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しりとりシリーズの『その後』
作者: 彩都  (総ページ数: 108ページ)
関連タグ: しりとり 短編集 長編 ミステリ 推理 多ジャンル 
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 しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 11 十六夜満月堂へようこそ、店主の琥音虎です

「嘘じゃろ……嘘じゃろ……『嘘じゃ』、と言ってくれ、百乃目ぇぇぇ!!」
 琥音虎はそう言って、百乃目の胴体に蹲りながら涙を散らす、それもその筈だ、『百乃目の体は冷たく、心音が無い』からである、実質生物の『死』である、脳死ではなくとも、生命活動の停止の死である、そう、『百乃目は死んだ、波に巻き込まれて息が出来ず』に──そんな現実を受け入れる事が出来ない琥音虎は泣き喚く事しか出来ない。
「こ、琥音虎さん、もう遺体から離れましょうよ? 『手錠』も外さなければならないし……」
 喪服に身を包んだ祭が言う、だが祭の制しを振り切り、琥音虎は泣き続ける。
「儂は……儂は、百乃目と約束したのじゃ! 『生きて帰ってくる』、と! だからだから……!! こんなのは嘘じゃろぉぉぉ!」
 琥音虎は港で叫ぶ、だが山彦と違って琥音虎の声は返ってこない──

 百乃目の遺体は漁師が見付けたという、腕には手錠がついており、もう一つの人物、阿覚も手錠で繋がっていたと言う、そして阿覚だけ生き残り、阿覚は静かに辻斬りの犯人を名乗り、罪を認めた、こうして、何人ものの命は失ったが、事件の解決にはたった一つの命で解決した──そして数日が経った。
「…………」
「……今日も元気が無いですねぇ」
 そう言って、十六夜満月堂に入る祭、百乃目が何時も座っていた場所には琥音虎が居座っている、琥音虎はずっと頭を垂れながら死んだ魚の目をしていた。
「はぁ、そんな辛気臭い顔をしていたら、美人な顔が台無しですよ?」
 祭がそう言った瞬間だった、急に琥音虎は声を出して祭に説明する。
「あやつは……百乃目は天涯孤独の男じゃった、そんな百乃目を儂が引き取った、可愛い少年じゃったが、あんなに成長するとはなぁ……百乃目は儂の事を母親代わりとして扱ってくれたりもする、交合もするけど──そうじゃない、初めて儂は『人間の男』を息子代わりに扱ったのじゃ、まるで我が子の様に接していたから、悲しい物があるのじゃ……」
「そ、そうなんですか……」
 祭は琥音虎の話を聞いて、悲しむ、そんな過去の話があったとは……そう思いながら十六夜満月堂の戸を開ける者が居た、それは琥音虎がツケているお店の店長だった。
「おっす、琥音虎さん、支払いの件なんですけどぉ」
「儂は知らん! 儂は人違いじゃ猫違いじゃ!」
「いや、そういうのじゃないんですが……支払い有難う御座います」
「はぇっ?」
『支払い有難う御座います』という言葉を聞いて、琥音虎はその場でずっこける、いやいや、一体何の事だ? そう思っていると店長が話し始める。
「いやぁ、やっと支払ってくれましたかぁ! こちらとしては嬉しいですよぉ!」
「は、はぁ……」
 琥音虎がそう呟くと次に他の所でツケていた店の店長がゾロゾロ現れる、い、一体何なんじゃ!? そう思いながら感謝の言葉を述べられていく琥音虎、琥音虎は不思議だ、と思いながら感謝の言葉を全て受け取る──そしてツケていた店の店長が全員帰って琥音虎は祭に言う。
「い、一体何なんじゃ、祭よ?」
「いえ、自分も分かりません……ですが、話の内容を掻い摘んで見ると、『琥音虎さんがツケていたお店のツケを誰かが支払った』、と感じれます……ですが一体誰が支払ったのでしょう? 百乃目さんは有り得ない、警察だって有り得ないです、自分の組でもないですし……寝ている間に琥音虎さんが返したとか?」
「祭よ、アホな事言うな、そんな事、どうやってするんじゃよ? 流石に領収書を手に持っている筈じゃよ、なのに『領収書は渡された』のじゃぞ? 至極可笑しい事ではないか?」
「た、確かにそうですよね、すいません」
「いいんじゃ、別に謝る事では無い、それにしても『誰が支払った』のじゃ……?」
 琥音虎がそう呟いた時だ、不意に十六夜満月堂の戸が開いた、またツケかよ、と琥音虎は思っていたが、ツケている店長と格好が違う、マントにフルフェイスのヘルメット、帽子を被っており、誰が誰だか分からない、琥音虎が店を破壊しに来たのか? と思い、戦闘態勢に入る、すると謎の人物は帽子、ヘルメットを外し、ニヤッと笑った。
「ただいま、琥音虎に祭さん……」
 琥音虎がその人物を目にした時、一滴の涙が頬を伝う、それもその筈、『死んだ筈の百乃目』だったからだ。
「はっ……!? 百乃目さん? まさか生霊?」
「死んでないし、生霊でもないです、実体です」
 百乃目が呆れながら祭に言う、すると琥音虎が百乃目の胸に飛び込んでくる。
「痴れ物ぉ! 死んだかと思ってどれだけ泣いた事か!?」
「アッハッハッ、まぁ、地元の漁師さんに少し世話になったんだけどね……阿覚を捕まえた時、波に飲み込まれたんだけどね、実は、漁師さんが化け狸だった訳、だから自分は脅かそうと思って手錠の鍵を使用して手錠を外し、適当な木の棒を使用して、化けさせたんだよ、自分に、んでもって化けた木の棒に手錠をかけて、はい完成ってね──だから死亡届は警察がやるって言ったし、火葬とかしていないでしょ? 何とか助かった自分は警察と話し合ってこんな茶番をしたって訳さ!」
 百乃目が自分の死を解説すると猫パンチで百乃目を殴る琥音虎、琥音虎は泣きながら百乃目を強く強く、抱き締める──
「バカ、バカぁ! バカバカぁ! バカバカバカバカぁ!!」
「うっせぇよ……でも生きて帰って来れたぜ?」
 百乃目がそう言って琥音虎の頭を撫でる、琥音虎は溢れ出る涙を百乃目の胸板に押さえつけながら声を殺して泣く──その二人の姿を見て、祭も涙を隠せなかった──

 こうして一つの事件、辻斬り事件は終了し、これから安眠が出来るな、と思いながら百乃目は寝ようと布団の中に潜る、すると寝室に琥音虎が入ってきて、着物の帯を解く。
「待て、自分は寝たいんだ、寝かせてくれ?」
「無理じゃ、お尻にされた時、次に儂を騙した、更にお前が居ない間ムラムラと情欲が湧き上がっておる……今夜は儂が満足する迄寝かせんぞ!」
 可愛い笑顔でそれを言われて、百乃目は顔が青褪める、そして一瞬でパジャマを脱がされて琥音虎のいいようにされる──その日の夜、百乃目の悲鳴が聞こえたのは言う迄もない──皆さんも十六夜満月堂に来ませんか? 個性豊かな人達、妖怪が貴方の依頼を待っているかもしれません──

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