コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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銀の星細工師
日時: 2015/01/28 15:12
名前: 妖狐 (ID: e.VqsKX6)

■あらすじ
 人々に幸せを運ぶと言われる『星硝子(ほしがらす)』
母を亡くしたばかりの少女ティアラは星硝子細工師になることを目指し、狩り人と呼ばれるパートナーを探す。
 細工師になるべく奮闘する日々で、天才的狩り人のキースや、伯爵の息子ヒューと出会い、ある学園へ入学することになって…!?

「私は諦めたくないよ。だって見つけたいものがあるから」
 やっかいな仲間たちと共に、時には傷だらけになりながらも、一心に夢を見て進む物語。
 

■こんにちは
あるいは初めまして。 妖狐と申します<(_ _)>
このお話は私の「頑張る女の子」が書きたい! という思いから執筆をはじめました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。

■主な登場人物
主人公/ティアラ・グレイス
一匹狼の狩り人/キース
<一級>星硝子細工師/フレッド
優しい貴公子/ヒュー

(学園の生徒)
腹黒お嬢様/アリア
失礼すぎる後輩/ジャスパー
極度の緊張症の先輩/ミラ
異国の純粋な青年/ラト
頼りがいのある兄貴肌/ブラッド


■目次

プロローグ            >>1
第一章 細工師と狩り人      1話>>2-3 2話>>14 3話>>21
                 4話>>26-27
第二章 王国パーティーへご招待  幕間>>34 5話>>35-36 6話>>37 
                 7話>>41-42 8話>>48 9話>>51-52
第三章 学園生活は前途多難!?   幕間>>54 10話>>57 11話>>71-72
                 12話>>77-78 13話>>84 14話>>85
第四章 難問のアンサー      幕間>>92 15話>>93 16話 >>94
                 17話>>100
第五章 やっかいで愛しい仲間たち 幕間>>103 18話>>112 19話>>117
                 20話>>120 21話>>123 22話>>130
                 23話>>133 24話>>134 25話>>139
                 26話>>146 27話>>149 28話>>153
                 29話>>156
第六章 魔女の陰謀と本音     幕間>>157 30話>>165 31話>>166
                 32話>>167 33話>>170 34話>>171
                 35話>>174 36話>>175 37話>>176
                 38話>>177
第七章 いざ、戦いのとき     幕間>>179 39話>>180 40話>>181
                 41話>>182
第八章 隣同士の想い       幕間>>189 42話>>192 43話>>193
第九章 最後の決断と誓い     幕間>>194 44話>>195-196 45話>>197
                 46話>>200 47話>>201
最終章 銀の星細工師       幕間>>202 48話>>203 49話>>204
エピローグ            >>207

 400参照突破【告知】 >>53
 600参照突破【トーク:ポッキーゲーム】>>81
 900参照突破【人物紹介】 >>116
 1000参照突破【番外編:誠実の皮をかぶった肉食動物】 >>126-127
 1500参照突破【番外編:ガチョウのみぞ知る想い】 >>161
 2000参照突破【特別編:お嬢様の番犬】>>183-185
 3000参照突破【特別編:唯一無二の君】>>216-217
 あとがき >>211      

■注意・お願い
・ほとんどファンタジー
・糖分は甘め
・学園、冒険、ファンタジー、コメディ、全て詰めました。
・亀最新です。ノロノロです。それでも気長に待ってくれれば。
・誤字・脱字があったらすぐコメを!
・荒らしはご遠慮します。(辛口コメントは大歓迎です)

■お客様
*コメントをくださった方

珠紀様
夜桜様
カリン様
朔良様
ひよこ様
反逆者A様
ああ様
八田きいち様
寝音様
ゴマ猫様
いろはうた様
雨様
オレンジ様
にゃは様
村雨様
苑様
再英78様
驟雨様
葉月様
スミレ様


■執筆作品
少年(仮)真白と怪物騎士団      新連載
救世主はマフィア様!?         完結
吸血鬼だって恋に落ちるらしい     完結
ラスト・ファンタジア         連載中止
神様による合縁奇縁な恋結び!?    連載再開
僕等の宝物の日々〜君が隣にいるから〜 完結
笑ってよ サンタさん!        完結

それでは本編へ レッツゴー!!

