コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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銀の星細工師
日時: 2015/01/28 15:12
名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)

■あらすじ
 人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
 細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?

「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
 やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
 

■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。

■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー

(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド


■目次

プロローグ            >>1
第一章 細工師と狩り人      1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
                 4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待  幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37 
                 7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!?   幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
                 12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー      幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
                 17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
                 20話>>120 21話>>123 22話>>130
                 23話>>133 24話>>134 25話>>139
                 26話>>146 27話>>149 28話>>153
                 29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音     幕間>>157 30話>>165 31話>>166
                 32話>>167 33話>>170 34話>>171
                 35話>>174 36話>>175 37話>>176
                 38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき     幕間>>179 39話>>180 40話>>181
                 41話>>182
第八章 隣同士の想い       幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い     幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
                 46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師       幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ            >>207

 400参照突破【告知】 >>53
 600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
 900参照突破【人物紹介】 >>116
 1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
 1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
 2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
 3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
 あとがき >>211      

■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)

■お客様
*コメントをくださった方

珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様


■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団      新連載
救世主はマフィア様!?         完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい     完結
ラスト・ファンタジア         連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!?    連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん!        完結

それでは本編へ レッツゴー!!

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Re: 銀の星細工師【更新7/28】 ( No.166 )
日時: 2014/07/30 14:12
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

