コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 銀の星細工師
- 日時: 2015/01/28 15:12
- 名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)
■あらすじ
人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?
「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー
(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド
■目次
プロローグ >>1
第一章 細工師と狩り人 1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待 幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37
7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!? 幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー 幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
20話>>120 21話>>123 22話>>130
23話>>133 24話>>134 25話>>139
26話>>146 27話>>149 28話>>153
29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音 幕間>>157 30話>>165 31話>>166
32話>>167 33話>>170 34話>>171
35話>>174 36話>>175 37話>>176
38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき 幕間>>179 39話>>180 40話>>181
41話>>182
第八章 隣同士の想い 幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い 幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師 幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ >>207
400参照突破【告知】 >>53
600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
900参照突破【人物紹介】 >>116
1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
あとがき >>211
■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)
■お客様
*コメントをくださった方
珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様
■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団 新連載
救世主はマフィア様!? 完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい 完結
ラスト・ファンタジア 連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!? 連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん! 完結
それでは本編へ レッツゴー!!
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- Re: 銀の星細工師【試験スタート!】 ( No.181 )
- 日時: 2014/10/13 11:56
- 名前: 妖狐 (ID: so77plvG)
「お昼だー!」
ティアラの口から解放感たっぷりの声がお腹の音と共に出た。ミラがくすりと笑って作業台を簡潔に片づける。
「休憩時間ですね。一旦食堂へ向かいましょうか」
他の生徒たちも工房から散り始めていた。試験中にはお昼休憩がとられ、その間の作業は中止とされる。試験時の緊迫した空気から一変、あちらこちらから笑い声があがっていた。
「よし。腹が減っては戦はできない。席が埋まる前に早くいくか」
