コメディ・ライト小説(新)

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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
日時: 2024/01/26 23:11
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 中学2年生の私・月森コマリには一つだけ悩みがある!
 それは、世にも珍しい【逆憑き】という体質なこと!
 なんとなんと、自分の行い全てが悪い方向に行くみたい。
 自分の存在自体が悪い妖怪とかを呼び寄せてしまうんだって。
 治すには、悪い妖怪と一緒に集まってきた、いい妖怪か幽霊さんの力を借りるべし。
 でもなかなか、そんな優しい幽霊来ないんですけど———!?
 悪運強すぎJCの日常ラブコメディはじまりはじまりっ。
 ―-----------
 《2023年夏☆小説大会 
2023年冬☆小説大会 銀賞入賞!》
 投票して頂きありがとうございます!!
作者とキャラの感想はコチラ→>>54

 ★重要キャラクターLog★
 >>23

 ★応援コメント★
 >>09 >>47

 ※不定期更新です! 
 ※視点変更をメインとした展開です。毎話ごとの主人公がいます。ご了承ください。
 ※若干のシリアス描写がありますが、基本は日常コメディです。
 
 
---------------------

 【目次】一気読み>>01-

 〈第1章:新たな出会いは疲れます! >>01-17
 プロローグ>>01
 第1話「ヘンな同居人」>>02-04 
 第2話「誰だお前」>>05-06
 第3話「ヘンな協力者」>>07-09 >>10
 第4話「変化」>>11-17

〈第2章:新たな関係は疲れます!>>18-33
 第5話「要らない力」>>18-21
 第6話「契り」>>22-24
 第7話「プレゼント」>>25-28
 第8話「側にいれたら」>>29-33
 アフタートーク>>34

 閲覧数1000突破記念★キャラトーク>>46
 閲覧数1400突破記念★キャラ深堀紹介>>51
 閲覧数2100突破記念★○○しないと出られない部屋>>65-70 >>71-75

 〈第3章:〔過去編〕疲れたきみと僕の話>>35-57
 第9話「幽憂レコード:前編」>>35-38
 第10話「幽憂レコード:後編」>>39-40
 第11話「禍と鳥:前編」>>41-45
 第12話「禍と鳥:中編」>>47-50
 第13話「禍と鳥:後編」>>52>>53>>55>>56
 アフタートーク>>57

〈第4章:新たな試練は疲れます!>>58-
 第14話「転校生がやってきた」>>58-60
 第15話「素直になれない僕らは」>>61-64
 第16話「違和感」>>76-


 【重要なお知らせ ※必読お願いします】>>81
 

 
[記録Log]
 2023年1月11日、本編執筆開始。
 2024年1月13日〜更新停止
[参考文献リスト]
・新訳:古事記
・妖怪大辞典
・京都弁(YouTube講座)
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.26 )
日時: 2023/09/19 11:02
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 Q.みんなの血液型は?
 コマリ・由比「のんびりペースのO型だよ!」
 美祢「Aと見せかけてのB型」
 こいと「マイペースなB型……ではなく、実はA型です♪」
 宇月「あんたら何なんマジで。(友達から『宇月さんは絶対AB型』と言われ続けたキャラです)」

 むう「あれ、宇月AB型じゃないの?」
 宇月「AB型やから複雑やねん!!」
 美祢「お前もう腹グロキャラやめてネタキャラに路線変更しろよ……」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〈再び美祢side〉

 「あんのやろう……っ」
 何かあったら相談しろと言っておいて、なんだあの態度!
 怒りが収まらない俺―時常美祢の地団駄の音が、デパートの廊下に響いた。

 確かに宇月の話は一理ある。っていうか、百パーセント向こうが正しい。
 人に贈るものについて第三者がアレコレ口を出すのは失礼だ。俺がもしそれをされたら傷つく。
 プレゼントは自分で選び、自分で相手に手渡すから特別なのだ。宇月は間違ったことを喋ってはいない。いないけど。

「あの、ちょっと小ばかにした言い草! 普通に話せばいいだろうに!」
「お客様、館内ではお静かにお願いします」
「あ、す、すみません」

 叫び声が大きすぎて、文房具屋の女性店員にたしなめられてしまった。
 同じブース内にいる他の客が、チラチラとこっちに視線を送ってくる。
 出来たばっかりの心の傷が、更にえぐられるからマジで勘弁してほしい。

