コメディ・ライト小説(新)

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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
日時: 2024/01/26 23:11
名前: むう (ID: F7nC67Td)

 中学2年生の私・月森コマリには一つだけ悩みがある!
 それは、世にも珍しい【逆憑き】という体質なこと!
 なんとなんと、自分の行い全てが悪い方向に行くみたい。
 自分の存在自体が悪い妖怪とかを呼び寄せてしまうんだって。
 治すには、悪い妖怪と一緒に集まってきた、いい妖怪か幽霊さんの力を借りるべし。
 でもなかなか、そんな優しい幽霊来ないんですけど———!?
 悪運強すぎJCの日常ラブコメディはじまりはじまりっ。
 ―-----------
 《2023年夏☆小説大会 
2023年冬☆小説大会 銀賞入賞!》
 投票して頂きありがとうございます!!
作者とキャラの感想はコチラ→>>54

 ★重要キャラクターLog★
 >>23

 ★応援コメント★
 >>09 >>47

 ※不定期更新です! 
 ※視点変更をメインとした展開です。毎話ごとの主人公がいます。ご了承ください。
 ※若干のシリアス描写がありますが、基本は日常コメディです。
 
 
---------------------

 【目次】一気読み>>01-

 〈第1章:新たな出会いは疲れます! >>01-17
 プロローグ>>01
 第1話「ヘンな同居人」>>02-04 
 第2話「誰だお前」>>05-06
 第3話「ヘンな協力者」>>07-09 >>10
 第4話「変化」>>11-17

〈第2章:新たな関係は疲れます!>>18-33
 第5話「要らない力」>>18-21
 第6話「契り」>>22-24
 第7話「プレゼント」>>25-28
 第8話「側にいれたら」>>29-33
 アフタートーク>>34

 閲覧数1000突破記念★キャラトーク>>46
 閲覧数1400突破記念★キャラ深堀紹介>>51
 閲覧数2100突破記念★○○しないと出られない部屋>>65-70 >>71-75

 〈第3章:〔過去編〕疲れたきみと僕の話>>35-57
 第9話「幽憂レコード:前編」>>35-38
 第10話「幽憂レコード:後編」>>39-40
 第11話「禍と鳥:前編」>>41-45
 第12話「禍と鳥:中編」>>47-50
 第13話「禍と鳥:後編」>>52>>53>>55>>56
 アフタートーク>>57

〈第4章:新たな試練は疲れます!>>58-
 第14話「転校生がやってきた」>>58-60
 第15話「素直になれない僕らは」>>61-64
 第16話「違和感」>>76-


 【重要なお知らせ ※必読お願いします】>>81
 

 
[記録Log]
 2023年1月11日、本編執筆開始。
 2024年1月13日〜更新停止
[参考文献リスト]
・新訳:古事記
・妖怪大辞典
・京都弁(YouTube講座)
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.36 )
日時: 2024/11/07 11:24
名前: むう (ID: X4YiGJ8J)

  〈由比side 12ヵ月前 5月〉


 キーンコーンカーンコーン。

 授業終了を知らせるチャイムが教室のスピーカーから鳴り響く。
 このチャイムは二回繰り返して放送されるのだけど、皆授業が嫌いなので、チャイムが鳴る五分前には、クラスメートのほとんどが教科書を片付けていた。

 教卓に立つ英語の鷲見すみ先生が、ノートパソコンをパタンと閉じる。
 そして、よくとおる野太い声で言った。

「はーい。今日はこれで授業終わり。来週単語の小テストあるから、ちゃんと勉強してくること。範囲はさっき教えた、21ページから24ページ」

 彼は、大学を出たばっかり・教師一年目の若い男の先生だ。
 朗らかで優しく、授業もわかりやすい。歳が近いのもあって、何人かのクラスメートは親しみを込めて、「鷲見先生」ではなく「亮ちゃん」と呼んでいる。鷲見亮介先生だから、亮ちゃん。

「亮ちゃーん、鬼ー」
「いっつも範囲広いじゃん亮ちゃん」
「サッカー部の試合あるんだけどー」

 生徒に反論されても、先生は全く怒らない。
 それどころか、英語が苦手な子のために、わざわざ救済措置まで取ってくれる。
「じゃー、次の授業で。ヒントは出すから、欲しいって人は職員室に来てね」