ブラッドがティアラに劣らない虫の音を鳴らせて先頭をきる。それに笑いが弾けながら、作業道具を置いてティアラたちも出口へ向かった。
「もうすぐで完成だね。あとは補修と追加を少しするくらいかな」
ジャスパーが的確に今後の方針を定める。それぞれうなづきながら、もう脳は食事の方へ向いていた。
「何食べます?」
ミラが問いかけると、真っ先にラトがふらふらした足つきで答えた。
「甘い物。じゃないとラト、死にます」
瀕死寸前のように見えるラトをティアラがあわてて抑える。今にも倒れてしまいそうだ。
(細工は体力と精神のどちらも使うから、すごく疲れるんだよね……)
自分も先ほどから体がだるい。甘い物が欲しくなるラトの気持ちが痛いほど分かり、支えながら食堂へと足を進めた。
「お姉さん、そんなやつどこかに捨ててきなよ。無駄にでかいやつだから、お姉さん潰れちゃうよ」
不意にジャスパーが不満げな口調で言ってきた。確かにラトが軽いとは言えないが、見捨てる事なんてできない。
「大丈夫! 食堂まであとちょっとだから」
「いや、そういうことじゃなくて、二人の距離が近すぎるんだって……」
口をとがらすように小さな声で文句を言うジャスパーの言葉は聞き取りずらかった。首をかしげるティアラにジャスパーは不満を露わにして、ラトを奪うように掴む。
「僕が運ぶ」
物のように半身をかつがれ、ラトはされるがままジャスパーに寄り掛かった。
「うっ、やっぱり無駄に大きい……」
ジャスパーは見栄を張りながら顔をゆがめる。
「やっぱり私が……」
「お姉さんには渡さないよ。こいつは一応男なんだから」
意固地になるジャスパーにティアラはやはり首をかしげる。きっとジャスパーがティアラからラトを引き離した理由が分かっていないのだろう。二人を見てミラはくすくすと笑った。
「なかなか大変なのね。ティアラさん相手だと」
さすが年長者というべきか、聡いミラにジャスパーはうなづく。
「仕方がないよ。藁の詰まったお姉さんだし」
「ちょ、ジャスパー! なんでいきなり私の悪口なの!?」
騒がしさを増す会話にブラッドの虫の音も重なり合う。
「まあ、気長に行くよ。僕がお姉さんの傍から離れる気は当分ないし訳だし」
ミラだけに聞こえた言葉には、静かに火照る心が空けていた。
*
それから大量の昼食をとり、元気を取り戻すと再び工房へ向かった。
やる気十分に工房へ足を踏み入れ、自分たちの作業台を目指す。そのとき、ティアラは金づちで頭を殴られたような衝撃が体を襲ってきた。
「——っ!」
思わず口元を押さえて立ち止まる。ジャスパーは突然止まったティアラに眉を寄せた。ティアラの顔は青白くなり、まるで悪魔に出くわしたかのような様子だ。
「どうしたの、お姉さん」
ティアラの視線をたどって、そこにあるものを見る。その途端、一気にジャスパーの顔には険しさが宿った。
「なん、で……?」
震えた声がティアラの口から漏れる。体が金縛りにあったかのように動かなかった。
「……夢、ですよね」
ミラたちも目の前の光景をただ凝視していた。信じたくない現実が冷酷に押し寄せてくる。
「わ、私たちの星硝子が……——壊れてる」
直径一メートルほどもあった巨大な星細工がバラバラに粉砕していた。モチーフであった鳥の羽が無惨にも折れ、繊細な細工は跡形もない。
「いやああああっ!」
ティアラの悲痛な叫び声が工房に響いた。
「壊れてるんじゃない。壊されたんだ」
静かに怒気を払ったジャスパーの声が腹の底からうねるように漏れる。しゃがみ込んで星硝子の破片を手に取った。
「星硝子は勝手に壊れるほど軟じゃない。昼食の時間帯、ほとんどの生徒は食堂に行っていた。きっと試験官も。だから今まで工房は無人だったんだ。きっとその時に……」
ブラッドが悔しそうに傍に合った机を叩く。
「それじゃあ誰がやったのか分からねえのかよ!」
「なんで私たちの星硝子を……!?」
ミラの問いかけは全員の疑問と同じだった。その場でミラが静かにうずくまる。
「どうしましょう……。試験の残り時間は残りわずか三時間。今まで六時間もかけて作ってきたのに、その半分しかない時間でで作り直すことなんてできないわ……」
絶望に息が苦しくなる。壊された星細工は悲痛な叫び声をあげているようで、涙がこみ上げてきた。
「星細工師だったら、こんなことできない……」
ラトが放心したように小さく呟く。けれど、この学園にいるのは誰もが星細工師を目指すものであったり、または星硝子を愛する者たちであった。
「できないはずなのに……、なんで!」
苦しげにラトは顔をゆがめた。ティアラも銀の髪を強くにぎりしめる。ミラは改善策を探すように立ち上がった。
「し、試験官に事情を説明してやり直しをお願いしてきます」
