コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 銀の星細工師
- 日時: 2015/01/28 15:12
- 名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)
■あらすじ
人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?
「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー
(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド
■目次
プロローグ >>1
第一章 細工師と狩り人 1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待 幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37
7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!? 幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー 幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
20話>>120 21話>>123 22話>>130
23話>>133 24話>>134 25話>>139
26話>>146 27話>>149 28話>>153
29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音 幕間>>157 30話>>165 31話>>166
32話>>167 33話>>170 34話>>171
35話>>174 36話>>175 37話>>176
38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき 幕間>>179 39話>>180 40話>>181
41話>>182
第八章 隣同士の想い 幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い 幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師 幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ >>207
400参照突破【告知】 >>53
600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
900参照突破【人物紹介】 >>116
1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
あとがき >>211
■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)
■お客様
*コメントをくださった方
珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様
■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団 新連載
救世主はマフィア様!? 完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい 完結
ラスト・ファンタジア 連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!? 連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん! 完結
それでは本編へ レッツゴー!!
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- Re: 銀の星細工師【更新11/14】 ( No.196 )
- 日時: 2014/11/14 09:59
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
「いやあ、本当に痛かったな。目の前に星が飛び散ったようだったよ」
フレッドが陽気に後頭部のたんこぶを押さえて笑う。エリオットは無言のままだったがフレッドはさして気にしてないようだった。
ティアラは来賓客用の部屋に通され、不安げに椅子へ腰かけていた。
「あの、フレッドさん。私の運命を左右するような情報って何なのですか?」
問い詰めるように聞くと、フレッドは真っ直ぐティアラの方に向き直って笑顔を浮かべた。
「そんなに強張った顔をしないで。ただ、私は君に職人になりたい意志が本当にあるのか聞きたい。それによって私の持ってきた情報の有無が決まるんだ」
口元は笑っているのにフレッドの目は真剣だった。何もかも見透かされていそうで素直に答えなければいけないと悟る。
