コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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萩原さんは今日も不機嫌
日時: 2013/04/18 19:48
名前: トレモロ (ID: NXpyFAIT)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

オリ小説執筆経験は持ち合わせていますが、学園物は初めてでありまして、作品を上手く作れる自信がありませんorz
ですがどうしてもやってみたくなってしまい書かせて頂きます。
どうかあなたのお時間を少々この作品に向けていただけると、作者としては光悦至極ッてなもんでございます。


『作品のジャンル」
・学園モノ
・コメディ?
・多少シリアス
・ほのぼの成分増し増し・・・・にしたい!

『登場人物』&『性格容姿設定』
主人公—萩原 琳奈(はぎわら りな)
無表情・男口調・恋愛無関心症状。という乙女という種類の生物から正反対の女。ちなみに結構の美人だがそれについて無頓着で髪に寝癖があっても全く気にしない。
基本、人に愛想は良く人間嫌いというわけではない、だが積極的に人に関わろうというタイプでもないようだ。

熱血漢—藤堂 奏 (とうどう そう)
熱い・五月蠅い・イケメン。という熱血イケメン馬鹿という単語がぴったりの男。
萩原同様自分の容姿に興味はないがファッション誌を少し位気にする程度には気を使っている。
人好き合いは女子男子ともに上手く立ち回っており、両性から人気。
転校生だが、たった一ヶ月で学校になじんでしまった。

貧弱男—浅木 隼人(あさぎ はやと)
貧弱・内気・優柔不断。という、モヤシ男。
高一で十月に入った今でもその内気な性格の所為なのかクラスに友人が少ない。
【エコ会】に入ったのは萩原と木内の影響であり、自分を変えたいという願いである。
実は成績学年トップの秀才であり努力家。

天然女ー木内 希 (きうち のぞみ)
おっとり・上品・美少女。という典型的なお嬢様。
入学仕立ての高一の頃はクラスの人間にもてはやされてきたが、彼女はそういう普通でない自分を嫌っていた、だが、他クラスの萩原と知り合い、色々在ったのち友人。その後当時二年生だった【エコ会】会長に誘われ入会。
人を疑うことを知らない、内外共に綺麗過ぎる女性。実はトラブルメーカー。

破天荒—清水 恵美(しみず めぐみ)
唯我独尊・自己中心的・天才。というハタ迷惑極まりない人間。
【エコ会】副会長だが、最早会長の様なふるまいを普通にする。絶対的な天才であり、それが破天荒な振る舞いに拍車を掛けている。【エコ会】を作り会長を風宮にした張本人。
実は片思いの幼馴染が居る、純情少女でもある……。

苦労人—風宮 来夏(かぜみや らいか)
苦労・疲労・労働。というスローガンを持つ生粋の苦労人(本人不本意)
いろんな人間に頼られて、仕事を押し付けられている見ているだけで涙が出そうなお人。
【エコ会】会長に清水に無理やりさせられた訳だが、一つの信念を持って行動している。
実は片思いの幼馴染が居るが、最早告白は諦めている。
頑張れ!


以下登場人物考慮中

『補足』
主人公視点での物語
主人公は女ですが男口調です、不快に思ったらゴメンナサイ。
誤植や意味の繋がらない文が在るかもしれませんが、温かい目で見守っていただくかご指摘頂けると嬉しいです。
今後どうなるかは神のみぞ知る……いや神にも解らんだろう…… 

ちなみにコメントやキャラのイラストなどは諸手を挙げて歓迎しているのでご気軽にお願いします。


【他の作品】
『殺す事がお仕事なんです』>>15
『結末を破壊する救済者達』>>53
『頑張りやがれクズ野郎』>>65

【交流場】
雑談場にあります。

【挿絵】
『私はあなた方の絵を求めている!!』>>28

【アトガキ】
『とあるトレモロの雑記帳』
——《カテゴリー》にて >>29

【目次】
『物語のハジマリ』
>>1

『第一話 萩原さんの日常』
>>2】【>>3】【>>6】【>>7

『第二話 萩原さんのお仕事』
>>10】【>>12】【>>13】【>>14】【>>16

『第三話 萩原さんの休日事情』
>>19】【>>23】【>>30】【>>31】【>>37】【>>38】【>>41】【>>42】【>>46】【>>54】【>>55】【>>56】【>>57】【>>58】【>>59