即座に意識を切り替えて走り出す。誰よりも歳が上な彼女はその分、経験値が多く立ち直りも早いのだろう。ティアラも見習わなければならないと思った。だが、走り出したミラをジャスパーが静かに止めた。
「無駄だよ。試験官は取り繕ってくれない」
「そんなはずは……」
「決定事項にあったでしょ。時間内に完成できなかった者は失格。だからやり直しなんてできないよ」
「そんな! だって私たちの星細工は壊されたんですよ!?」
「それでも『時間内』に完成できなきゃ失格なんだよ! 壊されても試験官にとっては不運でしたね、で終わりなんだ! 試験はそんなに甘くないって知ってるでしょ」
ミラは弓で射抜かれたように口をつぐんだ。確かにこの学園は実力主義で、星の数で階級が決まっている。星の数が少ないほど馬鹿にされる。決してこの世界は優しくなんてしてくれないのだ。
「それじゃあどうすれば……」
ミラは再度、その場に座り込んだ。ジャスパーは口をつぐんで、ブラッドやラトもうつむいている。
そのとき、目の前に銀の髪が輝くように舞った。まるで光をまぶしたかのようにきらきらと辺りが眩しくなる。目を奪われるように見つめた先は、髪をほどいて確かに微笑むティアラの顔だった。神々しく、美しい姿に息をのむ。
「時間内に終わらせればいいだよね。だったら終わらせよう」
悲劇にひきつった彼女の表情はもうどこにもなかった。今はまっすぐ前を向いている。ミラは雷に撃たれたかのような衝撃が走った。
(同じだわ……)
自分を仲間にしたいと迫ってきたときのティアラと、今のティアラは同じだった。あきらめることなんて選択肢になくて、どうしようもなく引きつけられるブラックホールの中央のような突拍子もない存在。
(まるで嵐の子ね……。さっきまであんなに苦しそうだったのに、今はそれと真逆。すごく勇気で溢れてる)
ミラは眼を細めた。ティアラが微かに微笑む。
「取り乱してごめんなさい。でも私、思い出したの。この仲間なら出来ないことなんってないんだって! 時間がなくても大丈夫。私たちはずっとこのときのために練習してきた。今までの私たちは一人一人が欠点だらけで、自分の世界から外に出ることが怖かった。だけど、こうして集まった今の私たちは無敵だよ!」
胸が高鳴り、心が共鳴し合う。
「戦おうよ!」
強引に心を揺さぶるような、強い声が直接脳に響く。
——そうだ、まだ終わりじゃない。戦おう。
五人はそれぞれの手を取り合った。ティアラが力強く手を握りしめる。
「証明しようよ。私たちは誰にも負けたりしないんだって!」
- Re: 銀の星細工師【更新10/13】 ( No.182 )
- 日時: 2014/10/19 00:02
- 名前: 妖狐 (ID: so77plvG)
銀の髪をなびかせて一人の少女が懸命に声を張り上げる。彼女の姿は試験中である生徒さえも魅了するように輝いていた。誰もが彼女の圧倒的な輝きに目を奪われる。
作業台の上にはもう今まで作ってきた星細工はない。けれどティアラには体中に力が溢れていた。
試験終了まで、残りわずか三時間。
*
「ラト、すぐさま造形に入って。星硝子は私がすぐに練って持っていくから! ブラッド、高速で型切りお願い、でも慌てないで。ミラ先輩、丁寧に、かつ素早く生物をよろしくお願いします。それとジャスパー、あなたには膨大な量の細工があるけど、できるよね?」
作業台の上を怒涛の勢い
「当たり前。僕を誰だと思ってんのお姉さん」
生意気な返事に続いて、ブラッド、ラト、ミラからも大きな返事が返ってきた。ティアラは指示を出しながら、普段の何倍ものスピードで星硝子を練り上げていく。
(っ! 腕が痛い……!)
無茶な腕の動かし方に筋肉が悲鳴を上げる。それでも休むことはできずに、ティアラはあっという間に星硝子を水飴状に変えていく。
(この技は一級星硝子細工師に認められたものなんだから! これで私はこの学園に入れたわけだし……)
王国パーティーでのことを思い出す。メイドの不注意で割れてしまった大切な星硝子のグラスをティアラは一級星硝子細工師のフレッドとすぐさま作り上げた。その際、彼に技術を高く評価されたのだ。そういえばあのときも時間がなくて焦っていた。
(それでもできたんだし、今回も絶対完成できる!)
全細胞が弾けるように痛むが、それでも手は止められなかった。今、自分にできることを全力でやりたい。
「ティアラさん」
不意にミラが声をかけてきた。手は動かし続けながら、彼女は初めて見るような楽しくて仕方のないような笑みをこぼした。
「仲間に誘ってくれてありがとう、ティアラさん。私、今なら、なんでもできるような気がするの!」
互いの額からは汗流れ、吐く息も荒い。体は疲労と無茶な圧力に悲鳴を上げる。けれどティアラたちは笑いあった。
今、この瞬間だけはなんでもできるのだから。
*
「——試験終了! 直ちに道具を置いて、作業を中止しなさい」
