コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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吸血鬼だって恋に落ちるらしい【完結・新作発表】
日時: 2013/11/04 23:40
名前: 妖狐 (ID: KnTYHrOf)

■150字のあらすじ
—「吸血鬼」そんなものがこの地には400年前から住みついていた。
ある日、そんな吸血鬼であるルリィのもとへ一人の青年が生贄として訪れる。
これが孤独な吸血鬼とわけあり人間、二人の始まりだった。

「私はどうやら今の世に言う『恋』というものしてしまったらしい」

■執筆再開!
 約二か月間もの間、小説などを留守にしてしまい申し訳ございませんでした(>_<)!!
 なんだかスランプなようなものに陥っていて、一か月はパソコンに手がつけられない状態でした…。
 でも大丈夫です! 完全復活です!!
 ついに始まった「吸血鬼だって恋に落ちるらしい」の最終章に向けて飛ばしていきます!
 ルリィやナイト、その他全員が大切な人を守るために立ち向かいます。
 よければあともう少しだけお付き合いいただければ嬉しいです。

■更新(最新話)
最終回 29話 >>211-212
エピローグ(30話) >>213
あとがき >>218
新作発表 >>221

■こんにちは
もしくは初めまして。 妖狐です。
今まで多くの駄作を生み出してきましたが、よろしくお願いします^v^*

■登場人物
吸血鬼/ルリィ(偽名)
青年/ナイト
魔女のような老人/キューマネット夫人
夫人の孫 ルリィに恋する少年/ケイ
ルリィの昔からの知人・オネエ/フレル・パレイドール
フレルの毒舌な部下/キャッツ・ミネリア
悪魔/ルシファー

その他/村・町の人々、食われる方々、生贄。

■目次
一章 世にも奇妙な運命の出会い 1話>>1 2話>>2

二章 幸せと命を賭けた契約   3話>>11 4話>>14 5話>>17
                6話>>18 7話>>26 8話>>35
                 9話>>46 10話>>52

三章 それは恋の試練      11話>>58 12話>>66 13話>>72
                14話>>91 15話>>100-101 16話>>108
                17話>>115-116 18話>>126-127 19話>>140-141

四章 厄介な秘密情報部     20話>>149-150 21話>>158-159 22話>>164
                23話>>176-177 24話>>185 25話>>192-193

最終章 闇告げる王と最後の涙  26話>>196 27話>>199 28話>>204-205 
                29話>>211-212

エピローグ 吸血鬼だって恋に落ちるらしい 30話>>213



                

番外編1 危険な香りと甘い味 >>86-87
   2 病人にはお気をつけて >>167-168

トーク1 >>99
参照300突破>>48
参照400突破>>63
参照500突破>>85
参照600突破>>97
参照700突破>>123
参照800突破>>135
参照900突破>>154
参照1000突破>>166
参照1100突破>>182
参照1200突破>>187
参照1500突破>>214
あとがき  >>218

■注意
・吸血鬼出てきます(生贄さんも魔女さんも)
・糖分は普通ですが、たまに甘い。
・ほとんどファンタジー
・亀最新です。そこは皆様の温かい目で見守ってくださると嬉しい
・誤字脱字ありました、すぐコメを!

■お客様
コメントをくださった皆様

誄螺【ruira】様
sakura様
氷菓子様
いろはうた様
美味ななし様
百歌様
蒼様
となりの黒。様
ヒヨリ様
二重奏様
水岡月緒様
ピーチティー様
ドレミ様
アイサ様
結衣様
緋兎の血*様
朔良様
ヒヨリが待つ終焉様
もち黒こめこ様
梅桜様
りんご様
仁様
璃湖様
華憐様
華那様
莉遠様
藍歌様
母上様
四ノ宮様
ぴんくのうさぎ様
からあげ様
璃湖様
反逆者A様
ゴマ猫様
カリン様

合計35(?)名様

■今まで書いてきた 物語たち
神様による合縁奇縁な恋結び!?     連載途中
ラスト・ファンタジア          連載中止中
僕らの宝物の日々〜君が隣にいるから〜  なんとなく完結(過去ログ)
笑ってよ サンタさん          完結

ではでは、本編へ レッツゴー!
 

