛆虫のような目で見るのは西園寺であった。
西園寺は大きくため息をつくと膝の上に置いてあるDVDを撫でた。
「……あなたがいなかったらこの映画も見られたはずなのに……。怪我をしたあなたのせいよ……。モブ以下だわ……」
「だれがモブ以下だよこの陰険女」
苛ついた様子で花京院は吐き捨てるように言い放った。
すると、タタタタッと何か焦るように走る音が聞こえた。
西園寺は全く気にしていない様子だったが、花京院はこの足音は歴戦の経験で誰のものだかわかっていた。
この足音は郡司だ。
本来ならスルーしようと思う場面だが、花京院にはやらなければならないことがあったのだ。
―――頼む、空悟……。妹……かぐやに……!
(……そういや、帝さんに……)
「飛来ぃ!!!!」
「うおっ!?行き成りなんなのさ花京院さんそんな大きな声だせんだったらもう退院でいいんじゃないの!?」
全身の力を込めて大きな声を出す花京院。
その声に驚いた飛来は駆け足をしながら反射的に花京院のいる病室へ顔を出した。
そんな彼らに西園寺は眉をひそめた。
「……ちょっと……。ここは一応病室よ……。大人しくするのが常識なのにそんなこともできないだなんて……虫ね」
「それは花京院さんに行ってほしいな西園寺ちゃん」
「黙れ。……おい、それより飛来。これ、持ってけ」
「?」
ブンッと花京院は懐にしまっていたらしい白い手帳を郡司に投げつけた。
難なくそれをキャッチするが、郡司はこのことに何の意味があるのか理解できず、首をかしげた。
「……そこに、帝さんの思いが全部書いてる。俺の話なんざ聞かなくても全部記されてる」
そう言って花京院はごろんと郡司の顔とは逆方向へ体制を変えた。
郡司は納得したようにあえて何も言わず、小さく「ありがとう」と呟いて再び走って行った。
ようやくうるさいのが消える……と思った西園寺。
だが、それとは真逆に花京院はすぐそこにあった車いすに手を伸ばしていた。
ギョッとした西園寺は慌ててその手から車いすを遠ざける。
「……な、何をしているの……!?あなたは動けない身、安静にしている身……。それに梶原さんの命も受けているわ……。あなたはここから動かせない」
「……うるせぇんだよ。俺は行かなきゃならねえんだ」
「……どこに……?」
「―――アイツがいるとこだ」
苦しそうに脂汗を額に滲ませながら花京院は無理やり車いすに乗り移った。
「……心から愛せない俺への、投げやりのプレゼント……心を失った者への手向けだ馬鹿野郎」
「え………?」
それは、誰に行っているのかわからなかった。
私か、かぐやか、秀也か。あるいは郡司――この世界の人間か。
彼の言葉は西園寺の頭では理解できなかった。