コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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銀の星細工師
日時: 2015/01/28 15:12
名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)

■あらすじ
 人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
 細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?

「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
 やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
 

■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。

■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー

(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド


■目次

プロローグ            >>1
第一章 細工師と狩り人      1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
                 4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待  幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37 
                 7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!?   幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
                 12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー      幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
                 17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
                 20話>>120 21話>>123 22話>>130
                 23話>>133 24話>>134 25話>>139
                 26話>>146 27話>>149 28話>>153
                 29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音     幕間>>157 30話>>165 31話>>166
                 32話>>167 33話>>170 34話>>171
                 35話>>174 36話>>175 37話>>176
                 38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき     幕間>>179 39話>>180 40話>>181
                 41話>>182
第八章 隣同士の想い       幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い     幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
                 46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師       幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ            >>207

 400参照突破【告知】 >>53
 600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
 900参照突破【人物紹介】 >>116
 1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
 1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
 2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
 3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
 あとがき >>211      

■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)

■お客様
*コメントをくださった方

珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様


■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団      新連載
救世主はマフィア様!?         完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい     完結
ラスト・ファンタジア         連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!?    連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん!        完結

それでは本編へ レッツゴー!!

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Re: 銀の星細工師【ラスト突入!】 ( No.191 )
日時: 2014/11/03 10:54
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

きいちさん>

お久しぶりです!!!
わっ! きいちさんだ! 本物だあ!!
眼から涙がっ……!
なんだか久しぶり過ぎて、飛び上がるくらい嬉しいです。
思い返せば、きいちさんとはかなり前からお付き合いさせていただいてるような……(#^.^#)

コメントくださりありがとうございます!!
きいちさんは本当にキャラを愛してくださって、すごく嬉しいです!!
よくキース君イケメンの叫び声が聞こえてきて、顔がにやけちゃいます///

はい、ラストに入りました!
試験も番外編も満足していただけて良かったです!!
最後には一番やっかいな魔女さんを書いていきます。
私自身もなんだかハラハラわくわくです(^◇^)

またきいちさんの叫び声がきけるよう、最後まで張り切っていきたいです!
新作も順調に制作中です♪
あ、でも正座するほどじゃないです(汗
リラックスして読んでください 笑

Re: 銀の星細工師【ラスト突入!】 ( No.192 )
日時: 2014/11/04 09:42
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