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Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい【参照1200突破】 ( No.192 )
日時: 2013/07/31 17:53
名前: 妖狐 (ID: idHahGWU)

 大きいがしなやかな肉体が偉大さを発する。真っ黒な狼はルリィを守るように混乱して獰猛と化した狼の前に立った。落ち着いた黒い瞳で真っ黒な狼は静かに見つめる。それにびくりと銀褐色の狼が体を揺らした。
「なに、これ……動かない……」
 小さくかすれかけた声でルリィは呟いた。なにかに威圧されたように体が動かないのだ。唯一動かせるのは口と瞳だけ、あとは指一本動かない。まるで蛇に睨まれたカエルのような気分だった。
 必死に動けと脳で命じても本能は無視をする。それは銀褐色の狼も同じようで唸りながらもその場から足を浮かせることはない。
「グルルルルルッ!」
 銀褐色の狼がうなり声をあげて、何かを引きちぎるように危うい動きで駆けてきた。無理やり自分の体を動かしているようでバランスがなってなが銀褐色の狼はそれをものともせず突っ込んでくる。
「逃げて! だめ、だめよっ!」
 なぜか銀褐色の狼が猛スピードでかけてくるのに真っ黒な狼は動かない。ルリィはなぜかそれに危機感を覚え心から叫んだ。しかしいくら叫んでも真っ黒な真っ直ぐ前を見据えるだけで動こうとはせず、それどころか毛並みを整えている。
「お願い、逃げて……でなければ衝突して死んでしまうわ……! お願いっ」
 自分に銀褐色の狼が駆けてくるわけではないのに、ルリィはとてつもない恐怖を感じた。震えそうになる声で叫んだ時、初めて真っ黒な狼が驚いたようにこちらを見た。そして動けず座ったままのルリィを落ち着けるように真っ黒な狼もぺたんと座って見つめ返した。
『大丈夫』
 なぜかそういわれているような気がした。そしてそっと風がルリィの髪を撫でた時、真っ黒な狼が洞窟の天井へと、空へと向かって吠えた。
 場の空気がその時だけ止まったように感じる。世界の時間が止まって遠吠えだけが響き渡る。それは強く美しく、鮮やかな声音だった。
「ナイト……」
 一瞬だけ真っ黒な狼がナイトと重なって見えた。そんなはずはないと分かっているのにそう見えて仕方がないのだ。遠吠えは深く響き、聞く者を不思議な感覚にさせた。
 その遠吠えで猛スピードで駆けてきた銀褐色の狼は力が抜けたようにその場に倒れた。そしてもう一人、ルリィも気を失うようにゆっくりと崩れていった。