 一ミリ単位で削られた細かな彫りを持つ星硝子の蝶にティアラは冷や汗を浮かべた。
「嫌になるくらいの緻密《ちみつ》さね……」
「褒め言葉として受け取っておくよ、お姉さん」
 ジャスパーは当然と言う様に笑っている。彼が一時間ほどで作り上げてしまった蝶はとても美しく完成度が高かった。そして何よりも眼を引くのは細かすぎる細工技術。
 ティアラは背中がぞくぞくするような感覚に襲われた。ジャスパーの作品を見ていると飲み込まれてしまいそうになるのだ。美しすぎるゆえ目が離せなくなり、悪魔が誘惑するように背後に立っている。怖くなるくらいだった。
「おいちびっ子。お前の細工技術はんぱないな」
 ブラッドの感心したような言葉にジャスパーはむっと眉を寄せた。
「ちびっ子っていうな! 僕は小さくない。君が僕より大きいだけだ」
「でも、やっぱり、背、小さいのです……」
「うるさいよ、ラト・アズゥ! 何よりもお前の背の高さは論外だから」
 お前身長いくつだ、とブラッドがからかうようにジャスパーの頭に手を置いて伸長を測るふりをする。一気に和んだその場にティアラは少しだけ息を吐いた。ジャスパーの作品から目が縫い付けられたように離せなくなっていたで、ブラッドがちゃちゃをいれてくれてよかった。気持ちを切り替えるように頭を振ると、ティアラは大きく手を合わせた。ぱんっという子気味よい音が響く。周りの視線がティアラへ集まった。それを待ってましたとばかりにティアラは提案した。
「ねえ、グループ内での役割分担をしない? そうすれば制作するとき個人の能力を今よりのばせて、なによりも私たちに足りない部分を補いあえると思うんだ」
「それはいい考えね」
 ミラの言葉に他の三人もうなづく。ティアラはさっそくこの一時間で仕上げた全員の作品を作業台に並べた。並べてみると個人の特色がより強く見て取れる。
「まずはジャスパーから。やっぱり細工技術が誰よりも上手かな。文句なしって感じね。それにその他の練りの質や立体感だって衰えている部分はないのよね」
「僕に星細工で苦手はないからね」
 あまりにも自己評価の高い言葉だったが、うなづくほかなかった。ジャスパーの作品を一度目にしてしまえば、彼の技術を愚弄することはできない。
「ジャスパーは細かい彫り担当かな」
「うん、いいよ。その担当についてあげる」
 年下の癖にどこまでも上から目線な態度はどうにかならないのだろうか。いつか絶対に敬語を使いたくなるぐらい私を尊敬させてやる、とティアラは密かに誓った。
 ふと横を見るとミラがなにか必死に手帳へ書き留めていた。興味につられて覗いてみた次の瞬間、ミラは飛び上がって恐ろしい速さで後ろへ退却する。
「な、なな、なんですか、ティアラさん。いきなり急接近するなんて、大胆すぎます……!」
「え、ご、ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて。ミラ先輩、何を書いているんですか?」
 ミラは手帳をそっとティアラの方へ向けて頬を赤くさせながら説明してくれた。
「役割分担しているでしょ。だから書いておこうと思って」
「わあ、ありがとうございます!」
「い、いえ、そんなお礼を言われるほどじゃ……!ほら、私ここでは年長者だけど頼れるところがまったくないし……」
「そんなことないですよ!」
 彼女のまめな性格に有難さが湧く。些細なことに気づくミラは、ティアラの中でもう頼れるお姉さんだった。
「ほら、ミラ先輩の作品って優しくて暖かくて、見ていると和むんです」
 ティアラは作業台を振り返った。彼女が作ったのは小さな雀だった。つぶらな瞳はまるで命をともしているように輝き、やわらかい羽毛が今にも風に揺れそうだ。
「先輩は作品に命を宿すのが上手なんだね」
 ジャスパーの言葉はミラの星細工を表すのにぴったりな言葉だった。きっと生物なら、動物の他に植物なんかも上手く作れるのだろう。
「じゃあミラ先輩は造形担当ということで」
「ええ、精一杯頑張るわ」
 ミラは嬉しそうに笑った。その笑顔に癒される。彼女の作品は彼女の性格をそのまま表しているようだった。
「よし、じゃんじゃん行こう! 次はブラッド」
「おうっ」
 勢いのいい返事を得て、ブラッドの作品を観察する。一番目立っていたのは作品の綺麗な切り口だった。