『第四話 萩原さんと厄介な連中』
>>63】【>>64】【>>67】【>>68





それではこの作品があなたに何らかの影響を与えることを祈って、作品紹介を終わらせて頂きます(ペコリ

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Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.55 )
日時: 2011/09/03 01:10
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐8 2/2

「オイ。オイオイオイ。さっきから黙っていれば、なんだい?僕のことは完璧無視かい?いい度胸だねぇ〜」
ケラケラと口元だけで哂いながら、【青年】は言う。尤も視線は一切哂いの感情が含まれていないが。
「安心しろよ眼鏡。あんたを無視なんてしないさ」
「くはははっ、そいつは僥倖だよ」
敵意丸出しの藤堂の言葉と視線に全く動じず、【青年】はにこやかに哂い続ける。
それに対し、藤堂は、一歩、右足を踏み出した。
「無視できる訳ねえじゃねえか」
「ん?」
もう一歩。次は左足を踏み出しながら、静かな怒気の籠った声で、藤堂は青年に言葉を届ける。
「あんた。いや、そこらに転がっている黒服連中も合わせてよ。一体どんなことしたのか解ってんのか?」
更に一歩。
「今日は休日だってんのに萩原に会えてよ、私服も見れたしそれだけで幸福だったてぇのによ」
続けて一歩。
「なんか成り行きで迷子に出会っちまってよ、いや、それは良いんだ、しんや君はいい子だしな。けど、なんか知んねえけど、黒服の変な奴等に追われるしよ」
駄目押しで一歩。
「そして、最後にてめぇだ。いい加減にしろよ?」
藤堂と【青年】の距離は後七メートルほどだろうか?
それだけの距離になってから、藤堂は足を止めて喋り続ける。
「萩原はずっと怖がってたんだ、なのに無理して強がってよ。馬鹿だよなぁ。普段こいつは俺の事を馬鹿馬鹿言ってるが、こいつの方がよっぽど馬鹿だ」
そう言いながら、藤堂はこちらを振り返り、【青年】では無く、【私】に向けてぽつりと言った。
「馬鹿みたいにお人好しだよ。お前は……」
「……お前が馬鹿とか言うな」
私の強がって出した反論を、藤堂は笑って受け流しながら、また【青年】の方に向き直った。
「そんでそんな素晴らしい【俺】の萩原を怯えさせたテメェは、無視どころか絶賛俺の視線釘付け中だよ。ただし敵意限定な?」
尚もにこやかな笑顔を浮かべる【青年】に、藤堂は雰囲気から一切の【甘さ】を消して、全て【怒り】に染め上げた感情を突き付ける。
「まあ、長々と言ったが、つまり俺の言いたいことはたったひとつなんだよ。本当に単純な事でな?」
そう静かに呟くと同時、藤堂は少し態勢を低くする。
「俺の惚れた女を。俺が生涯愛したいと願っている女を。俺のこの世で一番大切な女を。【萩原琳奈】を……」
そして、次の瞬間。
【青年】に向かって、ただ行きよいよく駆けだした。

「傷つけてんじゃねえええええええええええええええええ!!」

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.56 )
日時: 2011/03/31 11:09
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐9 1/3

「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
獣の咆哮の様な声を上げ、藤堂は【青年】に突っ込んでいく。
右手で握り拳を作り、青年の頬を殴り飛ばそうとしているのだろう。
後一歩。
藤堂の拳が【青年】の顔面に辿り着くという瞬間。

