コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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あ、そうだ!
日時: 2015/01/01 00:00
名前: 夕陽 (ID: jP/CIWxs)

はじめましての方が多いと思います。

いろんな作品を書かせて頂いている夕陽です!

自分の作品の一つが終わったのと新年になったので前々から考えていた作品を書こうかと。(といっても考え始めたのは12月中旬くらいからですが)

内容は生徒会メンバーが巻き起こすイベントみたいな感じです。

よろしくお願いします!

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Re: あ、そうだ! ( No.55 )
日時: 2016/12/27 18:26
名前: 夕陽 (ID: w32H.V4h)

11月 あ、そうだ! 修学旅行をしよう!

「あ、そうだ! 修学旅行の計画たてよう!」

 もう赤くなった葉も落ちようとしている11月。
 美琴は寒くなってきたにもかかわらず元気に宣言した。

「いや、それは二年生の仕事だろう」

 聡はすかさずつっこむ。
 水花学園の修学旅行は2年生の冬に行われる。

「そうだけど、美琴達暇じゃん?」
「だからって口出しするのは……。勉強しなくていいのか?」

 確かに修学旅行以外11月はイベントがないので生徒会も暇だ。
 だが、3年生は普通ならもっと前から受験勉強に専念する。
 そのため修学旅行関係は例年2年生が教師と一緒に行うことによって3年生は受験の方を優先させる。

「大丈夫! 今まで生徒会しながら学年順位は1桁にいたでしょ」

 美琴は胸を張る。
 授業を比較的真面目に受けており、生徒会の仕事はほとんど残業なしなのでそれなりに勉強時間はあるのだ。
 ただ、会議がある日は1、2時間ほど時間がとられる。

「まあ、面倒な書類の作成とかは全部俺がやっていたからな」

 若干の嫌味を混ぜて聡は返した。
 そういう聡は毎回学年1位をキープしている。
 もちろん生徒会をやりつつ、だ。

「でも副会長なんだかんだ言って成績トップじゃないですか」
「生徒会あんまり関係ないですよね?」


 聡の成績は他学年にも知られているらしい。
 双子に言われると聡はため息をついた。

「分かったよ。まあ修学旅行なら新しい書類作る必要ないしな」

 流石に美琴をそのままにすると突飛なことが起こりそうだと考え聡は渋々参加することにした。

「流石さとちゃん!」

 美琴は笑顔で言い、

「まあ、もう飛行機とかホテルの予約とか既に先生たちが決めているんだけど。美琴達がすることほとんどないんだよね」

 すぐに残念そうな顔になった。

「もう修学旅行の日程も決まってますし、あとはしおりの印刷しかないですね」
「しかもそれは、有志の修学旅行委員がやってくれますし」
「うーん、じゃあしょうがない」

 双子の言葉に美琴は少し考えて、

「1年と3年も2年生が修学旅行の間にやるイベントを考えよう!」

 いきいきと宣言した。

「ちなみにその書類は」
「私が書くよ」

 聡はその言葉に驚いた顔をする。

「いつもの流れから考えて俺かと思った」
「いつもさとちゃんに頼ってばかりじゃだめだし。書類書く方法教えてもらうから大丈夫! で、どんなイベントにする?」

 美琴は立ち上がり皆を見渡した。

「だったらプチ修学旅行はどうですか? あ、イベント名は仮名ですけど」

 希が手を挙げて発言する。

「なるほど! 面白そう! どういうのやるの?」
「そのままです。1、3年生で日帰りでどこかに行くって感じですかね」
「広い公園とかいいかもね。バスで2時間くらいのところにあるし」
「そこで、スポーツ大会をやるのはどうですか? 1、3年生合同のチームで」
「よし! 決まり! 2年生が不在の間、1、3年生はプチ修学旅行だ! 私は企画書書いてくるから帰るね! 解散!」

 鞄を持ち敬礼して去っていく美琴。
 そんな様子を3人はぽかんと眺めていた。

「美琴、いったいどうしたんだ……? 自分で企画書書くなんて」
『さあ?』

 聡の問いに答えらるものはいなかった。

     *     *     *
なかがき
今回は修学旅行です!
メインは修学旅行になります。
プチ修学旅行は書くかどうかは未定です……。

更新は1月から遅くなると思うので年内——は多分無理なので冬休み中までに11月編終わらせたいです。

Re: あ、そうだ! ( No.56 )
日時: 2016/12/28 18:46
名前: 夕陽 (ID: w32H.V4h)

