コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 銀の星細工師
- 日時: 2015/01/28 15:12
- 名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)
■あらすじ
人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?
「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー
(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド
■目次
プロローグ >>1
第一章 細工師と狩り人 1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待 幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37
7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!? 幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー 幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
20話>>120 21話>>123 22話>>130
23話>>133 24話>>134 25話>>139
26話>>146 27話>>149 28話>>153
29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音 幕間>>157 30話>>165 31話>>166
32話>>167 33話>>170 34話>>171
35話>>174 36話>>175 37話>>176
38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき 幕間>>179 39話>>180 40話>>181
41話>>182
第八章 隣同士の想い 幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い 幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師 幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ >>207
400参照突破【告知】 >>53
600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
900参照突破【人物紹介】 >>116
1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
あとがき >>211
■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)
■お客様
*コメントをくださった方
珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様
■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団 新連載
救世主はマフィア様!? 完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい 完結
ラスト・ファンタジア 連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!? 連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん! 完結
それでは本編へ レッツゴー!!
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- Re: 銀の星細工師【更新12/15】 ( No.201 )
- 日時: 2014/12/21 14:19
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
すっかり日が昇って朝を迎える。ヒューの背を借りて思いっきり泣いたティアラは、眼をこすりながらそっと掴んでいた裾を離した。
「ヒューありがとう。とてもすっきりした」
「なら良かった。僕ならいつでも貸すからさ。遠慮しないで飛び込んでおいで」
ヒューは微笑みながらティアラの泣き跡をそっと撫でた。その手つきは今までの安心できる感覚とは違って、何かを愛しむようにどこか色っぽい。
ティアラは弾かれたように眼を瞬いた。胸が密かに鼓動を早まらせていく。
「な、なんだかいつもと違くない?」
「んー、そうかな?」
穏やかに首をかしげて面白そうに口角を上げる。その眼はあきらかにティアラの反応を楽しんでいるようだった。めずらしい無邪気な表情にティアラは内心驚いた。
「ヒュー、なんだか楽しそうだね」
「そうだね。ティアラが僕を意識してくれるようになって嬉しいよ。今までと違って見えるのは、ティアラが意識し始めたって証拠でしょ」
再び温度が上がっていく。否定することはできなかった。
小悪魔な性格を覗かせ始めたヒューはとても魅力的だ。けれど彼の優しさは変わることなく心を包み込んでくれていた。少しの間、移り変わった明るい空を見てヒューは振り向いた。
「ティアラ、今日は学校に行けそう?」
心配そうな顔が覗き込む。まだティアラの顔には泣き跡が残っているからだろう。先ほどの会話は空気を和ませるためのものだと分かった。
「もちろん大丈夫だよ。それにね、私決めたことがあるの」
決意の表情でティアラはヒューを見つめた。指先が微かに震える。
眠れないほど悩んで、ありったけの涙を流した後に一つの答えを見つけた。
「迷いや不安は捨てきれないけど、今日は見つけた答えを確かめに行こうと思う」
指先を強く握りしめる。笑顔を浮かべるティアラをヒューは静かに見つめ、ティアラの頭に手を置いて撫でるように動かした。今度は色っぽくなく、安心できる手つきだ。触れるごとに変化していく手つきはティアラの心に寄り添っているようで不思議だった。指先の震えが治まっていく。
「君は考えて、考えて、考えたんだ。だからどんな答えを選んだって全部正解なんだよ。絶対に大丈夫」
「うん」
起床時間を告げる鐘が学園中に鳴り響いていた。
*
「ねえ、今日はみんなにお願いがあるんだけど、いいかな?」
授業が終わった放課後、ティアラはキースやアリア、ジャスパーたちを集めて話しを切り出した。ヒューが慎重な面持ちでこちらを見守ってくれている。
「どうしたのよ、いきなり」
不思議そうな顔で見てくるアリアにティアラは集合場所に定めていた工房を示すように手を広げた。
「今から、ここで共同作業で星細工を作りたいの。これだけの人数がいればすごいのが作れるよ」
「こりゃまた、急だな」
ブラッドが驚いた声を上げる。しかし驚かれるのも無理なかった。普通、共同作業の星細工を行うのなら事前の準備をしてから行う。作業をするには構成を組み立てる時間や、職人の意思の統一も必要なのだ。それを準備なしですっ飛ばして行うのは無茶があった。周りにも急な提案についていけないような雰囲気が漂う。
けれどティアラは腕を伸ばしてグッチョブサインを作った。
「平気だよ。だってここにいる皆はお互いを知ってる仲間同士だもの。急でもなんでもきっとできる!」
「どこから来るのよ、その自信は」
呆れた声をアリアがあげる。それでも表情は既に生き生きしていた。
「まあ、あなたが無理って言っても実行するタイプなのは知ってるけどね」
「そうそう。お姉さんってやっぱ藁頭だよね。常識が通用しないっていうか。ある意味無敵というか」
ジャスパーがうなづいて見せる。けなされているのか褒められているのか微妙な言葉だ。けれど周りのやる気が上がっていくのが見えた。
「でもどうして星細工なんていきなり作りたくなったのよ」
アリアが不思議そうに首をかしげていた。ティアラは言葉に詰まる。こんなことを提案したのは星硝子への想いを通して、答えを確かめるためだ。確認するには星硝子と仲間たち、二つがそろっていなければならない。
眼を泳がせて言葉を探していると、ヒューが声を上げた。
「このメンバーで共同作業をしてみたくなったんじゃないかな? ほら、僕たちって面識はあるけど、一緒に星細工をしたことはないわけだし」