「——! ——……!」
 誰かに必死に呼ばれているが瞼が重たくて開いてくれない。
 このまま眠り続けてしまおうか。
 さまよう意識の中、ルリィは再び深い沼のような暗闇に沈もうとした。しかし微かな声が耳に何度も届く。
「……&#8252; ルリィ」
 はっとルリィは眼を開けた。そこには先ほどまでいくら手を伸ばしても届かなかったナイトの姿がある。嬉しすぎてルリィは確かめるようにナイトの頬に手を当てた。それに瞳を揺らしつつもナイトは安堵の息をついた。
「よかった……」
「ナイト、私を助けようとしてくれてありがとう」
 ルリィは嬉しそうに笑う。それにナイトも悲しそうに笑い返した。ふと違和感を覚え口を開こうとしたとき、ナイトがルリィの手を静かにおろした。
「ルリィ、俺はもうお前の傍にいれない。いたらお前に迷惑かけるだろうし、お前自身、怖いだろう……?」
 何もかもあきらめたような顔は、どこか出会った頃のナイトにそっくりだった。『傍にいられない』その言葉ただ茫然とする。全ての音が遠く聞こえた。
「貴方は狼なの……?」
 ルリィは震える声で、それでも聞かなければと思い口にしてみた。それにうなづくことも否定することもなく、ナイトは真っ直ぐにルリィを見つめる。肯定を示していた。
「俺は狼男だ。母が人間で父が狼男だったんだ。人間の血のほうが濃いから普段は人間の姿だが、自分の意思で狼にもなれる」
 やはり先ほどの真っ黒な狼はナイトだったのだ。常識離れした話に一瞬、ルリィは自分が物語の本の中にいるのではないかと思った。しかし洞窟の寒さもナイトの温かい体温も本物だ。
「俺は自分の意思で狼になれるが満月の夜は自然と狼になってしまう。そして……——人を襲ってしまうんだ。嫌でも狼の本能だからどうしても操ることはできない。あのオネエ野郎が言った通り、俺は化け物なんだ」
 苦しそうに吐かれた言葉にルリィは胸が締め付けられるように感じた。ルリィ自身も人間の血を吸わなくては生きていけない身、だがそれは進んでやりたいことではなかった。
 世の中にはどうしようもない理というものが存在するらしい。いくらあがいてもそれをくつがえすことはできず、結局無力に終わる。そんな現状が今、大きくつきつけられて見えた。
「ルリィ、俺を殺せ。元々お前の所に人質としてきたのは殺してもらうためだったんだ。契約ではエスプルギアの夜までお前を守ってから殺してもらうはずだったがもう無理なようだ。もうすぐで満月が来る。早くしないと俺は自我を失って……お前を傷つけてしまうかもしれない。——それは絶対いやなんだ」
 深刻に訴えてくる瞳はどこまでも悲しかった。ルリィはまるで息が詰まったようにうまく呼吸ができなくなる。
(私に殺せというの……?)
 自分の手でナイトを、考えた瞬間すさまじい寒気と嫌悪感に襲われた。
「……無理よ。そんなことできない」
 ナイトに出会った頃の自分だったら躊躇なく殺ることができたかもしれない。だけれどナイトの優しいところ、不器用なところ、笑顔を知ってしまったら傷つけることでさえできなくなってしまった。
「何言ってるんだ! お前じゃなきゃきっと俺を殺せない。それに殺されるならお前の手で……」
 ナイトがそういった瞬間、ルリィの手は一色とは別にナイトの頬を華麗に引っ叩いていた。
 パンッといい音が鳴り、ナイトが何が起きたのかわからないと唖然とする。ルリィはホコリを払って立ち上がった。
「なに血迷ったことを言っているの!? この世に殺さなきゃいけない命なんてないわ。それに貴方は私の物なんだから勝手に死ぬなんて許さなくてよ!」
 強気な態度でルリィはナイトを見下ろしながら傲慢に言い放った。ナイトはそれを呆然と見つめていたがはっと我に返ったように立ち上がる。
「血迷ったことを言ってるのはお前だろう!? 俺を殺さなきゃお前が危ないんだ」
「この馬鹿!」
 ルリィは叫んでナイトに抱きついた。いきなりの動作に驚き身を引こうとするナイトをがっしりと掴む。ルリィの抵抗にナイトは困惑しきって動きを止めた。ルリィは絶対に離すまいと腕に力を込めると震えそうになる声を抑えて、強気な声音を出した。
「貴方の背中に描かれている蜘蛛の模様、それは私の物である印よ。だから絶対に死ぬなんて許さないしさせないわ。貴方が狼になったときは私が止める」
 ナイトは弾かれたようにルリィを見つめた。細い腕で必死に自分の服を握りしめて逃がそうとしないルリィだが男のナイトにとってそれは簡単に振りほどけるものだった。こんな細い腕でどうやって狼になった自分を守るのかと思う。けれど強気なルリィに自分の運命を託してみたいと思った。
「ルリィ……本当にできるのか?」
「ええ、私にできないことはなくてよ」
「そうかよ」
 どこまでも強気な吸血鬼にふっと笑いが漏れる。やはり自分の主はどこまでも弱くて強く、綺麗だ。
「それじゃあ、もう少しだけ」
 もう少しだけと自分の心に言い聞かせ、ナイトはそっとこの世で一番愛おしい主を抱きしめ返した。

