コメディ・ライト小説(新)
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- 憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
- 日時: 2024/01/26 23:11
- 名前: むう (ID: F7nC67Td)
中学2年生の私・月森コマリには一つだけ悩みがある!
それは、世にも珍しい【逆憑き】という体質なこと!
なんとなんと、自分の行い全てが悪い方向に行くみたい。
自分の存在自体が悪い妖怪とかを呼び寄せてしまうんだって。
治すには、悪い妖怪と一緒に集まってきた、いい妖怪か幽霊さんの力を借りるべし。
でもなかなか、そんな優しい幽霊来ないんですけど———!?
悪運強すぎJCの日常ラブコメディはじまりはじまりっ。
―-----------
《2023年夏☆小説大会
2023年冬☆小説大会 銀賞入賞!》
投票して頂きありがとうございます!!
作者とキャラの感想はコチラ→>>54
★重要キャラクターLog★
>>23
★応援コメント★
>>09 >>47
※不定期更新です!
※視点変更をメインとした展開です。毎話ごとの主人公がいます。ご了承ください。
※若干のシリアス描写がありますが、基本は日常コメディです。
---------------------
【目次】一気読み>>01-
〈第1章:新たな出会いは疲れます! >>01-17〉
プロローグ>>01
第1話「ヘンな同居人」>>02-04
第2話「誰だお前」>>05-06
第3話「ヘンな協力者」>>07-09 >>10
第4話「変化」>>11-17
〈第2章:新たな関係は疲れます!>>18-33〉
第5話「要らない力」>>18-21
第6話「契り」>>22-24
第7話「プレゼント」>>25-28
第8話「側にいれたら」>>29-33
アフタートーク>>34
閲覧数1000突破記念★キャラトーク>>46
閲覧数1400突破記念★キャラ深堀紹介>>51
閲覧数2100突破記念★○○しないと出られない部屋>>65-70 >>71-75
〈第3章:〔過去編〕疲れたきみと僕の話>>35-57〉
第9話「幽憂レコード:前編」>>35-38
第10話「幽憂レコード:後編」>>39-40
第11話「禍と鳥:前編」>>41-45
第12話「禍と鳥:中編」>>47-50
第13話「禍と鳥:後編」>>52>>53>>55>>56
アフタートーク>>57
〈第4章:新たな試練は疲れます!>>58-〉
第14話「転校生がやってきた」>>58-60
第15話「素直になれない僕らは」>>61-64
第16話「違和感」>>76-
【重要なお知らせ ※必読お願いします】>>81
[記録Log]
2023年1月11日、本編執筆開始。
2024年1月13日〜更新停止
[参考文献リスト]
・新訳:古事記
・妖怪大辞典
・京都弁(YouTube講座)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.16 )
- 日時: 2023/12/12 11:48
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: F7nC67Td)
宇月さんがもし学校に居たら絶対仲良くなれないむうですが
ある意味コイツが一番人間らしいんじゃないかなとは思ってます
はよそのプライド捨てやぁ(親)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈コマリside〉
宇月さんを一言で表すなら、『台風の目』だ。
突如現れ、私たちを自分のペースに巻き込み、翻弄し、そしてすぐに去る。その際に、新たな災いを引き寄せる。
出口へ移動するのをずっと目で追っていたわたしは、彼が尻餅をついた音で肩を震わせた。
す、すっごい音したけど、大丈夫かな……?
この位置からじゃ宇月さんの背中しか確認できないけれど、周りのざわめきから察するに、人とぶつかってしまったようだ。
「すっげえ音したな」
「で、ですね」
トキ兄とこいとちゃんも、お互い顔を見合わせる。時間の経過と共に、険しかった二人の表情は、穏やかなものに戻っている。
「あ、頭とか打ってないといいけど……」
「アイツ石頭だからな。大概の衝撃には耐えられるだろ」
トキ兄はフンと腹を鳴らして腕を組む。
散々ひどい目にあわされたので、こういうのは見てて気持ちいいんだろうな。
で、でも、そんな漫画みたいなことにはならないんじゃないかなあ。
あの感じ、わりと派手に転んでるよ……?