 綺麗な星が胸元できらきら輝く。その数は五つ。それぞれの胸に飾られた星は職人にとって最高の誇り。
 結果発表が終わった後、たくさんの人々がティアラたちのもとへ押し寄せてきた。
「おめでとう!」
「やるじゃん!」
「なあ、今度俺にも細工の仕方教えてくれよ」
 あちらこちらからかけられる声にティアラは眼を回していた。他のメンバーも同じように対応に追われている。その時、突然腕を強く引かれた。
「ティアラ」
 低い声は色めいていて、すぐさま声の持ち主が分かってしまった。驚いて目線を向けると、そこには周りから浮きだった黒髪を持つキースがいた。キースが魅力的に微笑んでそっとティアラの手にキスを落とす。
「よくやったな。上出来だ」
 偉そうな口調だが、キースに褒められたことが他の誰よりも一番嬉しかった。唇が当てられた場所が焼けるように熱くて、思わずくらっと脳が蕩ける。男女ともに誘惑してしまいそうな深い黒が心をじりじりと焦がした。
「ありがとう。見ててくれたんだ」
 はにかむとキースはいきなりティアラの肩を引き寄せた。そのまま抱きしめるような体制を取る。
「え……!?」
 困惑した声にキースが小さく答えた。
「今のお前の表情、誰にも見せたくなかった」
 耳元で聞こえる声にティアラは今度こそ身体が溶けてしまったように感じた。周りの目線が集まっていて恥ずかしいと思うのに、キースの傍を離れたくないと矛盾する気持ちがいる。
「キース、私が星五つをとれたのはキースのお陰でもあるんだよ。毎晩、私の練習に付き合ってくれてありがとう」
 キースの肩に顔をうずめて囁くと、彼が少し身じろぎしたのが分かった。顔を上げるとすぐそばにキースのまつ毛があって、まっすぐ見つめ合う。あまりにも近い距離はまるで唇同士さえ触れてしまいそうで、キースの頬が火照っているように見えた。
「ちょっと、近すぎだよ。離れてくれないかな」
 不意に背中が引っ張られキースから引きはがされた。後ろを振り返るとジャスパーが不服そうにティアラの手首を握りしめている。
「まったく油断も隙もあったもんじゃないね」
 警戒するようにジャスパーはキースを見た。その挑戦的な瞳をキースは面白そうに見る。
「お前の周りは守護者ばっかで近づくのが大変だな。そこのチビとか、あの金髪野郎とか」
「僕はチビじゃない!」
 ジャスパーが目線を険しくする。ティアラは危険な雰囲気を感じ顔が引きつった。どうにもこの二人は相性が悪いようだ。
 相性が悪い原因を知らないティアラは二人の視線の先に自分がいるとは思いもしない。
「まさか、このぺちゃぱいが学園に来て、こんなに化けるとはな」
 キースが鼻で笑う。ティアラは思わず自分の胸を見下ろして、キースに拳を振り上げた。けれどさらに追い打ちがやってくる。
「そりゃお姉さんがぺちゃぱいなのは否定できないけど、そんな風にはっきり言ったら可哀そうでしょ」
 微妙なフォローをするジャスパーにもティアラは拳を振り上げた。二人して言われるとさすがのティアラも悲しくなってくる。
「胸の大きさなんて関係ないんだから!」
 二人に言い返して、ミラのもとへ助けを求めるように駆けよると、つい足が止まってしまった。そこには羨ましくなるほどの豊富な胸があったからだ。
「……関係ないんだから」
 自分に言い聞かせるように言ってみるが、どうにも説得力はなかった。そのとき、キースが思い出したように声を上げた。
「そういえばひとつ聞き忘れてたんだけどよ、お前らの星硝子を壊した犯人知りたいか?」
「え……?」
 ティアラは胸を衝かれたような衝撃を受けた。
「キースは犯人を知ってるの……?」
「ああ。偶然昼寝してたら見たんだよ。でもお前らの意思を聞いてから言おうと思って。やっぱ知りたいか?」
 何気ないようにキースは問いかけた。ジャスパーが一気に空気を黒くする。ティアラは作業台の上にある星硝子を見つめて、そっと触れた。星硝子は冷たくて無機質なのに、脈打ているような鼓動を感じる。それはみんなの想いが込められているからだろう。
「……星硝子を壊したのは許せない。星硝子は幸運を運ぶ神聖なものだってこの学園にいる皆は分かっているはずだもの。それでも故意に壊したのだとしたら私はその人たちを非難してしまう」
 ティアラはうつむいたまま星硝子を撫でた。辺りが静まり、ティアラの声が響く。この中に犯人がいるのだろうか。もしそうだとしたら、聞いてほしい。
「壊したことは許せない。けど、犯人は知らなくていいや」
「……いいのか?」
 さっぱりとした宣言にキース驚いたように問いかけた。ティアラは息を飲み込むようにうなづく。
「……うん。だって分かったとしても、もう終わったことだもの。責めたい気持ちもあるけど、それ以上に犯人には反省してほしい。もうこんなことしないでほしい」
 ティアラはジャスパーたちを振り返った。
「ということでいいかな……?」
 単独で決めてしまった結論に賛同を求めると、ミラは優しくうなづいた。
「ティアラさんがそう決めたなら」
 その言葉にジャスパーたちもうなづく。キースが了承したとき、突然人ごみの中を割って女子生徒が走り寄ってきた。
「ごめんなさい!」
 見覚えのある女子生徒がその場で大きく頭を下げる。ティアラはその光景を目にして胸が押しつぶされるようだった。
(犯人は、彼女なの……?)
 女子生徒は縦ロールの赤髪を持ったアリアだった。アリアは深く深く頭を下げる。
「貴方達の星硝子を壊してしまってごめんなさい。隠していたけれど、あなたの言葉を聞いたらどうしても謝罪しなきゃって思ったの」
 苦しそうな声がアリアの口から漏れる。
「アリアが、やったの……?」
 震える声で訪ねたとき、本能が一斉に騒いだ。自分の言葉に違和感を覚えてアリアを見つめる。彼女が本当に壊した犯人なんだろうか。また胸の中がざわついた。彼女が本当に……。
「……違う、そうじゃない。アリアじゃないんだよね」
 口から飛び出たティアラの言葉にアリアが虚を突かれたように頭を上げた。その眼は大きく見開かれていて、やっぱりと納得する。
 アリアはそんなことするはずがない。確かに自分は恨まれているが、星硝子を壊すなんてことは絶対にしないはずだ。そして何よりもアリアは『できない』のだ。
「私はアリアが誰よりも星硝子を愛してるのを知ってる。ねえ、入学したばかりの時、実習の授業でアリアが言った言葉覚えてる?」
 ティアラは微笑んでアリアの両頬を手で包んだ。