吸血鬼だって恋に落ちるらしい【25話更新(7/31)】 ( No.193 )
日時: 2013/07/31 17:51
名前: 妖狐 (ID: idHahGWU)

「フレル長官、その神は重要な報告書ではないのですか?」
 大きく踊る炎の中に数枚の紙が音を立てて燃える。びっしりと並んだ文字には詳細にナイトのことがつづられていた。
「別にいいのよ。彼はそんなに国にとって害ではなさそうだし、イケメンよ? イケメンを売るような真似できないわ」
 フレルは妖艶な笑みを浮かべて炎の中を見つめた。そこにはもうちりと化した、ただの灰しかのこっていない。
「国王へはどんな報告を?」
「適当にあしらっとけばいいのよ。彼は別に異常な部分はありませんでしたーって。多分大丈夫よ」
「その多分はかなり危険だと思いますが……」
 あまりのどうでもよさげな態度にため息が出そうになる。けれど今回、キャッツは改めてフレルを見直していた。
「そういえば長官、ルリィさんの首につきつけたあのナイフ、あれって切れないナイフですよね。刃が錆(さ)びていましたし。最初からルリィさんを傷つけるつもりなんてなかったんじゃないんですか?」
「そんなことないわよ。そりゃあもう、切れ味抜群で肉の塊もすぱっと切れちゃうんだから」
「じゃあ、ちょっと林檎を切りたいので貸してくれませんか」
 へらっと笑って否定するフレルに対してキャッツは静かな目で林檎を取りだす。それにフレルは一瞬眼を泳がせた。
「あれー? さっきの洞窟崩壊で落としちゃったみたい。持ってないわ、残念。でも林檎は丸かじりが一番……」
「いつもは綺麗に食べたいとか言ってますよね? まあ、いいです。丸かじりさせてもらいます」
 フレルの言葉を遮って首をかしげるとフレルはあははと乾いた笑みを浮かべた。やはり切れないナイフだったと確信を得つつ、キャッツは赤く熟れた林檎を口に運ぶ。それを見つめるフレルをキャッツはしっかり横目で見ていた。
「欲しいですか?」
 フレルの大好物が林檎だと知りつつ意地悪に目の前で食べる。フレルもすぐにキャッツの悪戯だと気づいて頬を膨らませた。
「キャッツちゃんの意地悪」
「仕方がないですね。はいどうぞ」
 そっぽを向いていじけるフレルにキャッツはもう一つ林檎を差し出した。
「っ、二つ持ってたの!?」
「あれ? いりませんか」
「いります」
 隠されそうになる前に素早く林檎をいただくフレルにキャッツはくすりと笑った。それをフレルは驚いたように見つめる。すぐにいつもの無表情に戻ったキャッツを観察しつつ林檎にかぶりついた。
 林檎を食べるフレルの頬は微かに林檎と同じ色をしていたそうだ。

 月はだんだん丸く満ちていき、完全にその姿を取り戻すまであと七日。月が姿を取り戻したとき、400年のときを経てエスプルギアの夜がよみがえる。

(4章 終わり)

Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい【25話更新(7/31)】 ( No.194 )
日時: 2013/08/01 12:31
名前: 朔良 (ID: 2IhC5/Vi)

 参照1200おめでとうございます!
 遅くなってしまい、申し訳ないです(T_T)

 質問……あ、ありますあります!
 うさちゃんが「ナイト君のキスするシチュエーション」と聞いていましたが、ではでは私はですね。
 ナイト君に聞きたいです。
「キスする時はどんな言葉を囁くんですか?」
 ……変態質問ごめんなさい(;一_一)
 でもでもシチュエーションと言葉があればもう私は天国へ行けちゃいますので!

 投票もナイト君でお願いします!
 