「今の君は見習い職人だ。一人前ではない。人に星硝子を売ることができる一人前の職人になるには国家試験を受ける必要があるのを知っているね」
ティアラはうなづいた。何年かに一度、職人の資格を定める試験がある。それに合格しなければ見習いのままなのだ。
「君は一人前の職人になりたいかい」
「はい、なりたいです」
ティアラは迷うことなく断言した。意志は何年も前から決まっている。それは幼い頃、細工師を夢見た少女のときからだ。
「ならば君は来年開かれる国家試験に受けなければならない」
「来年、国家試験が開かれるんですか!?」
初耳だった。国家試験は不定期に行われるため、いつ開催か分からない。数年間に一度しか行われない時もあれば、毎年行うときもある。
「来年の試験を受けなければ君は職人にはなれないだろう」
「え……?」
衝撃的な言葉にティアラは放心した。一体それはどういうことなのだろうか。膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。
「君は今、学園で学び励む事を条件に生活費を全て免除されている。だが数年後、卒業したときに君一人で生活していけるかい?」
心が不安という名の分厚い雲に覆われたのが分かった。その事実はいつも頭の隅に引っ掛かっていた悩みだ。
「両親の残した財産だけでは到底無理です。だから私は星細工を売って生活しなければならない」
「そうだね。けれど職人の資格を国家試験に合格して取っていなければ星硝子は売れない。だから君は在学中に職人へとならなければいけないんだ」
それはとても険しい道に見えた。けれど逆にティアラは心が落ち着いていくようだった。自分の漠然とした未来に進むべき道が見えたようだ。
「私が職人になりたいのなら次の国家試験を必ず受けなければならないんですね。なぜなら国家試験は不定期に開催されるため、今回を逃すと次の開催は私が卒業した後かもしれないから」
「そう、呑み込みが早いね」
満足そうにフレッドはうなづいた。ティアラの目は決心で固まっている。
「なら、私は来年の国家試験を受けて絶対に合格します」
強い意志が瞳から溢れ出るようだった。フレッドは穏やかにティアラを見つめる。
(いつからこの子はこんなに強くなったんだろう)
フレッドは今までティアラが経験してきたであろう困難を想像した。人は苦難を強いられて強くなっていくものだからだ。
(そしてまた私はこの子に苦難を授けるんだね)
それは少しだけ悔いられた。久しぶりに会った彼女の周りにはティアラを愛する仲間たちで溢れていた。それを自分はこれから取り上げてしまうのだ。
(ごめん、だけどきっと君はもっと強くなる)
フレッドは一呼吸置くと、ティアラに最後の質問をした。
「国家試験を受けるために君はこの学園を出なければならない。君にその覚悟はあるかい」
- Re: 銀の星細工師【更新11/14】 ( No.197 )
- 日時: 2014/12/04 18:11
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
「君はこの学園を出なければならない。君にその覚悟はあるかい?」
「……え?」
周りの風景が一瞬にしてモノクロになる。頭がくらくらして足元もおぼつかなかった。まるで深い海に突き落とされてしまったかのような気分だ。
「どういうことですか……?」
なんとか声を絞り出すと、フレッドは真剣な眼差しでティアラを見つめた。
「実は君が国家試験を受けたいと望むなら王都での勤勉を是非、と国王直々の申し出があったんだ」
——国王直々。
それがどれほど貴重なものか、ティアラはすぐさま感じ取った。ただの庶民であり、なんの後ろ盾もないティアラが国王から何か申してもらうなどあり得ないことだからだ。
「なんで国王が!?」
「君は王国パーティーであった貴重なグラスの破損事件を覚えているかい。そのとき、たったの数時間で代用品のワイングラスを作り上げただろう。その話がどうやら国王の耳にも入ったようで、彼はたいそう面白がっていたらしいんだ。それに僕がスターグラァース学園に入学させたっていうのも大きいんだと思う。国王は君に興味と期待を示しているんだよ」
まさかこの国の最高権力者である国王に自分の事を知っていてもらえたなんてティアラは露ほどにも思っていなかった。
驚きの連続で心臓が今までないほど跳ねていた。その理由が興奮なのか感動なのか、はたまた恐怖なのか、もう分からない。
「これは君にとって人生最大のチャンスだと言ってもいい。なんたって国家試験を受ける前に王都でここよりもさらに数倍の質がある星細工が学べるんだから。もちろん私も君に教える教師の一人だ。王都に来ることは君が更に腕を上げるチャンスなんだ。このチャンスを得ることで君はもしかした国一番の細工師になれるかもしれない」
フレッドの言葉はとても魅力的だった。現在国一番と言われる彼から細工を学べる。それがどんなに大きな成長につながるかはティアラにも分かっていた。
(もっと……細工について学べる)
