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*97*
「……私がそちらへ行ったとて、この2人が解放される証拠がありません」
「心配には及びませんよぉ♪あなたがこの穴に入った瞬間にイリヤが氷を解くから〜。1一瞬さえあればあなたもちゃんと見届けられちゃうよ〜。2人が解放される姿を」
「……行っちゃ…ダメよ!……くじら……っ」
今にでも殴りだしそうなくじら。
そんな彼女にテットは嘲るように笑った。
ビキビキと氷の浸食が顔の半分にまで及んでいるかぐや。
だが、それに屈することなくくじらに言った。
「そうだ。こんな氷何とかなる。そろそろほかの隊員たちもこっちに向かっているはずだからな」
「ああ、それは無理だよ」
彼も下半身が氷に覆われながらもくじらを元気づけるように言う。
しかし、そんな彼の言葉を否定するように。
イリヤは何か思い出したかのようにポンと手を打った。
「さっき、ここに来る前半径10メートル地点に縦横100メートルの氷の壁を造ったからね。少なくともあと30分ここに来るのは不可能さ」
「な……んですって!?」
イリヤの言葉にくじらは驚きを隠せない。
しかし、そんなことをしている間にも氷の浸食が続く。
それに気が付いたくじらは呟く。
「……わかりました。そちらへ行きましょう。ですが、約束通り2人は解放してください。……じゃないと、神光国家【あちら】を破壊します」
「ひゃあ〜。怖いっ。さすがトップエデン。言葉の重みが違う♪じゃ、いこっか♪」
テットは笑顔のまま黒い穴にくじらを手招きする。
一歩、踏み出したくじらにバッとかぐやは手を伸ばす。
「わたしのこと気にしてるんじゃないわよ!こんなものすぐに壊してあんな2人倒してやるわ!だからそんな国アンタが行く必要な……」
かぐやが言い終える前に、彼女の全身は凍ってしまった。
それを見たくじらは悔しそうに目をそらす。
目をそらした先には、郡司がいた。
「……行くな、くじら!お前がいなくなったら……!」
「大丈夫ですよ郡司。私がいなくなったところでバスターの戦力は衰えません」
(違う。そういうんじゃない)
上半身の半分にまで氷が侵食する郡司。
だが、くじらは悲しそうに微笑むだけだ。
言いたいことが言えない。
郡司は焦りに焦って――――。
「もう行きます。この2人に何かあったらそれこそ二度と顔向けできません」
「じゃあ早くこっちに入りなよ」
そう言ってイリヤは先に黒い穴に入っていく。
テットはくじらが入るまで見届けるつもりだろう。
くじらは軽くジャンプし、黒き穴へ近づく。
(やめろ。やめてくれ。俺は、俺は!お前がいないと―――――!)
「……私のことは気にしないでくださいね。勇魚さんと梶原さんにもそう伝えてください」
「行くなくじら!!!!!!」
やっと出た言葉。
その言葉もむなしく、くじらは黒い穴に入ってしまう。
テットの憎たらしい笑みと同時に黒い穴は封鎖される。
郡司は手を伸ばしたが、届かない。
パキンッと氷が割れる音と共に、郡司の意識は遠のいて行った―――――……。