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Re: 銀の星細工師【参照1700感謝!】 ( No.171 )
日時: 2014/08/08 23:18
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

「ふあっ……ー」
 だらしなく出たあくびを手で覆う。けれどまた再度出そうになって今度は飲み込んだ。先ほどからあくびは止まることを知らずにやってくる。
 登校時間前に仲間と細工の練習をしているが、意識を集中させても頑固な眠気が引くことはなかった。
「お姉さん、寝不足? それって結構肌に悪いんだよ」
 ジャスパーがティアラの肌の調子を確かめるように聞いてくる。隣で可愛らしい子リスを作っていたミラも心配するように顔を覗き込んできた。
「あら、隈がこんなに……。ティアラさん、何時まで起きてらっしゃるの?」
「そうだぞ。ちゃんと寝て、朝は朝飯を思いっきり食うんだ。早寝早起きは昔からの基本だぞ」 
 ブラッドも活発な笑顔で言った。ラトも無表情で視線を向けてくる。
「もし、眠くなったら、ラトの膝、貸して差し上げる。この国の人、寝るときは膝枕って聞いた」
「どこの情報だよ、一体」
 呆れたようにジャスパーはため息をついた。形は違うがそれぞれに心配されていることが分かり、ティアラは努めて明るい声を出した。
「大丈夫だよ。最近ちょっと読書にハマっちゃって読むことを止められないんだー」
「確かに本は面白いものね」
 納得するようにミラはうなづいた。彼女もかなりの読書家で何冊もおすすめ本を貸してもらっているのだ。けれど実際は本を読んで夜更かしをしているわけではなかった。
「ちょっと顔洗ってシャキッとしてくる」
 工房を出て近くにある水道へ小走りする。蛇口をひねると冷たい水が勢いよく出て、ティアラはそれを顔へ運んだ。意識が鮮明に研ぎ澄まされていくのを感じる。けれどそれでも眠気は完全に引いてくれなかった。戻ろうとするとつい、足元がふらついてしまう。
(ちょっとやばいかも……)
 そんな危機感を持ちながらも心配をかけないためにティアラは無理やり笑顔を作った。
 体調管理ができていない原因は睡眠時間が極端に少ないためだ。けれど増やすことはできない。寝る以上にやらなければならないことがたくさんある。キースとの秘密の練習だ。
 試験まで残り五日。どうあがいたって定まっている時間は一秒たりとも無駄にできない。だから後は自分が頑張るしかないのだ。
 覚悟はとっくのとうに決めただろう。