むくむくと職人の欲望である塊が膨れていく。技術を求める貪欲な気持ちは抑えきれなかった。
「私はもっともっと細工の腕を上げたいです。誰かが感動するものを作りたいです! だから私は細工師になりたい!」
溢れる気持ちが声になって漏れた。煌めきだすティアラの瞳を見て嬉しそうにフレッドが笑う。
「ああ。なら王都へおいで。歓迎するよ」
「は……」
うなづこうとしたとき、何かが目の前ではじけ飛んだ。鋭い音と共に脳内を刺激する。
ティアラは重要なことを思い出した。王都へ行くと言うことは学園を出ると言うことなのだ。フレッドも先ほど言っていたではないか。
(もっと細工について学びたいけど……やっぱりこの学園を出るなんてできないよ!)
声にならない悲鳴が自分へ訴えかける。ティアラはぐちゃぐちゃな頭を抱え込んで、浮かせていた腰を落とした。
「……すいません。少し時間をもらえますか」
「ああ、分かった。急にこんな話を始めてごめんね。一週間ほど学園に滞在しているから、それまで落ち着いて考えるといい」
フレッドの優しくて言葉が強張った心を包み込んだ。そっと頭を撫でられてティアラは小さくうなづく。フレッドはゆっくり立ち上がると、少しだけ視線をずらして口を開いた。
「もう一個、また急な話で悪いんだけど、もし君が学園を出ることを決心したなら、来週に王都へ行くことになるから」
「来週ですか……!」
短すぎではないだろうか。けれどフレッドは苦しそうにうなづいた。
「ごめん。僕らが王都に帰るときに、君も王都で修業することを決めたなら連れてくるよう言われたんだ」
タイムミリットはたった七日。考える暇はほとんどなく刻一刻と時間は今も過ぎていく。
そのままフレッドは静かに部屋を出ていった。扉の外から午後の授業を知らせる鐘が耳に届いたが、ティアラはその場を動けなかった。
*
「……アラ、ティアラ、ちょっと聞いているの!?」
鋭い叱責にティアラは思考の海から慌てて意識を引き戻した。
「は、はい!」
急いで返事をすると、怒ったようなアリアの顔が視界に入る。
「まったくなんなのよ。昨日の午後から急に上の空になって。一体何があったの? どうせあの変態っぽい金髪の一級細工師との間に問題が発生したんでしょ」
アリアのフレッドに対する扱いはあまりにぞんざいだった。なんでも彼の非常識な行動を見て幻滅したらしい。だが昔のように言葉をお世辞で尽くすことなく、素が出ている彼女はこちらの方がいいと思えた。ご立腹なアリアの問いかけにティアラは視線をずらす。
「なんでもないよ。ただ久しぶりだねって挨拶をしただけ……」
国家試験にまつわる話を誰かに話そうとは思わなかった。自分で決心しなければならないと思うからだ。けれど鋭い彼女はティアラの答えに不満そうな顔をする。
「ならなんでそんなに暗いのよ。いつものへらへらした笑顔と元気はどこに行ったのよ!」
きつい言葉を言いながらアリアは睨みつけてくるが、ティアラにはそれが心配しているのだとすぐ分かった。不器用さに笑いが漏れる。
「ちょっと、なにがおかしいのよ! せっかくお菓子を持ってきてあげたのにあげないわよ!」
さらに怒る彼女の手にはお菓子の包みがあった。どうやら甘いもので元気を取り戻そうとしてくれているようだ。
「ごめん、アリア。もうぼーっとしないからお菓子ちょうだい!」
「し、仕方ないわね。……食堂の期間限定、アーモンドチョコクロワッサンよ」
開けた箱の中からはこんがり焼きあがったいい匂いのクロワッサンが出てきた。寒い季節に温かい湯気が上がる。
「わあ! 私クロワッサン大好きなの!」
「知ってるわよ。だからこれにして……じゃなくてたまたまなのよ! カロリーがすごく高くって普段はたべないのだけれど、今日はたまたま買ってみただけなの。別に貴方のためとかじゃないわ」
ティアラは気遣いにまた笑みがこぼれた。クロワッサンを口に運べば、香ばしい香りとチョコの甘みが口へ流れ込む。サクサクの触感やバターたっぷりの風味も堪らない。
「んんー! 美味しい。いくつでも入りそう!」
「そうね。思ったよりも美味しかったわ」
アリアは澄ましつつもクロワッサンを食べる手が止まっていない。きっと気に入ったのだろう。
「また今度、期間が過ぎる前に買おうかしら」
そんな一言がティアラの胸に突き刺さった。また今度。そのときに自分はこの学園にいるのだろうか。それとも王都へ旅立っているのだろうか。
「そういえば来週の日曜はクリスマスパーティーをするそうね。毎年盛大に行うから大人気イベントなのよ。貴方も楽しみでしょ」
「う、うん、そうだね」
ティアラはぎこちなく笑った。
私はそのとき、この学園にはいないかもしれないんだ。
*
目まぐるしいほどの速さで数日が過ぎついに金曜日を迎えた。フレッドたちが滞在しているのもあと三日だ。日曜日までには答えを出さなければ月曜に旅立つと言っているフレッドたちに間に合わない。けれど一向に答えは出なかった。
(王都へいけば今まで知らなかった技術が習得できる。それにフレッドさんが直で教えてくれる。ここに居ても細工は学べるけど質は段違いだ。絶対職人として王都へ行くべきだと思う。……けど)
