コメディ・ライト小説(新)
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- 憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
- 日時: 2024/01/26 23:11
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
中学2年生の私・月森コマリには一つだけ悩みがある!
それは、世にも珍しい【逆憑き】という体質なこと!
なんとなんと、自分の行い全てが悪い方向に行くみたい。
自分の存在自体が悪い妖怪とかを呼び寄せてしまうんだって。
治すには、悪い妖怪と一緒に集まってきた、いい妖怪か幽霊さんの力を借りるべし。
でもなかなか、そんな優しい幽霊来ないんですけど———!?
悪運強すぎJCの日常ラブコメディはじまりはじまりっ。
―-----------
《2023年夏☆小説大会
2023年冬☆小説大会 銀賞入賞!》
投票して頂きありがとうございます!!
作者とキャラの感想はコチラ→>>54
★重要キャラクターLog★
>>23
★応援コメント★
>>09 >>47
※不定期更新です!
※視点変更をメインとした展開です。毎話ごとの主人公がいます。ご了承ください。
※若干のシリアス描写がありますが、基本は日常コメディです。
---------------------
【目次】一気読み>>01-
〈第1章:新たな出会いは疲れます! >>01-17〉
プロローグ>>01
第1話「ヘンな同居人」>>02-04
第2話「誰だお前」>>05-06
第3話「ヘンな協力者」>>07-09 >>10
第4話「変化」>>11-17
〈第2章:新たな関係は疲れます!>>18-33〉
第5話「要らない力」>>18-21
第6話「契り」>>22-24
第7話「プレゼント」>>25-28
第8話「側にいれたら」>>29-33
アフタートーク>>34
閲覧数1000突破記念★キャラトーク>>46
閲覧数1400突破記念★キャラ深堀紹介>>51
閲覧数2100突破記念★○○しないと出られない部屋>>65-70 >>71-75
〈第3章:〔過去編〕疲れたきみと僕の話>>35-57〉
第9話「幽憂レコード:前編」>>35-38
第10話「幽憂レコード:後編」>>39-40
第11話「禍と鳥:前編」>>41-45
第12話「禍と鳥:中編」>>47-50
第13話「禍と鳥:後編」>>52>>53>>55>>56
アフタートーク>>57
〈第4章:新たな試練は疲れます!>>58-〉
第14話「転校生がやってきた」>>58-60
第15話「素直になれない僕らは」>>61-64
第16話「違和感」>>76-
【重要なお知らせ ※必読お願いします】>>81
[記録Log]
2023年1月11日、本編執筆開始。
2024年1月13日〜更新停止
[参考文献リスト]
・新訳:古事記
・妖怪大辞典
・京都弁(YouTube講座)
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.21 )
- 日時: 2023/04/08 13:01
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
〈こいとside〉
「なんで、きみが?」
宇月サンは目を見開いた。
数秒前まで士気に燃えていた双眸も、わたしが茂みから顔を出したとたん輝きを失う。
武器を持ったままなのは、わたしが自分に危害を与えると思っているからだろうか。
「桃根ちゃん、なんでここに居るん? コマリちゃんと美祢は? なんで……」
次から次へと投げかけられる質問も、(きっと問い詰められるだろうなぁ)と頭の中で想定していた内容だった。
あらかじめシミュレーションしていて良かった。
アレコレ考えるのが好きなタイプじゃないから、回答をするのにも多少時間がいる。
わたしは結んだ髪の先っぽをいじりながら、薄く微笑んだ。
「遊びに行くって伝えてます。まあ、嘘なんですけどね。さっきも言った通り、わたしはあなたと話したいんです。だから来たんです」
なぜ宇月サンに近づこうと思ったのか。なぜ、コマリさんや美祢さんには相談できないのか。
色々理由はある。でも一番は、目的達成のために彼の存在が必要だったからなんだ。
この前散々悪口を言われたので、言い返してやろうかと燃えていたってのもあるけどね。
ただ、これを言っちゃうと、美祢さんが「俺も一言言ってやらないと気が済まない」と椅子から腰を浮かせるかもしれない。
なるべく一人で、宇月サンの元を訪れたかったのだ。
「はあ? なんで? 桃根ちゃんは、コマリちゃんのサポートをやっとったやん。あの子の側にいるのが筋やろ」
宇月サンは身振り手振りを駆使して話し出す。
わたしを責めていると言うよりも、自分に言い聞かせているような、そんな口ぶりだった。
術でやっと動きを封じたのにも関わらず、敵を仕留めることも忘れて彼は喋り続ける。
「なあ、詳しく説明し……うわっ」
「ガァァァァ!」
有刺鉄線で縛られていた悪霊が、最後の力を振り絞って抵抗してきた。
なんとか縄の間を抜けた腕が、宇月サンの首根っこを掴む。五十キロはあるだろう彼の身体が、猫のように軽々と持ち上げられた。
「……っ! 離っ……! 今、いいとこ、やね……! ぐ……!」
宇月サンがバタバタと両足を振っても、がたいのいい腕はびくともしない。
右手の指に挟んでいた護符が、ふわりとアスファルトの地面に落ちた。
「くっそ、お前どんだけ諦め悪いねん! ……っ、あかん、力が入ら、な……」
ゼエハァと肩で息をする霊能力者の男の子。
その呼吸のリズムも、だんだんゆっくりになっていく。
だ、ダメだ。このままだと、あの人が死んじゃう!
