コメディ・ライト小説(新)
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- 憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
- 日時: 2024/01/26 23:11
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
中学2年生の私・月森コマリには一つだけ悩みがある!
それは、世にも珍しい【逆憑き】という体質なこと!
なんとなんと、自分の行い全てが悪い方向に行くみたい。
自分の存在自体が悪い妖怪とかを呼び寄せてしまうんだって。
治すには、悪い妖怪と一緒に集まってきた、いい妖怪か幽霊さんの力を借りるべし。
でもなかなか、そんな優しい幽霊来ないんですけど———!?
悪運強すぎJCの日常ラブコメディはじまりはじまりっ。
―-----------
《2023年夏☆小説大会
2023年冬☆小説大会 銀賞入賞!》
投票して頂きありがとうございます!!
作者とキャラの感想はコチラ→>>54
★重要キャラクターLog★
>>23
★応援コメント★
>>09 >>47
※不定期更新です!
※視点変更をメインとした展開です。毎話ごとの主人公がいます。ご了承ください。
※若干のシリアス描写がありますが、基本は日常コメディです。
---------------------
【目次】一気読み>>01-
〈第1章:新たな出会いは疲れます! >>01-17〉
プロローグ>>01
第1話「ヘンな同居人」>>02-04
第2話「誰だお前」>>05-06
第3話「ヘンな協力者」>>07-09 >>10
第4話「変化」>>11-17
〈第2章:新たな関係は疲れます!>>18-33〉
第5話「要らない力」>>18-21
第6話「契り」>>22-24
第7話「プレゼント」>>25-28
第8話「側にいれたら」>>29-33
アフタートーク>>34
閲覧数1000突破記念★キャラトーク>>46
閲覧数1400突破記念★キャラ深堀紹介>>51
閲覧数2100突破記念★○○しないと出られない部屋>>65-70 >>71-75
〈第3章:〔過去編〕疲れたきみと僕の話>>35-57〉
第9話「幽憂レコード:前編」>>35-38
第10話「幽憂レコード:後編」>>39-40
第11話「禍と鳥:前編」>>41-45
第12話「禍と鳥:中編」>>47-50
第13話「禍と鳥:後編」>>52>>53>>55>>56
アフタートーク>>57
〈第4章:新たな試練は疲れます!>>58-〉
第14話「転校生がやってきた」>>58-60
第15話「素直になれない僕らは」>>61-64
第16話「違和感」>>76-
【重要なお知らせ ※必読お願いします】>>81
[記録Log]
2023年1月11日、本編執筆開始。
2024年1月13日〜更新停止
[参考文献リスト]
・新訳:古事記
・妖怪大辞典
・京都弁(YouTube講座)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.52 )
- 日時: 2023/09/05 18:58
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
創作キャラクターは全員友達みたいなものです。
私の大切な友達。全員大好き。
--------------------------
三歳下の弟と妹は、いつも俺のことを「お兄ちゃん」と呼ばなかった。
幼児期の初めに覚えた言葉が「おかあさま」と「おとうさま」。周りの人間が常時、両親を様づけで呼んでいたので、無意識に頭に入ったのだろう。小さいときに植え付けられた世界観というものは、時が経ち体と心が大きくなっても中々変わってはくれない。
ある朝のことだった。俺が朝食を作ろうと台所へ向かうと、もうテーブルの上には食事が置かれていた。
高級な陶磁器の皿に盛られた、卵の黄色が鮮やかな目玉焼きと焼き鮭。その隣には茶碗と汁椀。
ただし、出来栄えは散々だ。メインディッシュは二つとも焦げて黒い塊になっているし、お豆腐の味噌汁はなぜか紫色をしている。
「なんだこれ」
何事だと目を見張る俺の声を聴き、流し台で食器を洗っていた弟が振り向いた。喜色満面の笑み。
「兄様! おはようございます!」
と、近くに駆け寄ってくる。
「おう、おはよう飛燕。これはいったいどういうことなんだ」
「? 食事のことですか? 今日は仕事がたくさん入っていると父上に聞いたので、兄様の代わりにオレが朝食を作ろうかと」
弟はえっへんと胸を張った。彼の背丈は去年から一気に伸びて、現在小学6年生にして既に兄と同じ目線だ。
「お前が?」
「はい。小学六年生でも、目玉焼きくらいひっくり返せますよ」
いやいや、結果が伴ってないから。目玉焼きが炭焼きみたいになってるから。
「誰か手伝ったか?」
「飛鳥がちょこっとだけやってくれましたよ」
「ああ、飛鳥が一緒だったのか。にしては完成が偉い雑だな。あいつキッチリしてるのに」
「宿題を片付けたいとか言って、ボウルだけ用意してくれました」
妹の役割それだけかよ!