「……つまらない」

ヒョイという擬音が似合うほどに軽い動作で、【青年】は藤堂の攻撃を足をちょっと動かして避けた。
「うわっ!? ってちょ、まっ、うぎゃあっ!!」
その所為で、勢いをつけて【青年】に飛びかかった藤堂は、勢いを殺しきれず、偶々地面に転がっていた黒服に躓き盛大に転んでしまった。
藤堂……。なんと情けないこけ方だ。
今時そんなギャグ調の行動は、誰に見せても笑ってくれ無いと思うぞ。
「痛ってぇ。て、てめえ! 何で俺の愛の鉄拳パンチを避けやがるっ! ちゃんと顔面で俺の正義の鉄拳パンチを受けろよ!!」
愛と正義がたっぷり詰まっていそうな拳なんて、誰だって避けたくなるだろう。
といううか、その愛が詰まった拳を【青年】に向けていいのか?
それは同性愛ということに……。
いや、だからって私に向けられても困るわけだが……。
寧ろ向けてくれたら、この世から一人馬鹿が消える結果にはなるかもしれんな。
主に私の殺意と怨嗟の拳によって。
「君さ。なんなんだい? 正直うざったいよ?」
私のくだらない思考を余所に、【青年】は相も変わらないにこやかな笑顔で、鋭い視線を藤堂に送りながら呟きを続ける。
「ああ、うざいだと!? 俺のどこがうざいって言うんだ!! それを言うなら、お前の方が万倍うざい!!」 
「君。愛とやらがそんなに大事か? 」
藤堂の抗議の言葉を一切合切無視して、青年は無様な体勢の阿呆に言葉を届ける。
「下らない。人間ってのは自分が一番大事なもんだろう? 君は自分の安全より愛が大事だとでも言うのかい?」
「ああ!?」
【青年】の挑発の染みた言葉に、藤堂は地に這いつくばった状況から飛び上がりつつ叫ぶ。
「大事なのは愛じゃねえよ、萩原だっ!!」
「……」
沈黙。
【青年】に圧倒的な沈黙が訪れる。
先程までのにこやかな笑顔は消え去り、呆れた様な、人間でないものを見るような目で藤堂を見ている。
まあ、そりゃそうだろう。
眼鏡の頭のおかしいお兄さん。
確かにあんたは【異常】みたいだが、藤堂の私に対する感情の持ち方もかなり【変質的】だ。
尤も、私にとっては藤堂の方が万倍マシと言えるだろう。
マシってだけで、別にいいわけではないのだがな……。
「話にならない……。興がさめたよ少年。さよなら」
そう言って【青年】は私たちに背を向けて路地の出口に歩いていく。
「お、おい! しんや君を離せ!!」
藤堂はそのあまりの潔さに一瞬呆気にとられていた様だが、直ぐに我に返って【青年】を引き留める。
そんなやり取りを呆然と眺めていた私だが、そこでふと気付く。
藤堂が殴り飛ばそうとする前には、【青年】に手を掴まれ涙を浮かべていたはずのしんや君が【居なくなっている】事に。
「お、おい! しんや君はどうしたんだ!!」
私は若干緊張でうわずった声で、【青年】に問いかける。
すると、【青年】は何が楽しいのか、にこにことした笑顔を顔に浮かべて私の方へ振り返りつつ。
「知らないよ。どっか行っちゃった。気がそこの少年の方へ向いていたからね、いやぁ〜、油断しちゃった」
とおどけた調子で答えてきた。
「はぁ!? ふざけんなよ! てめぇ、しんや君をどこに隠しやがった!!」