アリアが納得するようにうなづいた。ティアラにとって、ジャスパーたちはスター獲得試験で共に星硝子を作ったが、そのころアリアとは敵同士だった。またヒューに至っては星五つのレベルを持つ凄腕の細工師のため、試験に参加しない。細工だって一人で行うのを多く見た。
「そ、そうなの! ここにいる皆で星細工をしたらどんな作品ができるのかなーって思って」
「確かにどんな芸術品が仕上がるのかしら」
助け舟に乗っかってティアラはぎこちなく笑った。アリアも疑いなく、すっかり乗り気だ。
「それじゃあ、早速始めようか」
ヒューが率先して作業服を身に着け始める。それに促されるようそれぞれ動き始めた。
(よかった……)
ティアラは安堵の息を吐いた。ヒューが忍び寄ってきて内緒話をするように小さな声で話しかける。
「これで答えの確認できそう?」
「うん。ありがとう協力してくれて」
二人で微笑みを交わす。そのとき、突然ヒューとティアラの間に腕が割り込んできた。
「おい、構成の全体的なイメージってどうすんだよ。題材を決めなきゃ作れねえだろ」
仏頂面のキースがティアラの腕をひいて自分の方へ引き寄せる。ティアラは驚いたように目を瞬いてキースを見つめ、すぐ弾かれたように声を上げた。
「そうだ! 題材を伝え忘れてた」
慌てて作業台へと集まるアリアたちの元へティアラは走っていく。ティアラがいなくなった後、キースは静かな目つきでヒューを見た。険しい雰囲気がたちこめる。
「あいつが好きなのか」
直球の言葉にヒューは驚きながら小さく笑った。キースは眉を訝しげに寄せる
「なんだよ」
「いや、そんなストレートに聞かれるとは思わなかったから。もっと、ティアラには近づくな、とか牽制されると思った」
「別に誰に近づこうが話そうが、あいつの自由だろ」
「でもさっきは邪魔したよね」
ヒューが効くとキースは気まずそうに目線をずらした。
「故意じゃない。体が勝手に動いたんだ」
「ふーん」
「お前のその眼、なんだか苛つくな」
キースは再び仏頂面になりながら身をひるがえした。そのまま作業台へと足を向ける。ヒューは去っていくキースに向かって口を開いた。
「今日、彼女に告白したんだ」
びくりとキースの肩が揺れた。慌てたように振り返る。ポーカーフェイスが崩れ去っていた。
「そ、それ本当か……?」
「うん。まあ結果的にはフラれちゃったけど、まだまだ追いかけるつもりだよ」
安堵と不安が混ざり合った複雑な表情をキースは浮かべる。ヒューは少しだけキースがじれったくなった。ティアラが追いかけている目の前の相手は、彼女の恋愛の行方には一喜一憂するが、自分の恋を進めようとはしないのだ。傍から見て両想いなのは分かるのにキースは身を引いている。
「ねえ、君は彼女が好きなの?」
苛つきで意地悪な質問を口にした。案の定、キースは複雑な表情を消して静かに目線をずらす。明言することを避けているようだ、
「俺は恋愛に興味がない」
「そんなこと聞いていないよ。ただ彼女が好きなのかどうかだ」
食いついてキースの答えを心から引きずり出そうとしたが、キースは無言で今度こそその場を去っていく。最後にぽつりと言葉を零した。
「あいつを守りたいとは思う」
微かに聞き取れる言葉は空気に溶けて行った。一人きりになったその場でヒューは小さくため息をつく。
「なんだそれ。守りたいなんて、十分ティアラが好きな証じゃないか」
不器用すぎる狩り人の青年が、少しだけ羨ましくて、でもやっぱり不憫に見えた。
- Re: 銀の星細工師【最終章、突入!】 ( No.202 )
- 日時: 2014/12/21 15:06
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
■最終章 銀の星細工師
幕間
星硝子は切ないほどに壊れやすい。
けれどこの世で一番美しく光る。
それはまるで銀色の髪を持ったあの細工師のようだと、人々は口をそろえて言った。
- Re: 銀の星細工師【ついに最終章!】 ( No.203 )
- 日時: 2014/12/31 20:50
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
作業台の上には大きな星硝子の細工品が置かれていた。即席ならではの荒っぽさと大胆さが効果して、より壮大な作品に見える。
窓から漏れる太陽の光を反射して光る星硝子は、とても楽しそうだった。
「っ……」
誰かのため息が聞こえた。それは熱を発しながら空気に消える。