「とりあえず場所を変えるか……」
 
 今いるここは二階の〈あおぞら館〉。小物を取り扱う店が多い。
 本屋もあるが、アイツは漫画しか読まないし俺も本しか読まない。自力でコマリの好みの本を推理するのは難易度が高い。

「一階の服屋に行こう。アイツに似合う服があるかもしれない」
 俺はくるりと踵を返し、エスカレーターがある西の方角へと歩き出した。

 彼の意地悪な表情が脳裏に浮かび上がって、一向に消えてくれない。
 電話するんじゃなかったと後悔するが、時すでに遅し。

 宇月とはなにかとそりが合わず、昔から口喧嘩ばかりしている。
 つい余計な一言を放ってしまう宇月と、ついつい反応してしまう俺。
 親戚の喪中など大人数が集まる場では、睨んでは睨み返され、舌打ちをしてはし返され。

「は~……」
と肩を降ろしたその時。
「あれ、時常くん?」
 
 すれ違ったブレザー姿の女の子が、くるりと振り返って俺の名前を呼んだ。
 黒くて長い髪とブレザーの紺色が良く似合っている。肩にはスクールバッグを提げていて、クマのマスコットがワンポイントとしてつけられている。

 名前を呼ばれたことと相手が女子だったことで、俺の声は上ずった。
「へっ?」
「やっぱ時常くんだ。久しぶり! あ、私のこと覚えてるかな?」

 女の子は自分の着ている制服を指さす。
 ブレザーの胸元の校章は、俺がたった一カ月で中退した葎院りついん高等学校のものだった。
 ゴールデンウイーク中とはいえJKだ。きっと、部活や生徒会活動などで登校したんだろう。
 
「えっ……と、確か、俺の前の席だった……。ほ、星野だっけ?」
「惜しい、星原ね」

 時常=た行で、星原=は行。元々出席順で並んでも、俺と彼女の席は前後だった。
 入学して最初のクラス替えと、最初で最後の高校での席替えは、星原が前になるという何とも地味な形で終わってしまった。

 女子高生―星原は、俺の元クラスメート。さっぱりした性格で話しやすい。
 クラスメートの中で、唯一関わりのあった女子。小テスト前は頻繁に俺に教えを乞うていたっけ。

「いやあびっくり! 一カ月で退学とか信じられない。クレイジーすぎでしょ」
「あ、ま、まあ」

 やめてくれ。その話だけはやめてくれ!
 心の傷が凄まじいスピードで開いていく。
 
「数週間はみんな話題にしてたよ。面白そうなやつだったのに残念だ―ってね」
「マジかよあいつら」
「でも、元気そうで良かった。今日は買い物? その恰好めっちゃイケてるね。オシャレ好きなの?」

 星原の眼が俺のパーカーに映る。これ、そんなにカッコいいのか?
 あー、普通よりちょっと高い通販のやつだから、物珍しいのかもしれないな。

「好きと言うか、趣味と言うか。まあ、人並みには」
「へえ! めっちゃ良き!」
 
 褒められると思っていなかったので、すぐに顔がほてりだす。
 どこを見たらいいか分からず、とりあえず靴の先を眺めることにする。

「星原は部活帰りとか? 何部だったっけ」
「合唱部。妹に買い物を頼まれたの。帰宅してるときに連絡来ちゃってさ。めんどくさいからそのまま直でここに来たんだ」

 合唱部か。よく透る声や華やかな表情は、部活で鍛えられたんだろう。
 葎院高校は文化部が強い。書道部・合唱部・吹奏楽部は全国大会の出場経験があったっけ。

「でも、ちょっと意外かも。時常くんって、どっちかというとインドア派な気がしたからさ。ショッピングも苦手そうだなーって思ってたんだ。ひとりで来るとか勇気あるね」
 私もちょっと委縮しちゃうなぁ。周りおしゃれな子多いし、と彼女は嘆息する。

「別に。誕プレ買いに来ただけ。そんなに驚くことか?」
 高校生となれば、ひとりで買い物に行く人も増えるだろ。
 インドア派は訂正しないけど、そんなふうに言うなよ。自分が超絶陰キャみたいじゃんか。

「自分では気づいてないかもしれないけど、時常くんって結構ギャップが激しいんだよ。最初私、『髪ピンクだ、こわ』って感じちゃった。でも話してみたら真面目だし、割とおとなしいし、じゃああの髪色は何故に? っびっくりしちゃって」