                *
 
「わっ! なにこれ!?」
 ティアラはつい抑えきれずに歓声を上げた。初めて見る星細工専用の工房はとてつもなく広くて大きかったからだ。壁際には数え切れないほどの道具がびっしりと並べてあり、ため息しか手で来ない清潔感で覆われている。
「わたくしもここに来たばかりの時はさすがに驚いたわ」
 アリアがティアラの反応を懐かしむように笑った。初対面の時から仲良くしてくれるルームメイトにティアラも溢れる笑みをこぼす。
 ここで星細工が出来て、大切な友人と一緒に笑えるなんてどれだけ自分は幸せなのだろう。
「それじゃあ早速、細工を始めよう!」
 授業が開始されてすぐにティアラは星硝子を取りに走った。樽に詰め込まれた星硝子へ手を伸ばす。その時、突然遮るように腕を引かれた。
「それは駄目」
 アリアが深刻そうな顔でティアラを樽から遠ざける。いきなりの衝撃に驚くティアラにアリアも慌てたように手を放した。
「ご、ごめんなさい。わたくしったら、つい……。気を悪くしてしまったわよね」
 頭を下げようとするアリアをティアラは急いで止めた。
「ううん、全然そんなことないよ。でも、どうしてこの樽は駄目なの?」
 ティアラが問うとアリアはほっとしたように目を細めて、綺麗な手で樽の蓋に触れた。そっと撫でて蓋を開ける。
「見て、ティアラさん。この星硝子は少し青味があるでしょう」
 樽の中に目をやると実際の銀の色よりほんの少し青い星硝子がある。
「言われてみればそんな感じだね」
 微妙な色の違いにうなづくと、アリアは数個奥にある別の樽の蓋も開けた。
「でもこっちは赤味があるわ」
 本当に微かだが違うと言われれば気づく差だった。
「実はね、これは私自身で気づいたことなんだけど、星硝子が青いのはまだ熟成しきっていないものだと思うの。それを使ってしまうと渋みが普通の物より出てしまう。だから使うなら赤味が強い方がいいわ。赤い分だけ甘いのよ」
 優しく星硝子に触れてアリアは言った。ティアラはまったく気づかなかった事実に目を見開いた。
「それじゃ、青い星硝子は使えないの?」
「いいえ。もう数日寝かせて置けば赤味が増してくるから大丈夫よ。不思議ね。星硝子は自ら人に喜んでもらうため自身を甘くしようとするの」
 温かさで溢れた言葉にティアラは見惚れるようにアリアを見つめた。
「……アリアは本当に星硝子が好きなんだね。星硝子の話をするとき、いつも幸せそう」
「そうかしら。そう言ってもらえて嬉しいわ」
 アリアは柔らかく微笑んだ。

