コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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銀の星細工師
日時: 2015/01/28 15:12
名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)

■あらすじ
 人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
 細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?

「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
 やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
 

■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。

■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー

(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド


■目次

プロローグ            >>1
第一章 細工師と狩り人      1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
                 4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待  幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37 
                 7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!?   幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
                 12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー      幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
                 17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
                 20話>>120 21話>>123 22話>>130
                 23話>>133 24話>>134 25話>>139
                 26話>>146 27話>>149 28話>>153
                 29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音     幕間>>157 30話>>165 31話>>166
                 32話>>167 33話>>170 34話>>171
                 35話>>174 36話>>175 37話>>176
                 38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき     幕間>>179 39話>>180 40話>>181
                 41話>>182
第八章 隣同士の想い       幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い     幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
                 46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師       幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ            >>207

 400参照突破【告知】 >>53
 600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
 900参照突破【人物紹介】 >>116
 1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
 1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
 2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
 3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
 あとがき >>211      

■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)

■お客様
*コメントをくださった方

珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様


■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団      新連載
救世主はマフィア様!?         完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい     完結
ラスト・ファンタジア         連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!?    連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん!        完結

それでは本編へ レッツゴー!!

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Re: 銀の星細工師【更新9/25】 ( No.176 )
日時: 2014/10/04 08:22
名前: 妖狐 (ID: AwgGnLCM)

 残り三日後の星獲得試験で、最高ランクの星五つの評価をもらわなければティアラは退学。
 そんな勝負に挑むことになったティアラは、ラトのアイディアを元に猛特訓を積み重ねていた。
「ティアラさん、こちらの鳥、どうでしょうか」
 生物や植物などの造形担当のミラがティアラの前に一羽の鳥をおずおずと差し出す。風に羽が揺れて、瞳が今にも動き出しそうなほどくりくりしていた。
「とても愛らしいです、先輩!」
 ミラは頬を染めてはにかむ。そこに、にゅっとジャスパーが身を乗り出してきた。
「ここ、もうちょっと細かく毛を彫ったらどうかな」
 そう言いながら素早い動作で毛を作り上げていく。さすが細部の彫り担当だ。細かい彫りを任せれば彼に敵う生徒なんてこの学園にいないだろう。なんたって目眩がするほどの緻密さだ。
 より生き物のようになった鳥にブラッドが拍手した。
「まるで本物だな。おっと、いけねえ。俺が触ったら壊しちまいそうだ」
 大口を開けて笑いながら、ナイフを器用に動かす。家が鍛冶屋のブラッドはあっという間に型を作って、切断していく。
 その横でトンカチのような音が響いた。
「うわ、なにやってんだよラト!」
 ブラッドの声にそちらを向くと、バラバラに砕けた星硝子がある。ラトは青白い顔で肩をすくめていた。
「ごめんなさい、ラト、力加減、苦手なのです」
 どうにも大きなものを作るラトは余計に力を加える習性がついてしまっているらしい。ふと、作った物をすぐ壊してしまう、というラトの噂が脳内によみがえった。
(こういうことなんだ)
 噂を聞いたときは勝手にひどい人だと決めつけてしまったことを思い出し申し訳なくなる。
「大丈夫、もう一度作ろう」
「はい」
 腕まくりをして、ティアラもラトの作業を手伝い始めた。
 いまだにティアラの担当する細工は決まっていない。それぞれに相性のあった役割があるが、あまり特徴のないティアラの技術はお手伝いをするような立ち位置になってきた。
 けれど、最近気づいたことがある。
(私に特徴はないけれど、苦手もないんだ)
 幼い頃から苦手をつぶして細工をしてきたお陰か、苦手意識するような作業工程はなかった。
 それならどんな役割にも応用が利く。
「私、カメレオンになります!」
 ティアラが堂々と宣言したとき、ジャスパーは破顔した。
「ついに頭のねじが吹っ飛んだの?」
 失礼なことを言うジャスパーを軽く睨みつける。
「そんなわけないでしょ。そうじゃなくて、今の所、私には役割がないから、人手がほしい時にその担当の細工を手伝うの。苦手はないから安心して」
 そういうことか、とジャスパーもなっとくした風にうなづいた。
 やっと、徐々に歯車が回り始める。噛み合い始めた歯車は勢いをつけていく。
 けれど嵐はすぐそこまで近づいてきていた。渦の中心にいる魔女と共に。