すごいな、よくやったな、と褒めてほしいのだろうか。弟は目をキラキラ輝かせ、俺の返事を待っている。気遣いは嬉しいんだけど、アレを食べるのはちょっと勇気がいるぞ。
ため息をついた俺に、弟はキョトンと首を傾げた。
「どうされました? 体調がすぐれないのでしたら薬を持ってきます」
「……違う。違うんだよ、そういうことじゃなくて」
「なんですか?」
俺はもう一度深く息を吐くと、両手を広げ、彼の小さい体をそっと抱きしめた。
背丈はあんまり変わんないけど、まだ筋力はないな。手も足も細くて、輪郭も丸い。外見だけなら、ごくごく普通の小学生の男の子だ。明るくて活発で、人当たりがよさそうな。
「………ごめん」
お前は、何も知らなくていいのに。周りの真似なんか必要ないのに。敬語の使い方とか、正しいお辞儀の仕方とか、目上の人に対する所作とか。見ない振りしとけよ、そういうのは俺が全部やるから。
「なんで謝るんですか? 兄様、顔を上げてください。貴方は頭を下げなくていいんですよ。下げるのはオレらの役目なんで」
「……そっんなこ……」
唇を閉ざす。
「どうしました?」
そんなに他人行儀に振舞わなくてもいいんだぞ。
お前はお前らしく喋れよ。「やべー」とか「すげー」とか、年相応の荒い言葉使えよ。
なんか、兄弟なのに距離が遠くて嫌だよ。
なんて、答えられるわけがない。
俺が疑問に感じていることは、こいつにとっては当たり前のことで、彼は何の不満も抱いていない。そうするように教えられてきたから。そうすることが優しさだと信じているから。
これは違う、これはおかしい。口にしてしまえばそれは、弟の価値観を壊すことになるのだ。
「お前はこの家のこと好きか?」
「? え、ええはい。大好きです!」
「そっか」
……お前、この家が好きなのか。すげえな。
なんで俺は好きになれないのかなあ。なんで現状に満足できないんだろう。
仕方ない。この気持ちは胸の中にしまっておこう。
どうあがいても俺は『兄様』で『最強』なんだから。普通の生活なんて、できないのだ。
これは過去の自分への戒めだ。勇気が出ず、弟と妹に「お兄ちゃんと呼んでもいいんだよ」と言えなかった自分への戒めだ。
「ううん。何でもない。ありがとな」
俺は無理やり笑顔を貼りつけて、弟の髪をわしゃわしゃ撫でた。
そのあと、「けど、おまえは相変わらず不器用だな。この番正鷹を食中毒にでもするつもりか。仕事に支障が出たらどうすんだよ」とわざと毒を吐いてみる。
「すすす、すみません。い、要らないですよねこんなもの。焦げたものを兄様に出すなんて、常識がなさすぎますよね。す、すぐに片しますね。も、申し訳ないです」
弟はペコペコ頭を下げ、食器を手に取った。
と、俺は彼の指に巻かれている絆創膏の存在に気づく。
右手の親指と人差し指、左手の中指。両手の甲にも貼られている。
そのまま視線をずらす。着ているエプロンの胸元は零した調味料や液体でドロドロになっていた。
(料理とか一回もしたことないのに、わざわざ俺のために――)
「おい飛燕、それこっちに持ってこい」
俺は弟の背中に向かって言った。
「食べないなんて一言も言ってないだろ。作ってくれてサンキュな。お兄ちゃん嬉しいぞ」
--------------------------
なんで昔のこと、思い出してんだ。
最初から分かりきっていたことだろう。何をいまさら。
震える身体を必死に動かす。
あっれ、俺の視界ってこんなに暗かったっけ。俺の手ってこんなに汚かったっけ。
なんで頭が痛いんだ? なんで意識がぼやけるんだ? なんで息が続かないんだ?