試験官の声が工房中に響き渡った。一斉に生徒たちは糸が切れたように道具を置いて動かしていた手を下す。ティアラたちも全員、その場にへなへなと座り込んだ。
「はあ、はあ……終わったのねっ」
上がりきった息を整えながらティアラは力の入らない腕を見る。腕は体内出血していて、もう自分の意思でぴくりとも動かなかった。
「試験が終わった……」
あまりにも長く苦しい戦いを振り返る。疲れきって重たい瞼の視界の先には、誇り高く輝く星硝子があった。
「完成したんだ……うん!」
じわじわと喜びが込み上げてくる。ティアラ以外のメンバーも皆、作業台の上の巨大な星硝子を見上げていた。
出来上がった星硝子は小さな宇宙が背景だ。小さな氷の上で懸命にペンギンが翼を広げ飛び立とうとしている。目指す先には様々な宇宙の星があるが飛べずにペンギンの足は氷についたままである。そこへ四羽の様々な鳥が舞い降りてくる。それに支えられながらもペンギンは宇宙へと羽ばたいていくのだ。ティアラたちの造った星硝子がそんな世界が広がっていた。
作品に出てくる鳥の数は全部で五羽。それはティアラたちグループの仲間の数を示していた。
「一人じゃできなくても、皆とならできるよ」
ティアラは微笑む。そんなメッセージを込めて星硝子は出来上がった。ペンギンが誇らしげに笑っているような気がした。
「本当に三時間でできたなんて信じられない」
ミラが疲れた表情でくすりと笑った。ブラッドもその場に倒れ込みながら笑う。
「だな。しかも、今までで最高の出来じゃねえか」
「ラトもそう思う」
「まあ、確かにね」
ティアラは幸せでたまらなかった。それぞれ皆、疲労で腕を上げられずに声だけ上げて笑いあう。もう星硝子を壊された怒りさえどこかえ消えていた。
「やっぱり星硝子には幸せを呼ぶ力があるんだね」
古くからの言い伝えにティアラは納得した。そのとき、唐突にティアラの名前が工房全体に響き渡るように呼ばれた。驚いて飛び上がりながらも、どうにか痛む体を起こす。
「ティアラさん、グループ代表者として前へ集まってください」
試験官の言葉に慌ててティアラは駆けだした。もうすっかり他のグループ代表者は集まっていて、談笑している暇ではなかったのだと知る。
「それでは全員そろいましたので、星の授与を始めたいと思います」
ティアラは眼を見開いた。もう星硝子の評価が付け終わり結果が出ていたのだ。気づかぬ間に事が運んでいて、ティアラはついていけなかった。
「まず今回、最高の評価を出し、最も優れた星細工を発表します。星五つのグループが一つだけ出ました」
心臓が大きく縮んだ。星五つ。それは試験で最高ランクにあたる。アリアの声が脳内で再生された。
『星五つを出せなかったら退学しなさい』
次に呼ばれる名前がもし、ティアラのものでなかったら退学になってしまう。ティアラはギュッと眼をつぶって掌を合わせた。
(大丈夫、私たちの作品は……)
会場が波のようにざわつく。
「それでは発表します。星五つを獲得した最も優秀なグループは……——」
誰もが息をのんだ。
(大丈夫、私たちの作品は誰にも負けない!)
「——ティアラ・グレイスの率いるグループです!!」
わっと歓声が沸いた。ティアラは天と地が逆さまになったかのような感覚に陥る。ゆっくりジャスパーたちのいる作業台を振り返りティアラは何も考えずに駆け寄った。
「ジャスパー! ミラ先輩! ラト! ブラッド! 私たち…………——星五つとったよっ!!」
飛び込むようにティアラは四人の輪に突っ込む。ティアラたちは五人全員で手を握りしめあった。嬉しくて嬉しくて、涙が溢れ出てくる。
授与された五つもの星は胸元で輝き、大きな拍手に包まれた。
*
その日、ティアラたちは新たな伝説を作り上げた。
それは『最下位ランクの星なし生徒がまさかの最高ランク星五つを獲得する』というまるで奇跡のような出来事だった。
(第七章 いざ、戦いのとき 終わり)
- Re: 銀の星細工師【更新10/19】 ( No.183 )
- 日時: 2014/10/30 06:09
- 名前: 妖狐 (ID: so77plvG)
■参照2000突破■
ありがとうございます!!
ついに銀の星細工師も『ラスト』に突入しました。
「え、ラスト!?」と思った方もいると思いますが、実はティアラたちの戦い(試験)が終わったら、今作は終了としようと思います。
いろいろと書き途中ではありますが、次の新作小説も制作中です。
最後までエンジン全開で書ききっていきたいと思うので、よろしくお願いします<(_ _)>
と、いうことで、今回は新作のあらすじを少しだけ紹介したいと思います。
■あらすじ
『決して目立つことのない地味系女子高生、真白(ましろ)はある日誤って池に落ちてしまう。
そこで死を覚悟したが、なんと池の奥は妖怪の住む世界へと繋がっていた!