               *

 その日の放課後、事件は起こった。
 いつものように授業が終わると工房へ練習に集まる。今日はそろそろ構図を決めに入ろうかと思案していた。
「ジャスパー、お題の飛行についてもう一度考えてみない?」
 提案すると彼はうなづいて、それぞれ作業に移っていたメンバーを集める。作業台を囲むような形になりながら、ジャスパーが口を開いた。
「試験まで残り少ないからそろそろ、試験の時に作る作品の構図を決めなきゃならないんだけど、一度それぞれの思い描く飛行を作ってみない?」
「それぞれの思い描く飛行ってなんだ、自分で想像するものを形にするのか」
 ブレッドが首をかしげて話に入る。
「そう。多分、話し合いをするよりかは作ってみた方がいいと思うんだ。その方が個人の考えている飛行について理解しやすいし、方向性も絞れる。僕らは細工師だ。想像を形にすることが仕事だろ」
 ジャスパーの最後の一言に皆が一気に真剣な顔つきになった。物づくりを専門とする細工師は自分の想像や考えがお金になると言っても過言ではない。自分のデザインを気に入ってくれる人がいれば、それが売れるわけだからだ。細工師にとって想像は自分の武器とも言える。
「よし、始めようか」
 それを合図に五人は星硝子を手に取った。練ってある練習用の星硝子を前にティアラは動きを止めて少し考え込む。
 飛行を形にするならなんだろうか。やはり一番初めに思いつくのは鳥。大空を羽ばたく鳥類の数々だ。
(鳥の中でも、もっと飛行って言ったら、うーん……)
 もやもやした形は出来上がってきたが、はっきりとはしない。空を飛んでいる鳥と言ったら身近な鳥しか思いつかなかった。その中でティアラは悩んだ末、渡り鳥の一羽を選択した。よく見かけ、朗らかに空を飛んでいる鳥だ。
(よし、つばめを作ろう)
 つばめの胴体を適当な大きさにちぎった星硝子で作っていく。それに翼の形に切り取ったものを二枚、左右につけ、足や頭をたしていく。大体の形が出来上がったら次にティアラは細工道具を取り出した。
 キースと始めた夜の特訓はまだ昨日しか行っていないが、少なくとも細工について少しつかめたような気がする。流れるような線が自然に描けるようになってきたのだ。
(そういえば昨日、結局第二の星硝子は探しに行かなかったな)
 練習が済んだら探しに行こうと言っていたが、ティアラが熱中しすぎてしまったため練習時間が思ったより掛かったので昨日は行かなかったのだ。
(あれ、もしかして私お荷物になってる……?)
 ふと、手の動きを止める。ティアラの練習がなかったらその分キースは探索できただろう。今まで気づかなかった自分を悔やみながら、ティアラは手に力を込めた。探索時間を減らしてしまっているのだし、その分細工の腕をもっと良くしたい。
 意気込んで、一枚一枚羽を描くように細工しながら、細かい描写に気を付けていく。作品に一番命を吹き込む瞬間である瞳を最後にいれると、ティアラはつめていた息を吐き出した。
 気づけば作業開始から四十分。額から流れる汗をぬぐって周りを見渡してみれば他の四人も同じようにほとんど完成していた。
「皆は何を作ったの?」
 何気なく聞きながら視線をそれぞれの作品に向ける。そしてティアラは眼をみはった。全員が全部、鳥を催した作品だったのだ。種類や大きさはバラバラだが鳥であることに間違いはない。
「決まりのようだね」
 恐ろしいほど細くて小さな鳥を作っていたジャスパーが全員の作品を見て言うと、周りもうなづいた。個人の目指す方向性、それはメンバー全員が同じだったのだ。
「僕らの作品は鳥をメインにしていこう」
 決定にティアラが賛同しかけたとき、割り込むような、かん高い声が響いた。
「——あらあ、そんな、いかにも飛べなさそうな鳥をメインになさるんですの?」
 あきらかに悪意の混ざった言葉に驚いてティアラは振り返ると、作業台の少し先に長いロングヘアを持った女子生徒が腕を組みながら立っている。制服にフリルがたっぷり付いていて、立ち姿からどこか名家のお嬢様だろうと察しがついた。この学園に名家の名を持つ者はそうめずらしくない。
 ジャスパーたちの空気がいきなり、ぴりっと電気が通ったのを感じた。いきなり現れたこの子は誰なんだろうか。