「あんな奴なんかほっとけよコマリ。おまえだって操られただろ」
「それはまあ、そうだけど……」
出会って数分しか経ってないけれど、プライドが異常に高いことは充分把握できた。ただ聞いた感じ、あれが素の状態というわけでもなさそうだ。
なんだか話しづらそうにしていたし、声もところどころ裏返ったりかすれたり。スラスラと一定のトーンで喋る、ということがなかなかなかったように感じる。
うーん、よく分からないなあ。
意地悪なことは意地悪なんだけど、かといってめっちゃ悪い人でもなさそうだし……。
それとも私の認識が甘いのかな?
普段使わない頭を一生懸命動かしていると。
「あれ、月森!?」
聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は反射的に顔を上げる。明るいハキハキした口調。
「だ、大福!」
宇月さんの真ん前で倒れていた男の子が起き上がった。その人物を私はよく知っている。
ストレートの短髪。程よく日焼けした肌。155㎝と、男子にしては若干低い身長。
クラスメートで私の友達・福野大吉の声は、私に会えた嬉しさと驚きでいつもより大きかった。
「な、なんで大福がこのスーパーに? 地区違うのに」
大福の家と、私が住んでいるアパートは正反対の方向。
自転車で三十分もかかる距離なのに、なんでわざわざこっちのお店に? 支店なら大福の家の近くにあるじゃん。
「叔母さんちがこっち方面でさ。今日は親戚みんなで集まる日だったんだ。母ちゃんが叔母さんの家まで車で送ってくれたんだ。俺は食材調達係ってことで、スーパーの近くに降ろされたけどな」
「そうなんだ。杏里がいないから珍しいと思って。よくお買い物デートとかしてるもん」
「デートって言うな」
大福は恥ずかしそうに顔をそらした。
杏里に好意を抱いてるのはバレバレなんだから、隠さなくてもいいのにな。
「俺のことはいいんだよ。月森こそ、横にいる人って彼氏? だよな?」
「「あ」」
……………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(恥辱+涙)!!
そうだ。私たち、先日カップルと盛大に誤解されたんだったぁぁ。
「え、えっと……」
「うわ、イケメン! しかもめっちゃオシャレ~。高校生っすか? すげえ!」
「いや、その、あの」
トキ兄の今日のファッションは、鎖やらボタンやらがたくさんついた、ゲーマー風のパーカーに黒いズボンだ。蛍光ピンクの髪と相まって、本当にプロゲーマーみたい。
こういう服持ってるなら、着る頻度増やしたらいいのに。
(コマリ……! マジどうするよ)
あああ、トキ兄、目で訴えかけるのやめてぇぇ。
こちらまで居たたまれなくなってくるよ!
ど、どうしよう。流石にこの状況では逃げられない。
こいとちゃんはあの時いなかったから、この件をそもそも知らないし。
「どどどど、どういうことですかっ? カップルって何ですかっ? めっちゃ気になるっ! わあああ」
大福の霊感がないのをいいことに、観戦者としてひとりで盛り上がってる恋愛の神様。
「トキマリってカップル名つけよっかなあ。萌えるなあぁ、いいなあ」
宇月さんは、一瞬『何が起こった?』と目を白黒させていたが……。
数秒後、全てを悟ったのか、口パクで「たすけてあげようか」としきりにサインを出し始めた。
……ほんっとうに憎たらしい。
(ど、どうするトキ兄。カップルの振りでもしてごまかしとく?)
(いや、気まずすぎるだろ。あの恋愛マスターこいとは使えないのかよ)
(ラブコンボールだよ!? お店の商品壊しちゃうよ!)
改めてラブコンボールってひどいな、名前。
もっと、トゥインクル★とか、トキメキ★とか、なかったんだろうか。
(もう真実打ち明けたほうがよくないか?)
(打ち明けてからのコレだからね。勝手に脳内でカップル変換してるからさ……)
(うう、やる、しかないのか?? マジで? さっき事故でやったばかりなのに?)