 先生は教卓の上に置いた教材を手早く籠の中に入れると、そそくさと教室の扉の奥に消えてしまった。
 

 ………というのを僕は、後ろの席の女の子に教えてもらった。

 今話したことは僕が見た内容じゃない。というか、三時間目が英語だったことも今知った。
 理由は簡単。寝落ちしたのだ。
 教科書とノートと筆箱を引き出しから出したところまでは良かったものの、その後やってきた睡魔にあらがえず、瞼はどんどん下がって行って……。当然、ノートを取ることもできなくて……。

「ええええっっ、小テスト!?」
「そうだよ。21ページから24ページの進出単語」

 後ろの席に座っている女の子は、「あんた今まで何してたの?」と机に頬杖をつく。
 この子の名前は桃根こいと。低い位置で結んだお下げがチャームポイントの、演劇部員だ。

「由比くん、なんでいつも寝てんの? ノートちゃんと取らなきゃダメじゃん」
「……えええぇ。も、桃根さん、ノート見せて」
「もー、授業中に寝るとかありえないんですけど! もうやだこの席」
 
 この学校の出席番号は、あいうえ順。
 僕の苗字である「由比」は〈ヤ行〉。彼女の苗字である「桃根」は〈マ行〉。クラスにはマ行が桃根さんしかいない。よって、彼女の席はいつも僕の後ろ。
 
 え、前じゃないのって? あはは,僕目が悪くてさ、前後逆にしてもらったんだ。

 入学式から一カ月間は出席番号順に座らなければいけない決まりになっている。
 今日は五月一日。
 入学式があった日は十日なので、ゴールデンウイークを過ぎれば僕らの席は離れることになる。その後は席替え。しかもクジ引きだ。隣同士・前後同士になる確率は極めて低い。

「僕はこの席、結構気に入ってるよ。窓側だし」

 桃根さんから渡されたノートのページをめくりながら、僕は答える。
 天気がいい日は窓からグラウンドを走る他学年生の姿が見えるし、雨の日は花壇の花びらに落ちた雨の露を確認できる。日当たりもいいから寝るのにも困らない。

「それに、桃根さんしか話せる友だちいないからさぁ。おわっ、何このノート」
「え? なに、字が汚いって言いたいの?」

 桃根さんが席から立ちあがり、僕の隣に並んだ。
 いや、字について言ってるわけじゃないよ。筆跡はすごくきれいで読みやすい。
 ただ、なんというかあの、僕が知っている英語のノートとは、少し違うような……。
 
「『村人A:おお、神よ。我に力を与えたまえ』『I went to school by bus.』会話の脈絡がないっていうか、その」

 ------------------------
 村人A:おお、神よ。我に力を与えたまえ。(天に向かって大きく手を広げる)
 〈過去形〉
 I went to school by bus.
(私はバスで学校に行きました)
 ------------------------

 な、なんで英語のノートにセリフが出てくるんだろう。
 そういう内容の話だったのかな?

 
「………あああああああ! これ、〈ひばり座〉の稽古ノートだあああ」

 自分のノートに目を通した桃根さんが、頭を抱えた。
 そして、僕の手からノートをひったくると、席に戻って筆箱から消しゴムを取り出す。
 必死にゴシゴシと文字を消そうとするが、英語の文法事項はボールペンで書かれていたので、なかなか消えない。

「ひばり座って、桃根さんが所属している演劇部?」
「そう! 部員には稽古ノートっていって、台本を読んで感じたことを記すノートが配られてるの」

 雲雀中学校の演劇部・ひばり座。部員数は50人。
 文化部で一番の人気を誇る、超キビシイ練習で有名の部活。秋の文化祭では、毎年演劇をステージで披露している。
 

 部員数が多いので、よほど演技がうまい人でないと役はもらえない。
『3年間、裏方仕事しかさせてもらえなかった』という話もよく聞く。上下関係が厳しいのだ。

「へええ、すごいねっ。女優になりたいとか?」
「ううん、そんなんじゃないんだけど……って、あー! 無理だ、もう無理! 手つかれた! 無理無理無理無理! あ~、顧問の寺内先生に新しいノートもらわなきゃ」
 
 数分間のゴシゴシ作業は、流石にきつかったようだ。
 桃根さんは真面目だけど、冷めやすい性格の持ち主。自分ができないことはあっさり諦める。
 彼女は机の上に出したままだった筆記用具を、手早く引き出しにしまいながら答えた。