「ナイフさばきがすごいわ」
 細工する前の工程である星硝子を切る作業ではナイフをよく使う。そのまま練った星硝子から粘土のように形を作り上げていく場合もあるが、多くは星硝子をパーツごとに気って組み合わせていくのだ。その切る工程がフレッドは誰よりも頭一つ分、飛び出ていた。
「俺ん家、鍛冶屋なんだよ。だから刃物は昔から馴染み深くてさ。ナイフを扱う作業だったら任せてくれよ」
「うん、お願いするわ。フレッドは切断担当」
 ティアラの言葉をミラが手帳にかきこんでいく。それを確認してティアラは最後にラトの作品を見やった。そして言葉を失った。
 なんと表現したらいいのだろうか。
 戸惑うのはそこに、壮大な森が広がっていたからだ。多くの木々に草花の生える大地。植物の一つ一つは大雑把に作られているが、それが集結すると迫力があった。そして何よりも驚くべきはこれを作り上げた時間が一時間だと言うこと。
「これを本当に一時間で作り上げたの!? すごい……ラトは作り上げるのが早いんだね。普通だったらこの大きさを作るのには半日掛かるよ。しかもこの量の星硝子を練り上げたってことは……ひょっとすると腕力かなりあるの?」
 ラトは小さくうなづいた。その事実にティアラは意外な思いがした。身長はあるが痩せているラトに筋肉がついているとは思えなかったのだ。むしろがっちりとした体系のブラッドの方がうなづける。けれどラトの作品を見ていると、ひょっとすればブラッドより筋肉質なのかもしれないと思えた。
(そういえば、前にお姫様抱っこしてもらった時、それなりの腕力があったから、あんなに長時間疲れないで持ち上げれていたんだよね)
 普通だったら同年代の人を持ち上げるのは疲れるだろう。子供と違ってどんなに痩せてる人でもそれなりに体重はあるのだ。それにティアラ自身も自分が軽いなんて思っていない。けれどラトは疲労した様子もなく軽々とティアラを持ち上げていた。
 腕力と早い制作技術を生かす作業と言ったら……。
「ラトは背景担当かな。星細工は背景を作るのに時間がかかって作らないことも多いんだけど、ラトならすぐ作れると思う。背景があるだけで星細工の完成度はかなり変わるし」
「分かった。ラト、背景やります」
 大体の役割分担が済んでティアラは満足げに笑った。四人の担当を組み合わせて制作していけば高スピードで、さらにそれぞれの特技を生かせる。
 まずラトが背景を作りだし、ブラッドが様々な小物とメインの型切りをする。その型を組み合わせてミラが造形していき、ジャスパーはあらかた仕上がった形に細かな細工を施していく。
 自分で完璧と太鼓判を押したくなる制作過程だ。ティアラが笑みを口元に浮かべていると、ジャスパーが首をひねった。
「待ってよ、お姉さん。お姉さんはなんの担当?」
「……あ」
 自分のことなんてすっかり忘れていた。ジャスパーが軽くため息をつく。
「まったく、どうしようもない阿呆だよね、お姉さんは」
 仕方がないな、という態度に腹が立つ。ジャスパーはティアラの作品をじっくり見て、無表情で評価した。
「なんか特徴がないね。お姉さんの作品。簡単に言っちゃえば陳腐?」
 特技なし、と評価されてティアラは耳を疑った。けれど確かにティアラの作品に秀でる物は少なかった。練りは一級品だが、細工は平凡だ。よく言おうと努力すれば、安定感がある。
「彫りも切りも造形も、決して悪いわけじゃないよ。ちゃんと全部できている。でもお姉さんの作品にはお姉さんの色がないね」
 的を獲た言葉にティアラは視線を下げた。
 幼い頃から星硝子職人である母に教わってきたティアラには技術がしっかり染みついている。けれどそのせいか未だに自分の特技を見いだせていなかった。唯一得意な練りは練習すればするほど上手くなるから、特技とは言い難いし。
「まあ、お姉さんは練り担当かな。あとの細工部分は補修作業にまわるということで」
 それが妥当だろうとティアラも思えた。
 全員の担当が決まってだんだんグループとしての団結力もついてくる。それぞれが自分の特技を見出してモチベーションが上がり、さらに作品作りを再開し始めた。流れはティアラの望んだいい方に向かっている。
 けれど、ティアラは作業台を見つめたまま動けなかった。