今日も一睡できず布団の中で寝返りを打った。もうすぐで朝になる。そうしたらアリアと一緒に朝食を食べて、ヒューと授業を受けて、ジャスパーたちと昼休みに楽しく談話して、放課後にはみんな集まってときには硝子細工をつくったりする。どれもかけがえのない一時だ。
(やっと手にいれた時間)
やってきたときは孤独の身であった自分が、何度も壁に行きあたっては怪我を負いながら手に入れた大切な宝物だ。それを今更手放せるはずがない。
「どうしよう……」
一筋の涙が頬をつたった。その涙には不安と悩み、そしてタイムミリッとまでの焦りが混ざっている。ティアラの頭の中はぐちゃぐちゃで様々な考えが交差していた。
それを振り切るように、ティアラは唐突に立ち上がると部屋着にコートを羽織った。髪の毛をすこし整えて部屋をゆっくり抜け出す。頭の中を整理するために外の新鮮な空気が吸いたくなったのだ。まだ朝とは言い切れない朝と夜の間にある時間帯だから、誰も起きてはなく、きっと集中して一人で考え事が出来るだろう。
忍び足で寮を出ると校舎とは真逆の方向へ足を向けた。行く先には広大な自然が広がっている。学園の敷地は驚くほどの広さで、未だに把握しきれていないところが多い。そんな中、以前ヒューがおすすめしていた朝焼けが綺麗に見えるらしい場所へ行こうと思った。
「うう、さむいー……」
さすがにコートを着ていても下が部屋着であるため寒かった。手袋やマフラーをして来ればよかったと今更後悔する。教えられた場所へ道を思い出しながら向かうと、意外な光景が目に飛び込んできた。
目の前にいた少年はどこかを真っ直ぐ見つめたまま立っていた。夜に輝く金の髪が風に舞う。フレッドと同じ色ではあるが彼のように長くなく、短く爽快さがにじんでいた。もうすぐ朝を迎える紫色の空を背景に立つ人物の姿はまるで絵のように似合っていた。
「あれ、ティアラ、ずいぶん早起きだね」
優しい声がこちらに気づき笑いかけてくる。その笑みは物語の王子様のように甘い。
「ヒューこそ」
「僕は二、三日おきぐらいにここへ来るんだ。ほら、ここからなら前も話した通り朝焼けが良く見えるもんだから。早起きも苦じゃない」
ヒューが紹介するように手招きをする。それに応じて傍へ行くと空が落ちてくるような錯覚に陥った。正確には落ちてきたのではなく、近くなったのだと思う。
場所はすこし小高い丘になっていて空を遮るものが一つもない。まるでそこだけ空に飲み込まれた不思議な場所だった。ティアラは歓声を上げると東の空を心待ちにして見つめる。
「あと数分で朝日が昇るよ」
「うん、楽しみ」
紫色の空には静寂が波打っている。朝日が出るまでのこの時間帯も心地よかった。遠くの地平線を見つめていると、ふと、ヒューがこちらへ手を伸ばしてきた。
「薄着じゃないか。それじゃあ風邪ひくよ」
ヒューのつけていたマフラーが首に巻かれる。ぬくもりが肌に触れるとなんだか頬が熱くなった。
「いや、でもヒューだって寒くなっちゃうよ。風邪だって……」
「僕は大丈夫。それより見てる方が寒いから僕のためだと思ってつけてて」
ティアラは仕方なくうなづいてマフラーに顔をうずめた。それを見てヒューが視線をずらす。
「ちょっとそのマフラーが宝物になったかも」
「え、なんで?」
「いや、まあね」
曖昧な返事でヒューは話題を変えるように言葉をつづけた。
「そういえばティアラ、昔に君は僕にここへ来た理由を聞いたよね」
「うん。だって私、ヒューに逢った時驚いたもの。ヒューの細工師の腕前は一人前なんだから、この学園で学ぶことはもうほとんどないんでしょ?」
「まあね。ここへは星硝子とは無関係の事情でやってきたんだ」
ヒューはティアラの前へ移動すると、そっとティアラの手を取った。冷えていた指先を包むように握りしめる。
「ヒュー?」
「ティアラ聞いてくれるかい。僕がここへ来た理由を。普段じゃ校内が騒がしくて二人きりなんて滅多になれないから」
真剣なまなざしが注がれる。強く握りしめられた手の感触を感じてティアラはうなづいた。丁度その時、彼の背後から光が溢れる。朝日が昇ってきたのだ。
「……僕はここへ、自分の婚約者(フィアンセ)を探しに来た。ねえ、ティアラ、僕の婚約者になってほしい」
まばゆい朝日と彼の金の髪が混ざって眩しく見えた。
- Re: 銀の星細工師【更新12/4】 ( No.198 )
- 日時: 2014/12/15 18:10
- 名前: 葉月 ◆S/72wRvvfc (ID: tnHh0wAL)
初めまして。葉月と申します。
実は隠れファンでした///
前々から読ませていただいていたのですが、
名の知れていない私がコメントしていいのかと……
しかし、もうすぐで終わってしまうということですので、
思い切ってコメントさせていただきました!
キャラは魅力的だし文章は素敵だしもう最高ですっ
でもやっぱりキースが色んな意味でイケメンすぎて(o^^o)
ヒュー君何いってるの。ティアラはキースのものだよ!?
という感じでもうにやにやが止まりません(笑)
とりあえずこの作品が大好きです。
お騒がせしましたが、完結まで応援している、
ということをお伝えしたかったんです……((
更新頑張ってください!