11月 あ、そうだ! 修学旅行をしよう!2

「ねえ、もうあんなに本州が小さいよ!」

 希は飛行機の席の隣にいる望に向かって興奮気味に言う。

「煩い」

 望はそんな希を一蹴する。

「ひどいなあ。修学旅行楽しみじゃないの?」
「うん、美琴さんいないし」
「即答!?」

 修学旅行だからかいつもより何割かテンションが高い希が突っ込む。

「あ、そっか。むーは友達いな——」
「何か言った?」

 希がもらそうとした言葉に普段の1,3倍(希比)低い声で止める。

「大体、俺にも友達いるし。みーほどではないけど」

 望は機嫌が悪そうな顔のまま続ける。
 希は性格ゆえか部活には入っていないにもかかわらず交友関係は広い。

「もう、出発からそんなしかめっ面しないでよ。空気悪くなるでしょ!」

 希はそんな望を見て軽く叱責する。

「それに、会長さん言ってたよ? 最終日は学校休んで来てくれるって」
「本当!? 楽しみだな〜」

 一気に顔が嬉しそうになる。
 漫画だったら花が出てきそうだ。

「それにしても、本当に望は会長さんのこと好きなんだね〜」

 希の隣に座っていた希の友達、陽(はる)は笑う。
 ちなみに陽も美琴のことが好きである。
 というより信仰している。

「まあ、望は会長さんと次元が違いすぎて合わないけど」

 朗らかなようでかなりの毒舌家。
 希は陽のことをそう評価している。
 茶色でふわふわの髪とたれ目がちの髪と同色の瞳、雪のように白い肌など見た目は人形のようなのに毒舌家。
 まあ、そこも嫌いじゃないんだけど。
 希はそう思ったが、望は違うようだ。

「確かに美琴さんはすごい人だけど! 陽なんかにそんなこと言われたくない」

 先ほどと同じように機嫌が悪そうな顔になる。

「え? 陽は本当のこと言っただけだけど〜?」

 陽は小首をかしげる。
 希は2人が火花を散らしているのを感じた。

「2人ともケンカしない! せっかくの修学旅行が楽しくなくなる!!」
「ごめんね、希」

 希の言葉に陽はしゅんとしたように落ち込む。 
 こんな陽の姿を見て希は、

「悪いのはむーだから大丈夫だよ」
「いや、今のは陽も悪いでしょ!」
「むー往生際が悪いよ?」
「……ごめん」

 これ以上言い争っても勝ち目がないと思ったのか望は仕方なさそうに謝る。

「というか、なかなかつかないね」
「いや、まだ30分も経ってないぞ」

 腕時計を見つつ望が返す。
 すると陽はあくびをする。

「ふわぁ、陽は眠いから寝るね。おやすみ」

 そういって座席のテーブルを出して寝てしまった。

「私も昨日修学旅行が楽しみすぎて筋トレしてて寝てなかったから眠いかも。おやすみ」

 希も陽につられたのか眠りにつく。
 望はそんな2人を見て、

「俺も寝ようかな」

 夢の世界に落ちていった。

     *     *     *

「沖縄だよ! ついに着いた!」

 空港から出た希は嬉しそうに叫んだ。

「ん〜、希うるさいよ〜?」

 寝起きでややぼーっとしている陽は寝ぼけた瞳を希に向けた。
 希は寝起きがいい方であることと、修学旅行でテンションが上がっていることからエンジンはすでにかかっている。

「希ちゃん、元気ですね。でも今日は1つ観光名所訪れてホテルだから明日までその元気とっておいたほうがいいですよ」

 苦笑いで近づいてきたのは、和香(のどか)。
 洋服よりも和服が似合う彼女は海外でも評判が高い和風の小物や服を扱っている老舗の娘だ。
 彼女の髪についている赤い花のヘアピンは彼女の店のものである。