「だから知らないって言ってるだろう? 全く、いい玩具が見つかったと思ったのに。つまらない。ほんとつまらないよ。そこの暑っ苦しい君も、あの志島の旦那の孫も。そして、そこの女の子もね」
藤堂の言葉にも、やはりどこか【狂気】を感じさせる笑みを浮かべつつ答える【青年】。
捨て台詞ともなんとも言えない言葉を呟きながら、突如現れた【狂人】は路地の出口に歩いていく。
「あ、畜生、まてっ!」
【青年】の背中が路地の角から完全に消えるのを見て、急いで追いかけようとする藤堂。
「あー、もう畜生!! だけどあんな奴より——」
だが、駈け出したそうにしたその脚は、直ぐに方向を転換して、私の方に向かってきた。
「——大丈夫か萩原っ!! そんな尻もちついて!! どこか痛いのか!?」
「へ?」
焦った声で言ってくる藤堂の顔を見て、そこで私は初めて気がついた。
なんとまあ情けない事に、私は地面に女の子座りでヘタレ込んでいたのだ。
「お、おい。ほんと大丈夫か! 怖かったのか萩原!? だが、大丈夫だ! 俺があの野郎は追っ払ったからな! 安心しろ!!」
実際は追っ払ったんじゃなくて、飽きてどっかに行った感じだったが。
どちらにせよ、視界から消えてくれたのはありがたい。
だが、どこか恥ずかしさで、顔が下を向いてしまう。
「と、藤堂」
「ん? なんだ? 歩けないならおぶってやろうか?」
相も変わらない、無駄に元気な回答を返してくる藤堂。
私はその何時もの雰囲気に安心しつつ、藤堂にしゃべりかける。
「……お前、私を守ろうとしたな?」
「え? あ、ああ。当たり前だろ?」
何を言ってるんだ、といった顔で藤堂は私の言葉に答える。
私は、ほっとして緩みそうな頬を必死で固くしながら、自分の話を続ける。
「もし、あの男がお前に危害を加えるような男だったらどうする気だったんだ? あんな、馬鹿みたいにまっすぐ突っ込んで行って、もし怪我でもしたらどうするつもりだったんだ?」
「え、あー、いや、そうだなぁ〜、さっきはほんとに頭にきていて、あんまそういう事は考えてなかったからな」
馬鹿だ。いや、もういい。こいつが馬鹿なのは告白された時から分かっている。
だが、今回は話が別だ。
【馬鹿】の一言でかたずけられる一線を、こいつは逸脱しやがった。
「お前が私を好きなのは知っている。だけどな、今回お前はやりすぎだ、あの男は本当の【狂人】だ。それを相手にしようだなんて、馬鹿以上の馬鹿がやる事だ」
「馬鹿以上の馬鹿ってなんだよ」
「知るか。とにかく、もう二度とあんなことはするな。私を庇おうとして、お前が傷を負うなんてアホらしいだろが」
私はなるだけきつく、冷徹な感情を言葉に乗せて藤堂に言葉を届ける。
流石にここまできついことをいったら、少しは落ち込むだろうかと思い、今まで俯いていた顔をあげて藤堂の表情を見た。
すると藤堂は予想とまったく違い、温かく【微笑んでいた】。
「……何笑ってるんだ」
私の予想外の表情に対する困惑の言葉に、藤堂は心底うれしそうに微笑みながら、口を開いた。
「いやぁ、嬉しくって。ほんと、心の底から嬉しくってさ」
「は? 何が?」
私の疑問の言葉に藤堂は、だってさ、と続けて。
言った。