聞きたいこと、話したいこと、いっぱいあるのに。
ここであなたの命を奪わせるわけにはいかない。
……覚悟を決めろ、桃根こいと。今ここで、わたしがやらなきゃ。
もう他人の死を見るのはうんざりだ!
「宇月サン伏せて!」
「……な、に……」
「必殺!!」
技名を唱え、わたしは目をつぶる。右手を天に突き出し、深呼吸。
人間がまとっている運気のエネルギーは、集めると規格外の威力を持つ。
このチカラは、自分の恋愛運をエネルギーの球に変える!
「恋魂球―――――――――――――っ!!!」
集まった霊気の球がピンク色に光りだしたのと同時に、わたしは右腕を力いっぱい振り下ろす。
恋愛運で作られたボールはジリリリリ……と音を立てたのち、一気に爆発し、ゴキブリのような()怪物を数メートル先までぶっ飛ばしたのだった。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.22 )
- 日時: 2023/09/19 10:57
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
むうです。次回の更新は、4月5日(目安)です。
よろしくお願いします!
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〈――XXside〉
『いとちゃん!』
彼は、うちの全てだった。
お日様のような明るい笑顔と、毛布のようなふんわりとした優しさを持った数少ない友人だった。
『いとちゃん、初主演おめでとう! ホラほら見て、チケット買っちゃった! 文化祭、絶対見に行くねっ』
『いとちゃんが好きなアイドルって、歌い手グループだよね。僕ボカロとかあんま知らないけど、一緒にライブ行きたい!』
『わ、この人の高音、すごく綺麗だね。かっこいいねっ』
無邪気で純粋で、汚いもので溢れている世界を素直に美しいと感じられる性格だ。
嘘がつけないあまり騙されやすく、ヒョイヒョイ友達を作っては裏切られていたけど、それでも本人は笑顔を絶やすことはなかった。
『人間関係って難しいねー』
独り言のように呟いて、何事もなかったかのようにうちの前の席に座って。
教室の窓際。日の当たる席で毎日、猫のように伸びをして。
あまりにマイペースだから、時々彼が同学年なのを忘れてしまう。子供っぽい言動が目立つから、わたしも無意識に弟扱いをしてしまっていた。
―――彼も同じ人間だということをを、頭の引き出しに置いてしまっていた。
友人の表の顔だけを見て来たわたしの眼は、彼が屋上の柵に手をかける寸前まで、その事実を受け止めきれなかった。
『いとちゃん。ごめんね』
暖かい風が吹く秋空に零れた、彼の涙。
わたしは慌てて駆け寄り、自分の小さな右手を友人へと差し出した。
なにかが変わるわけではない。なにかを変えるわけでもない。少女の細い腕では、多分相手の苦しみは抱えきれない。
でも、それでも。
それでもわたしは。
「由比! 早くこっちに来て! ……ねえ、帰ろう! 5時間目始まっちゃうよ! ねえ!」
わたしは、あなたを。
あなたのことが、ずっと前から。
「ぶ、文化祭、見に来てくれるんじゃなかったの!? チケット、一番最初に買ってくれて……。ライブだって当選したのに! も、もうすぐ由比の誕生日だし、一緒に遊びに行こうって……」
ずっと。
「ねえ、由比! 戻ってきて! ねえ!」
ずっと、好きだったんだ。
のんびり生きていたはずのあなたが、最期の最期、『ごめんね』と宙に身を投げ出すその瞬間まで。私はあなたが大好きだったんだ……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈こいとside〉
悪霊が消滅し、捕まっていた宇月サンはドスンと床に尻餅をついた。
「~~っっっ!」と打ち付けたお尻をさすりながら、痛みに暫し悶絶する。
「だ、大丈夫ですか? 怪我は?」
わたしは、宇月サンにそっと右手を差し出す。
彼は申し訳なさそうに笑って、よっこらせと立ち上がり、ズボンの埃を手で払った。
「あー、死ぬかと思ったわ。ありがとうな、桃根ちゃん」
「え? いやいや。あの状況で見殺しになんかできませんって」
あわあわと手を振るわたしを、彼は面白そうに見つめた。
な、なんだろう。顔になにかついているのかな?