 無言の怒りに気づいていないのか、または気づいても知らないふりをしているのか、その隣で同じようなポーズをとっているもう一人の女子生徒が口に手を当てて笑う。
「駄目よ、そんな本当のことを言っては。この人たちも頑張っているのよ、星なし、星ひとつレベルで」
 星なし、星ひとつ。その単語にティアラは眉を寄せた。今までもそんな言葉を多々耳にしてきたからだ。
(まただ……)
 これまでの練習の時、ささやかな笑い声が向けられることがあった。ティアラの星数の関係で星ひとつと星なしの位で集まった仲間たちを馬鹿にする声だ。今回も同じだった。一つ違う所はそれを直接言ってきたところ。
 小さな憎悪が膨らんでいくのが分かる。それをどうにか飲み込んで沈めたとき、ティアラの心の声を代理するような言葉が放たれた。
「お前ら一体なんだなんだよ。俺らの悪口言うなんていい度胸じゃねえか!」
 ブラッドが野太い声を上げて唸る。勢いよく机を叩いて威嚇する姿に思わずと言った様子で女子生徒は小さな悲鳴を上げた。ティアラも一瞬放心して、すぐさまブラッドをなだめる。
「ちょ、ちょっとブラッド、落ち着いて」
「なんでだよ。いきなり嫌味を言われて黙ってられる訳ないだろう」
 納得できない様子のブラッドを押さえる。言い返したい気持ちは分かるが、女子生徒に大柄なブラッドが声を荒げるのは、こちらが正当な意見を持っていても不利に思えた。
 ブラッドが不服そうな顔をしながら静かになったのを見て安心したのか、また女子生徒は品定めするように作業台に置いてあるティアラたちの作品を見る。
「そうね、さすが星なしと星ひとつの集まりと言ったところかしら」
 くすくすと笑いながら見せつけるように女子生徒は自分たちのバッチを示した。そこには星が三つ。なかなかの腕を持っていることが見て取れる。
「皆さんが試験に出ても、星なんてもらえるのかしら?」
 馬鹿にした問いかけに、抑え込んだ憎悪の心がまた膨らんできた。つい女子生徒へ向かって一歩踏み出したとき、、先に動いたのは意外な人物だった。
 それまで無言で成り行きを見守っていた一人が静かに前へ出て、ゆっくり女子生徒へ近づいていく。
「お姉さんたち、もったいないね」
 背中に鳥肌が立つような誘惑的で甘い声がジャスパーの口から放たれた。女子生徒はいきなり出てきた美少年に頬を染める。
「な、なにがよ」
 ジャスパーの色気に引き込まれそうになりながら、懸命に声をしぼりだしているようだった。ジュスパーはふっと笑ってロングヘアの女子生徒の顎に手を添えた。
「えっ」
 ついティアラは声を上げてしまった。女子生徒もさらに顔を赤くさせる。ジャスパーは反応を見るように滅多に見せない笑みを浮かべた。
「だって、こんなに綺麗なのに……心は酷く醜いんだもの」
 甘い雰囲気がひと吹きで恐ろしい物に替わる。女子生徒の顔がみるみるうちに強張っていった。
「今、周りから見てとても恥ずかしい存在だって気づいてる? ここは星硝子を作る人たちの場所なんだ。おしゃべりをするなら出て行ってほしいんだけど」
 冷めた表情で顎から手を放すジャスパーにティアラは顔が引きつった。
 嫌味を倍にして返す名人が、ここにいたではないか。女子生徒は甘い空気からの落差に頭が真っ白になっているようだった。日頃、嫌味ばかり言われているティアラには、放心したくもなる気持ちがよくわかる。
 もう、早くここから立ち去ったほうがいい、とティアラは二人に心の中で忠告した。
 けれどその小さな忠告も二人の耳には届かなかった。一瞬心を奪われてしまった恥と、馬鹿にされたことで、ようやく女子生徒の肩が震える。羞恥と怒りで瞳は染まっていた。
「なによ、偉そうに! あんたも星なしじゃない。私たちの細工技術に到底かなわない癖にいきがってんじゃないわよ、このちび!」
 あ、地雷を踏んだ。
 ティアラの頭の中にはカチッと地雷を踏んでしまったような音がした。喚くように罵詈雑言を並べる女子生徒の言葉の中に禁句が混じっていたのだ。
 俊二に危険を察知するとブラッドを盾にするよう下がる。爆発まであと数秒。
 ジャスパーの放つオーラが恐ろしすぎて直視できない。禍々しいオーラを感じたのか、ブラッド達もやってしまった、という顔をしていた。あの女子生徒はもう無事に帰還できないであろう。
「僕を侮辱したね……?」
 ティアラは爆発に備えて心の準備をする。
 小さな雨雲が激しい雷雨を呼び寄せてしまったようだった。