「ごめん、つい興奮しちゃって……」

 照れ笑いで希は返した。

「まあ、私にも希ちゃんの気持ちは分かりますが」
「だよね!」
「みー、調子乗りすぎ」

 望に頭を軽くはたかれ、希は静かになった。

「というか早くバス乗らない? 置いていかれるよ」

 望の言葉に周りを見渡すと既にクラスの人たちは移動していた。
 知らない土地で迷子になったら大変だ。
 4人は急いでクラスの人たちの後を追った。

     *     *     *

「こんにちは、水花学園の皆さん。私はバスガイドを務めさせていただく喜屋武(きゃん)京子(きょうこ)と申します、よろしくお願いします」

 バスに乗るとバスガイドさんがいた。
 バスが発車するとバスガイドさんは自己紹介から入る。
 そして方言や道の先に見えた物の説明などを聞いているうちに目的地に着いた。

     *     *     *

「すごかったね! 首里城!」

 希は1つ見ただけだというのにすごくテンションが上がっていた。
 これも修学旅行のなせる業だろうか。

「すごかったですね! 門はもちろん、中も!」

 どうやらそれは和香も同じようだ。
 まだ初日なのに大きな土産物の袋を既に持っている。
 そんな様子を見て一緒に行動していた陽はなかなか動かない2人を急かすのに疲れてしまった。
 とはいっても1人でいた真面目な子を巻き込んで負担を減らしていたが。

「はいはい、とりあえずバスに戻るよ」

 その真面目な子、悠里(ゆうり)はそう言って二人の背中を押した。

「ごめんね、手のかかる子で」

 陽は申し訳なさそうに悠里に言った。

「大丈夫だよ、普段弟と妹の世話をしているから」
「そういえば悠里は5人兄弟だっけ?」
「うん、だからお世話は慣れてるよ」

 そういいつつ二人を押す手は止めない。
 ちなみに悠里は和香を、陽は希を押している。

「ふぅ、やっと着いた」

 無事バスに乗り込み、一息をつく。
 後はホテルに直行だ。

     *     *     *
なかがき
今回は新キャラ(と言っていいかわかりませんが)がたくさん出てきたので書くの楽しかったです。
考えてみればこの話は生徒会がメインなのでクラスメイトとか出す機会がなかったんですよね……。

次回は最終日メインの予定です。

Re: あ、そうだ! ( No.57 )
日時: 2016/12/30 11:56
名前: 夕陽 (ID: w32H.V4h)

11月 あ、そうだ! 修学旅行に行こう!3

「そういえば、今日会長さんが来るんだよね!?」
「んー? 陽まだ2時だよ……?」
「だって会長さんいつ来るか分からないじゃん! あの会長さんだよ!?」

 確かに、と希は思う。
 あの会長のことだから0:00に「おっはよー、朝だよ!」と窓から飛び込んできてもおかしくない、とも。
 幸い寝起きはいいほうなのですぐに目を覚まし、すぐにメッセージアプリを起動する。

「あー、大丈夫だよ。会長来るの朝6時らしい」

 メッセージが来ていたので希はそれを返しつつ陽に言った。

「なんだ〜。よかった。おやすみ、希」
「うん、おやすみ」

 そう言って2人はもう1度寝始めた。

     *     *     *

「おはよう! 美琴も修学旅行に来ちゃいました!!」

 そんな館内放送で起こされた水花学園の生徒。

「会長さん!? この声は本物の会長さんだ〜!」

 陽はすぐに目を覚まし、瞬きをする間に身支度を終わらせた。

「うーん、サーターアンダギーは好きですが流石に500個も食べられません」

 和香はまだ夢の中。

「和香、もう朝。起きて」

 既に目覚めた希はひたすら和香を揺らしている。
 激しすぎて写真に撮ったら幽霊と勘違いしそうなくらい揺れているが……、

「そ、そんな! サーターアンダギーが回転して私を襲うなんてありえません!」
「こうなったら仕方ない。えいっ」

 全く起きないので希は布団を奪う。

「あれ? サーターアンダギーは?」
「やっと起きた」

 希は無事和香を起こすことに成功しほっとする。

「希、和香。早く〜。会長さんに会いに行こう!」
「いや、私たちは先に朝食を食べに行かないといけないから」

 自分の準備をさっさと済ませ希は言った。

「とりあえず、朝食会場に行くよ!」

 和香が着替え終わったのを確認して希は鍵を持った。

     *     *     *

「あ、会長!」
「希! 修学旅行は楽しんでる?」
「はい、もちろん。むーには会いました?」
「うん、館内放送の後すぐに。でも、目の下に隈があったからもしかしたら寝れてないかも」

