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しりとりシリーズの『その後』
作者: 彩都  (総ページ数: 108ページ)
関連タグ: しりとり 短編集 長編 ミステリ 推理 多ジャンル 
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 しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 9 犯人は……○○

「はぁ……! はぁっ!」
 百乃目は町を走って履物屋を確認していた、案外履物屋が少ないんだよな、この町……百乃目はそう思いながら必死に探す、琥音虎は屋根の上を走りながら百乃目の見落としが無いか、探していた、すると一つの店を見落としていたので、百乃目を呼ぶ。
「待て! 百乃目! 此処はどうじゃ!?」
「おっ、見落としていた! 有難う琥音虎!」
「そんな事は言っておらずに早う入れ!」
 琥音虎の言葉を聞いて、感謝の言葉も言えないのか、と嘆息し、店内に入る。
「いらっしゃい」
「あのぅ、すいません、此処って草履の鼻緒とか直していますか?」
「ふむ、鼻緒、ね……たまに直すねぇ」
「あ、あの、昨日今日、鼻緒を直しませんでしたか?」
「昨日、今日ねぇ? 流石にそれは無いなぁ」
「そうでしたか、すいません、それじゃあ自分はこれで」
 百乃目はそう言って店を出る、『どうじゃった?』と琥音虎が聞くので、首を横に振り、落胆する。
「そ、そうか……だがまだまだ店はある、急いで探そう!」
「お、おう、そうだな、急ごうか」
 百乃目はそう言ってまたも町の中を走り周る──

「はぁはぁ……もう、何件目なんだっけ?」
「え、えーと……確かもう11件目じゃぁ?」
「はぁ? こんな広い町なのにそんなに少ないのか!? コンビニとかの方が多いかもしれないなぁ」
「いや、コンビニと比べるなよ……」
 百乃目と琥音虎の会話の中、何と靴屋を見つけて、少し安堵する二人、結構回ったが、この店が最後かもしれないな、そう思いながら二人は靴屋の店内へと入店して行く──
「すいませぇん、昨日今日で草履の鼻緒を直しに来た人って居ますかねぇ?」
 百乃目が店主に言うと、店主は静かに答える。
「……あぁ、居るよ、しかも今日だ」
「何だって!? その人はどんな人ですか!? 今警察の方で捜しているんですよ!」
 百乃目が説明すると店主は呆れながら言う。
「はぁ? 何を言っているんですか? 警察の方で捜している? 警察の人を?」
「えっ? それって……『鼻緒を直しに来たのは警察の人』と言う事ですか……?」
「あぁ、そうだとも、名前も知りたいんだよねぇ、名前は阿覚、阿覚桂馬だったな……」
 店主の話を聞いて、百乃目と琥音虎は驚いた、まさか阿覚が!? いや、これは勘違いかもしれない、だけど、今迄の店で『鼻緒を直したのは居ない』のだ、だから、『辻斬りの犯人は阿覚桂馬だ』、と本能で分かってしまう。
「いや、それはないです……阿覚さんが犯人だって……!? こんなの何かの間違いだ!」
 店主の言葉に百乃目は言い返す、だが、店主は静かに言い返す。
「そういえば、今朝に『今さっき鎌鼬にやられましてね』と言って、草履を私に渡してきたのだが? あれはどういう意味だったのだろう?」
「えっ? それじゃあ犯人は……阿覚さん……!?」
 百乃目がそう言うと、静かに琥音虎が言う。
「その……ようじゃな……」
「嘘だ! あの人が殺人!? 有り得ないよ!」
「何時迄も現実から目を背けるな!」
 琥音虎はそう言って百乃目の頬を叩く、そしてその場で倒れこむ百乃目。
「これは現実だ、だから背けようのない事実じゃ! いい加減理解せい! この辻斬り事件、辻斬りをしているのは阿覚桂馬! 警察に居る妖怪、阿覚桂馬が起こした一連の辻斬り事件じゃ! これは……儂だって目を背けたいのじゃ……だけど、あの店主の発言で全て、事実へと変わった! これは変わりようのない事実! だから受け止めろ、この現実を!」
「え、えーと、私なんか悪い発言しましたかねぇ?」
 琥音虎の発言の後に店主が言う、琥音虎は『何でもない、悪い発言では無いさ』と言って、店を出る、そして百乃目を持ち上げて、屋根の上に乗って、叩いた部分を舐める。
「す、すまんのぉ、ついカッとなって……」
「…………」
「も、百乃目?」
「……琥音虎、有難う、これで目が覚めたよ、有難う」
 そう言って百乃目は琥音虎の頭を撫でる、突然撫でられて、琥音虎は驚く。
「い、い、い、一体何なんじゃ!? お前はぁ!?」
 頭を撫でられ、顔を赤らめる琥音虎に対し、百乃目は穏やかな表情で琥音虎に言う。
「今迄有難う、琥音虎、君との情事、君との思い出、君とのからかい、楽しかったぜ……君と一緒に居た記憶、君と一緒に居た時間、君と一緒に居た場所迄、今の今迄が愛おしい、そして、もうその情事、思い出、からかい、記憶、時間、場所、君ともう一緒に居れないと思うと……自分は悲しいね、だから……また来世で会おう……」
 百乃目はそう言って琥音虎を押し倒し、激しいキスをする、そして、数秒が経って、口を拭う百乃目、琥音虎は少し蕩けていた。
「今迄有難うな、琥音虎、自分が死んでも気にするな、借金は何時の間にか返済されているからな!」
 そう言って百乃目は屋根から飛び降り、走って何処かへと向かう、唇に走る快感の所為で、酔いしれてしまい、あまり身動きが取れない琥音虎、『来世で会おう』、『死んでも気にするな』、その発言を聞いて、まさか阿覚ごと死ぬ気か!? と思う琥音虎、だが、体は快感の所為で酔いしれているので、動けない、動けないまま琥音虎は米粒の様に小さくなっていく百乃目を見つける事しか出来なかった。
「百乃目……もしも死んで遺体で帰ってきたら……何度でも殴ってやるからな……! 絶対生きて帰ってこいよ……!!」
 琥音虎はそう言って、快楽に酔いしれながら屋根の上で寝てしまう──今は夜だ、もうすぐ辻斬りが現れる時間帯だった──

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