 更新頑張って下さいね!
 秋から新作……ということでそちらも楽しみですが、吸恋も終わってしまうのが切ないです(>_<)
 
 ずっと大好きです(///

吸血鬼だって恋に落ちるらしい【25話更新(7/31)】 ( No.195 )
日時: 2013/08/04 08:01
名前: 妖狐 (ID: idHahGWU)

朔良師匠>
ありがとうございます(^v^) いえいえ遅くなんてありませんよ!

シチュエーションにささやく言葉!!
これはもう、たまりませんね(殴
私も変態ですので全然ウェルカムです(^◇^)
ふふふふふっ
妄想ファンタジーが広がっちゃいますね〜
どうしましょう…!

はい、ナイト君への投票を受け付けました。
ナイト君はルリィを差し置いて人気のようで私はびっくりしました!
でもまあ、結構私もナイト君には萌えをいただいているのである意味なっとくかもしれません

はい!
秋から新作ですよ〜
今必死に設定を考えているのですがあまりパッとは浮かばなくて……
私なりには
「どんな逆風にも負けず頑張る女の子」
を描きたいなあなんて考えてます!
それと今まであまり書いたことのなかった王子様タイプとか超高飛車お嬢様とかも書いてみたいです(わくわく

次の作品は私にとって挑戦する作品にしようかと(*^_^*)

Re: 吸血鬼だって恋に落ちるらしい【最終章突撃10/13】 ( No.196 )
日時: 2013/10/13 11:45
名前: 妖狐 (ID: KnTYHrOf)

最終章【闇告げる王と最後の涙】

 真っ白な生クリームと濃厚なはちみつが乗っかったワッフルに、ルリィは勢いよくぱくついた。悩みながら食べているせいかマナーが少し抜けている。
 口の中をはちみつの甘ったるい味で満たすと、少し息をついて食べる手を止めた。
「さて、どうしたものかしら」
 エスプルギアの夜まであと七日。一週間後には悪魔ルシファーが闇黒と共にやってきて、太陽と月が隠される。しかし、いまだにそれを防ぐ方法が見つかっていなかった。
 当初、仮定を立ててれば防ぐ方法は二つあった。一つ目は月光の雫を使う方法。不思議な力を持つとされる月光の雫で鏡に闇を吸い取らせる力を与え、闇黒を消滅させる。だが月光の雫は見つからず、結局フレルの持っていた情報はあまり役に立たちそうにないものであった。
「フレルは確か月光の雫について書かれていた古書の話をよく知っていたのよね……月光の雫とは『清き乙女の月の涙』そして『それは世界にただ一人の者に捧ぐ』って一体どういうい意味……?」
 言葉の意味と月光の雫がつながらず頭を回転させる。先ほどから悩んでいるがやっぱり答えは浮かんでこなかった。
(答えのしっぽはちらちら見えてるんだけど……)
 こうなると防ぐ方法は月光の雫を除いたもう一つの方法にゆだねられることになる。しかし、
「あの方法は、本当ならあまり使いたくはなかったわね」
 ぽつりと呟いたとき「どんな方法だ?」と頭上から声が降ってきた。手にティーポットを抱えたナイトだ。ルリィは、なんでもないわと隠すように返すと紅茶のおかわりをもらった。
「あと七日か……あんまり悩みすぎて爆発するなよ」
 からかうような言葉だが、その裏に心配してくれる優しさが分かりルリィは心が温かくなった。
「大丈夫よ。こっちはなんとかするから貴方はいつも通りおいしいスイーツを作ってくれると嬉しいわ」
「まかせろ。明日はお前の好物のタルトを焼こうと思うんだが、ブルーベリーと洋ナシ、どっちがいい?」
「どちらも」
「欲張りすぎだ」
 二人顔を見合わせて笑う。いつもと変わらない暖かな会話、おいしいスイーツ、大切な人。しかし七日後には崩れ去ってしまうであろうとルリィは確信していた。どうあがいても変わらない未来へ、痛む胸をそっと笑顔の裏に隠した。