――ああそうか。これ、もしかして走馬灯か。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.53 )
- 日時: 2023/09/07 23:24
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
飛鳥は弟の飛燕の双子の妹だった。
友達を連れて外へ遊びに行くのが好きな飛燕に対し、内気で消極的で口数少なく、よく家にいた。クラスでうまくやれているのか、友達はいるのかと聞いても何も話してはくれず、ただただ俺の隣にいることを望んだ。
飛燕と違っていたところは、彼女が俺と同じように、現状に満足していないことだった。
だから飛鳥は親父と母さん、そして召使の人たちがいない時間を見計らい、俺の部屋へよく来た。その時間だけ、彼女は自分の本音を兄に言える。兄に甘えられる。敬語を取り、自然の女の子でいられる。
でも、兄の呼び方はずっと『兄様』だったけどな。
「お兄様! 見て!」
飛鳥はその日も兄のもとを訪れた。
先週母親に貰った桃色のノースリーブのワンピースの裾を両手で持って、照れくさそうに笑う。
「おお、似合ってる似合ってる。誕生日プレゼントのワンピース。すげえな、お姫様みたいだ」
「へへへ、へへへ。ねえ、今からクルッて回ってもいい? 写真撮ってほしいの!」
「あー、ちょっと待ってな。よいっしょ」
机に向かって宿題をしていた俺は、教科書をぱたんと閉じ、椅子から腰を浮かした。戸口の前に立っている妹のほうへと、足を動かす。
「にーさまー、早くうー」
「今行くから焦んなよ」
飛鳥は可愛いものが大好きだった。淡い色のリボンやシュシュ、スカート、フリルを多用したドレスなどを好んで身に着けた。学校で体育がある日も、遠足の日も、山登りの日だって平気でスカートを履いていた。どうやらズボンが嫌いらしい。
仕事に出る前、俺はコイツに何度も「髪を結って!」とせがまれたし、妹も兄に髪をいじってもらえる朝を楽しみにしていた。
時々、『ねえ、三つ編みがロープみたい。下手』と文句を言われたが。
ただ、早朝は俺も登校準備だったり、武器の手入れをしたりで忙しい。たまにめんどくさくなって『飛燕にやってもらえよ』と言うこともある。そういう時、飛鳥はとてもいやそうに口を曲げる。 『あいつ、お兄様より不器用だからムリ』らしい。
俺は飛鳥のそばへ行くと、スマホのカメラアプリを開き、動画のボタンを押す。
写真でもいいんだけど、こいつはカメラ向けるとすぐ動き回るからな。そういうとこは、飛燕とそっくりだ。
「ねえ、可愛い? 可愛い? 撮ってる?」
と飛鳥はカーペットの上でくるくる回る。
「撮ってる撮ってる。はは、やべえ。お前回りすぎ、全然顔認証されねえんだけどw」
画面内の黄色の枠が現れたかと思ったら、すぐ消える。その間、2秒。こらえきれなくなって吹き出すと、飛鳥は踊るのをやめてプウッと頬を膨らませた。
「兄様の馬鹿。ちゃんと撮ってよお。私、卒アルの白いとこにその写真貼る予定なの!」
「猶更ヤバいだろうが」
アルバムの白いとこ……寄せ書きページだろうか。
書いてくれる友達はいないのだろうかと思ったけれど、言葉には出さない。それはたぶん、こいつが一番気にしていることだから。
「アルバムに貼るならもっとマシなポーズとれよ。お前、残像化してんだよ。今流行りの小顔ポーズとか、ピースとかでいいじゃん」
お前は上下に引き伸ばされた自分の顔を印刷するつもりか?
せっかく綺麗な顔してるんだから、もうちょっと考えろよ。小学校の卒業式だぞ? プリントアウトした後、みじめな気持ちになってもお兄ちゃん何も言わねえからな!?
「だって、だって、さっきピースの練習してたら、飛燕のやつが『かわいこぶってて気色悪ぃ…』って言ったんだもん! あいつが揶揄うんだもん!」
飛鳥はビャーッと喚く。
両足で地団駄を踏んだが、幸い下はカーペットだったので、他の部屋に音は響かなかった。あぶねえ。
「あいつ、兄様の前では優等生ぶるくせに、私を前にすると途端に悪ガキみたいになるの。兄様は知らないだろうけど、学校でもすっっっごく悪名高いんだから! この前なんか、学年一頭いい鈴木さんの髪を引っ張って……」
彼女のおかげで、飛燕が兄に隠そうとしていることは、いずれ全て暴かれるようになっている。何も知らない彼には申し訳ないが、これは今夜しっかり叱らねば。
まあ、だけど。
「飛鳥は本当の飛燕のこと、ちゃんと見てるんだな」
「むかつくけど、双子だから。それに、むかつくけど、あいつがあいつのままで居られないのは、妹として辛いから」
飛鳥はフンと鼻を鳴らし、横目でチラリとこちらを流し見る。
「ねえ。このこと、あいつには言わないでよね。あの馬鹿兄、絶対からかうもん」と腕を組んで見せる。
「ふっは。あははははは、あははははははは」
「笑わないでよ」
「いや、あっはっは。わかった、わかった。秘密はちゃんと守るってば」
お前が飛燕と違っていて良かった。飛鳥が素を見せてくれなかったら、多分俺は今よりもっと自分の境遇を憎んでいたからさ。それか、自分に己惚れて、大事なものを見落としていたかも。