 星原は、うつむき加減だった顔をゆっくりとこちらに向ける。
 その口元はキリリと結ばれている。曇りないまなざしが何かを訴えかけているようだった。

「ねえ、時常くん。校則知らなかったって話、きっと嘘だよね。校則を理解したうえでわざと染めたんでしょ」
「……遊ぶなって言いたいわけ?」

「ううん、咎めたいわけじゃなの。遊びだとも思ってない。純粋に、聞きたかったの。なんで、またそんな大胆な行動をしたのかなって。絶対退学になるって分かってるのに、なんで敢えて先生を怒らせるようなことをしたのかなってさ」




 

 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.27 )
日時: 2023/04/06 16:10
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

「……ちょっと、新しいことをやってみたくなったんだ」
 澄んだ目で見つめられ、俺はごわごわと口を開いた。

 星原の言う通り、俺は自分から話を持ち掛けたり友達を遊びに誘ったり、面白いギャグを言って周りの気を引かせたりすることがあまり得意ではない。むしろその逆で、出来ることならば目立たず平温に過ごせればそれでよかった。
 話しかけられたら返事をする。お礼を言われたら素直に受け取る。手伝いが必要ならば出来る範囲で助ける。だけど深く干渉しない。当たり障りのない行動をとることを重視してた。

 自分で言うのもなんだが、勉強も運動もそれなりに出来たから、それに満足していたんだと思う。
 普通でいることが大事だと思っていた。日常の変化が怖かったんだ。

「あるときふと、つまんねえなって考えちゃって。あなたは良い子ね、成績よくて偉いねって言われて苛立ってたのもあるかも。ある日、なんか吹っ切れちゃって。ちょっと馬鹿になってみたんだ」
 
 そしてそれが案外楽しい。
 みんなが不思議な目でこっちを見る。説教されたことがなかった当時の俺は、先生の説教をゲームのイベント感覚で楽しんで、変に満足していた。

「ほお。……それで?」
「でも怒られ続けるうち、そんな自分が恥ずかしくなって、いつの間にかやめてた。ちょっとふざけて、すぐ優等生に戻ってってな感じで。それすらも疲れたから、気分かえる為に。それがたまたま高校入学と重なって」

 俺は、もうすっかり色の薄くなったピンクの髪の先っぽをいじる。
 前髪がまぶたにかかって痛い。今度また美容院に行かないと。

 俺の話を黙って聞いてくれていた星原は、「なるほどね」と頷く。
 自分語りなんて対して面白くもないだろうに、彼女はこちらが話し終わるまで口を挟まなかった。こいつの飾らない優しさに、つい泣きそうになる。

「じゃあ、時常くんは逃げなかったってことだね」
 
 言葉ってのは不思議だ。目に見えないはずなのに、重さなんてないはずなのに、その言葉はやけに胸に突き刺さった。自分にも分からなかった自身の心の陰の中に、それは無遠慮に入っていく。

「……逃げなかったって、どういう」
「入学してすぐ染めたんでしょ。先生が時常くんに懲戒処分するまで、黒髪に戻す機会はいくらでもあったはずだよ。先生もきみが優秀なのを知ってるから、あえて泳がせてたんだと思う」
「それは」

 中間テスト開け、担任の先生に呼び出されたことがある。放課後、人気のない職員室の真ん中で、俺は先生にこう諭された。
『今回だけ見逃してあげるね』と。

 思えば、引き返すチャンスは沢山あった。
 それら全てに唾を吐いたのは他でもないこの俺だ。このままやめたらきっと、同じ日常を永遠と繰り返すことになるだろう。
 毎日が平穏なのは有難い。それすらも満足できないなら、いっそこのまま歴史を黒染めしてやろうと。

 お前は……星原は、こんな俺を肯定してくれるのか。
 逃げてるとしか思えない、この生き方を受け入れてくれるのか。

「すごいよ。かっこいいよ。なんでそんなに落ち込むの? 立派な理由じゃん。自分でそういうことをちゃんと口にできるのは、時常くんの感性が豊かだからだよ」
 星原は遠慮気味に笑う。
「私は、きみが元気でいてくれたらそれでオッケーだから。ねっ」

 ああ、世界には、こんな考え方の奴もちゃんといるんだ。
 引きずられてばっかりの人間を、引っ張ってくれる存在がちゃんといるんだ。

 俺は無意識に止めてしまっていた息を吐きだす。
 すごいな、言葉の力って。くるりと辺りを見回す。どこもかしこも、キラキラと輝いて、まるで別世界に迷い込んだようだった。
 