                   *

「昨日の真夜中、工房で何をしていたの」
 唐突に燃えるような赤い髪が目の前に広がる。昼休みに共にランチを取っていたヒューが席を外したとき、彼女は目の前にやってきたようだった。
「……アリア」
 厳しい目つきが向けられている。ベンチが軋むような感覚がした。
「なにをしていたのと聞いているの」
 尋問のような口調だ。アリアはな工房での事を知っているのだろうかとティアラは考えを巡らす。けれど発見されたからには、嘘が苦手な自分は正直に答えた方がいいだろう。
「練習をしていたの。星細工の」
「あと、たった三日なのに、あんなに必死に?」
 信じられないと、とアリアは眉を潜めた。ティアラはベンチから立ち上がる。
「あと三日だからだよ。少しでも頑張って技術を上げたいの」
「そんな短期間じゃ無理よ」
「無理かもしれないけどやってみなきゃ分からない」
「分かるのよ!」
 アリアはきっぱりと告げた。いつも涼しい顔をしているのに、努力の話になるといつも彼女は感情的になる。そこに何か特別な思いがあるのは明らかだった。
 また、悲しい目。
 激しい憎悪と怒りの感情が眼に影を作りながら、その奥に悲しみが隠れている。まさに眼は口ほどに物を言う、だ。
「努力とか、頑張るとか、理想論じゃどうにもならないことがあるのよ」
 アリアは胸元にある自分の星のバッチをぎゅっと強く握りしめた。苦しそうに息が吐き出されている。
「才能は必要なの。どれだけ望んで頑張ったって生まれ持った才能には勝てないのよ!」
 まるでアリア、自分自身を戒めるような言葉にティアラはアリアの手を握った。強く爪痕の残る手を開かせる。星のバッチが四つ、揺れた。
「アリアは、もしかして、自分が嫌いなの……?」
 冷水を浴びせられたようにアリアがびくりと震える。
「……そうよ。何度試験を行っても星四つしかもらえない出来そこないの私が嫌いよ!」
「アリアは出来そこないなんかじゃないでしょ。私は星四つでも羨まし……」
「分かったような口をきかないでよ! あなたのそういう所が本当に嫌いなの。理想的な言葉なんて全部、偽善でしかないのよ」
 辛辣な否定の言葉にティアラは返答することができなかった。
 逃げるようにアリアはその場を後にする。
「……アリアを傷つけているのは、私だ」
 そう発覚したときはもう手遅れだった。
 幼い頃、教会で勉強を教えてくれた神父は笑顔で諭した。「みんな仲良くしましょう」と。けれど仲良くしたくたって、そうできない場合もあるのだ。
 そんなときはどうしたらいいか、教わったりしてないティアラには分からなかった。

Re: 銀の星細工師【更新10/04】 ( No.177 )
日時: 2014/10/06 10:24
名前: 妖狐 (ID: AwgGnLCM)