Re: 銀の星細工師【更新8/08】 ( No.172 )
日時: 2014/08/10 12:56
名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)

 こんにちは、朔良です。

 キース君が久しぶりの登場……!
 しかも、名前を呼んだら来てくれるってどんだけカッコイイヒーローなんですか。キース君を朔良に下さい←

 テーマが「鳥」に決まってのですね!
 着々と試験に向けて準備が出来上がってきているようで、私も先がとても楽しみです!

 妖狐ちゃんはオリキャラの使い方上手ですね……!
 全員活躍するように描いていて、投稿した身としては嬉しい限りです(*^^)v


「ちび」は駄目だよねえ……
 女子生徒が無事生還するように祈っています笑
 自分で作ったキャラクターなのに、先が読めないのでとても楽しく読ませて頂いてます!


 更新次回も楽しみにしていますね! 

Re: 銀の星細工師【更新8/08】 ( No.173 )
日時: 2014/08/13 12:45
名前: 妖狐 (ID: 69bzu.rx)

朔良師匠>

こんにちは(^◇^)

キース君、朔良師匠に差し上げます!(おい
本当に久しぶりの登場でした。

これから試験に向けてどんどん加速していきたいと思います!
受験があるので筆を動かす時間も減ってきてしまってるのですが(汗
勢いでどうにか乗り切りたいと思います!!