 希はそういえば望には会長が来る時間連絡してなかったから何時に来るのか分からなかったのか、となんとなく予測がついたが美琴は理由がわからず気にしているようだ。

「あー、それは多分大丈夫ですよ。きっと寝ずにウノでもやっていたんでしょう」
「そっか! ならよかった! そういえば美琴も去年の修学旅行1睡もしないでウノやってたなあ……」
「会長、それ体大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ただ行きと帰りの移動は熟睡だったけどね〜」

 1日目と4日目はほとんど移動だったので実際は2徹らしい。

「そういえば、希。一緒に水族館回ってもいい? まあ、友達と一緒だろうから無理ならいいけど……」

 美琴の言葉に希は今日一緒に回るメンバーを思い浮かべる。
 陽は願ったり叶ったりだろうし、和香も気にするタイプではない。

「いいですよ。というかそっちの方が喜ぶと思います」

 主に陽が、と心の中で付け足す。

「ありがと! まあ、1人で回ってもいいけど、たくさんで回った方が楽しいもんね!」

 美琴は笑顔で言った。

     *     *     *

「本当に!? あの憧れの会長さんが陽たちと一緒に回ってくれるの?」

 普段のおっとりしたしゃべり方を捨ててきたように興奮気味な口調でまくしたてる。

「うん」

 希はそんな嬉しそうな陽を見て言う。

「はあ〜。陽今すっごく幸せ〜」

 陽はにこにこ笑っている。
 本当に嬉しそうだ。

「会長は現地に直接行くんだって。だからそこで合流するよ」

 数分の話し合いで決まったことを希は伝えた。

「分かりました。それにしても良かったですね、望君の方に会長さんがつかなくて」

 後ろの席から和香が話しかける。

「本当だよ〜。会長さんがそっちについたら、陽もついてくつもりだったけどね〜」
『(怖い!)』
「あれ、どうしたの2人とも? 冗談だよ〜」

 先ほどと同じにこにこした顔だが若干狂気を感じるのは気のせいだろうか。
 2人はなるべく陽の方を見ないで過ごした。

     *     *     *

「会長、早いですね」
「まあ、最短できたからね!」

 既に水族館の中にいた美琴と合流する。

「こんにちは! 生徒会長の歌田美琴です! 今日1日ですがよろしくね」

 そして隣にいた陽と和香に笑いかける。

「こ、こんにちは。の、希の友達の日高(ひだか)陽です。こちらこそよろしくお願いしみゃす」
「陽、噛みすぎ……」
「だ、だってあの会長さんだよ? 緊張しないほうがおかしい!」

 あまりの緊張からか、色々とおかしい陽。

「ふふっ。陽でいいかな? よろしくね」

 美琴はにっこり笑うと、陽はまるで昇天したような顔をしていた。

 そんな陽の意識を取り戻してから、

「私は真行寺(しんぎょうじ)和香です。よろしくお願いします」

 深々と礼をすると長い黒髪が重力に従ってさらさらと落ちる。

「よろしくね、和香」

 美琴も軽く礼をする。

「じゃあ、魚を見に行くか!」

 希は今にも駆けだしそうだった。

     *     *     *

 途中望とばったり会い(と望は言い張っていた)、陽と喧嘩しつつも美琴が仲裁をして一緒に回ることになったがそれ以外は普通だった。
 ジンベエザメを見て歓声を上げたり、クラゲの動きの神秘さに目を奪われたり、伊勢エビの力強さに感動したり……。