日にちが立つにつれ、仲間の士気が上がっていくのにが分かった。いや、仲間だけでなく学園内も騒がしくなった。グループ同士で休み時間も放課後もたくさんの学生が技術向上に励んでいる。
「完成してきましたね、ティアラさん」
 練習最終日、試験が明日に迫った日にミラが疲れを残した瞳で優しく微笑んだ。
「ほとんど完成間際じゃねえか」
 ブラッドも隈をこすりながら満足げにうなづく。一人一人疲労の影が濃く見えたが、それでも生き生きとしていた。
「この完成度なら星五つとれるかもしれないね」
 珍しく褒め称えるジャスパーにラトも同意する。ティアラは湧き上がってくる興奮のまま動いた。けれどふと、余裕ができたときにそれは襲ってくる。アリアのことに対する悲しみと絶望感だ。油断すれば脳内を埋め尽くされる恐怖に、ティアラはせわしなく動くことで考えないようにしていた。
「ティアラ先輩、少し休んで」
 ラトがいきなりティアラを持ち上げた。初めて出会った時、具合が悪いと勘違いして保健室へ運ぶためにやったお姫様抱っこだ。
「大丈夫だよ、ラト!?」
 つくり途中の星細工が名残惜しくて腕から逃げようとするが離してはくれない。明日には試験なので休み暇などないのだ。けれどそのまま近くにあった背もたれ付きの椅子に強制的に座ることになった。
「大丈夫じゃないです。だってあなた、さっきから休んでない」
 片言の口調から心配の色が伝わってくる。姉の影響か、女性の事に置いては心配性なラトを安心させるため、ティアラも仕方なく休んだ。けれどすることがなくなると、やはり考えたくない想いが浮かんでくる。
「私が、アリアを傷つけた……」
 言葉が無意識に口から出る。きゅっと唇をかみしめた。そのとき、ふわっと何かが肩にかかった。同時に温かい物が頬にあたる。
「……苦しいの? ティアラ」
 綺麗な金髪が眼の隅に映り、一瞬でヒューだと分かった。薄い毛布が掛けられているようで、ココアが渡される。
「差し入れに来たんだ。最近冷え込んできたしね」
 遠くではヒューの差し入れであるココアを飲む仲間の笑い声が聞こえてきた。
「ありがとう。ヒュー……」
「うん」
 見惚れてしまうような王子様みたいに優しい顔でヒューは笑う。そして唐突にティアラに覆いかぶさるように抱きついた。
「え……っ!?」
「瞼を閉じて、ティアラ」
 耳元で囁かれる声に心臓が跳ねる。戸惑いつつ言われるがまま目を閉じると、ヒューは背中に手を回して額同士をくっつけた。
「ティアラ、君の不体調はみんなにお見通しなんだからね。明日が試験で気持ちが急くのも分かるけど、みんな心配してる。なんだか知らないけれど退学が関わる勝負も引き受けちゃったらしいじゃないか」
 お母さんのように叱りつけるヒューの声音は妙に安心できる。
「他にもいろいろ抱えているようだし。あんまり無理しすぎちゃだめだよ。たまには休むことも必要なんだから」
 温かい体温に久しぶりの眠気がやってきた。すぐ目の前にある顔が微笑する。
「うん、その調子。あ、それとね、君のココアだけ特別に甘さ二倍しといたから」
 疲れたときは甘いものが一番、と甘党であるヒューは楽しそうに言った。甘いココアを口に含みながらうつらうつらし始める。
「……僕の前じゃ無理はさせないよ」
 抱きしめられた腕の中が心地よくて、気づいたときには深い眠りに落ちていた。

                  *

 昼間にぐっすり眠ったお陰か、その日の真夜中の特訓では疲労がさっぱり消えていた。しゃきしゃきと動くティアラにキースは不思議そうな顔をする。
「お前、焦りが消えたな」
「焦り?」
 首をかしげると、行儀悪く机の上に座っていたキースはうなづいた。
「ああ。ちょっと前までは何かに追われていたようだったが、今日は今までの中で一番体調がよさそうだ」
 それはきっとヒューやラト、仲間たちのお陰だろう。
「今日で特訓もラストだ。はりきれ」
 キースの応援の言葉にティアラは元気よくうなづいた。