再び宇月さんの口パク伝言「たすけてあげようか」が発令される。
うう、なんでこの人の能力がよりによって心を操る能力なんだろう。
「彼氏となんかやったりすんの? ちゅ、ちゅーとかさ」
「!? ……え、えと………」
ああ、大福、その純粋無垢な目をこっちに向けないで。
そしてこいとちゃんも、私たち二人が黙ってるのをいいことに「キース、キース」とか言わないでぇぇ!! そして宇月さん、口元が震えてますよ笑わないでください!
「…………仕方ない。コマリ、ちょっと我慢しろよ」
と、トキ兄が小声で告げる。
な、なに? と尋ねようとした瞬間、くいっと右手を引っ張られた。
私の指とトキ兄の指が絡まり合う。
あっという間にわたしの右手は、がっちり握られてしまった。し、しかも、これってその、あの。
こ、恋人繋ぎってやつ、だよね……?
(え、ええええええええええええええええええええええっっ)
やばい、心臓がうるさい。頭が、ぼうっとして体がふらふらして。
今、宇月さんの術はかかっていない。ということはこれは、私の……?
「そうです、俺はコイツの彼氏です。何か問題でもありますか」
トキ兄はややつっけんどんに言うと、大福を下から見上げた。
(ちょ、ちょっとトキ兄、本気―――――――――?)
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます!~ ( No.17 )
- 日時: 2023/03/14 16:45
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
閲覧数200突破ありがとうございます!
そして第1章は、こちらで終了となります。第2章は4月から連載します~お楽しみに!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈再びコマリside〉
………ホント、びっくりしたなあ。
私はまだドクンドクンと高鳴る胸を服の上から抑えながら、家へと続く坂道を歩いている。
右手には、スーパーのレジ袋。中にはたこ焼きで使う具材やらソースやらが一緒くたになって入れられている。
あのあと、トキ兄の迫真の演技(?)のおかげで、私は余計な検索をされることなく大福と別れることが出来た。
大福はすっかりトキ兄に憧れてしまったみたいで、別れ際「いやあ、ほんと、美祢さんってかっこいいな!」と手をブンブン振っていた。
「あの人に憧れて、次から髪染めてきたりしないだろうな」と苦笑いする反面、「確かにかっこ、良かったな」と納得する自分もいて。
「んじゃ、ボクもおいとまするわ。ほんとごめんな。ミネ、なんかあったら連絡しろよ。ボクが言えた話やないけどな」
ご存知スーパー腹グロ霊能者の宇月さんとも挨拶をし、騒がしい買い物は幕を閉じた。
思えば今日は、こいとちゃんとの出会い、宇月さんの騒動、大福との再会と、イベントが目白押しだったなぁ。
これも全部体質が原因なら、私は〈動く死亡フラグ〉ってことか。嫌だな、こんな二つ名。
「……あのう、お二人さんソーシャルディスタンス取りすぎじゃないですか」
と、沈黙に耐えかねて、後ろを歩いているこいとちゃんが口火を切った。
彼女の眼の前……の人影―すなわち私とトキ兄は、一メートルほどの距離をとっている。
お互い近くに行こうと歩幅を合わせても、無意識に体が離れてしまうのだ。
「まあ、勝手に介在してしまったうちも悪いんですけどね。いいですよ、お二人が邪魔だっていうなら出て行きますよ」
「そ、そんな!」
ぷうっと頬を膨らませるこいとちゃんに、私は慌てて言った。
「そんなと言わないでよ。私、こいとちゃんのこと好きだよ」
兄妹がいない私にとって、彼女の存在は本当の妹のようだった。コマリさん、コマリさんと呼ばれるたび、胸の中に温かい気持ちが溜まって行って。
だからそんな悲しいこと、言わないでほしかった。
「そ、そうですか。あ、ありがとう……ございます」
こいとちゃんは照れたようにうつむく。
自分からはグイグイ行くくせに、言われるのは慣れてないらしい。ほんと、そういうところが無垢でかわいいんだよな。
「…………トキ兄も、もう、大丈夫だよ」
「は?」
スーパーを出てから今までずっとだんまりを決め込んでいたトキ兄は、私の言葉で久しぶりに顔を上げた。
相変わらず目つきの悪い相貌で、こちらを一瞥する。
「何の話?」
「もー、とぼけないでよ。宇月さんのときも、大福のときも。私のこと守ってくれたでしょ」