          *

「私は、あの時の笑顔と言葉が偽りじゃないって思っていいんだよね」
 ティアラの問いにアリアは視線をずらした。それについ、ティアラは笑みを零してしまう。
「アリアって実は分かりやすいよね」
「なんですって!?」
 アリアが驚いたように思いっきり眉を潜めた。心外だと目で訴えてくる彼女にティアラはだって、と続ける。
「アリアは肯定と否定がはっきりしてるもの。違うときは言葉にして言い返すけど、本当に当たっているときは黙って否定はしない」
 その言葉に押し黙るアリアを見て、ティアラは図星だと確信した。
「アリアは星硝子を壊した犯人じゃない。絶対に」
 笑顔で言いきるティアラに仏頂面のアリアは不満そうに呟く
「……馬鹿じゃないの」
 そんな言葉とは裏腹にアリアの瞳は星が瞬くように生き生きと輝いて、頬がちょっぴり上気していた。

Re: 銀の星細工師【更新11/4】 ( No.193 )
日時: 2014/11/08 10:44
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

 燃えるように綺麗な赤髪を持つ彼女をティアラはまっすぐ見つめた。何も見逃さないように瞳孔を捕える。
「私たちの作品を壊したのは誰だか知っているんでしょ、アリア」
 でなければ犯人ではないアリアが偽って名乗り出る必要はないだろう。彼女は何かを隠している。
「……それは、言えない」
「なんで?」
 問い詰めるように聞くがティアラから逃げるようにアリアはうつむいた。
「わたくしにも大きな責任があるの。こんな事態を招いてしまったのは、わたくしが力不足だったから」
 アリアは工房の隅へ片づけてあった星硝子の砕かれた欠片を見て唇を噛みしめた。自分の傷の痛みに耐えるように顔をしかめる。
 そのとき、人ごみから二人の女子生徒が飛び出してきた。数日前にティアラたちの細工品を馬鹿にした女子生徒だ。彼女たちは焦った様子でアリアに駆け寄った。
「貴方達っ……!」
 目を見張るアリアに女子生徒はティアラに向き直って口を開いた。
「私たちがやったの。アリア様は何も悪くない。全て私たちが招いた事よ」
 ティアラは眼を見張る。咄嗟にキースを見るとそうだと言うように彼もうなづいた。その仕草に合わせて突然背後から机を叩くような物音が聞こえた。ブラッドがこめかみをひきつらせながら女子生徒たちを睨んでいる。
「ブラッド」
 感情を抑えるように名を呼ぶと、彼はしぶしぶ怒気を散乱させた。けれど星硝子を壊した犯人を目の前にしてしまったら文句の一つも言いたくなるだろう。ブラッドの視線に怯える女子生徒をアリアが庇うように前へ進み出た。
「本当にごめんなさい。許してなんて言えないけれど、謝らせて頂戴。わたくしの責任なの」
 彼女の丁寧で敬意を払った言葉使いにブラッドも落ち着いたようだ。だが一方で女子生徒たちがアリアの前へと訴えるように進み出た。
「違います、アリア様の責任なんかじゃないわ!」
「そうよ、私たちが勝手にしたことなのに! 私たち、アリア様の誤解を解きたくて来たんです」
 二人は大きく首を横に振って今にも涙を零しそうな顔をした。そこには信頼関係というものが眼に見える様だった。だがアリアもまた首を振る。
「わたくしはあなた達を止められなかったわ。それにこんな行動をとらせたのは、わたくしのせいよ。わたくしが彼女を敵視していたから……。彼女たちの造った作品を見て焦ったのでしょう? あまりにも綺麗で大胆で精密で。だからどうにかしなきゃって思って、手を出してしまったのね」
 二人は気まずそうにうなづいた。アリアも微かに苦笑する。
「わたくしも焦ったわ」
 ティアラは耳を疑った。彼女ほどの技術を持つ人の心を動かせたのだと思うと、驚くと同時に喜びが湧いた。