 その光景を扉の隅から見ていたものがいた。縦まきロールの髪が夜風に吹かれる。アリアは息を殺してティアラに見入っていた。
(なんであんなに頑張ろうとしているのよ……)
 不可解な疑問が頭によぎる。そのとき鋭い視線が突き刺さった。はっと息をのむと、黒い髪の青年が静かにこちらを見ている。今にも人を殺めてしまいそうな雰囲気の青年にアリアは首を振った。
(別に彼女を傷つけようとは思ってないわ)
 心の中で言うと、青年はなにか伝わったのかまたティアラに優しい視線を戻す。アリアは黒髪の青年に恐ろしい物を感じた。
(あの護衛みたいな人、他の人とは違う……。制服は狩り人専門の生徒のものだけれど)
 ティアラはどんな関わりをあの青年と持っているのだろうか。そしてどうしてあんなにも守られているのだろうか。考え込んだとき、突然肩を叩かれた。
(不覚! この私が背後の気配に気づかなかったなんて……!)
 間合いを取るように横へ逃げて振り返ると、そこには何度か見たことのある容姿端麗のフードをかぶった少年、ジャスパーがいた。
「赤髪のお姉さん、一体ここでなにをしているの?」
 アリアの動きに、クックックと面白そうな笑い声を立てながら首をかしげる。オッドアイの瞳が何もかもを見透かしたように不気味にぎらついていた。圧倒されそうになりながらもアリアは強気な態度をどうにか保つ。
「あなたこそ」
「僕かい? 僕は夜の散歩さ」
「私は工房に明かりがついていたから気になったのよ……」
「——昨日も来たのに?」 
 ぞっと背筋が凍るのを感じた。なぜ、そのことをジャスパーが知っているのだろうか。昨日は工房の外に自分以外の気配はなかった。
「クック、その驚いた顔いいねえ。聞こえたんだよ、お姉さんの声がこのあたりで」
 アリアは昨日、この場で一言も声を発しなかった。しかも息だって殺していた。それなのに聞こえたとは、一体ジャスパーの聴覚はどうなっているのだろうか。まるで波長を感じ取っているようだ。
「わ、わたくしは帰るわ」
 ここに居たら何か得体の知らないものに襲われてしまいそうだった。黒髪の少年といい、ジャスパーといい、ティアラの身の回りにいる者はなにか怪しい。別の世界に生きる者達のようだ。
「ねえ、赤髪のお姉さん」
 ジャスパーの軽い声にぴたりと歩調を止める。振り向きながら慎重に耳を傾けた。
「僕はお姉さん自身の瞳に映る感情を知っているよ。あの藁が頭に詰まったお姉さんと同じものだ。ねえ、あなたの本音はどこにあるの?」
 不思議そうに、けれどやはり楽しそうに訪ねるジャスパーにアリアは一歩退いた。冷や汗が流れる。
「あなたは阿呆なお姉さんと同じだ」
「馬鹿なこと言わないで」
 いい返すとアリアは逃げるようにその場を走った。
 同じなんてそんなはずない。自分はもう、とっくのとうに頑張ることを止めてしまったのだから。頑張ることなんて嫌いになってしまった。報われなどしないのだから。
 だから、あんな無我夢中に頑張るティアラとは違う。
「でも……本当にそうなの?」
 思わず口から問いかけが漏れた。工房とは離れた裏庭で静かに空を見上げた。空は星が見えることなく、うっすらと雲を張っている。
 時分と彼女は違う存在だと思うが、一度だけティアラを見たとき、それはまさに昔の私自身だと思った。努力することに夢中で、夢に瞳を輝かせている少女。
「……私は私自身が大嫌い。だからあの子も嫌い」
 
 空虚な夜に本音が漏れる。

(第六章 魔女の陰謀と本音 終わり)

Re: 銀の星細工師【更新10/06】 ( No.178 )
日時: 2014/10/12 10:47
名前: セイサイ (ID: so77plvG)

いいですね!

Re: 銀の星細工師【更新10/12】 ( No.179 )
日時: 2014/10/12 10:48
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

■第七章 いざ、戦いのとき■

 幕間

 上品で美しい縦まきロールの赤い髪を持った少女は幼いとき夢を見た。それはキラキラしていて宝石箱にも収まりきらないほどの大きな夢。
 星硝子に夢中になる少女は苦労を積み上げながらも、とても輝いていた。
 あるところに、その輝きに憧れたもう一人の少女がいた。その少女は赤髪の少女と友達で共に同じ夢を追いかけたいと願った。
「私たち、どちらが先に有名になるか。競争だよ」
 無邪気に笑いあう少女たちはまだとても幼かった。
 赤髪の少女は着実に技術を上げて行った。けれど、後から星硝子に触れた少女の方が早く上達していった。それは稀に見る『天才』というものだった。
 最初は赤髪の少女に向けられていた賛辞も、次第にもう一人の天才へ浴びせられるようになる。少女は眩しいほどの整えられた道を歩み、そのまま海外へ留学していった。
 けれど赤髪の少女はそこで絶望というものを知っていしまった。

 その日から、彼女は努力を嫌った。
 成長した彼女は、世間を知ってしまったのだ。
 報われるものなんて、何一つない世界を。

Re: 銀の星細工師【新章スタート!】 ( No.180 )
日時: 2014/10/12 11:11
名前: 妖狐 (ID: so77plvG)