「お前、俺の事心配してくれたんだろ?」

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.57 )
日時: 2011/03/31 11:01
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐9 2/3


「……」
「痛い、痛い痛い痛いってば! 萩原痛い! 服を掴まないでッ!!」
藤堂のその言葉を無視して、私は目の前の阿呆の服の袖を両手で掴んで、傍に引き寄せる。
その所為で、藤堂は地面に強制的に倒れこむような形になる。
「お前は私の話をきいてたのか?」
「き、聞いてたよ! あれだろ、萩原はあの危険野郎に俺が傷つけられ無いように、あんまりやんちゃするなと言ってくれたんだろ?」
「そうだ」
「それってつまり俺を心配してくれたってことに、なるんじゃないか? って、いたたたっ!」
痛がる藤堂の袖を更に強く掴みながら、顔を睨み付けながら私は目の前の馬鹿の誤解を解くために言葉を発する。
「そうじゃない。迷惑だからやめろって言ってるんだ。お前がどうなろうと知ったことか!」
私の否定の言葉にも全く動じず、藤堂は相変わらず腹立たしい微笑みを浮かべている。
なんだか、アホらしくなってたので、掴んでいた袖を放して、座り込んでいた姿勢から立ち上がる。
すると、藤堂も一緒に立ちあがりながら、路地を出ようとする私の背中に声を掛けてくる。
「素直じゃないなぁ〜、俺の胸でゆっくり泣けばいいのに」
「……」
「怖かっただろう? だったら遠慮なく——」
「……藤堂」
「す、すいません。調子に乗りすぎました」
クルリと藤堂に向き直りつつ名前を呼んできた私に、流石にやりすぎたと判断したのか藤堂は急いで謝罪の言葉を口にする。
私は、そんな焦って顔を青ざめさせている藤堂の方へ、一歩踏み出した。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。もうしませんから!!——って、え?」
藤堂の目の前まで歩いて行った私は、そのままうろたえている藤堂の胸に、

【頭を押し当てた】。

「え、え? は、萩原?」
何が起こったのか理解できてない様子で、藤堂が私の名前を呼んでくる。
私はその言葉に、顔を藤堂のそれなりに厚い胸板に埋めながら応える。
「……お前が言ったんだ。遠慮するなって」
「い、言ったけどさ。冗談だったっていうか、いきなりっていうか。お前がこ、こんなことするとは思わなかったっていうか……」
「知るか。自分の言葉に責任を取れ」
更に強く頭を押し当てていく。
どうせこんな事してるんだ、だったら全部吐き出してしまおう。
自分の今思ってる事、感じてる事。
情けなくてもいい。
私はそんな高尚な人間じゃない。
だから、偶には……。

「……怖かった」
「え?」
「滅茶苦茶怖かった。死ぬほど怖かった」

消え入りそうな声で。
何時もなら絶対に言わないような言葉を。

「黒服の連中も。あの男も。凄く怖かった」
「……」
「お前があの狂った男に向かって行った時も怖かった。あいつに顔を向けられただけで怖かった」

普段なら絶対言わないような【弱音】を。

「……どうしようもなく……怖かった」
「……だったらさ」

私のその言葉に、藤堂はゆっくりと。自らの手を私の頭の上に優しく移動して。
壊れものに障るかのように置いてきながら、少し笑って呟くように返してきた。


「偶には女の子らしくしてみるか?」


泣いた。
その瞬間。
私がなんとか押し留めていた何かが、盛大に爆発して。
とめどなく眼から溢れだした。

「ひっく、えう、こわ……かった。こわかった……ぞ? ぅう……ひくっ」

比喩なく、大泣きした。
こんなに泣いたのなんて、小学生以来だろうか?
私は藤堂の胸に顔を埋めたまま、泣き続けた。
藤堂は、そんな私の頭をずっとやさしく撫でていてくれた。
私が泣きやむまで、ずっと。

「大丈夫。大丈夫だから……」

ずっと、傍に居てくれた……。

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.58 )
日時: 2011/03/31 20:49
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐10 1/2