 アリアは口元を上げたまま、涙目の女子生徒に優しく語りかける。
「焦ったけれど、でもね。それ以上にすごいと感動してしまったの。悔しいくらいにね」
 アリアの声は今までに聞いたことがないくらい心地よく温かかった。
「人を感動させることのできる物は何にも変えられない宝よ。そしてそれは決して壊してはいけない。貴方達もちゃんと分かっていたのよね?」
 女子生徒はしかっりとうなづいて、ついに涙を零した。
「ごめんなさい」
 二人が声を揃えて謝る。その言葉は魔法の呪文のようにその場に脈打って広がり、穏やかな空気を生んだ。けれどアリアは一人だけ悲しそうな瞳をしていた。
「……私が彼女たちの焦りを生んだんだわ。つまらない賭け事なんてしなければっ」
 苦痛の声が喉から漏れる。
「本当にごめんなさい」
 悲しみが詰まった言葉にティアラも胸が軋んだ。星硝子をこの上なく愛するアリアの深い悲しみがまるで伝染してくるようだ。
 ティアラはアリアの背に覆いかぶさる重い何かを吹き飛ばすよう、爪の後が残るほど握りしめられたアリアの手をそっと包み込んだ。
「手は大事にしないと駄目だよ。星細工を作るための職人の手なんだから」
 びくりと彼女の肩が揺れる。ティアラはアリアにこれ以上、一人で抱え込んでほしくなかった。
「大丈夫だよ、アリア。あの壊れた星硝子も、もう一度砕いて加工し直せば、また使える。星硝子のとっておき素敵な所はね、決して消えることがない所なんだよ」
「……まったく、貴方って人は」
 アリアがどこか切なげに口元をほころばせた。
「ありがとう、ティアラ」
 ころりティアラの名前がアリアの口から転がり落ちた。その瞬間、ティアラは大きく目を見開いて堪えきれない笑みをこぼす。
「名前、久しぶりに呼んでくれたね」
「え……あっ!」
 本人も今更ながら気づいたのか慌てたように口をふさぐ。ティアラはぐっと気持ちがこみあげてくるような感覚に襲われた。
 今まで近づきたいと手を伸ばしても、拒否され続けた日々が頭の中をめぐる。最初から騙されていたと知っても何故か嫌いになれないほど、アリアの事が好きだった。星硝子を見つめる強い瞳、誰にも左右されない凛とした姿。自分が見てきた彼女の中身は、偽って振る舞っていても芯の部分は変わらなかったのだ。
 一度は遠くなった心が確かに少し、近づいたのを感じた。
「私やっぱりアリアと仲良くなりたい。本当のアリアをもっと知りたい」
 実はさっぱりしてて強気なこと、姉気質があること、照れた笑いは可愛らしいこと。本当のアリアはとても素敵な女性だ。
「でも、私はもうたくさん貴方のことを傷つけたわ。今更なんて……」
「別にいいんじゃねえか」
 唐突にキースが口を開いた。作業台に行儀悪く腰掛けながら微笑する。
「こいつは阿呆鳥だから、何があっても三歩あるけば忘れてる」
「ちょっとそれどういう意味よ!?」
「こいつと仲良くしてやってもいいんじゃないか、ってことだよ」
 アリアはキースの言葉に動揺しながら、ちょいっとティアラの制服の裾を引っ張った。
「……わたくしも、もう少し貴方と話してみたいわ。どうやらわたくし、貴方の事を勘違いしていたようだし」
 ぱっとティアラは瞳を輝かす。アリアも照れるように笑みを返した。
「努力は実らない、なんて違ったのね。努力は実らせるためのものだったんだわ」
 
                 *

 幼い頃に絶望して努力を嫌った赤髪の少女が一人立っていた。
 彼女は閉じこもっていた部屋からようやく抜け出そうと腰を上げる。その肩には一羽の銀色のペンギンが乗っていた。羽は傷だらけで飛ぼうと必死にもがくペンギンを少女はそっと手で包み込む。
 そのまま少女はふわりと色鮮やかな世界へ飛び立つのだった。