そっとほっぺたを触ってみるけれど、別に汚れてはいない。あれ?
「なんで頬っぺたなんか触っとるん?」
「なにかついてたかなと思いまして。なにもついてないじゃん。ジロジロ見ないでくれますか」
「なんやその扱い。ボクはただ、きみが助けてくれたのが信じられなかっただけやで」
助けてくれたのが信じられなかった。それは一体どういう意味だろうか。
つまり、わたしが自分を見捨てると思っていたの?
それこそ、信じられないんですけど? 自分の命を大事にしないとかマジでないわ。
あなた流に言い換えるなら、『自分すら大事にできんのに、他人を見下すとか聞いてあきれるわ』ってことです。
「あー、そういうんやない。あの、なんて言えばいいかな。ええと」
宇月さんは、頬を頭でかき、うーんと首をひねる。
「てっきり、敵視されてるんかと」
そりゃあ、ボロクソ言う人がいたら誰だって警戒しますよ。
でもわたし、神様の血が混じってるから分かるんです。かすかな気持ちの揺らぎとか、息の使い方とか。そういう些細な部分。
「え、なにそれウケるんですけど。わたし、あなたのこと結構信頼してますよー」
「あっははは、マジで?」
「うわ」
「どしたん?」
「あなたもそんな砕けた発言するんですね」
「今時しない人の方が珍しいで?」
宇月さんはその場で「よいっしょ」と伸びをすると、戦闘で乱れた髪を手で整え始めた。
サラサラの髪。すらりとした体型。時折見せるリラックスした表情。
それら全てに、彼の面影を重ねてしまうわたしは、やっぱり馬鹿だ。
「それで、桃根ちゃん」
くるりと振り返った宇月さんは、スーパーで会った時と同じように目を細める。
何もかも見透かしたような、周りから離れて物事を俯瞰で見ているような。
強い眼差しがわたしを射抜く。
「ボクに話したいことがあるんやったな。いいで、聞くわ。遠慮なく言ってみ」
すうっと息を吐く。大事なことほど、しっかりした言葉で伝えたいものだ。
唇が上手く動くかどうかを確認して、声に出そうとした単語が適切かどうか吟味して。
長い長い時間をかけて、わたしは自分の想いを発する。
「宇月さんは、幽霊や妖怪を操れるんですよね。霊能力者は、幽霊の存在を、その目で認識できるん……ですよね」
――いとちゃん。いとちゃんは生きて。もうどっか行ってよ。
――五時間目、始まっちゃうよ。
――文化祭で、ヒロインやるんでしょ、いとちゃん。
「守れなかった人がいるんです。……伝えたかったことがある。言えなかった文句も、いっぱい、いっぱいあって。そいつに、あのバカに、どうしても謝りたいんです。コマリさん達に嘘をついてまで、会いたい人がいるんです。探してほしいんです、あなたに」
死んだらもうそれで終わりだとか。死者は蘇生できないとか。
そんなことはとっくに分かってる。
でも、わたしはこの目で見たんだ。
『死んだらハイサヨナラ』の常識が崩れる光景を、あの時あの瞬間。この目で。
「だからお願いします。わたしに、失った時間を取り戻すチャンスを下さい!!」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第3章開始★】 ( No.23 )
- 日時: 2023/10/04 09:48
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
★登場キャラクターLog★
キャラクターが多くなりそうなので、ログをつくりました。
また、本作品には『陣営(チーム)』設定があるのでそれもまとめておきます。
同じ記号がついてるキャラは、協力関係にあります!
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〈コマリチーム〉
〇月森コマリ
→『逆憑き』という体質の悪運強し14歳。なるべく楽しく元気よく!