トキ兄は一瞬なにか言いたそうに口を開いたけど、それは息となって空気に混ざる。
彼はそっと目を伏せた。本音を隠そうとするときの、いつものクセだった。
「別に、あれは守ってない。宇月の話はどれも正論で間違いじゃなかった。コマリの同級生のときは、ああするしか方法がなかった。ただ、それだけだ」
誤解されやすい見た目や発言をしているけど、私は知ってる。
この時常美祢という男は、『ただ、それだけ』のことを、勇気を振り絞って実行できる人だ。
本人にとっては些細なことかもしれない。でも私はあの時、彼に手を握ってもらったおかげで、気持ちが落ち着いたんだ。
「迫真の演技でしたね! どっかで習ってたんですか?」
「いや、あれはカン。あの数分間の思考でできることなんて限られてるしな。宇月にヘルプするのは、その、自分のプライドが許さなかったんで」
「あぁ……。でも、あの頬を赤らめる仕草とか、クオリティ高かったですよ。経験ある私でもドキドキしちゃいましたもん。って何そっぽ向いてんですか美祢さん??」
「うるせえ」
見ると、トキ兄はさらにさらに私とのスペースをとり、塀と歩道ギリギリの所をわざわざ通っている。
え、私、ついに嫌われちゃったんだろうか……?
っていうか、あんな塀に密着してたら服汚れるよ!
「言っときますけど、このラブリーキュートのこいとちゃんに隠しごとなんて出来ませんからね! どこに居てもあなたの運気は筒抜けなんですから。……あれ? お二人とも運気が上がってる。ふんふん……はあはあ、そういうことかあ。しめしめ」
え、待ってこいとちゃん、ひとりでブツブツ呟かないで。しかもニンマリ笑ってるし。
そういうことってどういうことなの??
そしてなぜトキ兄は、あんな隅っこにいるの? か、顔も合わせてくれないし!
「色々と疲れたんでしょう。波乱の一日でしたし」
こいとちゃんは淡々と答える。
流石幽霊、私たちとはちがって、息が切れたり足取りが重いなんてことにならないのが羨ましい。
「そっか。そうだね。よしこいとちゃん! 今日は早く帰って、たこ焼き作りまくろう! ひとつだけワサビ入れて、トキ兄に食べさせたりするのもいいね、うふふ」
「おーい聞こえてんぞー」
わいわいがやがやとお喋りをしながら帰路を辿る私たちの頭上には、満天の星空が広がっていた。
――第1章 END―――
コマリ「第2章は4月1日から連載するよ!」
美祢「第1章以上にドタバタドキドキした日常をお届けするので、楽しみにしててくれよな」
こいと「ラブラブイチャイチャのシーンも増量予定♪」
宇月「キャラの過去に迫るストーリーや、バトルシーンなんかも登場するで!」
作者「それでは、次回もよろしくお願いいたします~」
全員「ばいばーい」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.18 )
- 日時: 2023/03/31 11:43
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
むうです。第2章は4月1日からと言っておいてアレなのですが
プロットを書いていたら、書きたい欲が抑えきれなくなってしまいまして。
少し早いですが連載始めちゃいます! よろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第5話「要らない力」
〈宇月side〉
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
天気は曇天。灰色の絵の具をぶちまけたかのような雲に覆われて、お天道様は姿を隠していた。
雨のせいで外出する人は少なく、家の灯だけが夕方の暗闇に映し出される。
しかし現在、閑静とした街の空気に、ボクの地面を蹴る音と荒い息づかいが混じっていた。
「くっそ、たれ……っ!」
「ケケケケ……ケケケケ……」
ボクは背後に迫る敵を睨みつける。蜘蛛のような風体をしている化物だ。黒くて丸い球のような体に、人間の腕が二本生えている。
その腕を使って、地面を這うように動く。
それはまるで有名な害虫・Gのようだ。
「なあ、おい篠木! いつまで待たせんのや、とっとと来らんか!」
ブーブーブーブー。
白衣のポケットにしまっていた通信機器に向かって呼びかけるも、応答はない。
今回の作戦内容は、襲って来た悪霊をボクの能力・操心術(マインドコントロール)でひきつけ、仲間が合流する時間を作り、他のハンターによって倒すというもの。