 秋の香りが優しく鼻孔をなでる。清々しい朝の空気を胸いっぱいに含んで、ティアラは大きく深呼吸した。
「はーっ」
 一気に吐き出した空気が景色に吸い込まれていく。腰まで伸びきった髪を丁寧に結わいて、頭のてっぺんの位置で結んだ。これで気合の入魂は完了だ。
「今日は私にできる最善を尽くそう」
 確かな宣言は、賑わう学園内に高鳴って響く。

             *

 午前八時に試験参加者が収集された。ほとんどの生徒が工房に集まり、作業台を取り囲んで細工の準備をしている。試験官は学園の先生たちが集い、その場には熱気と緊張、高揚といった細工師の誰もがもつ星硝子への興奮が溢れかえっていた。
 観客者も応援者も今回は数え切れないほどいる。今回はグループ戦なので、大掛かりな星細工が見れるからだ。
「それでは皆さん、準備は済みましたか」
 唐突にマイクを持った審査員が、辺りを見渡して訪ねた。声はぴたりとやんで静寂が流れる。時計は丁度9時を指していて、試験開始の時刻だった。審査員は静かになったのを確認すると、試験の決定事項を読み上げる。
『一、この度のスター獲得試験では、五人一組のグループ参加である。それ以上、それ以下はグループとして認めない。二、制限時間は最大十時間とし、時間内にグループのメンバーである者だけで合同の星硝子を制作する。時間内に完成できなかったものは失格。またメンバー以外の者が手助けしても失格。三、制作する星硝子はお題を取り入れたものとする。最後にお題は『飛行』である」
 誰もがうなづき了承した後、審査員は静かな工房に響き渡るよう、手を上げて声を張りあげた。
「——それでは試験を開始する」
 ざっと生徒が波の流れのように動いた。統率のとれた軍のようにどこのグループもまず、星硝子を練り始める。
 他の生徒に圧倒されながらティアラは手を冷水に浸すと、星硝子をボウルに入れて、素早く練り始めた。みるみるうちに艶を増す水飴状態の星硝子をテンポよく作りあげていく。
(細工に得意なものはないけれど、練りならだれにも負けないわ!)
 心の中で意気込みながら、どのグループよりも早く、多く、しかも質のいい星硝子を練り上げた。
「好調な滑り出しだね。お姉さん、その調子」
 珍しく素直なジャスパーの声援も加わってさらにテンポが上がる。練りあがった星硝子を次はラトとブラッドが形を整え始めていく。
 背景担当のラトは膨大な量の練ってある星硝子を易々と扱っていく。その隣のブラッドも躊躇なくナイフを差し込んで、型を切り始めていた。
 ゆっくりと、でも着実に自分たちの星細工が出来上がっていくのが分かる。
 ブラッドの切った型を次はミラが組み合わせ、命を吹き込むように形へと変えていく。そして最後にジャスパーが神秘的な細かい描写をほどこしていく。
(どうしよう……)
 ティアラは手を動かしながら熱い吐息を口から漏らした。
(楽しくて仕方がないよ)
 一人一人の作業は違っても、一つの作品へ向けてそれぞれが動いている。これぞティアラの理想だった仲間の形だった。
「楽しいね」
 ティアラが我慢できずに一言口にすると、それぞれは一瞬顔をあげて興奮しきった顔でうなづいた。瞳が本能できらめいているのが分かる。
 思わず顔がにやけそうになりながら、ティアラは星硝子を練り終わると手を拭いた。
 次は何をしようかと作業台を見渡す。無職のティアラはカメレオンになると宣言したように、手助けの必要な工程へと加わって行った。