          *

『お姉さんの作品にはお姉さんの色がないね』
 ジャスパーの言った一言がずっと頭を回っている。時間帯は深夜だと言うのにちっとも眠くなかった。
 ベットの中で寝返りを打ちながら、ティアラは何もない暗闇をずっと見続ける。
 向かい側にあった、同室でルームメイトのアリアのベッドはそこになかった。
 試験で星なしと決まったとき、アリアは掌を返したようにティアラから離れて行った。出会った時から優しくて友達のような存在だったアリアが急に冷めたような目つきでティアラを見るようになったのだ。その理由はティアラが使えなくなったからだった。アリアは推薦者であるティアラの傍にいることで技術向上と自分の引き立て役にすることを目論んだらしいが、ティアラが星なしになったので使えない人材と判断した様だった。
 それからいつの間にかアリアは別室に引っ越していった。ティアラと同室になったのもアリアの権限だったそうなので、別室にするのも簡単だったのだろう。あれ以来、顔は滅多に合わせず、一言も言葉を交わしていない。
 急にさびしくなり、ティアラはベットから立ち上がった。

 深夜は外出禁止だが、ティアラはこっそり寮を抜け出した。目立たないようにするためライトは持てず、外は真っ暗で視界が悪かったが、ティアラは迷いなく学園へと足を進めた。元々、山暮らしだったお陰で夜目が効くからだ。
 生ぬるい初夏の風を頬に受けながら部屋着のままの恰好で校舎に忍び込み、ティアラはいつかアリアに真実を告げられて泣いた場所へ足を向けた。
 涼しい音を立てて湧き出る噴水のある中庭に出ると、走って芝生の上に倒れ込む。土の香りとやらかい草の触感に安堵が広がった。
「ふう、やっぱりここは安心する」
 中庭はティアラにとって特別な場所だった。いつもヒューとお昼を楽しく食べる場所であり、仲間と作戦会議をする場所でもある。そしてなによりも——……キースに出会えた場所だ。
「……もう一回、会えないかな」
 会ったら聞きたいことがたくさんある。なんでここにいるの、とか。今は何をしているの、とか。彼の闇に溶けてしまいそうな黒髪が見たい。人を馬鹿にするが、優しく笑ってくれる笑顔が。
「キース……」
 名前を口にしただけで目頭が熱くなった。いつの間にこんなさびしがり屋になってしまったのだろう。ため息をついたとき、唐突に人影がティアラの上に振ってきた。ゆっくり上を見上げて、眼を見開く。心臓の血流が一気に加速した。
「呼んだか?」
 もうかすれてきてしまった記憶の中の顔が、一気に色を取り戻す。鮮やかなほど輝いた。
「なんかこんなこと、前にもあったよな」
 体は動かず、口からはかすれたような細い息だけが漏れる。耳が痛くなるほどの静かな沈黙なのに、体の中は激しく騒いで、血が逆流しそうな勢いと熱を持っている。
 こんな奇跡、二回もあるのだろうか。
 なぜあなたは望んだときに、逢いたいと強く思った時に必ず現れるの。どうして悲しくなった時、私の名前を呼びに来てくれるの。
 どうして私は今、泣きそうなの。
「ティアラ?」
 ああ、そんな甘い声で呼ばないで。