「それで時常くん。誕プレ買うんでしょ? 誰? 妹とか彼女とか?」
「妹なんていないよ。でも、まあ、似たような相手かな」

 ちなみに兄も弟もいない。ああでも妹みたいな奴だな、アイツは。
 アイツもこいとも、星原と同じく俺の価値観を受け止め、そして支えてくれる。
 べちゃくちゃうるさいから、毎晩部屋は祭りかよってくらい騒がしくなって。かといって出て行って欲しいとかでもなくて。
 
 心地よくて温かい大事な居場所を、いつも自分にくれる。


「すげーいい奴なんだよ、そいつ。俺にとって、めっちゃ大事なやつなんだよ」
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.28 )
日時: 2023/04/23 16:02
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 〈コマリside〉

 五月八日、土曜日。朝の十一時過ぎ。
 私は杏里と大福に誘われて、隣の市にある映画館に来ていた。私の誕生日を記念して、大福が見たい映画のチケットを取っていてくれたんだ。

 作品タイトルは〈怪異探偵Z ―劇場版―〉。
 数年前から追っている大人気のバトルファンタジー。週刊少年誌で連載されている漫画で、アニメ化もされている。そのアニメの続きがなんとこの度、大きなスクリーンで放送されることになったのだ。

(わあ、チケット買ってくれるなんて! ありがとう大福大好き!)

 私は高鳴る期待に胸を躍らせながら、二人と映画館の中に入った。座席を確認して、ポップコーンとチュロスを買って、あとはシアターに向かうだけ。
 しかしここでも逆憑きの効果が発動。
 なんと大福が、肝心のそのチケットを家に忘れてきてしまったのだ。

「だ、大福~!!」「大吉!」
「ごめん。マジでごめん。お、終わった。詰んだ……。俺もう友達やめる……」

 ああ、そうと分かればこんな服も来て来なかったのに。
 私はアニメの物販で販売された、原作イラストがプリントされた〈特製★探偵シャツ〉の裾を軽く引っ張る。
 
 痛い。凄く痛い。色んな所が痛い……。
 これがあれか。満身創痍ってやつなんだね。

 私と杏里からの非難の視線を受けて、大福は気まずそうに目を伏せた。
 彼は十回ほど鞄を漁っていたけど、「あれ、鞄の中にこれが」なんて奇跡は起きず。

 スタッフさんの案内に続く観客たち。
「楽しみだね」「ねーっ」とキャイキャイする彼らの後姿を、苦虫を噛み潰したような表情のまま眺める私たち。
 大福に至っては、無言でチュロスの棒を食べ進めている。


「あ、あの、ねえコマちゃん、大吉。向こうにおいしい喫茶店があったよ。た、食べに行かない?」
 場の空気がよどみ始めたのを察知した杏里が、話題を振ってくれた。
「飲食物持ち込みオッケーだって! ゴミはそこのお店で捨てればいいよ。ねっ、行こう? せっかくの誕生日なんだし」

 あ、杏里ぃぃぃぃぃ。
 幸先の悪い展開が不安で涙目になっていた私は、彼女の言葉に顔を上げる。
 オーマイゴッド! 親友が神様に見える……!
 
「ほら見てコマちゃん。喫茶店のインスタ。凄く可愛いよ! ほら大吉も見て!」
「あっ、ホントだ。かわいい!」「おぉ。すっげぇ」

 喫茶店のインスタでは、華やかなスイーツがお洒落な文章と共に掲載されていた。
 生クリームたっぷり、苺の赤とのコントラストが美しい〈春苺パフェ〉。
 とろとろぷるぷるの半熟卵が丁寧にチキンライスに重ねられた、〈ゴロゴロ野菜オムライス〉。

 何より私の目を引いたのは、白い泡でラテに絵を描く〈ラテアート〉と呼ばれるアートの写真だ。   
 うさぎ、クマ、猫のシルエットを生クリームだけで再現する。実際にラテアートを作っている動画も、リール動画として何本か投稿されてある。

「なんと文字も描いてくれるんだっ? 誕生日限定★イニシャルお書きします、だってさ。めっちゃいいじゃん。書いてもらおうぜ」
「う、うん!」

 月森コマリだから、イニシャルはT.Kかな? 楽しみだなあ。
 トラブルは発生したけれど、多分この後は順調に物事が進むはずだよね。
 私は機転を利かせてくれた杏里に感謝しながら、大福の腕を引っ張って映画館をあとにしたのだった。