ジャスパー君の件については本当に感謝してもしきれませんっ!(>ω<)
朔良師匠の魅惑的なキャラのおかげで想像がはるかに豊かになりました。
それに私自身、朔良師匠に頂いたジャスパー君が大のお気に入りです!

ちび、はダメですねえ……笑
楽しく読んでくださってるだなんて/////
ありがとうございます!!

次回のジャスパー君爆発もはりきっていきたいとおもいます!!
ありがとうございました<(_ _)>

Re: 銀の星細工師【更新8/08】 ( No.174 )
日時: 2014/09/25 16:45
名前: 妖狐 (ID: AwgGnLCM)

 不穏な空気が渦巻く。その中心にいるのは、いきなり嫌味を言ってきた女子生徒と直視できないほど禍々しいオーラを放つジャスパー。
 全員直ちに非難せよ!
 心の中で叫んで後退する。ジャスパーは首を少し曲げて、ひきつった顔の女子生徒を見上げた。
「僕がなんだって? もう一度言ってごらん」
 ちび、という禁句を発してしまった女子生徒は何も言えないで立ちすくむ。
「ああ、まったく、その分厚く口紅を塗った唇から僕を指す言葉がでるだけで嫌になる」
 煩わしそうに髪をかき上げる仕草はこの場に似合わず妙に色っぽかった。
「な、なによ、あんたに関係ないじゃない」
 女子生徒が声を振り絞って一歩前に出る。けれどそれをぴしゃりとジャスパーは、はらった。
「五月蠅い、お姉さんたちの声は五月蠅すぎるよ。どうしたら静かになってくれるの? 僕が口を閉じる手伝いをしてあげようか」
 ジャスパーは一歩踏み外せば犯罪間近まで近づいた。怖すぎる。それでもなお、ひるみながら女子生徒が反論しようとしたとき、聞き覚えのある声がそれを制した。
「もう止めなさい。あまり騒ぐのはレディとして失格だわ」
 縦巻きのロール髪がやんわりと揺れ、少しつり目の強気な瞳を持った少女が二人の女子生徒の間から現れる。ティアラは目の前の光景を疑った。
「それにそこの方は、星なしという肩書だけれど、実力は相当のものよ」
一気に細胞が弾けたような気がする。会いたくなかった気持ちと真逆の会いたかった気持ちが同時に騒ぎ立てた。
(なんで、ここにいるの……——アリア)
 彼女の姿はしばらく見ていなかったが外見に変わった様子は見られなかった。けれど明らかに前とは違っていた。彼女を包む、ティアラを騙すための偽物の演技が綺麗になくなって、元々の気の強い雰囲気が出ている。優しそうな欠片など、もう残ってはいなかったが、なぜかただ一言に「美しい」と思えた。
(そう思うのはきっと、今目の前にいるのが、本当のアリアだから)
 目が離せずアリアを呆けたように見つめていると、彼女と一瞬目線が交じり合った。けれどなにもなかったかのように無視されて、またティアラの心は悲鳴を上げる。彼女とはもう元の関係には戻れない、そう分かっているのに。
「あ、アリアさん。ごめんなさい、私たちったら少し感情が高ぶってしまって……」
「大丈夫よ。完璧な人などいないもの」
 優しげに女子生徒へ微笑みを向けるアリアの表情が、一度裏切られたティアラにはすぐ偽物だと分かった。けれど女子生徒は心底安心したように笑う。それはまるで怒られるのに怯えていたようだった。
「結局、お前らは一体なんなんだよ」
 警戒心を解かずブラッドが訪ねると、女子生徒をよりアリアは前に進み出た。赤い髪が鮮やかに舞う。
「いきなりごめんなさい。私が『ある事』を彼女たちに言ったから、困惑してしまったのよ。まさかこんなことになるとは思わなかったわ」
「ある事ってなんなのさ」
 ジャスパーが口を開いた。もう機嫌は収まっているようで安心する。
 アリアが一瞬、ちらりとティアラを見た。
「ある噂を話したのよ。最近少しずつ広まってきたものだけれどね」
 腕を組みながら綺麗な発音でそのまま話した。
「星獲得試験に負け組が集まったグループが参加するって噂よ。私も最初そんなはずないって思ったの。だって負けた人たちがいくら集まったってどうにもならないのは分かりきっているじゃない」
 ティアラは雷に撃たれたような衝撃を受けた。隣でブラッドが額に血筋を立てて厳めしい顔つきをしている。ミラは今にも泣き出しそうだった。
「でも本当だったのね。彼女たちとはありえないって話してたんだけど、見つけたからついつい言葉が口から零れちゃったみたい」
 アリアの話しはどこからどう聞いても自分たちへ向けられた悪気のある故意的なものだった。
「どう、しちゃったの……」
 ぽつりと言葉がティアラの口から零れ落ちた。
「アリア、なんでそんな事を言うの! アリアはそんなんじゃなかったじゃない……!」
 あの頃の優しかったアリアを忘れられなくてつい、叫ぶ。けれど彼女はこちらを見ようともしなかった。
「それじゃ、皆様ご機嫌よ。試験で良い作品を作りあげられることを、祈っています」
 軽く礼をしてアリアは女子生徒を控えて、身をひるがえした。
(待って……!)
 ティアラは走ってアリアの腕を引き留めるように引く。
「アリア、私言いたかったことがあるの。あなたがいなくなって私は……」
 寂しいの。
 どれだけ変貌しても、自分が見てきたアリアが全てうそなんて思えない。だから。
 言葉を紡ごうとしたとき、強い力で振り払われた。
「止めてちょうだい。もうお友達ごっこは終わったのよ」
 冷たく凍りきった声。ああ、やっぱり全て偽りだったのだろうか。
「あなたは一級細工師のお墨付きでここにきたから利用できると思って近づいただけ。でも星なしレベルだったあなたになんて用はないの」
「そんな、レベルとか身分なんて関係ない……」
「あるのよ!」
 感情の籠った言葉がティアラに投げつけられた。足元が音をたてて崩れていくような感覚に堕ちる。
「身分は大事なものなの。だってそれは一瞬で自分の力を見せつけられるものでしょ」
「そんなことない! 努力次第でそれ以上のものを作れる」
「なんでも努力すればできるわけじゃないのっ!」
 静まった工房内に怒鳴り声が響いた。肩で息をしながらアリアは眼を見開くティアラを睨みつける。
「あなたなんて大嫌い」
 ティアラはよろけて、ぺたんと地面に尻もちをついた。
「そんなにいうなら、試験で星五つとって見せて頂戴。そうすればあなたを信じてあげるわ。でも、できなかったら……——退学しなさい」
 ティアラは涙が溢れそうになった。もうアリアと笑いあうことは無理なんだろうか。もし、それが可能になるのなら、選択肢は一つだけ。
「うん、分かった」
 彼女に認めてもらうしかないのだ。
 まさかティアラがうなづくとは思わなかったのかアリアはすこし驚いたように眉を上げた。けれどすぐに工房室を出て行ってしまう。
「待ってて」
 ティアラは小さく呟いた。
 今、あなたを助けに行くよ。とても悲しそうな目をしたあなたを。