 ティアラは堪らず生涯のパートナーにと決めた相手に抱きついた。

Re: 銀の星細工師【更新7/30】 ( No.167 )
日時: 2014/08/04 17:05
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

 ティアラがいきなり抱きつくとキースは驚いたようにそれを受け止めた。じっと身を固めたまま動かないティアラへ困ったように話しかける。
「……おい、どうした」
「ずるいわ」
 突拍子もない言葉に首をかしげる。キースの服を握りしめたまま離そうとせず、ティアラは更に身をうずめた。
「こんなときに現れるなんてずるい」
 こんなときに現れられたら、気持ちが溢れて止まらなくなってしまう。今まで会うことがなくてどこかに閉じ込めていた気持ちが。
「ずるいってお前が呼んだんだろう……」
「ずるいから私のパートナーになって」
「いや、それとこれは違うだろう! なにより俺は誰のパートナーにもなる気はない」
 キースの言葉にティアラは顔を上げた。見上げた視界の先には懐かしいキースの表情が見て取れる。少しだけ前より大人びて見える顔を標的に、びしっと人差し指をさした。
「いいえ、絶対私のパートナーにしてみせる!」
 そう宣言すると曇った気持ちが一気にはれていくのが分かった。そして二人同時に吹きだした。
「懐かしいな、このやり取り」
「うん。でもまだ諦めていないからね」
「はいはい」
 狩り人と細工師は二人で仕事をする。ティアラがパートナーにしたいと思うのはキースたった一人なのだ。そのとき、唐突にキースがぐっと身を寄せてきた。正確に言えばティアラが引き寄せられたのだ。抱きついたままだった姿勢に今頃意識が向く。
「そういえばお前、なんでいきなり抱きついてきたんだよ。俺が恋しくなったか?」
 からかうような甘い笑みにティアラは顔を真っ赤にさせた。
「な、なに言ってんのよ! 変態!」
 動揺をあらわにしながらキースを突き飛ばして離れるティアラを、彼は面白そうに見て笑った。遊ばれているのだと分かる。
 こんなたわいないやり取りでさえも懐かしくて、ティアラは理由もなく胸が震えた。
 キースはいつも、辛くて苦しい時に現れる。それはまるでヒーローのようだ。本人はまったくそんな性格ではないのに、そう見えてしまうことが少し悔しい。けれど同時に現れてくれることに心底安心していた。
 落ち着きを取り戻すと、今度はキースに聞きたかった言葉が膨らんできた。ティアラはキースから離れると噴水の淵に腰を下ろした。隣に座るよう促し、くつろいだ雰囲気を広げる。ティアラは聞きたかった言葉をゆっくりと問いかけた。
「……ずっと前から聞きたかった事があるんだけどね。その、キースはどうしてグラァース学園にいるの?」
 キースは今、狩り人を目指す生徒が集まる学科にいる。けれど彼の腕は誰もが認めるもので、生徒になって一から学ぶ必要は皆無だった。そんなキースがわざわざやってきたということは何か理由があるのだろう。
 長い沈黙が辺りを包む。キースを見たままティアラは静かに答えを待った。闇に溶けてしまいそうなキースがいつのまにかいなくなってしまわないように。
 キースは視線をふいにずらして、遠くの彼方を見上げた。小さな光がキースの瞳の奥に瞬く。決意、と名のつくもの。
「俺はここへ星硝子を狩りに来たんだ。ここでしか手に入らない星硝子を」
「ここでしか手に入らない星硝子……?」
 言葉が弾けて空に舞った。とても魅力的で驚きを混ぜた光の色。
 星硝子は山によって質が変わってくるが、そのほかは全て同じだ。種類があるわけではない。けれどキースはこの学園を限定して言った。なぜ、ここでしか手に入らないのだろうか。
 ティアラの疑問を読み取ったようにキースは言葉を紡ぐ。
「お前が学園に行った後くらいから、噂が広がってきたんだ。その噂を聞いて俺は耳を疑った。そんなはずはないだろって。でも狩り人の連中たちの情報網で深く調べてみると、無視できないくらいの確証が上がってきた。だから俺はここへ来たんだ」
 強い意志を宿したキースにティアラは息をのんだ。彼がこんな風に真剣な表情をしているのを初めて見たからだ。彼の狩り人の本能が疼いているのをティアラも見て取れる。
「ここの学園には何があるの……」
 いつの間にか手に汗の触感を感じて、手を強く握った。彼をここまで本気にさせる何かがあるのだ。キースが動くと言うこと、それは噂などというあやふやな物じゃなく本当にあるからだろう。
 ここには何か世間で知られていない大きなものがある。
「……この学園の研究者、つまり星硝子を専門とする奴らが『星硝子の品種改良』に成功したらしい」
「品種改良ですって!?」
 思わず声を上げた。強く頭をハンマーで殴られたような衝撃と驚きが体を襲う。あまりの突飛な話に声が出せずにいると、キースもうなづく。
「俺も驚いた。だって星硝子は品種改良できるようなもんじゃないだろう?」
 ティアラは首がちぎれんばかりにうなづいた。
 星硝子は聖なる神秘的なものだ。どこから生まれ、どうやって朽ちていくのかはまだ誰も知らない。
 その不思議さと美しさ故に人々へ幸せを運ぶと昔から言い伝えられている。
 たくさんの者が星硝子の正体を知りたがっているが、聖なるものとされている星硝子なので詳しく調べることは自然と禁忌になっていた。
 けれど、今、その禁忌をやぶり星硝子を調べ、さらには品種改良までしてしまった物がこの学園内にいる。ティアラは肩を震わせた。体が何かに取りつかれたように強張っている。怖い。
「この世に第二の星硝子が生まれたって言うの……?」
「……分からない。けれどきっとここに何かしらあることに違いないんだ。だから俺はそれを見つける。調べてこの目で見るまではこの学園で生徒として生活していくつもりだ」
 キースがここへ来た理由がやっと分かった。彼が品種改良されたという星硝子を確かめたいと言う気持ちが痛いほど分かる。ティアラもその存在を知った瞬間、どうにかしてその星硝子が存在するのか知りたくなった。
「キース、私も探すわ」
 夜の静かな空気に響くような声にキースは微かに目をそらした。気づけば口元が上がっている。
「ああ、お前ならそういうと思った」
 どこか嬉しそうにキースは息を吐き出した。けれど次の瞬間鋭い目つきがティアラに向けられる。
「まだどんなもので、どこにあるかさえ情報はつかめていない。俺は毎日夜に捜索しているが尻尾さえ見えないんだ。かなりの長期戦になると思う。それでも探す意思はあるか? お前、今度試験があるんだろう」
 なぜキースがそれを知っているのかとティアラは驚いた。それを見透かしたようにキースはティアラを見る。
「そんでつまずいているんだろう。お前がこんな時間帯にここへ来るぐらいだから、相当思いつめてるみたいだしな」
 当たりだ。試験で言われたジャスパーの言葉、それに加えてアリアとの関係についての悩みだってある。正直心は不安でいっぱいだった。気まずくなってティアラは目を伏せた。キースのこの問いかけは、ティアラの覚悟を試すためなのだ。好奇心だけでは動くなと暗に言っている。
「他の物に眼を向けている暇なんてないはずだが、お前はそれでも探すのか」
 一瞬、ティアラは迷ってしまった。確かに今のティアラはいっぱいいっぱいで他の物事は抱えられない。けれど——。
「探す。だって私は知りたいもの。星硝子の事ならなんでも知りたいし、分かりたい。まだ見習いだけど私は細工師なんだもの。忙しくなるだろうけど、どうにかしてみせる」
 迷いを捨てて言い切りるとキースはまた嬉しそうに笑った。ふいにティアラの銀髪をひと房、手に取ってかかげる。妙に色気を放った優しい手つきにティアラはキースを凝視した。
「覚悟はできてるようだな。じゃあ俺も一つ、お前に覚悟を決めたご褒美として手を貸してやるよ」
 キースの提案に眉を寄せる。何を考えているのか分からない瞳は怪しげに光った。
「夜の時間は開けておけ。明日からこの時間帯のここへ集合だ。いいか、遅れるんじゃないぞ」
 命令口調のいきなりな約束にティアラはさらに困惑の色を強めた。さらさらとキースの手から髪が流れ落ちていく。
「そんな急に……! いったい何をするっていうの」
「お前の星細工の腕を上げてるための練習、そして星硝子探しだよ」