しかもなんとそこは『女人禁制である妖怪騎士団の領地』だった。
女だとバレれば即、首をはねられてしまう真白は男と偽るが……!?』
不気味で愉快な妖怪たちが盛りだくさんの異世界ワールドです!
新作、怪しすぎますね!笑
また今回の主人公は超のつくへなちょこです。今まで元気な女の子を描いてくることが多かったのですが、新作では彼女が不のオーラを出しまくります。
まあ、そんなものもぶっ飛んだ性格の妖怪たちの前では薄れてしまうんでしょうけど。
みなさん、知ってのとおり名前に妖怪の名前を入れるほど妖怪好きの妖狐です。
新作は期待してくださると嬉しいです!(こんな大口たたいちゃっていいのかな…ハラハラ。
それでは、参照2000突破記念、特別短編へをどうぞ!
■特別短編『お姫様の番犬』
>>184
- Re: 銀の星細工師【参照2000感謝!】 ( No.184 )
- 日時: 2014/10/25 13:59
- 名前: 妖狐 (ID: so77plvG)
■特別短編『お姫様の番犬』
「劇に出てほしい?」
ティアラは首をかしげて聞き返した。すると目の前の男子生徒は困ったようにうなづく。
「はい。急なお願いなのは承知なんですが、今、演劇クラブでヒロイン役の子が倒れちゃってて。代役を立てようにも体型に無理があるんです。それでグレイスさんにお願いできないかと……」
クラブ部長と名乗る男子生徒は特徴的な天然パーマの栗毛頭を思いっきり下げた。
「お願いします! 劇に出てください!」
「え、ちょ、頭を上げてください!」
慌ててティアラは懇願する。彼はティアラより年上の先輩だ。教室の前、しかも廊下のど真ん中で頭を下げる部長にティアラは焦って冷や汗が出た。一目が気になるが彼は一向に頭を上げようとしない。
「無茶なお願いなのは承知の上です。けれど、あなたじゃないと、この役は……」
苦しげな声が漏れる。切羽詰まった様子の彼にティアラは胸が痛んだが、同時に不安も生まれる。
「私にヒロインなんて出来ませんよ。まず劇なんてやったことありませんし……」
渋るティアラに部長はそれなら、と頭を上げる。諦めてくれたのかと思ったが、彼はいきなり横に置いてあった紙袋から何かを取り出した。
「劇に出てくれたら、このバームクーヘンを差し上げます!」
「それもしかして——学園内にあるっていう幻のケーキ屋の!?」
大声を上げてケーキボックスを食い入るように見つめた。まさに売り始めて一時間もたたずに完売する幻のケーキ屋のバームクーヘンだ。あまりの美味しさに食べた生徒は虜になるそうだが、個数限定品なのでなかなか手に入らないものだった。
「どうやってこれを……」
「部員総出でゲットしました。我々演劇クラブはそれだけ本気です」
部長はまっすぐティアラを見つめる。その手には幻のバームクーヘン。ティアラはつばを飲み込んで、ゆっくり首を振った。
「そのお願い、受けます」
がっちりティアラと部長は熱い握手を交わした。
*
「ティアラ、綺麗なのです」
ラトが微笑んでティアラを見つめる。当の本人は困惑気味の顔で頬を上気させた。
「い、いや、こんなの着慣れてないから似合ってるわけないよ。それにしてもラトが演劇クラブの衣装デザイナーだったとは驚いたな」
目を丸くするティアラにラトはニコニコと笑う。彼はやっぱり美術素質だなと思った。
(本当にすごいな……)
ラトのデザインしたと言う衣装を身に着けたティアラは改めて自分を鏡で見つめた。衣装はひらひらしたレースたっぷり付いていて、少しの動きでふんわりと揺れる。けれどその代り体全体が重かった。
ティアラが演じる役は中世のお姫様役だった。そのため派手なドレスの衣装が装着されて、普段伸ばしっぱなしの髪も綺麗に巻かれている。機能性には優れていないが、野生育ちのティアラを包み隠すように可愛らしくしていた。
「グレイスさんって地毛がもう銀の髪だから、すごく似合ってて羨ましいわ」
衣装係の先輩がくしを持ったまま笑う。彼女はドレスの着付けにあたふたしていたティアラを一瞬のうちにドレスアップしてしまった達人で、その素早さには舌を巻くほどだった。