〇時常美祢
→コマリと同室の霊感持ち高校生。コマリの相談役兼ボディーガード。
〇☆?桃根こいと
→浮遊霊。オオクニヌシの魂を持つ。恋愛相談が得意。友人と再会するために奮闘中。
〈霊能力者〉
☆〇夜芽宇月
→美祢のいとこで、心を操る霊能力者。京都府出身。別名:歩くトラブルメーカー。
番正鷹
→あだ名はバン。霊能力者の御三家の筆頭・番家の長男。
世にも珍しい〈憑依系〉の能力を使う。由比の前に猿田彦と絡んでいた人間。過去編に登場するぞ。
番飛燕
→正鷹の弟。中学1年生。活気の良い性格。怪異討伐チームACEに所属する宇月の後輩。
運動能力が非常に高く、「運動馬鹿」と呼ばれている。使う能力は〈使役系〉。
番飛鳥
→飛燕の双子の妹で、コマリのクラスに編入してきた転校生。
コマリに興味があるらしいが……?
〈幽霊&妖怪&神様〉
♪由比若菜
→こいとの元クラスメートの男の子。自ら命を絶ち幽霊となる。猿田彦と行動を共にする。
♪猿田彦命
→由比にとりついている、道開きの神様。身体の乗っ取りが可能。ツンデレ。
? 大国主命
→過去に色々あって、こいとの魂と合体した縁結びの神様。
猿田彦の知り合い。文献的には男だが、この物語では女性。
※ 禍津日神
→禍の神様。封印を自ら解き復活。何やら企んでいるようだが……?
〈クラスメート〉
星原杏里
→コマリのクラスメート。穏やかで優しい性格。
福野大吉
→コマリのクラスメート。サッカー部。愛称は大福。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.24 )
- 日時: 2023/12/09 09:41
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
有言実行をしない作者でスミマセン。
書きたい欲がまた抑えきれませんでした。
もうこれからは告知しないようにしよう……。
あ、今日は二話投稿です。よろしくお願いします(これは本当です)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈XXside〉
不審者の定義を聞かれたら、『危ない人』と答えるのが一般的だよね。
学校とかで先生に習うような、黒い服に黒いズボン・黒帽子の男性をイメージする人も多いだろう。あるいはストーカーとか、痴漢とか。どっちにしろ「変なことをしているヤバい奴」というのは共通だ。
じゃあいまこうして電柱の上に立っている僕も、変質者扱いされるんだろうか。
「ちょっと待って猿ちゃん。こっから僕どうすればいいわけ」
なんでそんなとこに登ってんだ! とか、いやお前まずお前頭大丈夫か? とか、色々あるだろうけどひとまずは心の中にしまっておいてほしい。
状況を整理する時間を、少しだけちょうだい。
場所は市街地のどっかの柱。
何とも曖昧な表現で申し訳ない。方向オンチすぎて、自分がいる方角が分かんないんだ。
ああいや、実際は方角どころか自分の状況すら把握できていないんだけどね。
電柱の上に立っている、というのは語弊がある。
ごめんなさい訂正します。僕は電線の上に立っています。
いや、人間がやることじゃねえだろと怒鳴りそうになった画面の前のきみ。その通り。
これは人間が出来る行動ではない。電気屋さんでも、電線の上を歩こうとはしないだろうし。
「猿ちゃん! ああもう、こっから降りるのめちゃくちゃ怖いよぉ! 登って満足するのやめてよぉ……。言ったでしょ、僕高いとこ無理なんだよぉっ」
両足がガタガタと震える。
それでもなおバランスを崩さないこの身体は、やっぱり人離れしてると言えるんだろうなあ。
さっきからまだるっこい受け答えでごめんね。
ハキハキ話せたらいいんだけど、どうも僕は他人より動作が遅いみたい。ひとつの出来事を処理するのに、三分は使っちゃうんだ。
ええっと。どこまで進んだっけ。
ああ、そうそう。〈つまるところお前ってなにもんなの問題〉の話だね! コホン。
うーんと、何と説明したらいいんだろう。複雑な事情がたくさんあって、どこから語ればいいか。
と、ボフッッと音がして、僕の胸の辺りから白い煙が噴き出た。
「わっ、ちょ」
もくもくと立ち昇る煙の中に、うっすらと人影が見える。
中から現れたのは、背の低い和装の男の子だった。
白い羽織に黒の袴。浅葱色の長い髪は、後ろでひとつまとめにして白いリボンで縛ってある。
口からのぞかせた八重歯と、いたずらっ子のような目を持っていた。
男の子は、オドオドビクビクしている僕に向かって、犬のように吠えた。
「おい由比! テメエいつまでボーッとしてんだよ! さっさと降りろ! 通報されるぞ!」
「さ、猿ちゃんが僕の身体コントロールするから悪いんでしょ? 景色いいとこ連れてってやるって言うからオッケーしたのに、こんなの聞いてないよっ」
流石にカチンと来て言い返すが、彼―猿ちゃんは「はぁぁ?」と肩眉をひそめる。
あ、この子の名前は猿田彦。
のんびりペースの僕を奮い立たせてくれるパートナーだ。
ちなみに、なんとこの子、道案内の神様……らしい。