「あたし、歌い手が好きなんだ。歌い手って知ってる? 人が歌った曲を、カバーする人たちのことなんだけど。そういう人たちがずっと憧れで、なれたらいいなーって思ってて。バカな話だよね」

 歌い手かあ。女の子たちが、よく話題にしてるよね。
 僕も興味があったんだけど、お母さんの目に留まると怒られるから検索できなくてさ。
 
 バカな話じゃないよ。なんでそう決めつけるの?
 僕からすれば羨ましいよ。とっても眩しいよ。

 好きなものを自分で探すことが出来て。
 好きなことを自分でやれて。
 夢に向かって努力出来て。

「……なれるわけない、って思ったら、多分一生なれないんじゃないかなぁ」
 僕は、桃根さんの右手に手を伸ばした。そのまま、その細い指を強く握る。

「応援っ、してるから! ずっと応援するから! だからっ、自分で可能性を捨てないでよ」
 
 なれるわけないって思えるのはさ、きみにまだ選択肢があるからだよ。桃根さん。
 家族と友達が、自分の夢を認めてくれるから。認めた上で批判してくれるから。
 だから、「バカな話」だって、結論付けてしまったんでしょ。

 多分僕は、無意識に自分と桃根さんを重ねている。
 彼女が自分と正反対の立場にいるから。好きなものもやりたいことも、何でも否定されるような人生とは別のところにいるから。

 この子はもう一人の自分なんだって、勝手に思ってしまっている。
 だから彼女が夢を叶えてくれたら、僕はとっても嬉しい。
 僕の代わりに夢を追いかけてくれたら嬉しい。
 
 ねえ、お母さん。何でお母さんは息子の可能性を無くしたがるの?
 僕さ、中学受験やりたくなかったよ。塾にも通いたくなかったよ。勉強だって嫌いだ。

 でもさ、意見があるなら伝えなさいって言ったのお母さんだよね。
 それで自分の気持ちを口にしたら「あなたのためを思って」って言うんだもんね。
 
 いつから僕は、この鬼畜ゲームをプレイすることに慣れちゃったんだろう。
 ……助けてすら言えないのに、僕は毎日祈っている。

 

 
 ―――――ー『神よ、我に力を与えたまえ』―――――――――
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.37 )
日時: 2023/06/16 15:47
名前: むう (ID: viErlMEE)

  
  暫くシリアスな展開が続きますがよろしくお願いします。
 
  ------------------------


  季節は変わり十一月中旬。
  時刻は夜八時三十分。職員室の真ん中で。

 「由比。この前のテストの結果は何だ」
  三十代くらいの男の先生は、眼鏡のつるを右手でくいっと持ち上げながら言った。
 
  自宅から歩いて十五分。
  駅の近くにある三階建てビルの二階が、僕の通っている進学塾〈きららゼミナール〉だ。
  実際は、きらきらの「き」の字もない場所だけど。
 
  塾で行われるテストや学校の成績でクラスが分かれる階級制。
  頭のいい子は先生から可愛がられ贔屓され、夏に行われるバーベキューなどのイベントにも参加 
 できるが、それ以外の子は申込書すらもらえない。
  
  参加したかったら、ただひたすら勉強するしかない。成績は塾のすべてだ。

  ……僕・由比若菜が所属するクラスは、通称〈Fクラス〉。
  きららゼミナール内では最下層だ。
  

 「……」
 
  黙っている僕に、先生―確か苗字は田中だ―が「はあ」と肩を降ろす。
  その表情はひどくくたびれていた。
 
 「正直に言おう。おまえの成績はFクラスの中で最低だ」

  渡された数学の小テストの点数は、十点だった。
  五十点満点ではない。百点満点のテストだ。
  回答欄を全て埋めているのにも関わらず、ほとんどの答えが赤ペンで訂正されている。

 「勉強しなかったのか」
 「……しました」

  勉強を全くしていなかったわけじゃない。学校の授業は寝ているけれど、家ではしっかりテキス
 トを開いている。なんなら予習も復習もしている。毎日、毎日コツコツ問題を解いている。