飛鳥、お前が「私、この家のこと好きじゃないんだよね」と打ち明けてくれて、俺がどんなに助かったか。お前が飛燕のことを誰よりも心配してくれていて、どんなに嬉しかったか。
「ということで今日の秘密会議は解散だ。もうすぐ親父が帰ってくる。さあ、行った行った」
「はぁーい。明日はちゃんと動画撮ってよ! 今度は回らないから」
飛鳥は部屋のドアノブに手をかけ、拗ねたように言う。
「はいはい、見つかると怒られるぞ。俺もそろそろ巡回行く。夜は怪異が出やすいからな」
「わかった。……ねえ、じゃあ最後に、一つだけ質問してもいいかな」
「? まあ、いいけど」
なんだ、急に改まって。
俺は目を丸くする。
飛鳥は左手を扉の縁に添えたまま、先ほどとは違う冷淡な口調で尋ねた。
「いやだいやだって思ってるのに、どうして兄様は仕事をやめないの?」
それはシンプルで、かつ深い質問だった。彼女は俺にこう告げているのだ。そんなに嫌ならやめればいいじゃないか、って。
至極もっともな答えだ。心が悲鳴を上げているなら、無理して頑張る必要はない。
「愛想笑いをずっと続けるの、つらいんでしょ。お父さんとお母さんから過度に期待されるのも、本当はすっごく怖いんでしょ。飛燕の優しさだって痛みになるって、昨日私に言ったじゃん。私、兄様がなんでそこまで頑張るのか、全然わかんないの」
なんでそこまで頑張るのか、か。
そういやそんなこと、今まで考えたこともなかったな――――。
「うーん。難しいな……。俺もそこんとこ、よくわかってないんだ。なんで逃げねえんのかって、よく自分で思う。……ただ」
だけど、質問に対しての明確な答えは持っていないけど、一つだけ確かなことがあるんだ。
だからそれをお前の問いの答えに変えても、いいかな。
「―――この家のことは嫌いだけど、この世界のことは割と好きなんだよ、俺」
-------------------------
俺は、名前も年齢も知らない奴のために拳を振れるほど強くない。
最強なんて驕ってはいるが、実際は内心ビクビクしている。失敗が許されない世界で、弱さを見つけてもらえない世界で、持って生まれた才能だけが自分の救いであり足枷だった。
それでも自分が武器をとれたのは、その世界の中にわずかな光があったからだ。完全な真っ暗闇ではなかった。双子の弟と妹、学校の友人、そして身体を共有してくれた優しい神様がいたから、俺は俺らしく人生を歩むことができた。
って、なーにシケたこと、考えてんだよ……。
まだ、「ありがとう」を言うタイミングじゃ、ねえだろうが。
「………は、ははは。ごめん、さっき言ったこと取り消すわ。お前、強すぎんだろ」
右腕に受けた傷を左手で庇いながら、よろよろと起き上がる。腕が痛い。足が痛い。割れた頭から流れる血が、制服のシャツを濡らしていく。
敵の顔もまともに見られない状態の中、俺はなんとか唇から空気を吸う。
「おーい猿……あと、どんくらい持ちそう? もうほとんどの術も霊力も、使っちゃったけど……」
あーあ。番家最強の術式、行ったと思ったんだけどなあ。調子に乗ってバンバン使って、余裕ぶるんじゃなかったわ。
奴の姿が消えたと思ったら、直後真上からでっけえ黒い球が降って来たもんな。そのまま数メートルぶっ飛ばされて……あのあと消えたはずの神サマが現れて、俺の胸を一突き……。
どーんな戦い方だよ、クッソ。うっぜーな。
「バン――――――――――ッ! もういい、もういいんだ、! あとはオレがやるから、お前の代わりにオレがやるからっ……」
後方で、砂利の地面に座り込んでいた猿田彦が叫ぶ。その声は怒鳴りというより、悲鳴に近い。
宿主に力を吸わせすぎて、すっかり身体が透明化している。あの状態で戦っても、更に傷を負うだけだ。
「いや、いいよ。……勝手に、終わったって決めつけないで、もらえますかね……?」
「はあ!? だってお前、そんなっ、死ぬぞ!」
猿田彦のセリフにかぶせて、アイツの声が響く。
おかっぱの髪。血の気がない、青い白い肌。ワイシャツを身にまといサスペンダーつきの黒いズボンを履き、今は朱色になっている黒い羽織を重ね着した、小さな少年の声が。
「ふはははははは! そんなボロボロの状態で、我にとどめを刺せるわけがないだろう!」
「………っ」
「学習が足りないようだな番正鷹。我は確かに貴様に情報を提示したぞ。『禍津日神の術の威力は、負のエネルギーに比例する。恨み、怒り、悲しみ、叫び……あるいは人の死、人の血、人の魂。エネルギーを集めれば集めるほど、我は強い力を編み出すことができる』と」
―――勝利の天秤は、初めから我のほうに向いていたのだ。
(次回に続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.54 )
- 日時: 2023/09/11 17:13
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
★祝・憑きもん! 小説大会(コメディ・ライト版):銀賞受賞!★