口調や立ち振る舞いのせいで、いつもその設定を忘れそうになる。
それを猿ちゃんに言って、
『設定って言うな。あと俺は猿田彦命だ。省略すんなボケ』
と返されるのが日常茶飯事だ。
「ちゃんと許可を求めただろうが俺様は! 大体なあ、テメエ幽霊なんだから高いも何もねえだろ? ヒュンと降りれば済む話をダラダラ引きずるな戯が」
「? たわけってなに? たわしのこと?」
「阿呆!!」
そ、そんなに怒らなくたっていいじゃん。知らない言葉だったんだもん。
至近距離で叫ばれて、心臓がキュッとなる。
「はぁぁぁぁぁ。折角協力してやってんのに、モタモタしやがってよ。ったく。なんで俺様が、こんな人間なんかと。子守なんてしたことねえっつの」
猿ちゃんは荒ぶる気持ちを落ち着けようと、頭をポリポリかく。
折角綺麗に整えた髪が、一瞬でボサボサになった。
こういう、ちょっと乱暴なところがまさに男の子って感じがして、僕は好きだ。
「ふふふ。猿ちゃんが優しい神様で良かったよ、僕」
「ああん? 神に優しいも何もあるかよ」
「あるよ。僕を助けてくれた。チャンスを与えてくれたじゃん」
自分で終わらせたはずの命を、もう一度刻む機会をくれた。
こんなふうに言い合える勇気を持たせてくれた。
大事な人に会いたいという陳腐な願いを笑わず、なんと実現するために力までくれた。
これを優しいと言わずして、何と呼ぼう。
「勘違いするな。俺様の目的は別にある。テメエを助けたのも、その目的を達成するための任務にすぎねぇ。思い上がるなよ弱味曽」
「なんで急にお味噌汁の話? 猿ちゃん和食派なの?」
怒るのにも体力を使うから、それでお腹が減ったのかな。
いいよねえ、お味噌汁。
幽霊になってからご飯は全く食べてないけど、もし食べれるならお豆腐いっぱいのやつが食べたいなあ。
「~~~っっっ! 先ずは常識を知れぇぇぇぇぇ、この白痴!」
「ちょ、ちょっと、入るときは言ってって、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
猿ちゃんの身体が再び気体となり、僕の胸に入り込む。
あ、やばい。意識が………遠のく………。
一度も染めたことのない髪が、猿ちゃんの髪色である青色に変わった。
高所に対しての恐怖心は薄れ、代わりに高揚感が高まっていく。全身に力がみなぎっていく。
僕――いや、俺様は電線から一気に飛び降りると、空中でくるりと一回転。
そのまま地面にスタッと足をついて着陸した。
「――さあて。頼まれてた人探しとやらを始めるとするか。今日中に見つかるといいけどよ」
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.25 )
- 日時: 2023/12/05 07:46
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
由比の本名は由比若菜です。実は名前ではなく苗字なんですよ。
紛らわしいので一応説明しておくと、
こいとに憑いている神様が「大国主命」、由比に憑いている神様が「猿田彦命」です。
このあとも神様はいっぱい出てくるので、推し神様を見つけよう(推し神!みたいに言うな)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈美祢side〉
「あー、どれがいいか分かんねえ」
俺は、デパートの文房具屋の前で首をひねった。
同居人である月森コマリと暮らして早一カ月。
新生活にも慣れつつあり(&宇月の腕輪の効果でトラブルも少なくなりつつあり)、ようやくフリーな時間が取れるようになってきた。
最近は近くをふらふら散歩したり、オンラインゲームでゾンビを撃ちまくったり、あとは趣味でファッションを研究したりと、あいている時間を自分の為に使うことが多い。
だがある日俺は、ふと気づいたのだ。もうすぐコマリの誕生日だと。
五月八日。ちょうどゴールデンウイーク明けの絶妙な日にちだ。
その二日後・五月十日は、恋愛の神様・こいとの誕生日。
迷惑をかけられてばかりだけど、あいつらが来なきゃ今頃俺は引きこもり一歩手前。
何らかの形で感謝の気持ちを伝えたい。
そう思い、俺は今市内のデパートで、コマリ(&こいと)へのプレゼントを選んでいるのだ。
「そもそもあいつ、何が好きなんだろ」
文房具屋のケースにしまわれた、桃色のシャーペンを手に取る。
こういうの、こいとは好きそうだけど……コマリはどうなんだろう。
文房具も無地のシンプルなものばかりだよな。こだわりとかないんだろうか。
「シャーペン、消しゴム、ノート。女子なら集めそうなもんだけどな」
ハートや星がプリントされた方眼ノートや香り付きの消しゴムの棚にも行ってみたけど、コマリがそれらを使う未来が想像できない。
「似合うとは、思うんだけどなあ」
淡い色合いの可愛らしい小物や洋服。どうせなら何か買ってやりたいけど……。
ああダメだ。人にプレゼントを買ったことなんてないから、何が正解か全然分かんねえ!