(第八章 隣同士の想い 終わり)

Re: 銀の星細工師【更新11/8】 ( No.194 )
日時: 2014/11/13 17:42
名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)

 ■第九章 最後の決断と誓い

 幕間

 どちらも手放せない大切なものが二つあった。
 それは愛と夢。
 けれどどちらか一つしか選べないと知ったとき、あなたはどちらを手にするだろうか。

 私は酷く焦っていた。けれど悩んでいる暇などない。
 どちらか選ばなければ、その二つは一瞬にして儚く消えてしまうのだから。
 
 決断はすぐ目の前に迫ってきていた。

Re: 銀の星細工師【更新11/13】 ( No.195 )
日時: 2014/11/14 09:34
名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)

「……ティアラ、ティアラ、起きて」
 声と共に肩をがくがくと揺らされて億劫ながらも薄く瞼を開ける。視界には鮮明な赤髪が飛び込んできた。
「もう朝よ。そろそろ起きないと朝食を食べ損なうわ」
 深刻そうな顔でアリアがティアラに呼びかける。「朝食を食べそこなう」の一言でティアラは勢いよくベットから身を跳ね起こした。
「嘘っ!? もうそんな時間なの? どうしよう、今日はスクランブルエッグとオレンジジャムの乗ったマフィンが朝食なのに……」
 毎日の寮の献立を暗記しているティアラは慌てるように洋服を着替えだした。朝食が配布される時間帯は決まっていて遅れるともう貰えないのだ。
 焦るあまりシャツのボタンを掛け間違えるティアラをアリアは見つめながら穏やかに笑った。
「あら、今日の朝食はおいしそうね。わたくし先に行くわ。ティアラと一緒に食べそこなうのは嫌だし」
「この薄情者ー!」
 涙目になりながら靴を履くアリアに叫ぶが彼女は面白そうに笑うだけだった。
「ええ、わたくしは自分が一番大切ですもの。美味しい物はちゃんと食べたいわ。それにわたくしが起こさなければ貴方はずっと寝たままで遅刻していたでしょうね」
「ま、まあ、そうだけど」
 何も言い返せずにいると、それじゃあとアリアは優雅に部屋を出て行った。扉が閉まると同時にドアプレートが揺れる。そこにはアリアとティアラの二人の名前が明記されていた。
(同じ部屋に戻ったんだ……)
 改めて実感し、懐かしさに口元を緩める。試験が終わってから数日後、アリアとも打ち解け元通りに同じ部屋のルームメイトとなったのだ。もう部屋の中には一人ぼっちの時の寂しさは微塵もない。アリアが好む可愛らしいファンシーグッズが所狭しと並んでいた。
「おっと、和んでる場合じゃなかった」
 急がなければならないことを思い出してリボンを付ける。着替えを終えると簡単に身なりを整えてティアラも小走りで部屋を飛び出した。