「いえ、そんな……」
あちこちから褒められ不覚にも心が高揚する。照れを隠すためどこかへ逃げようと足を動かしたとき、ドレスの裾を踏みつけてしまった。これはやっちゃいけないやつだ、と思いながらも虚しく、そのまま前へ体がぐらついた。
「おわっ!」
つんのめりながら顔面強打を覚悟したとき、腰を掴まれて引き戻された。驚いて振り向くと心臓が一瞬止まる。
「キ、キース!?」
驚きのあまり声が裏返る。黒曜石の瞳がすぐ目の前にあって、ティアラは眼をそらさずにいられなかった。
「相変わらずそそっかしいな、お前は」
面白そうに笑うキースにティアラは困惑する。
「なんでここにキースが……」
「俺も出演を頼まれたんだよ。スタントマン役で助っ人に来たんだ」
あまりに距離が近かったので気づかなかったが、キースは黒い騎士風の衣装を身に着けていた。ミステリアスな雰囲気が彼に合っていて、眼を奪われる。
「僕も助っ人に来たよ、ティアラ」
唐突に背後から腕をを引かれた。振り向くとそこにはキースとは正反対に、真っ白な騎士風の衣装を身に着けたヒューがいる。
「僕らはお姫様役のティアラを守る騎士をやるんだ」
爽やかにはにかむ彼は本当に物語から出てきた王子のようだった。キースもヒューも性格は全く違うが、どちらも騎士役にぴったりだ。あちらこちらで女子の黄色い悲鳴が上がっている。
「今回の劇は豪華ね、部長!」
衣装係の先輩がにんまりと微笑んだ。
「ああ、そうですね。絶対大成功だ。これだけの見栄えがあると、僕の努力もあったってもんですよ。なかなか黒い騎士役の彼は受けてくれなくてさあ……」
部長が感極まったように印象的な垂れ目をうるませた。
「でもグレイスさんが出るって言ったらあっさりOKしてくれてね」
「え?」
ティアラは驚いてキースを見た。期待に胸が膨らむ。
(私が出るからキースも出たの……?)
キースはティアラを見つめたまま、ゆっくり微笑した。
「お前の棒読みの演技が見たかったんだよ」
皮肉に笑う彼はいっそ悪魔のようだった。
「分かってましたよ、どうせ!」
期待した自分を殴りたくなる。けれど彼の騎士姿に胸が鳴ってしまうのは抑えられなかっった。
*
その日から放課後、ティアラは演劇の練習を続けた。最初は緊張で噛みまくりだった台詞も日が経つごとに、すらすらと頭から出てくる。キースにはしょっちゅう笑われ、ヒューはそれを優しくフォローしてくれた。
「そういえばラストシーンって、まだ練習していないよね?」
休憩の途中、シャツを仰ぎながらティアラはヒューに話しかけた。ヒューも汗をぬぐいながらうなづく。
「そうだね。台本にも載ってなかったし……」
二人して首をかしげてみた。本番までに大事なラストシーンを練習するだろうが、劇まで残り気づけば三日だ。そろそろ焦ってくる。
「まあ、どうにかなんだろう」
キースは余裕な口調で椅子から立ち上がった。
「それじゃあ練習再開するか、棒読みさん」
悪態をつくキースにティアラはむっと口をまげる。けれど言い返せないのはキースが驚くほど演じるのが上手いからだ。クールな黒い騎士役をキースは難なくこなしていて、演技中でさえ見惚れてしまう。
「ティアラは棒読みなんかじゃないよ、大丈夫。中世の時代は少しイントネーションが違ったって設定にすればいいんだから」
ヒューが微妙なフォローを残して体育館の壇上へ上がっていく。彼も元々貴公子だったので優雅な身のこなしが綺麗だった。
二人が練習再開のために壇上へ上がると、見学に来ていた女子生徒が一斉に声を上げる。それにこたえるかのように始まった剣を使った練習にティアラは唇を引き結んだ。
(私も頼まれたからには二人に劣らないような演技をしなきゃ)
幻のバームクーヘンを脳内で描きながら、ティアラはタオルを置いて壇上へ登る。
*
ついに演劇発表の日が来た。けれどティアラは驚愕の事実に声を上げる。
「ラストシーンってこうなるんですか!?」