なのにさっきから連絡は来ないし、キモい悪霊は近寄ってくるし、力の使い過ぎで頭がクラクラしてきたし。
「こ、この土壇場でドタキャンとか頭いかれてるんか……? それとも都会の能力者は、地方からやってきた奴なんてどうでもいいのか……!?」
「ケケ、ケケ!」
もしこのまま来なかったら。悪い予感がする。
と、化物がいきなりこちらに突進してきた。大きな腕が眼前に伸びる。魚を捉える網のように、その掌は広く分厚かった。
「っっぶな!……う゛!」
ギリギリのところを飛んで回避したはいいものの、キーンと耳の奥が鳴った。
能力使用の代償で、一回使うごとに体のあちこちが痛みだすんよな。
今日はまだ頭痛だけで済んでいるけど、これ以上使い続ければ……。
「おい篠木! なあ、返事しろ! おい……、お?」
電話の通話画面に、かわいい猫のアイコンが表示された。
蚊の鳴くようなか細い、けれどもしっかりとした女性の声が響く。
『す、すみません夜芽様! こ、こちらも、大変戸惑っておりまして……』
「ケケ……ケケ!」
「……なかなかしぶといな。 ………この! 〈操心術:一式〉解放!!」
「グ………ァァァァ!」
『夜芽様、どうされました?』
「……はぁ、いや、大丈夫……なんでもない」
電話の応対と攻撃の防御とマインドコントロール。マルチタスクを頑張る自分エライ。
あかん、体力だけじゃなく思考まで馬鹿になっとるみたいや。
今は、あのG(いや化物)が戦意を消失するように操ってるけど、アイツ中々しぶとい。
ちょっとでも気を緩めたら終わりだ。
ボクの力はあくまでサポート専門。攻撃手段として用いるのも憚られるような、汚い能力や。
「戸惑ってるってなんや? どうかしたん」
『そ、それが、そちらに向かう道中で多数の悪霊の襲撃にあいまして。対処するのに精いっぱいで、そちらへ向かうのが難しくて……』
ふうん。多数の悪霊の襲撃ねぇ。
この路地の位置は、あのアパートから北西に二百メートルってとこやな。
あらためて、すっごい効果やなあ。
「あー、オッケー。そういうことなら、こっちもなんとかやってみるわ。忙しいとこ悪いな」
『いやいや、そんな。でもなんでこんなに数が多いんでしょう』
痛いところを突かれて、ボクは顔を見られているわけでもないのに視線を彷徨わせた。
「あー、あれとちゃう? 少子高齢化とか」
『そうなんですか? なんにせよ、前はそこまでじゃなかったのに変ですね。じゃ、じゃあ私戦闘に戻りますねっ。ご武運を!』
「了解。ボクもまあ、できるだけやってみます」
ボクは携帯の電源を切って再びポケットにしまうと、深呼吸をして気持ちを静める。
肩の力が抜けるのを実感してから、「ケケケケ」と不気味な音を立てている化物を見上げた。
あんな体質になってしまったあの子に同情したい気持ちもあるけれど、正直、目の前の化物も篠木さんが戦っている霊の集団も、全部コマリちゃんのせいやろな……。
美祢は「俺が守るから」とか「いい霊の力を」とか言ってるけど、ボクとしては、そんなことで治るような簡単な話ではない気がする。
人が逆憑きになる、根本的な原因がきっとどこかにあるはず。
それがどんなもんかは予想がつかないわ。何事もゆっくり取り組まないといけんな。
さて、まずは目の前の敵さんから始末するとしましょか。
「退魔具使うんは慣れんけど、まあいっか」
ボクは白衣の内ポケットから、黒色の護符を取り出す。夜芽家に伝わるこの護符は、念を籠めるだけで自由自在に形を変えるのだ。
「〈操心術:第二式〉黒呪符」
- Re: 憑きもん! ~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.19 )
- 日時: 2023/03/27 08:48
- 名前: むう (ID: viErlMEE)
★本編前のひとこと用語タイム★
『黒呪符』→宇月の奥義・護符に自分の邪気を籠めて戦う技。
『恋魂球』→こいとの能力。恋愛の運気を集めてエネルギーの球にして投げる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈コマリside〉
「うぅ……」
私はアパートの自室、トキ兄と共用の狭い部屋のちゃぶ台に突っ伏して、手をバタバタさせた。
広げたノートは真っ白。隅に置いたシャーペンと消しゴムは、全く使われていない。
季節は五月上旬。あれから時が過ぎ、みんな大好きゴールデンウイークに突入した。
よっしゃ、休みだ! 遊ぼう!