拙作に投票してくださった皆さま、本当にありがとうございます。
本作品は、他作品(公募用)執筆の息抜きに書き始めたものです。
自分が書いて楽しいと思えるような作品、それでいて読者に楽しんでもらえるような作品を作りたい!という想いから、のんびりプロットを書き始めました。
前まで書いていた小説が『夢の世界』を舞台にしたゴリッゴリのファンタジーものだったので、
今度は『現実の中の夢(=現代ファンタジー)』を書いてみよう、と筆を取りました。
現代は「疲れやすい世界」。勉強・部活・恋愛・人間関係。一筋縄ではいきません。
だからこそ人生は面白い。年齢も性別も、悩みも人それぞれ違う。だからこそ目線が重なった時、人生が動くのかもしれません。
憑きもん!の登場キャラもまた、色んな意味で憑かれています。私もたまに落ち込みます。
それでも、この作品を通して皆様の疲れを癒せるよう、これからも精進して参ります。
ということでっ。キャラたちにマイクを渡していきましょうっ。
---------------------
コマリ「みんな、久しぶりー! 過去編に入ってから、出番激減。月森コマリだよ! たくさんの投票、本当にありがとう! 主役として、とっても嬉しいです」
美祢「俺とコマリとこいとの初期メンで暫く回してたけど、新キャラが加入して更に賑やかになったよな。彼らの活躍に感謝してる」
こいと「ふっふん! この恋愛マスターこいとちゃんにかかれば、どんな奴もメロメロですよ」
美祢「なんで俺の周りはこうも自信たっぷりなんだ」
宇月「おいコラ美祢。その鋭い視線をこっちに向けんなや。ボクが何したっていうねん」
美祢「今日は何もしてないな」
宇月「はあ? その減らず口ふさいだろか? そもそもお前は年上にもっと敬意を払うべきや」
美祢「そのセリフそっくりそのまま返してやる。先にそっちが敬意を払うべきだ!」
こいと「まーた始まっちゃいましたねえ、いとこケンカ」
コマリ「あの二人いつ仲良くするのかなあ」
由比「僕ら過去編組も、今大会の結果をとっても喜んでるんだ。ありがとうね皆」
猿田彦「急にシリアスになったが、ちゃんと続きを見てくれて嬉しかったよな。なあ大国主」
大国主「うむ。貴様も何か言ったらどうだ霊媒師!」
正鷹「え、言っていいの? 俺喋ったら止まらなくなるけど大丈夫?」
猿田彦「あー、大国主。バンをあまり刺激するな。こいつの話の長さはテンションに比例する」
禍津日神「ならばこの人間の代わりに我が感想を述べましょう」
正鷹「できんのマガッち」
禍津日神「どいつもこいつも、マガッちマガッち言いおって……(怒)」
むう「ということで締めの言葉、マガっちどうぞ!」
禍津日神「敵というポジションをこれほど憎んだのは初めてだ。嬉しい反面とてつもなく苛立っている。今すぐにでもこの鬱憤を晴らしたい」
コマリ「ということで、私たちの感想は以上になります! これからもよろしくお願いしますっ」
むう「あ、今日は本編も更新予定ですのでお楽しみにっ。なお、過去編は10月までに終わらせたいと思っています。把握お願いしますっ」
全員「それでは、また次回の更新でお会いしましょう。またねー」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.55 )
- 日時: 2023/09/20 23:58
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
Q:激しい戦いをしているのに、なぜ学校の先生たちに見つからないのですか?
A:大国主が結界を貼っているからです
---------------------」
〈再び正鷹side〉
「――勝利の天秤?」
俺は頬についた汚れを手の甲で拭いながら、掠れる声で言った。
「そんなの知らねえ。皿がどっちに傾こうが、俺は諦めない」
こちらが劣勢だということは、もちろん理解している。自分の身体がボロボロなことも、とても自分が適うような相手ではないってことも、ちゃんと把握している。
最強だと言われた自分の能力が、実は全然大したことなかったってことも。自分が勝手に己惚れていただけだということも。
「諦めない、ねえ。昔、同じことを云ったやつがいた」
禍の神は淡々と告げた。
「守りたいものがあるとか、やらなきゃいけないことがあるとか――。彼らは我を前にしてペラペラと希望を語った。そして、脆く儚い夢と一緒に散っていった」
あるものは、愛する人と再び会いたいと願い、あるものは、自分の力で世界を作り変えたいと願った。武器を持たず、装備もないまま立ち向かったものもいたし、その者たちを庇い自らを犠牲にして戦線に出た人間もいた、と彼は続ける。
「つくづく思った。人間は何も学んじゃいないと。力の差は分かりきっているだろう。未来を予知することはできずとも、予測することはできる。なのになぜ挑もうとするのだ。なのになぜ立ち向かおうとするのだ。なにが貴様らを奮い立たせる?」
ポツン。何かが鼻の先に当たった。生ぬるい感触。雨だ。
上を見上げる。分厚い雨雲が空を覆っていた。確か夕方にかけて冷え込むって、昨日ニュースでやってたっけ。降水確率は70%だったっけな。