 そんな感じで修学旅行最後の観光は終わった。

     *     *     *

「じゃあここでお別れだね」
「美琴さん、この後用事あるんですか?」

 水族館の出口から出たときの美琴の言葉に望は残念そうに言った。

「うん、もとはと言えばそっちが主だったから。まあ午後からだったから午前中からこっちに来たのは私のわがままだけど」

 美琴は悪びれもせずに言う。

「そうですか……。用事、頑張ってください!」

 希も残念そうにするが元々そっち優先なら仕方ない、と応援した。

「ありがとう! じゃあそっちも気をつけて帰ってね、ばいばい」

 美琴は手を振るとすぐに車に乗って行ってしまった。

「じゃあ、私たちも戻るか」

 希の言葉にそれぞれのバスに戻った。

     *     *     *

「修学旅行、楽しかった〜。会長さんにも会えたし〜」

 沖縄から帰ってきて最初の登校日。
 陽はとても上機嫌だ。
 水族館で美琴とおそろいを買えたからだろうか。

「ええ、私もお土産たくさん買えてよかったです!」

 幸せそうに和香は笑った。
 頑張っても大きい荷物の方に入りきらなかった大量の手荷物があったのだ。
 それを見て両親もきっとびっくりしたことだろう。

「うん、すごく楽しかったね」

 希は修学旅行の日を思い出して言った。

「また、行きたいな」

 その言葉は3人のだれが言ったか分からないが3人の思いなのは確かだった。

     *     *     *
あとがき
今回最終日メイン&修学旅行終了です。
本当は2,3日目も書いたのですが字数制限が私のパソコンでは4000字以内だったのですみませんがカットしました……。

無事年内に修学旅行終わって良かったです!

次回はどんなイベントになるかお楽しみに!

Re: あ、そうだ! ( No.58 )
日時: 2017/01/01 00:02
名前: 夕陽 (ID: w32H.V4h)

美琴と美里の幼少期

「あの子は、偽物の子だから相手にしちゃだめよ」

 お母さんがにらみつけた先には、美琴と同じくらいの女の子とその子のお母さんらしき人だった。
 美琴はよく分からなかったけどとりあえず頷いた。
 お母さんは正しいから。

「いい子だね、美琴は」

 お母さんは嬉しそうに美琴の頭をなでてくれた。
 今年から幼稚園に入るからしっかりしなさいって言われていたけど、まだ幼稚園に入ってないから問題ないよね……?
 とはいってもあと1か月したら幼稚園に行かなくちゃいけないけど。

 お母さんが笑ってくれると美琴もうれしい。
 だからあの子は相手にしちゃいけないんだ。
 お母さんにあんな顔させるわけにはいかないから。

     *     *     *

 どうやらあの子は美琴と同じ幼稚園にはいなかったようだ。
 別にいじめたいわけでもないのでそれはよかったかもしれない。

 ただ、問題はその子のお母さんらしき人がお父さんの周りによくいること。
 周りの使用人たちが言うにはあの人は「うわきあいて」らしい。
 よく分からないけど、お母さんがお父さんとあの人が一緒にいるとお部屋でこっそり泣いているのを見てしまう。
 どうやら、あの人はお母さんを泣かせる人。
 そしてあの人の子供が偽物の子、名前はミサトというらしい。

 ミサトはなかなか現れない。
 使用人たちの噂によるとミサトは幼稚園に入ったばかり。
 なのにあの人はミサトを放っておいてお父さんの周りにいる。

——ミサト、寂しくないのかなあ。

 美琴は偽物の子であるミサトに少し同情してしまった。

     *     *     *

 しかしそんな気持ちを変える出来事があった。

 私が8歳の頃ミサトのお母さんが亡くなった。

 お母さんは何故か悲しんでいた。
 あんなに泣かされていたのに。
 後で聞いた話によると、お母さんとミサトのお母さんはお父さんのことがなかった時は仲が良かったらしい。
 浮気を知り、お父さんと別れることになったらどうしようという不安があり冷たくなってしまったとお母さんは言っていた。

 それからお母さんはミサトを引き取り、ミサトに対して優しくなった。
 美琴はそれに混乱する。

——お母さん、その子は偽物の子じゃなかったの? なんでそんなに優しくするの?

 お母さんが偽物の子であるはずのミサトにあげる愛情は本当の子である美琴と全く同じだった。
 そこで美琴は思ってしまったのだ。

——甘やかすのは美琴だけにしてよ……!

 心の中で何度も叫んだけどもちろんお母さんには届かない。
 それどころか時間が経つにつれだんだん本当の親子になっていくようで美琴は見ることができなくなった。
 お父さんとお母さんとミサトが笑っていても美琴は何故か独りぼっちのような気がして自分の部屋に閉じこもることが多くなる。

 そこで美琴はある一つの案を絞り出す。
 美琴が優秀なら褒めてくれるかもしれない。

 そこから美琴は一生懸命いい子になってきた。
 予習復習をしてテストは常に満点。
 運動は苦手な縄跳びと長距離走を練習して人並まで。
 もちろんその他の習い事も手を抜かない。
 そして勉強や運動だけ出来ても駄目だから周りにも優しく、困った人がいたら助ける。