 「勉強しただぁ? 何時間? どれくらい? この点数を見て、それでも勉強したって言える
 か?」

  田中先生の声の大きさにびっくりして、僕は目をつぶる。怖い。すごく怖い。
  先生は机のふちを指でトントンと叩きながら、やりきれないと言うように首を軽く振った。

 「勉強って言うのはな。生きていくうえでとっても重要な物なんだぞ。将来、受験にも役立つし、 
 知らなかったことを知れる。なあなあにやるから、こうなるんだ」
 「………」
 「成績は全部お前に返ってくるぞ」

  …………なんだよ、その言い方。
  それじゃあまるで、僕が不真面目みたいじゃないか。

  ああそうだよ、みんなそうだ。大人はみんな、いい子ちゃんが好きだ。
  与えられた問題に丁寧に取り組み、点数を稼ぎ、結果を出せるような子が好きだ。
  相手の気持ちを理解できる、物分かりのいい子が好きだ。
  
  ああ、ほんっとうに嫌になる。
  頑張ってきたことが報われないのなら、努力って何のためにあるの。
  自分のやりたいことが出来ないのなら、進路って何のためにあるの。
  いい子って何? そんなに勉強が大事なの?
  何でぼくはこんなに惨めな気持ちになってるの? なんでこんな気持ちにさせるの?

 
 「――に何がわかるんだよ」

  無意識に、唇の端から言葉が漏れた。
  両手がわなわなと震える。拳を強く握りすぎたせいで、持っていたテストの答案用紙はしわくちゃになってしまった。
  
  先生が息をのみ、目を見開く。怯えたような表情。
 「教師に向かって、なんてことを言うんだ」

 「テメエの気持ちなんか知るかよっ」

  怒鳴ってから、僕は自分の発した言葉の重みにようやく気付く。
  どうしよう、どうしようどうしよう、どうしようどうしよう、どうしよう。
  相手は先生で、僕は生徒で、僕は怒られていて、僕はひどい点数を取って……。

  違う、違う。やばい、判断を間違えた。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。
  謝らなきゃ。ごめんなさいって頭を下げなきゃ。まだ間に合う、まだ大丈夫、まだ……。

  そう思うのに、なぜか言葉は止まらない。刃物のような単語が、自分の声と絡まって相手の胸を 
 打ち抜く。

 「誰も僕のこと、見てくれないじゃんかっ。頭の良さだけで決めるじゃんかっ。勝手に期待して! 勝手に子供の夢を捨てて! 勝手に道をふさぐじゃんかっ。いい大人になりなさいって教えるくせに、選択肢全部つぶすじゃなんかっ! もういい、もう嫌いだ! みんなみんな大っ嫌いだ!」

 僕はくるりと回れ右をし、教室の扉へと一目散に走る。
 後ろから先生の叫び声が聞こえてきたが、構うものか。

 建付けの悪い戸を開けて部屋から出て、リノリウムの廊下を駆け、全速力で階段を降りる。
 途中、すれ違った生徒や事務の先生が何事かとこちらを見た気がするがどうでもいい。

 走って、走って走って走って走って、走りまくって、塾の入り口を出たところでやっと足が止まる。首筋から汗がしたたる。心臓がドクンと脈を打つ。

 「あ、あははは………終わった」
 
  ついにやってしまった。いい子を終わらせてしまった。
  ひどいことを言って先生を困らせてしまった。怒られているのに逆ギレしてしまった。

  もう、塾には通えない。先生からもお母さんからも、多分見放される。
  いけない事をしたのに、心は晴れやかだ。胸の奥で渦巻いていた塊が、すうっと消えていく。

 「あー、あー………疲れたなあ。もう、全部疲れた」

  僕は終わっている。散々ひどい目にあわされたのに、まだ自分に非があるんじゃないかと思って
 いる。ホント、いつまでいい子で居る気だよ。


 「…………あ、そういやもうすぐか」
  
  僕は、肩からぶら下げているスクールバッグのポケットから一枚の紙きれを取り出す。
  白い紙に赤い字で、〈ひばり座 前売り券〉と書かれたそれは、演劇部の舞台のチケットだ。

  来週開催される文化祭で、いとちゃんは主役をやると言っていた。数カ月から練習を頑張って、ついに大きな役を任せてもらえる事になったのだ。

 『練習したから、絶対見に来てね。絶対だよ! 遅刻したら許さないからっ』
 『行くよ、絶対行く。一番前の席で見る。絶対絶対、寝たりしないから』
 『もー、信ぴょう性ないー』