                  *

 二人を包み込むように、深い夜が眠りから起きていく。その闇に潜むように、誰かが小さく微笑んだ。
「ああ、面白そうな奴らが動き出したようだ。星硝子の品種改良も終わって少し退屈していた頃だし……さて、どうやって遊ばしてくれるかな?」
 唯一、科学者のような白衣が闇にひるがえって存在を表す。けれど気配に敏感なキースさえもそれには気づけなかった。楽しそうな鼻歌が夜空へ溶けていく。

 ティアラはまだ、自分の悩みが最悪の入り口だと知らない。

Re: 銀の星細工師【更新8/04】 ( No.168 )
日時: 2014/08/04 17:43
名前: 八田 きいち。 ◆8HAMY6FOAU (ID: P2y76W7r)



キぃいいいいいぃいぃぃぃいすぅうううううぅぅぅくぅぅううううん!!
王子様かっ、キースくんは王子様か!ティアラちゃんに抱きつかれちゃってなんて羨ましいっ!!いちゃこら万歳!!

もうグループ戦が楽しみすぎて泣けてくる( ´&#8226;ω&#8226;`)
みんないい子。可愛い子達。もう優勝だわ('ω' )三( 'ω')

これからのキースくんとティアラちゃんの絡みを期待し、
待ってます三└(┐卍^o^)卍

更新がんばってください!!応援します!!

Re: 銀の星細工師【更新8/04】 ( No.169 )
日時: 2014/08/04 23:00
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

きいちさん>

キース君、またまた登場です! 
最近、出てこなかったしね…。
まさかそんに喜んでいただけるとは思っていなかったので嬉しいです(^◇^)

グループ戦楽しみにしていただけますか! これは頑張らねば…!!
いろいろ新キャラもまだまだ出していきたいですし…。
なんだか描きたいことがたくさんありすぎて収集つきません(@Д@)

応援ありがとうございます! 頑張ります(*^_^*)

キース君とティアラちゃんの絡み、これからもっと増えますよー!
ありがとうございました<(_ _)>

Re: 銀の星細工師【更新8/04】 ( No.170 )
日時: 2014/08/05 23:32
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