そんなワクワクする気持ちを冷めさせるのが、大量に出された課題の山である。
国数英理社のワーク、一冊ずつに加えて新出単語の意味調べに、一日一作文。
家庭科のレポート作成、連休明けテストに向けたプリントと、やることがいっぱい。
小学校時代は頑張っていた勉強も、今は(体質のせいだと言い訳した結果)赤点回避に全力。
「どんなに頑張っても44点なんだから、勉強する意味なくない……?」
「行ける高校無くなるぞ。俺みたいになりたくないなら頑張れよ」
私の対面に座って本を読んでいたトキ兄が、呆れて言う。
彼が中退した高校は、市内で有数の難関校だ。
塾に通ったことがないらしいので、この人の地頭がめちゃくちゃいいってことになる。校則さえ破らなければ、楽々進級できただろう。
「てかお前、どこがわかんないんだよ。言えよ、教えるから」
「問題の意味がわかりません……。英訳しろって言われても読めないんだもん」
ああ、こんなことになるならしっかり勉強しとけばよかった。
せっかくの休みだし、貴重な時間を浪費したくないよ。
「どこだよ」
「ここここ。問2の(2)」
私は英語のワークのページを開いて、トキ兄に差し出した。
「え? 簡単じゃん。Can I help you? Can+人+動詞で~することができますか、転じて~してもいいですかって意味になる。これは直訳すると、『私はあなたを助けてもいいですか』だ」
「な、なるほど」
「でもそれだと不自然だから、この英訳は『どうしたの?』『手伝いましょうか』みたいな感じだな」
ほぇぇぇぇ、なるほど。
英語って進むにつれて単語数は増えるし、覚えること多くて大変だけど、分かると割と楽しいかも……?
「そのあとも同じようなやつだな。Could you~? は、Can you~の丁寧な表現だ。この調子で問2の穴埋めは全部埋めれるはずだよ」
「うわ、すごい! やっぱトキ兄に頼んでよかったぁぁぁ」
あんなに動かなかった手が、今はするする動く。
人に何かを教えるのって、とっても難しいらしいけれど、トキ兄の説明は簡単で分かりやすくて、しかも本人が全然苦じゃなさそうなんだ。
「私、トキ兄と学校行きたかったなあ。絶対楽しそうじゃん。一緒に登下校してさ。授業中、宿題忘れたら見せてもらえるしね」
特に深い意味はなかった。
トキ兄に勉強を教えてもらう時間が好きだから、学校に彼がいたら学校生活がもっと華やかになる気がしたんだ。
「宿題見せてもらえるってお前、俺が隣の席って前提なの?」
「へ?」
「だってそうだろ。机くっつけるお決まりの展開だろ。そんなにピンチならもっと勉強時間増やせよ」
トキ兄は察してないみたいだけど……。
もしかして私、今凄く恥ずかしい考えをしちゃったんじゃ。
横に並んで通学して、しかも隣の席にいてほしいなんて、かんっぜんに私……。
(まるで私が、トキ兄のこと好きみたいじゃん)
とくん、と小さく胸が鳴った。でもそれはすぐに収まる。
スーパーの騒動のあと、なんだか身体がおかしい。急に息苦しくなって、脈が速くなる。
なんだろう、これ。
「おいコマリ。手がまた止まってんぞ。具合でも悪いのか? 休憩したら?」
「いやあ、な、なんでもない。大丈夫だよ」
あれ、なんで私、苦笑いをしちゃったんだろう。ここで苦笑いする必要、全くないのに。
でも、一人でいる時やお風呂に入っている時、思い出してしまうんだ。あの時握られた手の温度。