「――お前、雨は嫌いか?」
突然違う話をし始めた俺に、禍津日神は呆気にとられた顔になった。からかおうと、右手の人差し指を俺の鼻先に突きつけようとしたが、その手はブランと垂れ下がる。長時間の戦闘は、精神疲労につながる。傷口は塞げても、心の疲れは癒せない。
「チッ」と小さく舌打ちをし、彼は苛立ちを隠すかのように声を荒げた。
「嫌いだ! 雨は血が流れるからな! それがどうした!」
「そうか、俺と一緒だな。俺も昔は雨が嫌いだった!」
つられて俺の声も大きくなる。
どんなに天気が悪かろうが、家業は休めない。曇天時、悪霊退治に出かける前、いつも俺は召使いに、雨合羽を着せられた。風邪をひかれては困るという理由で。
プラスチックの独特のにおいが嫌で、俺は毎回彼らの手をはねのけた。だけど召使の人は、「これが仕事ですから」と、一向に手を止めようとはしなかったんだ。
でも飛燕と飛鳥が、俺の誕生日に紺色の傘を買ってくれてさ。
合羽は嫌だったけど、傘をさすのは全然苦じゃなくて。むしろ楽しくて、嬉しくて。それ以降は、水たまりを蹴飛ばして任務地へ赴けたのだ。
「今は割と好きだ! むしろ降ってくれって思うよ。雨の良さに気づけたのは、それを教えてくれた人がいたからだ!」
「――貴様は何が言いたいんだ」と禍津日神。
「何が自分を奮い立たせるかわかんねえなら教えてやるよ! 人の愛と優しさと強さだ! テメーが脆く儚いものだと決めつけたものすべてだ!」
――兄様、これ、飛鳥と小遣い貯めて買ったんだ。良かったら貰って。
――これで、ウキウキルンルンでお外歩けるね!
長方形の白い箱に、綺麗にしまわれたプレゼント。
生地に縫い付けられた【HAPPY Birthday】の刺繍糸の色は、俺が好きな赤色だった。
正義のヒーローの色。悪いやつをやっつけ、弱い人を助ける、カッコいいヒーローの色。
――わあ、すっげえ。すげえすげえすげえ! わあああ! ありがとう、飛燕、飛鳥! 俺、すっげえヒーローになって、すっげえやつになるっ。
……ああそうだよ。俺はずっと、赤いマントに憧れていたっけ。
随分回り道をした。随分と沼に足を取られた。
やっとだ。こういう形で実現するとは思わなかったが、それも人生っつーわけで。
「結局人生っていうのは、自分が生きる道なんだ。何を好きと感じるか、何を嫌いと感じるかは、その人次第だ。だから」
俺は、すぅーはぁーと息を吸う。肋骨が折れているせいだろうか。あまり多くは吸えないが、精神を落ち着かせるのは基本中の基本。
……多分この術を使えば、俺はもう……。
ううん、迷うな。信じろ。お前は最強の霊能力者、番正鷹だろ。
お前のモットーは何だ。お前が本当にやりたかったことはなんだ。
自分に嘘はつかない。俺は俺が守りたいものを、俺が信じたいものを愛する。
「だから道は、自分で切り開く! 後ろを歩く奴らが迷わないように、俺が先に拓いてやる!」
「ふん、バカバカしい! 禍火・竜玉!」
禍津日神の両手から、二つの黒い球が発生する。数分前に防いだ球に比べて、直径が長い。
ざっと1メートル以上ある。防げるか?
…………いや、できる。俺ならやれる!
この一撃にすべてをかける。何を失ってでも、あの二人の未来は絶対に渡さない。
「番家流憑依術:奥義!!」
両手を再び銃の形に組む。集中しろ、集中しろ、集中しろ。
万が一の為にと取っておいた最後の霊力を一点に集める。指先が徐々に熱くなっていく。凄まじい威力のエネルギーが、全身を駆け巡る。
この奥義は、術者の死期が早まった時にしか発動できない。奥義と名がつくものは大体そうだ。
そうだろ猿田彦。口に出さずとも伝わるぜ。
お前が乗っ取りを解除した本当の意味は、俺にすべてを預けた訳は。
ああそうだよ、道開きの神様の最大の能力は、未来予知だった。
神様が人の死に介入することはご法度だった。
つまり、そういうことだろ。
お前は本当に優しいな。俺が悲しむと思って、黙ってたんだから。
(気づいてほしくなかった)
頭の中に響く友人の声。彼は俺の背後にいる。
その表情を直接見ることはできないが、声色でなんとなく伝わるよ。さては泣いてるな。
〈よく言うぜ。猿は俺が気づくとこまで読んでるのに〉
(お前に教えてもらったんだぜ。ネ〇フリもジャ〇プもYoutubeも)
俺は両手を組みながら、フフッと笑った。
〈お前、何でもハマったよな!〉
(バンのトークが上手いのが悪い。あんなの好きになるしかないだろ)
〈うっわ逆ギレ? 言っとくけど俺は全部見させてもらえなかったからな。猿は贅沢もんだぜ〉
(お前はほんと変わんねえな。普通、こういうシチュエーションは、綺麗な言葉を交わすもんだろ)
〈俺は、つまらない言葉が一番きれいだと思ってるから。あ、やべえ。そろそろ術が発動するわ。最後に言いたいことなんかあったっけ。ちょい待って〉
(もっと緊張感出せよ、ったく……なんで……お前はいっつも)
〈おっけおっけ。まとめる。簡潔にまとめる。よし、決めた。めっちゃ簡単に言う。お前はその意図をくみ取ってくれると信じてる〉
(は?)