誰も想像しなかったラストに台本を思わず二度見して部長に尋ねた。まさかの開演当日に知らされたシナリオは衝撃の展開である。脚本を書いた本人である部長は相変わらずの天然パーマを振りながらうなづいた。
「ああ、そうです。だからグレイスさんにしか頼めなかったんですよ」
「そ、そうだったんですか」
自分が選ばれた理由を知り、ティアラは納得した。確かにこの学園ではあまりこのラストに似合う体型をした生徒は少ないだろう。
「わたしに、できるでしょうか……?」
「もちろん! 大丈夫ですよ、あなたなら」
部長は力強くうなづいた。それだけで安心できる。
「それに二人の騎士がいますしね」
確かにそうだ。二人ならティアラがなにをしでかしても上手くフォローしてくれるだろう。
「それでは楽しんでいきましょう」
『はいっ!』
開演を告げるブザーの音と共に衣装に身を包んだ生徒全員はうなづいた。
(続く)
- Re: 銀の星細工師【参照2000感謝!】 ( No.185 )
- 日時: 2014/10/25 13:57
- 名前: 妖狐 (ID: so77plvG)
■お姫様の番犬(続)
あるところに古くからの伝統を誇る大国がありました。とても豊かな国で、民は飢えに苦しむことも戦に参戦することもなく楽しく過ごしていました。けれどその国には一つだけ大きな問題がありました。
それは後継ぎがまだ若いお姫様一人しかいない事です。王様はもう年を取っていたので、そろそろ次の王を決めなければいけませんでした。
「なあ、姫よ。お前の気に入った相手はいないのか?」
王は姫に尋ねました。後継ぎに男がいない場合、彼女が結婚する相手が次の王になるからです。
「ええ、いないわ、お父様。それに結婚する気なんて起きないの。私は一生独身人生を謳歌するのよ。その方が楽しいじゃない?」
「そんなこと言うな。お前が結婚してくれないと次の王が決まらないんだ」
「ごめんなさい、まだ私は自由でいたいの」
姫はドレスをひるがえして逃げ出します。王様はため息をつきながら、そんな姫を優しく見つめていました。
けれど彼女は決して自由にはなれませんでした。毎日毎日、次の王になるため彼女のもとに多くの男性が求婚をしてくるからです。
「僕と結婚してください!」
「無理よ。わたし貴方の事まったく知らないもの」
「それなら今からでも遅くありません」
素っ気なく返しても、男性は諦めることはありませんでした。彼は姫に詰め寄るよう強引に腕をつかんできます。そのとき、二人の騎士が姫の前に立ちはだかりました。
「我らの姫様に触れないでください」
白の騎士は優雅に姫を守ります。
「触れたらお前の首が吹っ飛ぶからな」
黒の騎士は脅すように笑いながら剣に手を掛けました。
キースとヒューが出てきた途端、観客が一斉に盛り上がった。特に女子生徒の黄色い声が飛び交う。
ティアラは冷や汗をかきながら台詞を続けた。
「私と結婚したかったら彼らを倒してみせて頂戴」
そういうと決まって彼らは逃げ出していきました。二人もの剛腕な騎士に勝てるわけがないからです。二人は幼い時から姫を守る唯一無二の護衛でした。
そこから劇が展開していく。ティアラは必死にライトを浴びながら自由気ままな姫を演じた。
時には大笑いしたり、時には涙ぐんだりする。観客の視線が一身に集められているのを感じながら、なぜかとても楽しかった。
前半のシーンが終わって一度、幕が閉じる。休憩時間だ。壇上を下りて待機場所に向かうや否や、ティアラは糸が切れたようにその場へ座り込んだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
衣装係の先輩が走ってくる。ティアラは上がりきった息で笑った。
「……はい、なんか興奮しちゃって」
「お疲れ様。後半も乗り切るわよ」
「はい!」
休憩時間あっといま間に過ぎて幕が上がる。観客の熱を持った視線が注がれる。
劇の内容はそこから恋愛がらみへと発展していった。姫を巡る国内の戦争だ。複雑で切ない恋心の連鎖に観客は何度もハンカチを手に取っていた。
「姫、ずっと前からお慕いしていたのです」