  
  ………ごめんね、いとちゃん。
 近くにいてくれたのに、自分を愛してくれたのに、僕は最後の最後まで君を頼れなかった。
 助けてって言えなかった。応援するって言ったのに、応援してほしいって言えなかった。

 可能性を捨てるなって叫んだのに、自分で可能性をつぶしちゃった。実力行使しちゃった。
 自分が本当に好きなもの、自分が本当にやりたいこと、心の中にしまったまま実行しちゃった。
  
 

 今更遅いって怒られてもいい。嫌われてもいい。
 ………これだけ、最期に言わせてくれ。


 僕はいとちゃんが大好きです。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 由比若菜の人生はもうすぐ終わります。

 ・・・・・・・・・
 助けないでください。
  







 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 うそつきの僕を、どうか許してください。

 
 
  













 ・・・・・・・・
 じゃあ、また明日。






 さよなら。
 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.38 )
日時: 2023/06/18 15:50
名前: むう (ID: viErlMEE)

 
 「契り」より〈こいとside〉

 学校の屋上のドアに、鍵はかかっていなかった。いや、正しくは違う。鍵穴に、銀色の鍵がささったままになっていたのだ。
 鍵は当直の先生が職員室で管理している。しかし先生によっては、時々、鍵を忘れて帰る人もいる。
 
 学校の先生は忙しい。ふだんの授業に加えて部活の顧問も担当している。人間誰しも完ぺきではないし、間違えることだって生きていれば多々ある。

 だけど、何も今日じゃなくても良かったのに!
 
「見晴らしのいいところでご飯食べたい」って由比が言うから。
「屋上の階段で座って食べようよ」って言うからわたし、お弁当の包みを持って教室を出たのに。

 扉のスペースに座って食べるって約束だったでしょ? 
 スマホの電波が悪くてYouTube開けないって話だったから、うち、今日こっそりスマホ持ってきたよ。フォルダにおすすめの動画、たくさん保存したよ。

 なのになんで、一緒に観ようとしてくれないの?
 なんでランチセット持ってきてないの? ご飯、食べるんじゃないの?

「いとちゃん、僕、外の空気吸いに行きたい。ちょっと行ってくる」

 箸でつかんでいたタコさんウインナーが、ポトリとお弁当箱の中に落ちた。
 わたしは慌てて立ちあがり、扉のノブに手をかけようとする由比の右腕を掴む。
 彼の筋力のない細い指の先が、ビクッと動いた。

「待って。どこ行くの」
「……外」
「外に行って何するつもりなの」
「なにって、空気吸いにいくだけだよ」

 由比は、痛いところを突かれたような顔になった。

「ねえ、もういいでしょ。外に行かせてよ」

 ドンッと突き飛ばされて、わたしはその場に尻もちをついた。
 掴んでいた手が離れる。
 ギィィィィと蝶番の音をきしませて、重い銀色のドアが外側から開いた。わたしがかける言葉を必死に探している間に、クラスメートの小さな身体は入口の向こうへ隠れてしまう。
 

 ……おかしい。 


 由比は滅多に嘘をつかない。表情が顔に出やすいことを自覚しているから。
 くわえて、彼は大人しい。人より動作が遅くて、のんびり屋で、マイペース。
 お喋りするときも、わたしが話終わるまできちんと待ってくれる。聞き役に徹しすぎるせいで、自分から話題を持ち掛けることは苦手。だから、わたしがだいたい『今日は何があったの?』って、先導してあげるんだ。