「ひっひっひ、久しいのう」
「ご無沙汰しています。今日から厄介になります」
 黒いマントを羽織って不気味に笑うキューマネット夫人と、その隣で頭を下げるケイにルリィは心からケイがキューマネット夫人に似ていなくてよかったと思った。だがケイの過激な裏の姿は確実に夫人の血を引き継いでいた。
「急に呼んで悪かったわね。エスプルギアの夜も近いから集まったほうがいいかと思って」
 もう少しでやってくるエスプルギアの夜に備えて、安全性確保と作戦会議を開くためにルリィは二人を呼び寄せたのだ。これから少しの間、館に滞在してもらうことになる。ナイトは、どうぞとルリィが館の中に招いていくのを遠目で見ながら早速晩餐に向けて頭を働かせていた。

 その夜は実ににぎやかだった。テーブルには所狭しと料理が並んでいる。晩餐の料理を作っている最中にケイも台所に張り合うように飛び込んできたので、ふたりでわいわいと罵り合いながら作っていたらすごい量になってしまったのだ。
「こんなに誰が食べるっていうのよ……」
 ルリィは最初、見ただけでお腹がいっぱいになりそうな料理の山に頭を押さえていたが、隣でまたもや張り合いながら食べ比べをしていたナイトとケイによって綺麗さっぱりと片付いた。
(いつの間に仲良くなったのかしら……?)
 なんだかんだ言いあいながら気の合っている二人をルリィは少しだけ羨ましく思った。
 
 そんな日々が続いて三日。エスプルギアの夜への緊張感など、どこへすっ飛んで行ったのやら館が静かなのは動物が寝静まる真夜中だけだった。
「また明日。おやすみなさい」
 とそれぞれ各自の部屋にこもってから数時間。寝つきの悪さにナイトはベットから身を起こした。辺りは真っ暗で月の明かりしか光るものはない。
(なんだか胸騒ぎがするな……ここ数日あまりにも騒がしかったせいか?)
 今も遠くに聞こえてきそうなほど日常化しつつあった喧騒に、昔は一人でいるのが当たり前だったのにな、と空を見上げた。窓から入ってくる涼しい空気が肌をなでる。身震いするような寒さだが、なぜか心地よくもあった。
 その時ふと、誰かの話し声が風に乗ってやってきた。月明かりの下だからか狼人間の効果によって聴覚が鋭くなっているようだ。その声の主が自分の主であると分かり、なんとなく耳をすませた。どうやらキューマネット夫人と夜のティータイムを楽しんでいるようだ。
(それにしても、あいつの声は鈴みたいだよな……。凛としててとおる。笑い声なんて本当にかわい…………っ!)
 ボーっとしていた頭を思いっきり振った。自分はいったい何を考えていたのだろうか。確かにルリィは美しいと思う。誰から見ても美少女だ。だがかわいいなどと思ったことはなかった。
(いや、あったのか……?)
 からかった時の怒った顔、おいしいものを食べて口が緩むとき、幽霊を怖くないと言いながら震える体。そのときに一瞬だけ頭をかすめた想い。
 思い出していくと次々に頭の中に映像が広がった。大きく開かれたルビーの瞳、抱きしめたときに感じた細い腰、ふんわりと風に舞う紫の髪。
(俺は……)
 のどまで出てきた想いに、とっさに口に手を当てた。
 駄目だ、気づいてはいけない。気づいてしまったら本当になってしまう。
 自分は狼だ。人でも吸血鬼でもない。それになによりも彼女は主であり七日後には殺してもらうことになっている。
(そうだ。エスプルギアの夜が過ぎたら狼人間の俺なんて食べてもらうんだ)
 契約した夜に交わした事を思いだいて自分に言い聞かせる。
 今まで目をそらしていてなんとか気づかなかった感情。これからも目眼をそらし続けなければならなかったのだ。
 始めはこんな思いを抱くつもりはなかった。もっと早くに殺される予定だった。だけどルリィのことを知っていくごとに、その感情は大きくなっていた。
 なすすべもなくナイトは窓を閉めてルリィの声をシャットアウトした。これ以上聞いていたら口から言葉がこぼれていしまいそうだ。
 気づいてはいけない。けれど、どうしようもなく

(——ルリィが、好きだ)


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