白い騎士役のヒューが跪いたままティアラの手の甲にキスを落とす。演技だと分かっていてもティアラはドキッとした。
「待て、姫は俺のもんだよ」
強引に肩を引き寄せられ黒の騎士役のキースに抱きしめられる。二人の騎士に争われる設定なのだ。
(うーん、これを役得っていうのかな……)
ティアラは胸の高鳴りを押さえる。現実にこんなことは起こらないだろうと呑気に考えるティアラには二人の騎士の目が本気なのに気付かなかった。
「ならば決闘だ」
「ああ、望むところ」
ここで舞台がラストシーンへ突入する。姫を取り合って剣を交わらせる騎士の決闘の後には衝撃的なフィナーレが待っているのだ。
見事な息の合った決闘を見ながら、ティアラは暗幕で心を落ち着かせた。
(私なら最後、きっとうまくやれる)
繰り返し言い聞かせる。最後のシーンのために自分が選ばれたのだ。ここで失敗するわけにはいかない。
そのとき、唐突に裏で劇を見ていた部長がティアラの肩に手を置いた。
「よろしく頼みます。この劇は君が主役のようなものですから」
「はい!」
ティアラは大きく深呼吸して一歩、前へ出た。壇上では二人の騎士が決着をつけられずに弱っている場面だ。
——これがラストシーン。
ティアラは静まり返った場に響くような足音を立てて歩く。壇上の中央に立って大きく手を広げた。
「もう、私を巡るのはやめて! こんなことになるなら、いっそ私が……」
誰もがティアラを見つめる。ティアラは一拍ためて大きな声で言い放った。
「——私が王になるわ!」
台詞と同時にドレスを脱ぎ捨てる。その下に着込んでいた騎士の衣装が姿を現した。
観客がどよめきで溢れた。役者たちもそれぞれ驚くように声を上げる。その中で姫役であるティアラだけが豪快に笑った。
「女が王になってはいけないんて、一体だれが決めたの? そんなのくそくらえだわ」
誰もが、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしながらどっと歓声をあげた。どうやら衝撃的なラストシーンは観客に受け入れられたらしい。たくさんの拍手に包まれながら、劇はハッピーエンドを遂げた。
*
「成功したわね、部長」
舞台の裏で衣装係の先輩が満足そうに微笑んだ。目線の先にはティアラがいる。
「それにしてもあの子、すごく騎士の服が似合ってるわ……。なんでかしら?」
「体型のせいだと思います」
部長が垂れ目で微笑んだ。彼も観客の拍手を聞いて嬉しそうだ。衣装係はよくティアラの体型を見つめて他の女性にはあまりない特徴を見つけた。
「あっ! そうか、胸が……」
騎士の衣装を見て納得する。元々騎士の衣装は男物なので胸がある女性には似合わないのだ。けれどティアラは胸がないに等しいため着こなしてしまっている。
「部長、それで彼女を……」
「ええ。グレイスさんを見たときぴったりだと思いましたよ」
衣装係はひっそりとティアラへ哀れみの眼を向けた。その横で微笑み続ける部長に背筋が強張る。
「グレイスさんはどうやら人望が厚いようで、二人の番犬がいるようですし……。これからもちょくちょく役者を頼んでみましょうかね」
垂れ目の奥には誰も気づかない思惑が渦めいていた。
もしティアラがまた役者をやれば、必然と役者をやりたがらないキースやヒューも自ら名乗り出てくるだろう。それぐらい彼ら二人からはティアラを他の者に渡さない対抗意識がある。そこをうまくす利用すれば演劇クラブもさらに人気度を増すだろうと考えていた。
黒と白の騎士役だった二人を交互に見つめる部長に衣装係は小さくため息をついた。
「演劇クラブで一番腹黒いのって、意外と部長よね」
「いや、そんなことないですよ」
黒いたくらみには気づくことなく、ティアラは爽快な気持ちで拍手を浴びていた。
その横にいる二人の騎士の、お芝居なしの恋心に気づくのは、また次の公演で。
(お姫様の番犬 おわり)
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