- Re: 銀の星細工師【更新12/4】 ( No.199 )
- 日時: 2014/12/15 21:17
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
葉月さん>
はじめまして。
コメント頂けてとても嬉しかったです(*^_^*)
ニマニマが止まりませんでした!!
そうですね。もうラストスパートに入っていて完結まで残り数話ってところです。
今年中には終わらせて新作に入ろうかなと思っています(^◇^)
葉月さんはやっぱりキースの応援派ですかね?
私、こうやってキャラについてきゃっきゃ盛り上がるのが大好きです!
サブキャラとかも結構好きで、一つ一つ丁寧に書いていきたいんですが、まだそこまで筆が追いつかない状態です(>_<)
この作品が「大好き」ですか!!
キャー(*/∇\*)///
照れます、ものすごく照れます。ああ、どうしよう、さっきからニマニマしてるのに、さらにヤバい顔に…!
葉月さんは私を照れ死にさせるつもりですか!
とにかくコメントありがとうございました!
そして応援してもらえて、活力が湧いてきます(●^o^●)
頑張りたいと思います!
- Re: 銀の星細工師【更新12/4】 ( No.200 )
- 日時: 2014/12/15 21:19
- 名前: 妖狐 (ID: W2jlL.74)
『親愛なる弟、ヒューへ。
寒くなってきたけれどあなたは風邪をひいていないかしら? 今回もとびっきりの愛を込めて手紙を書くわね。一年に数度しか会えないけれど、あたしが愛しい弟を忘れたことなんて一度もないんだから。今、こっちの王都ではお父様たちが忙しく働いているわ。もうすぐ年末だし、他家の貴族へのあいさつやら国の行事やらで忙しいみたい。そのお陰で私は自由に遊び回っているわ。あなたもあまり学園にこもっていないで、たまには家に帰ってきてね。お姉ちゃん寂しいわ。それじゃあまたね。
美しい姉より』
今朝届いたばかりの手紙をヒューは微笑んで見つめた。明るくてでおしゃれ好きな姉の姿が脳内に浮かんでくる。事あるごとに手紙を寄こしてくれる姉は、遠くで別々に暮らしていてもすぐ隣にいるような感覚だった。
(年末には家に帰らなきゃな。他家の挨拶には同行したいし……)
ヒューは眉を潜めて部屋に飾ってあるカレンダーを見た。
後継ぎであるヒューにはまだまだやらなければいけないことがたくさんある。その一つが社交界への根回しだ。時期当主になるからには、今から社交界に顔を出して貴族たちに自分を知ってもらわなければならない。
ひとつ小さなため息をついて手紙を封筒へ戻そうとしたとき、封筒から何かが零れ落ちた。拾い上げるとそこには整った笑みを浮かべる女性が写っている。見覚えのない写真の中の人物に不安がこみあげてきた。
「まさか……!」
慌てて写真を裏返すとそこには姉の短い文章が添えられていた。
『あなたの15人目の婚約者です。お母様に同封してって頼まれたから入れておくわ。そろそろ結婚を決めないと親がうるさいわよ? 選り好みしないでさっさと決めなさい』
つい表情が固まった。何度言ったら家族は自分がまだ結婚する気がないと分かるのだろうか。今まで散々婚約を断ってきたが母親はしつこく次の婚約を迫ってくる。
「僕は自分で婚約者を見つけたいのに……」
呟くと、それじゃあいつまでたっても孫の顔が見れない、という母親の声が返ってきそうだった。
けれど自分にだって譲れないものがある。なるべく両親の言うことには従ってきたが、生涯の伴侶だけは自分の意思を貫き通すつもりだ。
そのとき、ふとある少女の笑顔が目の前で弾けた。隣にいるだけで不思議と幸せが生まれる彼女の存在。彼女が自分の名前を呼ぶだけで心が浮かび上がる気がする。
少女との出会いは唐突だった。後継ぎとして父親の代役で王国パーティーに参加したとき、入り口の庭影で彼女が困り果てたように立っていた。手を引いて明かりのある場所へ連れて行ったとき、銀の髪がぱっと辺りを照らして心を掴まれるような疼きが走った。今でも出会った時の強烈な印象は頭を離れないほどだ。王国パーティーが終わって彼女と別れてしまったことをあの時はとても後悔した。可愛らしい響きの名前しか知らない自分は、もう一度彼女に会えると思えなかったのだ。けれど彼女はやってきた。それもまた唐突な再会。
「出会った時からなのかな」