「いやぁ〜、良かったよ琳奈ちゃんと奏君に何ともなくて」
どこか疲れた様子の、聞きなれた男性の声が私の耳に届く。
「ええ、なんとか。でも、まさか会長と、今日会うとは思いませんでしたよ」
「僕もまさかこっち方面で合うとは思わなかったよ」
軽く笑いながら。【エコ会】の会長、風宮来夏先輩は言う。
藤堂に醜態を晒して、大分落ち着いた後。
とりあえず、どこか行ってしまったしんや君を探しに、気絶している黒服連中を放置したまま路地から大通りに出たのだが。
そこで、焦った様子の風宮会長に出会ったのだ。
なんでこんなところに会長が?
と思った私たちだったが、どうやら会長はしんや君に事情を聞いて、急いで私たちを助けに来てくれたらしい。
「いやぁ〜、あの阿呆女のバイトに付き合わされて、昼休みになったから、ちょっと二人で外に行って昼食をとろうかと思ったら、走ってきたしんや君が泣きついてきたもんだから、吃驚したよ」
どうやら会長はしんや君と面識があるそうだ。その理由は、しんや君のお祖父さんと会長の親御さんとは、仕事絡みの付き合いがあるそうなのだ。
その為、あの【騒動】から何とか逃げ出して、当てもなく走っていたしんや君が、偶々見つけた会長に助けを求めてきた。という訳だ。
一見会長としんや君には何の接点もなさそうだが、風宮会長の親御さんの【仕事】を考えれば、【暴力団】と付き合いがあってもおかしくは無い。
だが、警察の親を持つ私としては、微妙な心持だ。
「……暴力団の孫と付き合いのある仕事って、何があるんですか。まともなんですか、その仕事……」
「詮索するなよ」
藤堂の言葉に、私は会長が反応する前に釘を刺す。
すると、前を歩いていた会長は、肩越しに振り返り藤堂の方を見て苦笑しつつ言う。
「悪いけど、まだ教えられないかな。でも、【エコ会】にとっても、【志島・井出見組】は依頼人でもあるんだよ?」
「え!? マジすか……」
どんな【依頼】を想像しているのか、汗をダラダラと流している藤堂を見て、私は思わず表情を意地の悪い笑みに歪ませてしまう。
実際には、危ない【依頼】なんて来ないのだが、先ほどの騒動の後では、物騒な事を想像してしまうのだろう。
だが、教えるのもつまらないので、このままにして置こう。
先ほど、【弱み】を見せてしまったからな。これ位の意地悪は許されてしかるべきだろう?

そんな数分前とは打って変わった雰囲気のまま、しんや君と、付き添いで傍にいるという副会長が待っているという『ラエックス』に到着した。
迷子のしんや君と出会った、大きな自動ドアがある『ラエックス』の出口。
その大きなドアが漸く見えてくる。
そして、ドアに寄りかかって俯いているしんや君と、その傍でしんや君を慰めているらしい副会長も視界に入ってきた。
「あ!」
すると、こちらの存在に気付いたのか、しんや君が物凄い勢いでこちらに駆け寄ってきて、私の腰に思いっきり飛びついてきた。
「よかっだぁっ!! おねえぢゃん達がぶじで、よがっだぁ!!」
掠れた声でそんな事を言いながら、抱きついてくるしんや君。
私はその頭に右手を置いて、優しく撫でてやる。
すると、しんや君は顔をあげて、涙で濡れた瞳をこちらに向けて、訥々と語りかけてきた。
「ぼくね、あの眼鏡のお兄ちゃんが……怖くてね……っひく。だから、必死で逃げてね……、だけど、お姉ちゃん達が心配になってね」
途切れ途切れに、言葉を紡いでいくしんや君。
その姿が、どこか先ほどの自分と被る。
「だから……誰か、助けも貰おうと思ったらね……えぐっ。ら、来夏お兄ちゃんと、恵美お姉ちゃんがいてね……、ひっく。だから、助けてって」
きっと必死に走ったのだろう。そして、会長たちを見て、どれだけ安心したのだろうか。
「そしたら、来夏……えぐっ。お兄ちゃんがね……すぐに走って行ってね。恵美お姉ちゃんに連れられてね……ここでずっと待ってたの」
語り終えたしんや君は、もう一度私に強く抱きついてきた。
「……無事で。本当に良かった」
その言葉に、私は両手をその小さな体の後ろに回して、囁くようにしんや君の耳に感謝の言葉を届ける事で答えた。



「ありがとう」

Re: 萩原さんは今日も不機嫌 ( No.59 )
日時: 2011/09/03 00:23
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『第三話 萩原さんの休日事情』3‐10 2/2