俺の中の少ない知識が活用するのは、ファッションくらいか? うーん。考えてみよう。
仮に洋服を買うとすれば、どんなコーデがいいのだろう。ガーリー系? 原宿系? 清楚系?
アイツ、めんどくさがってパーカーとかズボンばかり着るからな。しかもダサいし。
「俺がよく着る、こういうちょっと洒落たパーカーなら喜んでくれるかな」
前にコマリに『プロゲーマーみたい』と誉められたこのパーカーは、黒を基調とし、差し色として蛍光ピンクが使われている。
でもあいつ、こういう派手な色苦手そうだし……ああ、決まらん!
(そもそも、俺なんでこんな必死になってんだ? 同棲してるとは言え赤の他人だぞ)
妹でもない、幼馴染でも親戚でもない関係。親の知り合いの娘。
彼女の体質の件がなければ、多分絡むことはなかっただろう女子。
めんどくさがりでガサツで、不真面目で、やけにハイテンションでドジで。
実を言うと俺は女子が苦手だ。小学校・中学校・高校と、ろくに挨拶もしてこなかった。
でもコマリには、いつだって自然体で話せたんだよな。なぜだ。
「あー、もういい、仕方ない。気は乗らねえがアイツに聞くか……」
俺は肩にかけたショルダーバッグの中からスマホを取り出すと、電話帳のアプリを開く。
一番最後に記載されていた〈夜芽宇月〉の文字をタップし、携帯を耳に当てる。
宇月は大学生だ。年上だし、ムカつくが顔もいいし、女子とも付き合いがありそうだから。
十回のコールで、ようやく電話がつながった。
『もしもし夜芽ですが……』
「なに、お前寝てたの?」
彼にしては珍しく歯切れの悪い口調だ。任務終わりだろうか。
『いや、ちょっと調べ物しとって。今図書館に居るんやわ』
「へぇ。本読む姿が想像つかねえ。ウェブアプリとかで済ませるタイプかと」
『なあ、君らの中でボクはどんな位置づけなん』
「俺にとっては生意気ないとこだよ」
宇月は「はー……」とため息をついた。「確かにウェブ派やけどさ」
『それで、用件は? 美祢からかけるなんて滅多にないやん』
「あー、えっと、その……」
『なんや、話したいことがあって電話したんやろ。言わんなら切るけど』
「いや、その」
コマリの誕生日にプレゼントを贈りたいんだけど、何買えばいいか迷ってて。
文章に変換すれば、なんてことない一文だ。
だが、言葉となれば別。おまけに電話の相手はあの宇月なのだ。べらべら喋って、ネタにされたらたまったもんじゃない。
で、でも、相談したい気持ちは本物で……。
あー、もう、仕方ない! 恥ずかしいけれど、真面目に伝えよう。
「あの、その、コマリの誕生日プレゼントを買いに来てて……」
『ほお。なら切るわ』
「え、ちょ、ちょっと!」
話の途中だというのに、会話を中断した宇月に俺は焦る。
こいつ、人の話を聞くってことができないのか!?
『どーせ、どれがいいか迷ってて、ボクに決めてほしいとかやろ。知らん知らん、自分で決めぇや。そーゆーのは他人が口出したらあかんねん。分かる? ま、そういうことで。またな。せいぜい頑張りー』
「ちょ、宇月てめっ」
あっと思った時には、もう通話ボタンはオフに切り替わっていた。
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