「すごいのが出来ちゃったね」
ティアラは星硝子を見ながら言った。隣に立っていたアリアがうなづく。
「こんなに技術を表に出せた作品は初めてだわ」
数人がうなづいた。まぐれなのか分からないが、ティアラたちは思っていた以上の完成度で作品が仕上がってしまったのだ。
「なんでこんなに上手くいったのかしら」
ミラが不思議そうに首をかしげた。彼女もアリアの言葉にうなづいた一人だ。自分の持っている技術を超えるようなものが自らの手で生み出されれば、驚くのは無理ないだろう。
「それはきっと皆で作ったからだよ。皆で作っているときすごく楽しかった! その気持ちが星硝子に宿ったんだと思う」
満足げな顔でティアラは微笑んだ。ジャスパーもにやりと笑う。
「それにお姉さんの出したお題も良かったよね。個人の発想がきらめくし、世界観の出やすい題材だった」
ティアラの出したお題は『夢』だった。
「この作品には、みんなのやりたいことや未来がぎっしり詰まってる」
見上げる星硝子は眼を細めたくなるほど眩しい。ティアラは密かに唇をかみしめた。でないと涙が出てきそうだったからだ。
ずっと確かめたかった答えの確認ができた。今度こそ迷わずに選択できる。
「ありがとう」
振り返ってアリアたちに言うと、彼らはたちまち笑顔になった。温かくて安心する笑みだ。
「こちらこそだぜ。俺も楽しかった」
ブラッドの言葉にそれぞれがうなづきあう。
厳しいけれど本当は気配りやなアリア。
生意気で怪しげ、でも時にはとても頼りになるジャスパー。
出会った当初は避けられていたが、やっと親しくなれたミラ。
いつも豪快で兄貴肌を持つ明るいブラッド。
寡黙だが少しズレていて心配性のラト。
誰よりも優しく、不安なときにいつも隣にいてくれたヒュー。
この学園で共に過ごしてきた仲間たちを一人一人見つめた。学園に来たころは不安で仕方なかったのに、いつの間にか気づけばいつも、心の中は満たされていた。それは皆がいてくれるから。
「本当にありがとう」
震える声でもう一度言った。溢れる想いが喉まで込み上げてきている。ぐっと飲み込むと不安げなヒューと目があった。
(大丈夫だよ、ヒュー。私はちゃんと答えを確かめられたから。大切なものはちゃんと胸の中にあるから)
笑みを必死に作って向けた。話し合いと笑い声で溢れるその場にそっと耳を傾ける。
この陽だまりはきっと私の中から何年経っても消えないだろう。
「ねえ、ティアラ。また星硝子を作ろうよ! 冬休みにでもさ」
声をかけられ、ティアラは笑顔のままうなづいた。アリアたちは早速次回のお題について話し合い始める。
輪の中に混ざりながら、ティアラの瞳はもう限界だった。一言発すれば同時に涙腺が壊れる。
「じゃあ来週の放課後に集まるってことで」
誰かが楽しそうに言い、その言葉に皆がうなづいた。瞳を閉じて我慢するようにうつむいているとアリアが首をかしげる。
「どうしたの、ティアラ。来週は何か予定があるの?」
はっと顔を上げてティアラは首を振った。ほっとするようにアリアが笑みを向ける。
「それじゃあ、来週の放課後に集合だからね」
「うん」
ティアラは小さな嘘をついた。
*
週末の休日を迎えた。土曜日は何をするでもなくティアラは学園を歩き回った。当てもなく足を動かしているとあっという間に日が暮れていく。
日曜日になるとティアラはそっと朝早くにアリアが寝ていることを確認して部屋を抜け出した。学園の来賓室がある棟へと足を向ける。静まりかえる廊下を歩いてロビーで教えてもらった部屋の扉を叩いた。
「ティアラ・グレイスです」
早朝すぎたかと心配しながら返事を待つと静かに扉が開いた。護衛のエリオットが無表情で招き入れてくれる。身支度のしっかりできている様子に、早朝でも問題なかったのだと安心した。
「主はこちらです」
思っていたより広い部屋の中を進んだ。さすがに国一番の星細工師だ。この学園にとって国王の次に大切な客の彼は最高の待遇を受けているのだろう。
「……寝不足ですか」
ぽつりと前を歩いていたエリオットが口を開いた。普段事務的な内容しか話さない彼の質問に内心びっくりする。
「見て分かっちゃいますかね」
眼の下を押さえた。濃い隈がそこにはある。
「大切な物を選択するということは、とても難しいことだと思います。神経を使い、体力も削られる。それでも果敢に挑んだ貴殿は尊敬に値します」