               *

「ギリギリセーフでよかったー」
 今朝の事を思い出しティアラは満足げにつぶやいた。周りにはジャスパーやミラ、ブラッドにラトがいる。昼休みの時間帯に気づいたら自然と中庭へ集まっていたのだ。
 降り注ぐ暖かな日差しがとても心地良く、目を細めて光合成するように草の上に座っていると隣から笑い声が聞こえた。
「お姉さん、見事な阿呆面」
 ひねくれた言葉にきゅっと口元を結ぶ。そう言っているジャスパーも気持ちよさそうに草の上で寝転んでいるではないか。
「いいですね、こういう時間」
 ミラの言葉にティアラはうなづいた。大切な人たちと穏やかに過ごす時間はとても貴重に思える。おやつのビスケットを頬張っていたラトが不意に遠い目をした。
「いつまでも、続けば、いい」
 その一言に誰もがうなづいた。卒業までまだ何年もある。ティアラはこのまま皆一緒にいられるだろうと当然のことのように考えていた。けれどそのとき、ティアラを呼ぶ声が聞こえた。声の方向へ振り向くと学園長の秘書であるリアーナが速足で歩いてくる。ティアラが入学当時に学園を案内してくれた美人な女性だ。
「グレイスさん、あなたのお客様がお越しです」
 綺麗な発音のまま息も乱さずにリアーナは眼鏡を押し上げた。直々に学園長の秘書が知らせに来るとは一体誰が来たのだろうか。そもそもティアラには知人が少ないため、思い当たる節がなかった。
(いや、待って。もしかしたら……)
 嫌な予感ぴりっと脳内を駆け巡る。そのとき強引に眼を奪うような派手な金髪がティアラめがけて駆け寄ってきた。
「ずっと逢いたかったよ、小さな可愛らしいレディ。僕がいない日々はまるで永遠の事のように感じただろう? さあ、おいで!」
 腕を広げて長い金髪をなびかせながらどんどん近づいてくる。ティアラは強張る足と共に頬を引きつらせた。
「フ、フレッドさん!」
 それはまさにこの学園へ入学させてくれた星硝子職人最高の位を持つフレッドだった。彼は外見がとても整っていて貴婦人からの誘いが絶えない貴公子だが、中身は残念な変態気質なのだ。
 久しぶりに会った彼の雰囲気はとても強烈だった。初めて出会った時のようにフレッドだけが、この世界から浮いて見える。周りにはいくつもの薔薇が咲き乱れているようだった。
「ああ、少し見ない間に綺麗になったね、ティアラ嬢」
 指の長い手がティアラの手を恭しく握りしめた。周りの生徒たちがざわめいているのが感じられる。この学園にとって職人の頂点に立つフレッドは神に等しい存在だった。
「聞いたよ、試験で星五つを取ったんだって? すごいじゃないか! さすが私が選んだ子」
 ティアラの胸ポケットについている星のバッチを嬉しそうに眺めてぎゅっとティアラを抱きしめた。ふわっと薔薇の香りがティアラを包み込む。不覚にもドキっと鼓動が高鳴った。
「あ、ありがとうございます。でも、どうしてここに?」
「君にとっておきの情報を伝えに来たんだよ。君の運命を左右する情報さ」
「私の運命を……?」
 重要な話だということに気づき、ティアラは緊張感を走らせた。けれど次の瞬間、フレッドが何かに思いっきり殴られその場で倒れ込む。ティアラは悲鳴を上げて気絶しているような様子のフレッドを見た。
「すいません、グレイス様。このド変態があなたに不埒な真似をしでかした様で。いきなり学園長にも会わず貴殿の元へ走り出すので焦りました」
 剣の柄を握りしめたままフレッドの護衛であるエリオットが頭を下げる。エリオットが護衛相手であるはずのフレッドを殴ったのは明確で、また主をド変態扱いしたのにティアラは言葉が出なかった。なんとか無難な台詞を見つける
「その、お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです。本日は急な訪問ですいません。グレイス様に伝えたいことがあってここに来たのですが……」
 ちらりとエリオットは倒れたままのフレッドを見やった。
「主はしばらく使い物にならなそうですね。まったく」
(あなたが殴ったんだよね!?)
 ティアラは心の中でつっこんだ。冷ややかな視線を送るエリオットと気絶したままのフレッドとの間に主従関係があるようには全く思えない。
 エリオットは一度、いつの間にか集まってきた生徒たちを見渡して剣を収めた。
「ここでの立ち話はなんですので、一度移動しましょうか。これもこのまま放置しておく訳にはいきませんし」
 主をさり気なくこれ扱いしつつ、エリオットはフレッドを米俵のように担いで来た道を戻っていく。
「ちょっと行ってくるね、皆は先に戻ってて」
 何が起こったのか把握しきれていないようなミラ達に声をかけると、ティアラも慌てて後を追った。


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