              *

 作業から数時間が経った。どのグループもおおよその形は完成していて、残り半分の過程へと突入し始めている。けれど時間が経つごとに生徒の疲労が溜まっていくのが分かった。浮かぶ汗や、手の疲れ、脳の疲労が積み重なる。
 だがスピードの落ちてきた生徒たちと真逆に、たった一人だけ加速していく生徒がいた。オッドアイの瞳を左右とも怪しく光らせるその様は喜々として獲物を狩るようだ。
「クック……」
 ぞくぞくするような感情が下から一気に這い上がってきて、ジャスパーは微かに身震いして笑った。
「久しぶりだな、この感覚」
 囁くような小さな声は、堕ちてしまいそうなほど魅力的な世界に溶ける。
 目の動きが追いつけないほどの速さで、ジャスパーはため息が出るほどの細かい細工をほどこし続けていた。大きな作品というのは細かいところにこだわったらきりがない。その終わりのない細工の役目であるジャスパーは休む間などなかった。
(ああ、止まらなくなりそうだ)
 狂ったような甘い感覚に身をゆだねたまま、風に吹かれるほどの些細な切り込みをつける。きっとジャスパー以上にこれほどにも細工に快感を覚える者はいないだろう。
(……でも、いけない)
 不意に手の動きが鈍った。いつもは耳に当てているヘッドホンが、存在証明するように肩に圧し掛かる。
(僕はこの快楽を封印したんだ)
 急速に熱が冷めていき、ジャスパーは細いナイフを作業台に置いた。
「疲れたの?」
 ラトの背景を手伝っていたティアラがジャスパーの異変に気づき訪ねた。ジャスパーは小さく首を振る。疲れたわけではないが、思い出してしまったのだ。自分が科学室に閉じこもり、ヘッドホンで世界をシャッドアウトした理由を。
「ジャスパー、すごく楽しそうだったね。もう怖いくらい」
 ティアラは嬉しそうに笑った。何気ない言葉なのだろうが、その一言にジャスパーは眼を曇らせた。
「……お姉さんは僕が怖かった?」
 唐突な問いかけにティアラは首をかしげる。
「えっと、怖いにもいろいろ意味があるんだろうけど……。私が感じたのは止めどないくらいに流れる力の大きさだったかな。それを感じてちょっと怖いって思った」
 説明しずらいな、と笑うティアラをジャスパーは静かに見つめた。
『——怖い』
 一言が脳内に響いて、ジャスパーは静かにヘッドホンをした。昔、ジャスパーはクラス全員にその言葉をぶつけられたことがある。
 お前は怖い。お前はまるで化け物だ。だってそんな気持ち悪いほど細かい細工ができるのだから。
(五月蠅いな)
 耳障りな声はヘッドホンで聞こえないようにした。それでも聞こえてしまう小さな声は校内から離れた旧校舎の理科室に閉じこもって完全に距離を取った。そうして自分を守ってきた。
(僕はこの技術を怖いと言われたんだ。だからあまり人前で披露はしたくない……)
 どんどんハマっていく自分が恐ろしくなった。仲間だけなら見せてもいいが、今は普段いない審査員が眼を光らせている。視線が背後にこびりついているようだった。
(ああ、五月蠅い。視線が、熱気が、五月蠅い)
 無機物が好きだ。彼らは何も言わないから。
「……い、おーい、ジャスパー!」
 突然、ヘッドホンが取り上げられた。驚きで肩をぐらつかせて顔を上げる。目の前にはティアラが怒ったようにヘッドホンを持っていた。
「もう、こんなときに瞑想にはいらないでよ。今は時間がないんだし、もう少し頑張って。あとちょっとしたら試験の休憩が入るから」
 制限時間の事を思い出す。気づけば一時を回っていて、残り五時間しか残っていない。その間にお昼休憩がある程度だ。
「この構造にはジャスパーの細工が必要不可欠なんだからね」
 胸にすとんっと言葉が落ちた。
 ジャスパーはティアラを無言で見つめる。必要。その言葉が音を鳴らす。
(ああ、この音は心地の良い音だ)
 耳を澄ませてジャスパーは独特の笑い声を零した。
「言われなくてもわかってるよ。お姉さんには僕が必要なんでしょ」
「なんでジャスパーはいつも上から目線なの!」
 いつも通り生意気なジャスパーのティアラは唇を尖らす。それを見て、ジャスパーは素の笑みで笑った。
 人の声は五月蠅くて嫌いだ。だけど……。
(お姉さんの声は嫌いじゃないよ)
 細工同様に、銀の髪をもつ不思議な彼女に惹かれていくのが分かる。
 ジャスパーはもうとっくに、鳴り響く心の鼓動の正体を知っていた。
「お姉さんが必要とするなら、僕はお姉さんの傍にずっといてあげるよ」
 ていうか、離れろって言われても、もう離れてあげない。


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