堅苦しい言い方だが、励まされているのだと分かった。つい笑みがにじんでしまう。
「……なぜ笑っていらっしゃる?」
「嬉しいからです」
エリオットは分からないと言うように首をかしげた。その後にティアラの顔を見つめて息を吐くように微笑む。
「でも貴殿が楽しそうなら何よりです」
初めて見た笑顔にティアラは眼を見開いた。驚いているといつの間にかフレッドの部屋につき、エリオットが部屋の入り口を開ける。部屋の中には優雅にソファへ寄りかかりながら足を組んだフレッドが待ち構えていた。
「待っていたよ、ティアラ嬢」
不敵な面持ちで面白そうにこちらを見やる。
「答えを聞かせてほしい。君の覚悟を」
ティアラは唾を飲み込んで部屋の中へ足を踏み入れた。緊張感がぴりっと頬を痺らす。心臓を落ち着かせるため息を吸い込んだ。
最後の覚悟と決意は、この胸の中に。
- Re: 銀の星細工師【更新12/31】 ( No.204 )
- 日時: 2014/12/31 21:00
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
月曜日が来た。フレッドとの期限最終日だ
ティアラは制服を身に着けずに、私服の身軽なドレスを着ると大きな荷物を抱えて校門を目指していた。頭の後ろで制服に合わせるためつけていたリボンが風になびく。これだけは名残惜しくて外すことはできなかった。
「楽しかったな……」
誰もいない道を歩きながらぽつりとつぶやく。真後ろにある校舎を見れば愛しさが湧く。
「今頃皆は授業中かな。私は風邪ってことになってるし」
足を止めずに校門を一心に目指した。校門の外ではもう、フレッドたちが馬車を用意して待っているのだろう。
「……ごめんね」
小さな言葉が口から転がり出た。
自分が学園を旅立つと決心したことは、誰にも言わなかった。言ってしまったら必ず心が揺らぐ。決心が鈍る。身勝手と分かっているが、どうしても告げられなかった。
「嘘をついてごめんなさい」
放課後にまた星細工しようと約束していた。それも破ってしまう。
再会するのは早くても一年後だろう。王都で修業を積んで国家試験を受けるまでには、どうしても一年は掛かってしまう。
「次に会った時、皆なんて言うかな」
勝手にいなくなって酷いと怒られるだろうか。もしかしたら忘れられているかもしれない。でも仕方ないのだ。自分は突然消えてしまうのだから。
「それはいやだ……」
声が潤んだ。紐で固く結んでいた想いが、もう揺るがせないと決めいていた決意がじわじわとほどけていく。体の力が抜けて思わずその場に倒れそうになった。
(全部に決着をつけたはずなのに……)
今更になっても未練を残す自分が嫌になった。やりたいこと、確かめたいことには決着をつけたのだ。
皆と星硝子を作ったとき、やはり自分は細工が大好きなんだと実感した。そして何よりも最後の共同作業を胸に刻み込んだ。皆の笑顔と声を。遠い地でもすぐ思い出せるように。
そうやって決着をつけてきた。なのに最後の一歩、という所でやはり感情が脳に訴えかける。
そして何よりも、たった一つだけ終止符を打つことのできない感情が胸に大きく渦巻いていた。
「だめだ……」
彼の事を思い出などにしたくない。彼から離れたくない。きっと彼から離れてしまったら、すぐさま会えなくなってしまう。闇に溶けるような黒い青年は捕まえられなくなる。
こんなに大切で愛しいのだ。だから……。
「キースを諦められる訳ないでしょ!」
ティアラは叫んだ。そのとき視界が黒く染まった。
「なら諦めなきゃいい」
ぐっと身が引き寄せられ、驚きと共に涙がほろりと流れる。耳に心地よい低音の声がすぐ近くで囁いた。視界が暗くなったのは抱きしめられたせいのようだ。
いつもいつも、彼は本当に傍へ来てほしい時に現れる。だから困ってしまうのだ。愛しいが止められなくなるから。
ティアラはまくしたてるように別れの言葉を口にした。
「キース、ずっと私言っていなかったけど、王都へ行くの。学園からは退学する。……その、本当に今までありがとう。キースがいてくれて私は……」
ぎゅっと強く引き寄せられた。息がつまるような気配と共に熱を帯びた声が耳に触れる。
「ずっと俺の傍に居ろ。この阿呆が。勝手にいなくなるな」
ただただ熱く甘かった。
「……っ」
心がはちきれそうだ。今すぐ抱きしめ返して、傍にいると言いたい。でも。