 美琴の通知表はそのかいあってか優秀な成績が載っていた。

「美琴は優秀ね〜。流石私の子だわ」

 やった!
 美琴は胸の奥から温かくなった。
 しかし、それが冷やされるのはすぐ後。

「あらあら、美里は図工が苦手なのね……」
「ごめんなさい」
「まあ、この前に比べれば上がってるし良かったわ」

 お母さんはそう言って微笑んでいた。
 美琴はこっそり背中からうかがうと美里の通知表は平均位。
 それと美琴のほぼ完璧なはずの通知表はお母さんにとってはほとんど同じらしい。
 美琴にも美里にも同じように褒めた。

 美琴はあんなに頑張ったのに……。
 全然頑張ってないあの子と一緒なのだ。
 すごく悔しくて、その日はベッドで泣いた。

     *     *     *

 起きるともう朝だった。
 目は腫れてなかったが、学校に行くのもめんどくさい。
 また、完璧なイメージの美琴でいなきゃいけないのが嫌だった。

「美琴? 学校遅れるわよ?」

 お母さんが扉の外で呼んでいる。
 返事しなきゃ、お母さん悲しむかな……。
 だめだ、お母さんを悲しませるのは。
 美琴は力を振り絞ってドアを開けた。

「ごめんなさい、ちょっと寝坊しました」

 そうして照れ笑いをすると、

「そうなの。お勉強もいいけどあんまり遅くまでしちゃだめよ?」

 とお母さんは少し心配そうに眼を覗き込んだ。

「はい、ごめんなさい」

 美琴は「着替えます」と言って自分の部屋へ戻った。

     *     *     *

 美琴はやっぱり気分が晴れないままだった。
 そこで心の中の悪魔がささやく。

『あいつ追い出しちゃえばいいじゃん』

 そんなことは駄目だと分かってる。
 だけど、やっぱり辛いんだ。

 悪魔にとらわれた。

     *     *     *

「ねえ、ミリ?」
「何? 私の名前はみさとなんだけど」

 怪訝そうに首をかしげるミリ。

「でも里って字、『り』とも読むんだよ? だから別におかしくないよね、ミリ」
「確かにそうかもしれないけど……」

 ミリは気づいてない。
 美琴の悪意に。
 だったらしっかり気付いてもらわないと。

「ミリってミリメートルとかでも使うよね。知ってる? そのミリって1000分の1って意味なんだよ」
「ふーん」

 ああ、もう本当鈍感。

「その通りだよね。ミリって何やっても人並以上できないもん」

 少しずつヒントを出していくとようやく人並以上できないミリにも理解できたらしい。

「な、何で急にそんなこと……!?」

 どうやら相当怒らせてしまったらしい。
 顔を真っ赤にして走ってしまった。

 これだけじゃまだ弱い。
 もっと彼女の居場所をなくさなきゃ。

     *     *     *

 美琴はそこから色々と画策していった。
 使用人や学園の人にミリの悪口を吹き込んだ。
 もちろん私だと足がついてはいけない。
 上手く考えてやった。
 やったつもりだった。

     *     *     *

「美琴、どうして美里に意地悪するの?」

 どうやら、最初に本人に攻撃したのがまずかったらしい。
 始めは何にも気づかなかったミリが、美琴のせいだと気づいたのだ。
 でも美琴にだって聞きたいことはある。

「お母さんも私に対して冷たいじゃん。偽物の子の面倒ばかり見ちゃってさ」

 その言葉にお母さんは目を大きくする。
 この場にあの子がいたら傷つけられたのに。
 幸か不幸かここにいるのは美琴とお母さんのみ。

「当たり前でしょ! 美里は私たちの子供なんだから。それに美琴は何でもできるけど美里は出来ないことが多いから手伝わないと」
「でも、たまには美琴も構ってよ! 何であの子ばっかり! 努力もしてないくせに……! 私は努力しているのに」
「そっか。美琴は知らないのね。あの子も努力してるわよ。美琴が努力しているのももちろん知っているわ」

 お母さんの言葉に驚く。
 あの子が努力をしていた?
 お母さんが美琴の努力を知ってた?
 お母さんは優しい表情でつづけた。

「美里はあなたのお姉さんとして恥じないようにって勉強も運動も頑張ってるわよ。塾通ったり、図書館で調べたりしてね。それに美琴が努力しているのもすぐわかるわよ。いつも手を洗う前すごく手の小指のあたりが鉛筆の汚れついているもの」