〈空で待ってる〉
「番家流憑依術・奥義! 滅式! BANG!!」
「吹き飛ばせ、禍火!」
―――小さな霊能力者の右手から放たれた霊力の塊と、禍の神の両手から放たれた負のエネルギーは、この日一つに混ざり合い、大きな音を立てて爆発した。
(次回へ続く!)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.56 )
- 日時: 2023/09/18 22:54
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
長かった過去編はこれにて終了になります。
10月は、小説の更新を休載します
(学業がとっっっても忙しい時期なのです。また失踪するかもしれません。ごめんなさい!)
-------------------------
〈由比side〉
「――というわけで、俺はお前を助けたんだ。バンを犠牲にして」
空中に浮きながら、袴姿の男の子は言った。
幽霊の僕・由比若菜は歩道を歩きつつ、「ふうん」と相槌を打つ。
幽霊の身体は疲れない。この体質をいかして、僕は町を散策しながら日々を過ごしている。
会いたい友達がいるんだ。
笑顔が可愛くて、明るくて、おしゃれな女の子。自分を最期まで信じ、愛してくれた大事な人。飽きっぽいくせに真面目で、正義感が強くて。寝癖をつけたまま登校してしまう、ちょっと抜けたところも魅力的で。
今だから言えるけど、彼女のことが好きだった。友達としてもだけど、恋愛的な意味でも大好きだった。勇気がなくて、アプローチできなかったけど。
だけど僕はその子に、たくさん迷惑をかけてしまった。だから謝りたい。謝ることで解決する問題ではないけれど、それでもちゃんと想いを伝えたい。
しかし僕は方向音痴で、土地勘がない。なので頼れる助っ人である道開きの神様・猿ちゃんにナビをしてもらい、人探しを進めている。
人が多いから、もしかしたら居るのではとデパートへ向かう道中、彼がふいに過去の話をし始め、今に至る。
「その、正鷹さんはどうなったの? 犠牲って……」
「アイツはあの後、爆発でまたぶっ飛ばされて……禍津日神の身体に吸収された。最初の贄として」
禍津日神の放った負のエネルギーの球と、正鷹の放ったエネルギー砲がぶつかり、大きな爆発が起こった。俺様と大国主命は発生した爆風に吹っ飛ばされる過程で、一縷の望みをかけてお前らの魂と融合したんだ。魂が実体化してくれることを願ってな。
正鷹は俺らが逃げられるよう、必死に時間を稼いでくれたけど――。
猿ちゃんはやり切れないというように、首を振る。
「………そのあとは分からねえ。少なくとも、この世にいないのは確かだ。正鷹は自分の命と引き換えに、お前たちを守ってくれたんだよ。そして、託してくれた」
「託す?」
「お前を守ることをな」
僕は去年の秋に、学校の屋上から身を投げ命を絶った。
成績至上主義のお母さんとの二人暮らしが嫌で。世界に適合しない自分が嫌で。何をやっても怒られて、否定されて、頼んでもないのに価値観を押し付けられた。おまけに習い事に行ったら、「勉強しろ」「ちゃんと学べ」「なんでお前はこうなんだ」と言われる始末。
自分に何の価値もないと思っていた。自分を助けてくれる人は、いないんだと思ってた。
でも、そんなことはなかったんだ。
みんな、僕の為に命を張ってくれた……。僕の幸せのために、自分の未来を預けてくれたんだ。
「――僕は人殺しだ。僕のせいで、いとちゃんも、正鷹さんも……全員……っ」
足を止め、僕はうつむく。両目から、生暖かい水滴が零れ落ちた。
ダメだ、もう後悔しないって決めたのに。後悔してばっかりだ。
パーカーの裾で、乱暴に顔をぬぐう。
「全員、僕が殺したようなものじゃんか……。僕が、もっと、もっと強かったら二人はっ」
「由比、おい由比」
猿ちゃんは、僕の両肩に手を置いた。
背丈はこっちのほうが高いので、背伸びする形になっちゃった。
「お前は悪くない。お前はあの時辛かったし、苦しかったんだろ。けど、一生懸命耐えてた。誰でもできることじゃない」
言葉ってすごい。彼のセリフは、冷え切っていた心をじんわりとほぐしていく。おかげで、せっかくぬぐった涙が再び目からあふれる。押し殺そうとしていたものが、嗚咽とともに外に流れていく。