「私は行かなくちゃならない。もう決めたからここにはいられない。だから……」
今度こそ別れを口にしようとしたとき、口を塞がれた。キースの唇が押し当てられている。ティアラは何が起こったのか分からず瞬きを繰り返した。熱がぼっと顔に灯る。
「な、なにを……!」
「うるさい」
慌てて身を話すがキースは鬱陶しそうにティアラの身を引き寄せて再度、唇を重ねた。
心臓が早鐘のように鳴り響いていた。膝が震えて体の力が抜けていく。倒れそうになったティアラをキースは支えるように腕へ力を込めた。
「王都に行くなら俺も行く」
言葉に目を見張った。だがキースは当たり前だと言わんばかりに両頬をむっとつまんだ。
「だからお前はずっと俺の傍にいるんだ」
高飛車な態度に言葉が詰まる。もう別れなんて告げられるはずがない。いつもと違って艶めかなキースに目を奪われた。
そのとき、多くの足音が聞こえてきた。慌ただしく駆けるようにどんどん大きくなる。振り返ると数名の生徒たちが必死に走ってきていた。
「——っ!」
ティアラは振り向き、目の前の光景を疑った。次の瞬間、鬼のような形相の一人の怒声が脳を貫く。
「馬鹿ティアラ‼ 一体どこへ行こうとしているのよ!」
怒声に嗚咽が溢れた。
「なんでっ、授業は……」
途切れ途切れに言葉を発する。息を切らしながらアリアは荒々しく答えた。
「そんなもんどうだっていいのよ! 今にもあんたが学園から出て行こうとしてるから、授業なんて投げ出してきたわ」
見渡すとヒューやジャスパーたちもいた。伝えずにいた想いが次から次に溢れる。
「……なにも言わずに行こうとしてごめんなさい。私、実は細工の修業をするために王都へ行くの。多分また会えるのは一年以上後になると思う……」
「そんないきなり……!
「でも必ず帰ってくるから!」
必死に伝えるとアリアに抱きしめられた。ミラも号泣しながら抱きついてくる。
「……必ずよ」
「ティアラさん、待ってますから!」
「……うん!」
止めどなく涙が流れる。抱擁から解放されるとジャスパーたちが近づいてきた。
「お姉さんがいなくなるとつまんないだけど、どうしてくれるの」
生意気だが必要とされているのを感じて嬉しくなる。ブラッドは男泣きをしながらラトに慰められていて、つい噴出しそうになった。
「見つけた答えってこれだったんだね」
ヒューがそっと頬に触れてきた。いつもと同じく、その手つきは堪らなく優しい。
「正直、ティアラがここからいなくなるなんて思わなかった。でも……追いかけるって言ったから」
ヒューは微笑しておでこにキスを落とした。周りのみんながあっと声をあげてキースの視線が刺すように冷たくなる。
「これぐらいは、許されるよね」
いたずらをした子供の様にヒューはほほえんだ。そんなヒューから遠ざけるようにキースが腕を引く。腕を引かれた方向を見るとフレッドたちが校門で待っていた。遅いから様子を見に来たのだろう。
「行ってらっしゃい、ティアラ」
アリアの言葉が背中を押した。ティアラは鼻をすすりあげて、仲間たちに笑顔を向ける。
「行ってきます」
キースに手を引かれながら歩き出した。何度も振り返っては見送ってくれる仲間に手を振る。
握られた掌が温かくて、もう涙は止まっていた。
愛しさと未来が胸に降りそそぐ。
- Re: 銀の星細工師【完結】 ( No.205 )
- 日時: 2014/12/31 21:42
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: tnHh0wAL)
えっと……完結の文字を見た瞬間に
即、飛び込んできましたっ!
言いたいことは沢山あるんですけど、
とりあえずお疲れ様でした(o^^o)
キースが安定のイケメンで最後は特別積極的で……。
もうティアラになりたいです。乗り移りたいです。
本当に真面目に切実に(笑)
いや決してイケメンキースの接吻目当てでは……((
ぎりぎりまで皆に会えないかと思ったら、
やはり最後は全員集合が感動のラストでした。
もっと続いて欲しかったけれど、どこかでこの物語が
ずっと続いていくことを願っています。
素敵な時間をありがとうございましたっ!
あの、私の書いている小説に好きな小説としてこの物語を
書かせてもらってもいいでしょうか……?
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