 おかしい、絶対おかしい。
 今日に限って、会話を自ら中断しようとして。乱暴してきて。
 しかも、……笑わないなんて、絶対絶対おかしい。

「ねえ、待ってよ由比! どうしたの!? ご飯、食べ………」

 わたしは、開けっ放しにされたドアをくぐって、そして。
 言葉を失った。

 人は心の底から驚いたとき、声が出なくなるものなのだと、悲鳴すら喉の奥に引っ込むものなのだと、その日初めて理解した。
 

 ――友人の表の顔だけを見て来たわたしの眼は、彼が屋上の柵に手をかける寸前まで、その事実を受け止めきれなかった。

「バカあああああ!」

 わたしは、叫んだ。
 人生初の怒号だった。人生初の悲鳴だった。

 これが悲鳴なんだ、と思った。
 後ろから抱き着かれたときに出た「キャッ」や「ひゃああッ」。
 あれは悲鳴ではなかったんだ。

 なんで、なんでなんでなんでなんで。
 嘘でしょ、嘘、絶対嘘。嘘だ、こんなの、嘘に決まってる。

「いとちゃん、風がすごく気持ちいいよ! 僕ね、ずっと空を飛んでみたかったんだ!」

 屋上の周りをぐるっと囲んでいる柵に、由比は足をかける。身体が徐々に上へ上へと持ち上がっていく。空と、身体の距離がどんどん近くなる。
 ……ついに、彼の足が手すりに乗った。その幅はわずか十センチ。制服のシャツが風でパタパタ揺れて、姿勢が少しグラグラしていて。


「ねえ、やだっ、やだよ由比! やだ、大きらいっ」

 違う、違う。うちは、あんたを怒りたいわけじゃないの。
 なにがあったのか聞きたいだけなの。一緒にお昼ご飯を食べたいだけなの!
 あんたのことが大好きだから、だから、自分の好きなものが無くなるのが嫌なの。

 あんたに見せたかったものが、あんたの行い一つで無駄になるかもしれない。
 それが嫌なの。


「由比! 早くこっちに来て! ……ねえ、帰ろう! 5時間目始まっちゃうよ! ねえ!」
「いとちゃん。僕はもう大丈夫だから、戻ってくれないかな」

  うそつき。大嘘つき。バカ野郎。
 大丈夫じゃないから、今現にこうなっているんでしょう!?
 大丈夫じゃないから、あんたはこんなに追い詰められているんでしょう?

 桃根こいとは信じない。演劇部員の名に懸けて、こんなエンドロールは絶対に信じない。
 ここであんたの物語を、暗転させたくない!

 ………ねえ、由比。あんたっていっつもそう。
 肝心なこと、何にも話してくれないよね。
 
 自分のこと、家族のこと、習いこと、夢のこと。
 わたしはたくさん話したけれど、あんたのことは何も知れてない。
 フェアじゃないと思わない?

「わたしがなんかしたの? わたし、無意識にあんたを苦しめちゃった?」
「……違うよいとちゃん。 いとちゃんは悪くない。全部、全部僕のせいなんだ。だから僕が全部やらなきゃダメなんだ」


 暖かい風が吹く秋空に零れた、彼の涙。

 わたしは慌てて駆け寄り、自分の小さな右手を友人へと差し出した。
 なにかが変わるわけではない。なにかを変えるわけでもない。少女の細い腕では、多分相手の苦しみは抱えきれない。
 
 でも、それでも。
 それでもわたしは。


「そんなことないよ! 言ってくれたらわたしも一緒にやるよ! 今までずっとそうしてきたよ! だからこれからもそうする! ずっとずっと側にいるから! ずっとずっと応援するから!」

 わたしに迷惑が掛かると思ったの? わたしが自分の側を離れると思ったの?
 そんなわけないじゃん。


 桃根こいとは、由比若菜という物語において最重要人物でしょ?
 いい? 物語っていうのはね、キャラとキャラが心を通わせることで進むものなの。
 全部一人で抱え込まないでよ。友だちでしょ?


「………いとちゃん。ありがとう。 でもごめん、もう疲れたんだ」


 由比が右足を一歩前に踏み出す。足が空を滑る。
 小さな身体は重力にあらがえず、コンクリートの地面へと真っすぐに落ちていった。
 風すら掴まずにどんどん落ちて行った。






  

  ………ドンッ。





















 ………ドンッ。

  
 







  ------------------------

 〈ゆ※&■〉


  ――ねえ、いとちゃ、………なんで。


  ――なんで、……なんで飛ぶんだよ。


  ――僕、言ってない。助けて……な、んて………。ひ、とこと………も………。



 『―――大好きだよ』



  ――僕の手、血だら、け。


 『ううん、離さないよ』


  ――いとちゃん、もういいよ。……もう、どっか、行ってよ……。


 『じゃあ、一緒に連れてって』


  ――地獄だろ。


 『天国に決まってるじゃん』


 ――何しに行くの。


 『神様に頼みに行く。ハッピーエンドにしてくれって怒りに行く。桃根こいとと由比若菜を叱ってもらう。そして、最期にはくっつけてもらう』


 ――くっつけるって、なにそれ。僕たち結ばれるの?