   
 ーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんでこうなるのぉぉおお」

 こんにちは。
 喫茶店・〈キャラメルガレッジ〉に到着したはいいものの、またもやトラブルに見舞われてしまったコマリ一行です。

 まず一つ目。店の外に出来た行列に三十分並びました。
 どうやら小中高生やカップルに人気の場所らしく、噂を聞きつけた学生さんが頻繁に来客するとのこと。
 休日はもちろん平日もその客足は途絶えず、『行列のできる喫茶店』としてさらに世に名を広め、新たな客を呼ぶ。幸せの無限ループだ。
 おかげでこっちは負の無限ループですけども。
 
 二つ目。これは現在進行形。
 頼んだラテアートのイニシャルが間違っていたんだ。

 私の滑舌が悪かったのかもしれない。
 しかし、「T・K」を「J・K」と間違える店員さんも店員さんだ。
 せめて「M.K」にしてくれれば写真を撮ってこいとちゃんに送れたのに。

 真顔で目の前に置かれたラテアートを凝視する私に、対面の大福がついに吹き出した。
 お腹を抱えて、ドンドンとテーブルを手で叩きながら。

「じぇw ジェーケーww 月森コマリで、ジェーw ジェーケーwww ふっw」
「もう大吉、笑いすぎ。コマちゃん般若みたいな顔になってるじゃん」
「だって杏里、考えてみろよ! コイツの本名、ジュキモリ・コマリになってるんだぞ!?」
「……………。……っ」

 数秒間沈黙していた杏里だったが、一分後、「ご、ごめんもう無理」と口元を震わす。
 両手できちんと隠してるつもりだろうけど、私にはバレバレだよ杏里。
 それにもういいんだ……。ポルターガイストや心霊写真に比べれば、イニシャルの間違いなんて些細なことだよ……(白い眼)。

「そうだよ。ジュキモリですよ私は。もういいよ、飲めば済む話だよ」

 なんだろう。私が間違えたわけじゃないのに、私が悪いみたいになってて嫌だ。
 口を尖らした私に、流石に言いすぎたのと感じたのか二人があわあわと両手を動かす。

「ちょ、ちょっとからかっただけだってば。そんな顔すんなよ!」
「ご、ごめんねコマちゃん。私、コマちゃんの気も知らずに。迷惑だったね。食べよっか」
「あはは、私もムキになっちゃったかも。ごめん。二人ともありがと」

 真の友達とは、悩み事や不安をしっかり言い合える相手である。
 小学生の時、好きだった国語の先生から教わったセリフだ。
 こうやって怒りあい、時に励まし、時にからかう。そんな関係になれて良かったと心から思うよ。

 いつか、逆憑きのことも杏里たちに話せたらいいなぁ。

 ラテの入ったグラスに手を伸ばす。杏里と大福も、それぞれ選んだパフェやパンケーキを食べる為にスプーンを握った。
「「「いっただっきま—————………」」」


 プルルルル プルルルル

 と、不意にイスの背にかけていた私の小型リュックが震動した。
 中にしまっていた携帯が鳴っているのだ。

「だ、誰だろう」
 急いで鞄の中からスマホを取り出し、電源をつける。
 通話画面に表示されたアイコン。相手は、もうすっかり聞きなれてしまった同居者の男の子だった。

「と、トキ兄!? もしもし、どうしたの?」
『――――え、っと。――に、――て』


「? 声が小っちゃくて聞こえないよ! も、もう一回。ワンモア!」
『――しちじに』

 
 



『夜の七時に、白雲公園前に来てほしい。大事な話がある』















「―――――――――――――――――え?」

 



 
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.29 )
日時: 2023/07/08 16:57
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)

 閲覧数400突破ありがとうございます!
 これからもよろしくお願いします!
 第7話「側にいれたら」開始です。
 ーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 〈宇月side〉
「桃根ちゃん。頼まれとったやつ調べてみたで」
 マンションの十六階、フロアの突き当りの部屋のドアを軽くノックする。
 腕に抱えた数冊の分厚い本は、先日図書館で借りた重要な資料だ。
 薄い紙を貼り合わせただけなのに、本は不思議や。悪霊退治で鍛えられたこの腕でも上手く持ち上げられない。