婚約者を強く意識し始めたのは。最初は同じ趣味を共通出来る子がいいと思った。だからスターグラァース学園に来て星細工が趣味の子を探した。しかし、もしかしたら自分は無意識のうちにもう婚約者を定めていたのかもしれない。
気づくと写真が手からすり抜けるように落ちていた。けれどもう拾わない。
「婚約者は自分で見つける」
再び、今度は力強く言うと、まだ夜が明けない世界へと靴を履いて歩き出した。
*
「僕の婚約者になってほしい」
自分の大切な少女——ティアラを見つめる。
ティアラは驚いたように目を見開き、白い息を零す。
今朝の手紙と一緒にあった写真のせいだろうか。もっと時間をかけてから告げようと思っていたが、衝動的に言葉が考えるより早く口から出た。
「君が今、一瞬だけ遠くに行ってしまうように感じたんだ。何か思いつめてる顔で。そんな君を見て僕は抑えきれなかったんだよ。君には笑ってほしいから」
優しく微笑むヒューにティアラは息を深く吸った。空気はとても冷たいのに、手が握りしめられていて温かい。マフラーからもヒューの香りがした。
「僕なら君を絶対に幸せにできる」
甘くて強い宣言だった。好きだと言われるより心が痺れる。
「……きっと、ヒューの傍に居れたら、どんな女の子だって世界で一番の幸せなお姫様になれると思う」
誰もが見とれて憧れる王子様。ティアラもそんなヒューに憧れる大勢の内の一人だった。今、彼がくれている温かさのように、幸せも溢れるぐらい降り注ぐのだろう。
そして今、ヒューに見つめられている自分はとても幸せだ。
「ありがとう、ヒュー。そう言ってくれて嬉しい」
「それなら……」
「でもね」
ティアラは思わず視線をずらした。彼の傍なら安心できて幸せなはずなのに、まぶたの裏側には違う人物がちらつく。決して手に入らず、闇のように掴んでも消えてしまう人。
「私にはずっと追いかけている人がいるの」
ヒューの瞳が切なげに揺らいだ。
「その人はね、追いかけてもすぐ逃げちゃうの。それにとびきりの意地悪で。でも、私は追いかけるのを止めたくないんだ」
ティアラの言葉は風を切るようにヒューの胸へと響いた。朝日がティアラの銀髪に反射して、飴色に染まった髪が宙に舞う。
「僕の気持ちが叶う可能性はもうない?」
「っ……、それは」
戸惑うティアラにヒューは優しく笑った。そっと掴んでいた手を放す。
「ごめん、困らせて。でも君が迷ってることに、少し期待してもいいかな」
「え?」
ティアラは首をかしげた。ヒューが朝日を仰いで眩しそうに目を細める。
「僕にも君を追いかけさせて」
離したくない、と思った。誰かを想っている君でさえも愛しい。
「どこに行ったって追いかけるから」
ヒューは笑みを零すと、ティアラの頬をほろりと涙が伝った。驚いて息をのむヒューにティアラも慌てて涙をぬぐう。ティアラは心の中で涙が引っ込むよう必死に念じた。
(なんでいきなり……!)
気持ちが不安定なのは自分でもわかっていたが制御することができなかった。それはきっと彼の言葉を聞いたせいだ。
(私を『どこに行ったって追いかける』って言ってくれた。どうしよう、すごく嬉しい)
こんなにも自分を想ってくれている人がいる。そして自分も大切にしたいと思う人がこの学園にはたくさんいる。それを再確認して、どうしようもなく離れるのが寂しくなった。やっぱりここにいたい。
流れる涙にティアラは狼狽しながら言い訳を探した。
「……わ、私急にどうしちゃったんだろう? たぶん埃が眼に入ったんじゃ……」
「そのままでいいよ」
ティアラの弁解を遮るようにヒューはゆっくり後ろを向いた。
「ティアラは辛いとき辛いって言えばいい。泣きたいときは泣けばいい。こういうときに我慢するのが君の悪い癖」
ほら、誰も見てないから。そう言って背を向けるヒューにティアラは思わずしがみついた。背中に頭を押し付けながら嗚咽が溢れだす。
ここに居たい。他に行きたいところなんてない。彼らの傍に居たい。
けど、国家試験を受けなきゃ私は本当の細工師にはなれない。だからここから旅立たなきゃいけない。
一致することのない正反対の想いがごちゃごちゃに混ざって涙が止まらない。けれどヒューの鼓動がそれを鎮めるように背中越しから伝わってきて心地よかった。
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