 『そうだよ。だってうちら、【こいと】と【ゆい】だよ。
  ほどけても、また絶対結びなおせるよ』




 









Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.39 )
日時: 2023/12/17 12:29
名前: むう (ID: F7nC67Td)


 展開の都合上とはいえ自分のキャラを死なせるのは胸が痛いよお(泣)
 みんな、由比みたいに抱え込んじゃだめだからね!
 ちゃんと相談するんだよ……。

 ------------------------

 〈XXside〉

 「おい、いい加減にしろよテメエ。どこへ行く気だ」
 
 一人の少年が、歩道の真ん中で声を荒げている。
 白いカッターシャツの上に紺色のパーカーを着ている。
背丈は160センチ前後。
 彼は手を広げて、相手がこれ以上先を歩くのを阻止していた。
 
 「どこへって、にえの様子を見に行くだけですが」

 答えたのは、サスペンダー付きの黒い短パンを履いている、十歳くらいの男の子だ。
 髪型はおかっぱ。猫のような大きな瞳の奥は、怪し気にゆらゆら揺れている。
 
 「あなたこそその恰好は何なんですか、猿田彦命さるたひこ
 「……俺の宿主だ。新しい身体だよ。てめえこそなんだその姿は」
 「あなたと同じですよ。我も見つかったのです、新しい器が」
 「なんだと? ――貴様、わざわいの神の分際で、何を」

 おかっぱの少年は、禍津日神まがつひのかみと呼ばれる、悪神と呼ばれる存在だった。
 火事・洪水・公害・疫病。
 彼がいる場所では様々な被害が発生する。人々は神の力に抗えず、次々と死に絶える。
 神という名がついているが、実際のところは妖に近い。神になろうとしたが、人を殺し過ぎたせいでその資格を得られなかった……という説もある(この町一帯に伝わる話だ)。

 この町は霊的エネルギーが非常に強く、霊や妖怪にとって非常に過ごしやすい土地らしい。
 禍津日神は恐ろしいことに、日本全国を支配できる大量の霊力を持っていた。しかし、彼はその力を敢えてこの東京―D町のみで用いたのだ。
 平安時代、この町一帯を治めていた陰陽師が禍津日神を祠に封印するまで。

 昔の人は日照りや干ばつが続くと、『禍神様が怒っておられる』と顔を青ざめさせたとのこと。
 畑でとれた農作物を祠の前に置いたり、酷い話だが生け贄を捧げたりすることもあったという。

 猿田彦は同じ神として、禍津日神の事をよく知っていた。
 何十年、何千年と悪行を続けた神。この神界隈でも嫌われており、(神様たちに界隈と言うのもアレだけど)封印されるのも仕方ない、むしろずっと眠ってくれと思っている神々がほとんどだった。猿田彦も、その一人だった。

 

 「というかお前、いつ封印を解いたんだッ」
 「当時は難しい術だったかもしれませんが、今は違います。どんなに高度な技術も、時間がたてば廃れるもの。幸い時間はたっぷりありましたので、ゆっくり解除方法をはかっておりました。意外と脆かったですよ」

 少年―禍津日神は、くつくつと喉を鳴らしわらった。

 「あなたこそ、いつ自由に動けるようになったのですか?」
 「力が戻ってきたんだよ。神の力は人間の気によって常に変化するからな。おまえと違って俺は、いい神・優しい神。無駄に岩の中に閉じ込められたり、クソ面倒な拘束をされることもない」

 「ふふふふふふ、相変わらず口が悪いようで」

 お前も大概だろ、と猿田彦は思ったが、声には出さない。
 片や道開きの神様、片や禍の神様。
 ここで歯向かったら最後、彼の右手が自分のお腹に貫通する。

 オーバーすぎる? いや、事実だ。
 この男は平気で人を殺す。自分が祀られている場所で人が死んでも、『自分のための贄だ』と喜ぶ有様だ。

「最近の人間はどうも勘違いしている。我々神々が住む場所は天界ではない。俗世ぞくせだ。人間と同じ目線、同じ立ち位置で世界を視ている。天界から降りてこない奴も中には居るけれど」
「テメエには俺らを愚弄する権利はない! 散々人間を痛めつけておいて偉そうにすんな!」