 ティアラは自分の学園生活を賭けた勝負に挑むことを決心した。

Re: 銀の星細工師【更新9/24】 ( No.175 )
日時: 2014/09/25 18:22
名前: 妖狐 (ID: AwgGnLCM)

「なんで、そんなに泣きそうな顔してるんだ」
 キースの言葉に、はっと我を取り戻す。今までぼんやりしていたため、つい細工専用のナイフを手から落としそうになった。
「おいおい、らしくないぞ」
 呆れたような声にティアラも自分でそう思う。細工をするための大切な道具を傷つけてしまいそうになるなんて、普段のティアラからは考えられない。そして、なによりも細工中にぼーっとするなど今までにない経験だ。
「泣きそうな顔なんてしてないよ」
 笑顔を作って手に力を込める。たった数時間前に約束したアリアとの賭けが鮮やかなまま、脳内にこびりついているようだった。
 星獲得試験で星五つの評価を貰えなかったら退学。大きな博打に出たと思う。
(それでも後悔していない)
 未だに諦めきれないアリアを振り向かせるには、この方法しかないからだ。
「何があったんだ」
 どんな些細なことも分かってしまうキースは鋭い目つきでティアラを見つめてきた。夜の寒い空気が微かに震える。キースは練習する時間が足りないと言うティアラのため、真夜中の特訓に付き合ってくれているのだ。
「だから何でもないよ。強いて言うなら……少しだけ胸が痛いだけ」
 ぽつりと呟く。
「馬鹿か。この藁(わら)頭が」
 キースは悪態をつきながら、むぎゅっとティアラの鼻を掴んだ。息が急に止まって眼を剥く。
「ふぐっ! ちょ、いきなりなにするのっ!?」
「なにが少し胸が痛いだけ、だ。それを悲しいって言うんだろ」
 もっともな言葉につままれた鼻を押さえてうつむく。自分の今、作っている星細工も悲しみを表すように寂しげなものになっていた。
「おい、お前がそんなんだとこっちまで調子が狂うだろ。お前はただ、阿呆みたいに笑ってればいんだよ」
 横を向いたまま無愛想に話すキースをじっと見つめる。
「……なんだよ」
 不機嫌そうにうろたえる彼が無償に愛おしくなった。
「やっぱり優しい」
 へへっと笑うと、勝手に言ってろ、と返されてしまう。けれど彼の黒曜石の瞳は温かい。
 力強くて芯があってぶれない。ものすごく格好いい。
「おい、第二の星硝子探しはもう少し延期してやるから、とりあえず試験の事に集中していいぞ。何かまた抱え込んでるんだろうし」
 今は彼に優しさに甘えてティアラはゆっくりうなづいた。そのまま、沈んだ表情の星細工に微調整を加える。
 一輪の花をさして微笑む星細工にティアラも満足げに微笑んだ。

 星が瞬く夜空の下で、工房に一筋の明かりが灯っている。
 アリアは教師に頼まれた書類をこなす為、特別消灯時間過ぎまで校内に残っていた。書類を終えると、窓から見える工房の明かりのもとへと向かってみる。
 その中を覗き込んで小さく息を飲み込んだ。

             *

「お姉さん、もう来ていたんだ」
 朝の工房に一番乗りしてやってきたティアラは、ジャスパーの声に手を止めた。睡眠時間はたった少しだが気分はすこぶる良い。
「まあ、昨日あんな勝負引き受けちゃったんだから、かなり練習しないとだよね」
 まるで他人事のように聞こえる。けれど実際は今回団体戦の試験なので、ジャスパーたちの協力は必要不可欠だった。
「私が勝ってに決めたことなんだけど、どうかお願い。星五つとれるように協力してほしいの!」
 頭を下げると、ふっとジャスパーの笑い声が降ってきた。次の瞬間ぐっと手首を引かれる。
「あ姉さん、頭を上げてみなよ」
 導かれるように手を引かれた方を見ると、そこにはもう、ミラとブラッド、ラトが並んでいた。
「当たり前でしょ。僕らは仲間なんだから」
 それぞれが頼もしげに笑顔を向ける。
「ていうか、僕、最初にお姉さんに言ったはずだよね? 僕が仲間になるからには星五つ獲得しなきゃ許さないって。最初から星五つとることは決定事項なんだよ」
 頼もしいジャスパーの声が、なによりも嬉しかった。
 学園に来てから一人ぼっちだったときには考えられないほど、眩しい言葉に目を細める。『仲間』その人たちがいるからこそ、今も自分はここに立っていられる。
「ラト、星細工の構図、考えてきたのです。昨日、言われたこと、悔しい、でした」
 いつもに増して感情のこもる瞳でラトは丸めてあった紙を開く。ラトが元々美術の得意な子であったことを思い出した。
「ラトの仲間、みんなすごいのです。だから、見返す。そのための、構図」
 ぱっと広げられた構図にその場にいたティアラたちは眼を奪われた。唸るようなアイディアと、見惚れるような世界観があった。
「すごいよ、ラト! これ、早く作ってみたい!」
「ふふ、褒められるの、嬉しいです」
 赤く頬を染めるラトにブラッドもバンバンとラトの背中を叩く。
「でかしたぞ! これならあいつらを見返せる最高の構図だ」
 彼の言葉にラトはせき込みながらも微笑んだ、
 朝日がきらきらと降り注ぐ。さあ、特訓の始まりだ。


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