 お姉ちゃんは努力していた。
 私に恥じないように。

 お母さんは知っていた。
 私の毎日の努力を。

 なんだか憑き物が落ちた気分だった。

「ごめんなさい」
「謝る相手は私じゃないでしょ?」

 母親の顔でお母さんは諭す。

「うん、美里——お姉ちゃんに謝ってくる」
「この時間なら図書室にでもいると思うわ」
「ありがとう、お母さん」
「当たり前よ」

 お礼を言う美琴にお母さんは言う。

「だって二人のお母さんなんだから」

Re: あ、そうだ! ( No.59 )
日時: 2017/01/01 00:05
名前: 夕陽 (ID: w32H.V4h)

美琴と美里の幼少期2

お母さんの言う通り美里——お姉ちゃんは図書室にいた。
 近づいても反応がないほど集中しているようだ。

「お姉ちゃん」

 美琴の声は緊張で震えていた。
 お姉ちゃんは気付いて振り向く。

「っ」

 体をこわばらせたのが分かった。
 確かに今まで意地悪だった妹から声をかけられたら驚くだろう。
 しかしそんなことで引くわけにはいかない。

「今まで、意地悪してごめんなさい」

 普段、お嬢様だからか頭を下げる機会はなかった。
 下げられることはあっても下げることは。
 相手の顔が見れない。

「あなたを許す気なんてないから。謝って許せるほど私は大人じゃない」

 やっぱり、そうか。
 まあこれくらいは想定内だ。

「それでも、けじめだけはつけておきたくて。許さなくていいから。でも本当にごめんなさい」

 頭を下げたまま美琴は言った。

「普通の姉妹みたいに戻るのは無理。これからはただの他人としてだけ関わって」

 お姉ちゃんは嘆息して机の上を片付けていた。
 美琴は何も返せなかった。

     *      *      *

「美里と仲が悪いのなんとかしたい、ですか〜?」

 私が中学へ上がり、お姉ちゃんが高校生の時お姉ちゃんの友達が遊びに来た。
 名前はなずなさんというらしい。

「うん、小さいころお姉ちゃんと喧嘩しちゃって……。お姉ちゃんの友達なら何か知っているかなって」
「うーん。でも私も美里のことそこまで知りませんよ?」
「お願いします! あなたしか頼れる人がいないんです!」

 私は必死で頼み込む。
 するとなずなさんは、苦笑気味に言ってくれた。

「私は兄弟がいないのでわかりませんが、美里は優しい子ですからしっかり謝れば許してくれそうですけどね」

 そう、お姉ちゃんは基本優しい。
 私に対しては昔のことがあるから敵意むき出しだけど。

「それに、美琴ちゃんのことはたまに話に聞きますよ。あの子に負けないように頑張らなきゃっていつも言ってます」
「ただライバル認定されているだけのような……」
「確かにライバルだと思っているかもしれませんね」
「やっぱり」

 私はしゅんとしてしまう。

「でも、何の関係もない他人と思われるよりは何倍もましじゃないでしょうか」

 なずなさんの言葉に私は顔を上げる。
 確かにそうだ。

「なずなさんに相談したことで気持ちが軽くなりました。ありがとうございます」
「まあ、私は大したこと言ってないですけどね」
「いえ、そんなことないです! 助かりました!」

 するとお姉ちゃんが階段を上ってくる音が聞こえてくる。
 ジュースを取りに行っていたらしいので、そろそろ来てしまうだろう。
 扉でばったりは困るので私はどの部屋にもついているベランダから自分の部屋に乗り移ることにした。

「では!」
「いつでも相談に乗りますからね〜」

 なずなさんの温かい笑顔に見送られて私は自分の部屋へ飛び移った。

     *     *     *

「ライバル、か」

 私は自分のベッドで小さく呟く。

「いつか、本当の姉妹になれたらいいな」

 血がつながっているとかいないとか関係なく。
 私はそのまま眠りに落ちた。

     *     *     *
あとがき
無事「あ、そうだ!」も始まってから2周年を迎えることができました!
これも読んでくれる人のおかげです!

更新が遅くてすみません。

多分今年は忙しくて長期休みくらいしか更新できないと思います。
ただ、暇を見つけたら投稿したいと思うのでよろしくお願いします!


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