「大変だったな」
「そーだな」
藤堂の言葉に、私は適当に相槌を打つ。
結局、しんや君は会長と副会長が親元に送り届けてくれることになった。
申しわけない気もしたが、会長が——
『疲れてるだろうから、今日は早く帰った方がいいよ』
——と言って来てくれた為。お言葉に甘えることにした。
もっとも、清水副会長は——
『貸しひとつだからね!! 今度学食おごる事! 答えは勿論オーケーよねっ!!』
——と、会長と雲泥の差の言葉を投げかけてきた。
少しは、会長を見習ってほしい。
別れ際、しんや君には何回もお礼の言葉を言われた。
何度も何度も。
『ほんとにありがとう! お姉ちゃん、お兄ちゃん!! また会おうね!!』
別れ際、しんや君そう言いながら。
力いっぱい手を振ってきた。
「……指きりなんて、久しぶりにしたよ……」
「そだな……」
私は、【約束】をした右手を眺めながら、藤堂の言葉に返事をする。
思い返してみても、今日は本当に【面倒】な一日だった。
いや、まだ、昼ちょっとすぎなのだが……。
今まで経験した事の無いような、目まぐるしい一日だったと思う。
しかも、これが【休みの日】だ。
不幸すぎる……。
「なあ、萩原」
「ん? なんだ?」
私が若干己の不幸に落ち込んでいると、藤堂がうわずった声で話しかけてくる。
右手に弟の為に買ったゲームの袋を持って、プラプラと軽く振りながら、隣を歩く藤堂の言葉に返事する。
「ちょっと【街】を散策しないか? ちょうどお昼時だしさ」
「……」
思わぬ提案に、藤堂の方へ顔を向ける。
今私たちは、【街】から【町】へ帰るために歩いている最中だ。
確かに、ここまで来たのに、すぐ帰るのはもったいない気もするが……。
私は少し思案顔を作りながら、ふと藤堂の方へ顔を向けてみた。
すると、藤堂は表情の読めない固い顔をして、私の返事を待っているようだ。
どうやら、緊張している様子である。
人に告白するときは、あんな勢いよく来たくせに。人を食事に誘うのは緊張するとは、なんとも矛盾した神経の持ち主だ。
だが、幸か不幸か断る理由も特にない。
私は軽くため息をつきながら、眼の前の妙なところでシャイな男の喜びそうな返事をしてやった。
「……まあ、いいけど?」
私のその言葉に、藤堂は一気に顔を緩めて、顔いっぱいに笑顔を広げながら——
「よっしゃあっ!!」
——とか言って、全身で喜びを表現しだした。
大通りで目立つことするな、恥ずかしい。
「これは、もしかしてデートと言えるんじゃないか萩原っ!!」
全く違う。
だが、私は特に否定の言葉を出さず、興奮する藤堂を置いて先にズンズン歩いていく。
「あ、ちょ、待ってくれよ!!」
後ろから、藤堂が走って追いついてくる。
私の隣を嬉しそうに歩きながら、他愛の話を語ってくる。
私はその話に、適当に相槌を打ちながら。
藤堂と【街】のどこを周ろうか。
割と真剣に考えていた。


言っておくが。
これは、【お礼】だ。
【弱音】を吐いた私を、しっかり支えてくれた藤堂に対する。
ほんの少しばかりのお礼。
だから、今日はとことんこの馬鹿に付きやってやろう。
学校も、何の用事もない休日くらい。

そんな【特別な日】があってもいいだろう?








ちなみにその後。
藤堂のおごりの昼食を食べた後、色々【街】で遊んだ結果。
姉から昼食前には帰ってくるという、私の言伝を受けていた母の存在を、すっかり忘却していた為。
夕方に帰ってきた私に対する、鬼の形相の母上の説教は二時間にも及んだ。
弟の為にゲームを買いに行って。
迷子に出会って。
暴力団に絡まれて。
何とか逃げ出してきて、ゴールがこれとは……。

不幸と幸運が混じった。
あまりに特別すぎる【休日】だった……。


———————『第三話 萩原さんの休日事情』了


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