ああ、体が透明で良かった。路上でわんわん泣いたら、絶対目立っちゃうもん。
「俺は由比が好きだ。優しいお前のことが大好きだ。お前と出会えてよかったって、心から思ってる!」
彼は僕の身体を、強く強く抱きしめる。体温のない半透明の、この身体を。
「猿ちゃん……」
「生きている時に助けられなくてごめん。沢山我慢させてごめん。こうなるってわかってたのに、何もできなくて、ごめん。俺だって、沢山後悔してる。だけどバンが言ったんだ。空で待ってるって。人々の強さを信じているって」
空で待ってる。
自分の命が尽きることを、正鷹さんはそう訳したのか。
人々の強さを信じている、か。
僕は視線を空に向ける。群青色の空に悠々と浮かぶ白い雲。
あの向こうに、正鷹さんはいる。今を生きる僕らのことを、遠い位置で見守ってくれている。
「お前が友達を探しているように、俺も友達を探している。もともと俺様はそいつに会うために旅をしてたんだ」、と猿ちゃんは言葉を続ける。「あの胸糞悪い出会いさえなければ」
「そいつと合流して、力をつけて、絶対にあの禍野郎を倒す。そんで大声で叫んでやる。『お前が思ってるよりずっと、人間は強いんだぜ』って。『まだ死んでねえ!』ってな!」
「……死んでるよ。幽霊だもん」と僕は言う。
「死んでるのに生きてるって、不思議だね」
――お前が思っているより、人間は強いんだぜ。
僕はいとちゃんと会うまでに、さらに強くならなくてはいけない。ちょっとしたことで泣くようでは、再会した時100%からかわれるからね。
それに、猿ちゃんと話して気づいた。いとちゃんは、まだこの世界に存在しているんだ。大国主さんの魂と融合したのなら、彼女も自分と同じ状態ってことだ。
いとちゃんはもう、この世にいないんじゃないか。僕が特殊なだけで、全員が幽霊になるわけじゃない。 ひょっとしたら、彼女とはもう二度と会えないんじゃないか。
何度そう思ったことか。なんどその思いを否定したことか。
僕は会えるんだ。まだ、可能性があるんだ。
「――ありがとう猿ちゃん。僕、頑張る。正鷹さんの代わりに、猿ちゃんを守れるようになってみせる」
「おう、期待してるぜ。んじゃ、行くか」
前を歩く友達の背中を、僕は必死に追う。右足を恐る恐る前に出して、拙い足取りで。
それでも確実に、一歩一歩進んでいく。
これは疲れた僕ときみの話。
何もかも失った。だから今度は、すべてを手に入れて見せるよ。
□◆□
「ヒエ~、そっちの水筒取ってくれん?」
八畳ほどの広い部屋の隅に設置された木製のベンチに、ボク・夜芽宇月は座っている。
ここは町のはずれにある、閉店したスポーツセンターの体育館だ。本来は館内立ち入り禁止だが、霊能力者には特別に使用許可が出されていた。
ジャージの裾で汗をぬぐう少年の横に座っているのは、水色の髪をした少年。左耳にはピアス、膝小僧には絆創膏。程よく日焼けした肌も相まって、THE・運動系男子といった出で立ちである。
コイツはボクの後輩。霊能力者が所属できる『ACE』という討伐チームに、最近加入した新任・ヒヨッコの霊能力者だ。
「自分で取ってよ、宇月センパイ」
後輩は分かりやすく片眉を下げ、貧乏ゆすりをする。苛立った時に彼が見せる癖だ。
「無理。筋肉痛がきつくて歩けへん。模擬戦100本は頭いかれてる。なんでお前平気なん。こんなんやってたら精神がやられてまう」
「すんません。今テスト期間でストレスたまってんの」
「なんや、本当に運動馬鹿か」
「センパイ、ほんと口悪いよね」
強くなりたいから、練習に付き合ってほしい。
そう頼まれ、ボクは仕事終わりに後輩とこの体育館で練習をしている。がしかし、コイツの謎の熱量に対応しきれず、教える側なのに毎回へとへとだ。
「………そいえばセンパイ。オレ、センパイに聞きたいことあるんすよ」
「は? なに? なぜ5歳差の年下に18歳がやられんのかって? 単純にお前が狂ってるからや」
「あー違いますね」
「センパイ、禍の神についてなにか心当たりありませんか?」
※過去編完結。→第4章へ続く。
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