「あ、お疲れさまです。すみません~。無理言っちゃって」
「大丈夫やで。ボクも用事あったし。手間が省けて良かったわ」
「そ、そうですか? あ、でも、言ってくれたら荷物持ったのに……」

 気持ちは嬉しいけれど、きみは幽霊やからな。
 ボクは霊感があるから認識できるけど、一般人にとってはいないのと同じ。
 きみが図書館で本を持ってみぃ。「本が空に浮いた!?」って、みんな騒ぐやろ。

「図書館では静かにってよく言うしな。気持ちだけ受け取っておく」
「んーでも、それけっこうお高かったんでしょ?」
「あのな桃根ちゃん。本屋じゃのうて図書館! 値段とかないんよ。あーまあ、貴重品だから色んな書類書かされたけど、お金は払ってへんって」

「……あ、そっか」
 現在のパートナーである幽霊の女の子が、部屋の扉から顔だけをのぞかせる。
 相変わらず服装は紺色のセーラー服に白のパーカー。
 だたし今日はいつもと雰囲気が違う。低い位置でお下げにしていた髪が下がっているからか?

 幼さが強調された髪型に慣れとったボクは、肩口で揺れる茶色の髪に不覚にもどぎまぎしてしまった。

「めっ、珍しいな、髪結んでへんのは」
 ロボットみたいな変な声が出た。

 ベッドに腰かけている桃根ちゃんが含み笑い。
 ボクが柄にもなく挙動不審なのを察したのか、値踏みするような目でこちらを見る。

「えっ、もしかして宇月サン。かわいいとか思ってくれてるの!?」
「え、いやその違っ、いや違わんけど……、に、似合うと思うで! 大人っぽくてええね」
「うっそー、ほんとーっ? うわ意外なんですけどーっ!! あはは、なんか照れるー」
 
 口ごもりそうになったボクだったけど、なんとかテンションを持ち直した。
 あかんあかん。ボクは夜芽宇月・心を操る霊能力者! 
 この肩書がある限り絶対に言えない! 友だちが一人もいないこととか、恋愛経験が一度もないこととか!
 
「ほぉーん。うちのパートナーはツインよりロング派かぁ」
「も、もうその話はやめとこや。腕疲れて来たわ」
「ほぉーん」
 ほぉーんて。なんでそんな勝ち誇った感出しとるんや、きみは。

 ボクはそのままぎこちない足取りで部屋の中央に足を進める。木の床にドスンと荷物を降ろし、はあと一息。

(あー、重い。なんでこんな重いんや)

 図書館で借りた本はたった二冊。『古事記』と『日本書紀』。今じゃ好んで読む人も少ないマイナーな書物だ。

 古事記は日本で一番古い歴史の本で、全三巻。
 歌謡、神話・伝説など多数のネタを含みながら、天皇さんを中心とする日本の出来事が細かく記されている。
 日本書紀は全三十巻。奈良時代に完成した、同じく神話や伝説を漢文で記した史書だ。
 
 流石に合計三十三巻を一気に借りることは難しかった(腕が壊れそうだった)ので、今日は両方の本の第一巻を借りてみたんよね。

 司書さんに貸し出しを頼んだとき、不思議そうな顔をされたっけ。
「お好きなんですか?」とも尋ねられた。
 
 ボクは歴史オタクでもなんでもない、ただの一般人。好きな科目は文系だけど、社会は苦手だ。学生時代は、その時間だけ寝とったし。
 そんな奴が、なんで急に小難しい本を読もうと思ったのかというと。

「幽霊の身体を乗っ取る神様、ねえ。きみは友人であるユイくんを助けようとして、運悪く命を落としてしまった。がしかし、『大国主命』と名乗る神様に見初められて力を与えられた——」

 ボクは桃根ちゃんの頭から爪先を改めて観察する。
 霊が他の生物の身体に憑くことは珍しくない。霊能力者の中にも、〈憑依系〉といって、霊をとり憑かせて戦う人もおらはる。
 
 だけど……。幽霊と神様がくっつくなんて事象は滅多にない。
 そもそも神様って霊と同じくくりなんか? それすらも曖昧だ。

「にわかには信じられんけど、現にきみがその一例ってわけやしなぁ」


 
 


 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.30 )
日時: 2023/04/11 17:42
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
参照: https://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=2512.jpg


 憑きもん!のイラストを掲示板にあげました!
 今回描いたのはこいとちゃんです!良ければ見てみてね!
 参照のURLと、むうの雑談掲示板から見れます。

 


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