 午後二十二時過ぎ、外出時間をとっくに過ぎた時間帯にティアラは部屋から抜け出した。廊下は真っ暗で並ぶ他の部屋から明かりが漏れているのが見える。まだ消灯時間ではないので、ティアラは注意を払いながらも漏れた明りを頼りに寮の玄関を出た。こっそり行動すること自体苦手なので寮から無事出られるかどうか不安だったが、寮内は女子のしゃべり声に満ちていて音を気にしなくてもよかった。
 靴を履いて適当なパーカーを羽織りなおすとティアラは駈けだす。生ぬるい初夏の風が頬をなでていった。
 指定された場所は昨日と同じ中庭で、時間帯は二十二時以降と大雑把なものだった。それにまだ、何をやるのかすら具体的に聞いていない。
(第二の星硝子探しならなんとなく何をするか分かるんだけど、細工の練習って一体……なに?)
 首をひねりながらも足は止めずに校舎へ入る。静かな校舎は自分の足音が普段より大きく聞こえ、小さな物音に敏感に反応した。見つかるかもしれないという不安と緊張のせいでか自分で決めた予定時刻より少し遅れてどうにか中庭へ到着する。すると闇の中で誰かが振り向いた。
「やっと来たか。ったく、どんだけ待たせるんだよ」
 口調だけで誰だか分かった。言い放たれた言葉にむっとしてティアラも言い返す。
「待たせるって集合時間決めてなかったじゃない。アバウトすぎるのよ」
「ねちねち決めた約束を守る主義じゃないんだ」
 でも、ここに来た。それはキースが約束を守ってくれたということだ。そのことでティアラは横暴なキースの言葉に言い返す口調を止めた。代わりに足を進めてキースに近寄る。すると夜の闇に慣れてきた眼が微かな光を拾ってティアラにキースの姿を見せた。
 今まで突然現れることが多く服装になんて目が向かなかったが、改めてみると制服姿のキースは驚くほど似合っていた。だらしなくない程度に着崩されたスタイルに瞬き三回分見とれる。第一ボタンは開けられ、ゆるく結ばれたネクタイ。ワイシャツの裾は腕まくりされていて、鍛えられた筋肉が見て取れた。そして自分でカスタムできるアクセサリーが所々にあしなわれている。いくつかのバッチと腰につけてあるチェーン。それらは出会った頃から身に着けている指輪やブレスレットと相性があっていて、一目でキースのセンスがいいと分かる。きっと狩り人科のクラスではそれなりに女子から目をつけられていることだろう。
 ティアラは無意識に自分の頭についているリボンを直していた。涼しげな色合いをした柔らかい生地が頭の上で揺れる。
(もうちょっと私の制服もカスタムし直そうかな……)
 入学した当初は派手にならず清潔さを目指してきたが、もうそろそろ自分なりのものを考えてみてもいいかもしれない。この学園では制服に強く個性が表れるため、自分の好きな物を共感できる友達も自然と増えやすいのだ。自分の理想のデザインを頭の中で思い描いていると、いきなり軽く額をこづかれた。
「おい、なにボーっとしてんだよ。いくぞ」
「え、どこに?」
「決まってんだろ。お前らの校舎にある工房だ」
 さっさとキースはティアラを置いて歩き出してしまう。こづかれた額に手を当てながらティアラは急いで走り出した。なんとなく心臓が騒がしい。