 猿田彦は眉をしかめ、さっきよりも強い口調で詰め寄る。
「胸糞悪い再会だが、会えてよかったぜ。道開きの神として、ここから先は絶対に行かせねえ! てめえが贄だと呼んだ人間も、必死に生きてんだよ馬鹿野郎ッ」

 猿田彦は両目をつぶる。瞬間、彼の身体を青白い光が覆った。
 それは、どんどん強さを増していく。
「ふ、馬鹿め。貴様では我を倒せまい!」と禍津日神は胸をそらす。


 それでも、いい神代表・猿田彦は手を止めなかった。

「――本当はずっと言いたかった。ずっとずっと俺様は言いたかったんだ! いいか、この場所はな!本当は俺の縄張りなんだよ! 自分が守るべき人が、勝手に入ってきた野良猫に殺される無念、貴様には到底わからねえだろうがな!」

 猿田彦はそのまま禍津日神の懐に飛び込むと、その胸倉をガシッとつかんだ。


「貴様のせいで進む道が消えるやつらの事、考えたことあるのか! 生きてきた道が、貴様の言葉一つで無意味になる。必死で命を散らした奴の事、考えたことあんのか!」


 ……時代が移り替わり、神々の力は以前よりもずっと弱くなってしまった。
 身体の自由が利かなくなり、出来ることが限られていく中で、神々は状況を打破できる名案を思い付いた。
 人間の身体に乗りうつることで人の世を生きようとしたのだ。
 

 あるものは、命を救えなかった少女の身体に。
 あるものは、想いを伝えられなかった少年の身体に。








 そして、禍の神の力は『逆憑き』へと変わり、ひとりの平凡な少女へと降りかかるのだった。
 

 

Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.40 )
日時: 2023/06/21 19:04
名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)


 〈作者の補足〉


 ★神による、取り憑き方説明★
 ①良さそうな人間を探します! 

 猿田彦「子どもが一番取り憑きやすいぞ。説得しやすいからな」
 由比「助けてくれてありがとう猿ちゃん」
 猿田彦「回想シーンではまだ助けてねえからネタバレすんな!! 
 こっから助けに行くから待っとけ!」

 由比「い、いい神…………………猿ちゃん大好き………!!」
 猿田彦「あっそ(顔を逸らして)」
 
 
 ②取り憑いてもいいか確認します。

 
 禍津日神「説得など要りません。取り憑かれた人間は自我を失います。時間の無駄ですよ」
 猿田彦「おい、テメエの身体…それ、まだちっこいガキじゃねえか!」
 禍津日神「ええ。なのでとても動きやすい」
 大国主命「……此奴は確かに放っておくわけにはいかむな。てかこの作品コメディだったはずじゃが。どうなっておる」
 むう「メインはラブコメです。シリアスの後はライトに戻るのでもうちょい待っててー!」

 (禍津日神はこういう性格です。今まで書いてきたキャラの中で一番のクソ野郎です。
「マガっちヤバすぎるだろ」と思いながら書いております)
 
 
 ③人間さんの体にお邪魔して、生活をエンジョイします
 ④飽きたら違う子に乗り移ります。終わりです。

 禍津日神「おい作者。先程から説明がやけにキャッチーなのだが。我々を舐めているのか」
 むう「ひいっ!禍の神こっわ! チ、チガイマス! チガイマスヨ!舐めてません!」
 禍津日神「本当か?」
 むう「もうちょいキャピキャピしてくれたら愛着湧くんだけどな、とは思ってますが!」
 禍津日神「……はあ?(ギロリ) やっぱり舐めているな。先程我のことを『マガっち』と呼んでいたし」

 むう「名前長いんだもん!! 漢字打つの疲れるもん! こんな日常疲れます〜〜〜!!」


 【次回予告】

 美祢「次回は猿田彦と由比の出会い、そして俺と宇月の過去編だ」
 宇月「めっちゃむうちゃん深掘りするやん。ボクらそんな積もる話ないで!」
 むう「いや、この2人はめっちゃくちゃ過去が………」
 宇月「ああああネタバレはあかんて!」

 コマリ「わ、私はしばらく出番ないよー!トキ兄ばっかりずるい!」
 美祢「おまえずっと語り手だっただろ!」

 一同「それでは次回もお楽しみに〜!!バイバイ!」
 

 


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