               *

 工房へつくと、周りの校舎と同じくそこも電気が消され厳重に鍵が掛けられていた。あちゃあ、というふうにティアラはため息をつく。
「無理だよキース。工房は外出時間を過ぎると閉まっちゃうんだよ」
 教えるようにいうとキースはティアラを睨んだ。
「それぐらい知ってる、この能無し」
 自分が鍵が掛かっていることを考えていなかったと思われたのが嫌なのか、キースは一気に不機嫌になった。扱いの難しい奴だ。
「鍵なんて開ければ、ないも同然だろう。本当、お前の頭は鳥頭なんだな」
「さっきから一言余計ですっ。それに開けるってどうやって……」
 その疑問はわずか五秒で解決した。キースがどこからか取り出した針金を鍵穴に差し込んで動かすと、カチッという音が立て続けに響いた。錠前が外れて扉が薄く開く。まるで見事な泥棒技だ。
「これも狩り人の技の一つ?」
 大して驚きも見せずティアラは落ちた錠前を拾った。今までキースがいきなり屋根から飛び降りてきたり、道具を使って普通は無理な事を難なくしてきたのを目にしていると、これくらいじゃ察しがついてくる。慣れって案外恐ろしい。
「別に習ったわけじゃないんだが、やってみればできるもんだったんだ。針金一本しかいらないから便利だしな」
「いや、この技あんまり使わない方がいいわ。どう見ても泥棒と一緒だから」
 危ない発言をしたキースに釘を刺しておく。それにやってみればできた、なんてキースしか言えない発言だ。自分では無理と断言できる自信があるだけに。
「とりあえず中に入るか」
 鍵穴をまたどこかにしまってキースは真っ暗な空間に躊躇なく入って行った。ティアラは飲み込まれそうな黒一色の世界に少しだけ足がすくんでしまう。けれど素早くキースが電気のスイッチを見つけてつけてくれたので安心して中に入る。
「ありがとう。……ん? でもちょっと、待って! 電気つけたら外にばれちゃう!」
 とっさに叫んでティアラは電気のスイッチを全部落とした。再び真っ暗になるが怖くはなく、危ないところだったという緊張感が広がる。キースは不服そうに眉をひそめた。
「電気消したら何もできないだろう。少しくらい、つけてても大丈夫だ」
「いやいや、駄目だって。一時間おきに校内の見回りが来るからすぐに見つかっちゃう」
 首を振るとキースがめんどくさそうに机へ腰を掛けた。実際には暗闇で何も見えないため気配が、そう動いた気がするだけだが。
「なんでお前そんなに警備に詳しいんだよ。前からいたなら分かるけど、ここに来てまだ一か月くらいだろ」
「それは友達が教えてくれて。前のルームメイトなんだけどね……」
 徐々に声が暗くなっていくのがか分かった。消灯時間や見回りのことを事細かに全部教えてくれたのはアリアだった。聞けばなんでも答えてくれた。思いがけずに胸が痛むのを感じていると、突然強い光が眼に飛び込んできた。思わず目を細めてそちらを見るとキースがランタンに炎を灯している。
「これならいいだろう。明かりも小さいから外に漏れづらいし、危なくなったらいつでも消せる」
 またもやどこから出したんだ、と思いつつもティアラはうなづいた。ゆらゆら穏やかに揺れる火は温かくて優しい。ボロボロになった心を少しずつ修復していくようだ。
「それじゃあ作業を始めるぞ」
「作業って星細工の? でも一体何を……」
「そんなの知ってるわけないだろ。お前がどうにかするんだよ」
 投げやりな言葉にティアラは耳を疑った。ここまで来て何をするか決まっていないだと。
「どうにかって何よ。そんな無責任な……」
「だからお前、練習したいんだろう。細工の練習して試験に臨みたいだろうから夜の時間も使えるようにしたんだ。お前一人じゃ危ないし、俺も試験まで付いていてやるから存分に練習すればいい」
 ティアラは危うく先ほど外した錠前を手から落としそうになった。何をするかは分からない。けれどキースは傍にいてくれる。見守ってくれる。——今は何をしてもいい。ティアラは気づけば口を開いていた。
「……実はわたし、見つけたいものがあるの。第二の星硝子もそうだけど、私の特技を見つけたい。私にしか作れないものを作れるようになりたい」
「ああ、だから思い切り模索しれみればいい。夜は長いしな」
 キースが言っていたご褒美として手を貸してやる、ということはこういうことだったのかと今頃わかる。確かに昼間では特技を身に着けることはできない。授業を行い、放課後はグループと練習に取り組む。仲間とはデザインを少しずつ決めながらそれぞれの担当についてそれらしいものをつくっていくが、ティアラは担当が練りと補修係だったのですることがほとんどなかった。かと言って独断行動はできない。だからこそこの時間と空間は今のティアラにとってありがたいものだった。
「ありがとう、キース。私、しばらくの間、星硝子でいろいろと試してみるね」
 言うや否や、ティアラは素早く装備してある細工の一式を取り出すとエプロンを身に着ける。さすが星硝子専門の学園なのでいつでも細工をする準備は整っていた。
 自分のしたいことを見つけて練習に取り組み始めたティアラをキースは黙認して作業台に腰を掛けなおした。ランタンの明かりが躍るように揺れる。その光の中でティアラは迷わず動いていた。
 ティアラは棚に歩いていくと練られている星硝子を取り出す。それは練習用に用意されてある星硝子で生徒が細工するときに使うものだ。野球ボールサイズに丸めて練られた星硝子を二つ手に取って作業台に戻る。
 ナイフを取り出しまず切り出しから始めた。そこから針のようないくつもの細さに分かれた棒を使い細工をしていく。一つ一つの過程をゆっくりと慎重に進めて行った。まだ自分がどの過程を得意としているか分からないので、いろいろなことを試していこうと思う。
『長期戦になるぞ』
 そんなキースの声が聞こえたような気がしてキースをティアラは見やった。するとずっと見ていてくれたのかキースの視線とティアラの視線が絡み合う。ありがとう、ともう一度いいたくなってティアラは柔らかく微笑んだ。キースは思わずと言った様子でたじろぐが、既にティアラの意識は星硝子へ吸い寄せられている。疲れを知らないようないつまでも熱い眼差し。
 第二の星硝子探しも、自分の特技を見つけることも、長期戦だ。だけどそれがなんだ。長期戦でもいつか答えが出る。そして幸いにも時間が今はある。
 深い夜に、誰も気づくことのない時間。

 秘密の特訓スタートだ。


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