「そ、そう言えばさトキ兄。この腕輪の効果、すごいね」
「? 腕輪? ああ、宇月に送ってもらったやつか」
私の右腕には、編みこまれた赤い腕輪が巻き付いている。
小さな銀色の鈴がついていて、腕を動かすとシャランと鳴るんだ。
霊能力者がよく使っている魔除けのグッズで、先週これが入った封筒が、トキ兄宛てに宇月さんから送られてきたらしいの。
「私、この前国語の小テストがあったんだけど、56点取れたんだ。初40点以上だよ。ほんっとうに嬉しくて!」
「お、おう。お前だから喜べることだよ……」
トキ兄は、どういう顔をしたらいいか分からないようだ。泣きたいのか、笑いたいのか。片方の目をキュっと細めて、口角をあげた複雑な表情をつくる。
「雨も最近降らないし、あとさ。ポルターガイストもなくなったじゃん」
「それは俺も助かってる。ドアやふすまが揺れるたびに、抑えるのめんどくさかったし」
「宇月さん、嫌味言ってたのに、助けてくれるんだね」
魔よけの腕輪をいじりながら、私は首を傾けた。
宇月さんは今、K区のマンションに住んでいる。私たちのアパートから西方向に車で十分。
この近辺で活動しているハンターさんと情報共有して、悪霊退治を続けているみたい。
「あいつは成果主義だ。意味のないことはしないし、腕輪を送ったのも自分の仕事の負担が減るからとかそういう感じだと思うぜ」
「ふうん。ってあれ、こいとちゃんは?」
やたらと部屋が静かだったのは、ルームメンバーが一人足りなかったからか。
この面子の中で一番騒がしいムードメーカーだ。いないだけで、その場の雰囲気がガラリと変わる。
「ああ。用事があるって、さっき出て行った。行き先を聞いても教えてくれなかった。あれこれ問い詰めるのも失礼だし、そのうち帰ってくるだろ」
ふうん。この前話してた、幽霊友達のところだろうか。
今日は天気もいいし、遊ぶのに越したことはないよね。
(こいとちゃん、楽しんできてね)
私は、どこかの道をあるいであろう幽霊の女の子に心の中でにっこりと笑いかけ、再び課題をやり……いいや、殺りだしだのでした。
- Re: 憑きもん!~こんな日常疲れます~【第2章開始★】 ( No.20 )
- 日時: 2023/03/31 23:23
- 名前: むう ◆CUadtRRWc6 (ID: viErlMEE)
〈再び宇月side〉
「操心術:第二式、黒呪符!」
ボクは念を込めた呪符を、通称ゴキブリ妖怪に向かって投げつける。
シュッと紙切れが宙を切った。
お札は一本の有刺鉄線へと姿を変え、敵の身体を縛り上げる。
「ウ……ウウ……!」
「どうや、抜けへんやろ」
「ァァァァ……アアァァ」
「夜芽家の術は地味やけど、使い手によって威力が変わる。ハンターを怒らせたせたらどうなるか、次から覚えておかんとな!」
妖怪はジタバタと腕を動かすが、それは逆効果だ。
縄についている棘は敵の自由を奪い、体力を消耗させる。
人間の感情のうち、『呪い』は最も強力だ。古代からファンタジーで登場人物を苦しめる魔法として用いられる理由でもある。
「さあさあ、気分はどうや? まあ良くはないわな。なんたって呪いやもんなあ。そこらじゅう痛むやろ、苦しいやろ。楽に逝かせてあげたいけど、生憎ボクは肉弾戦が弱いもんで」
相手の呻き声に対して、ボクの口からは笑いが漏れた。
これは高笑いだろうか。いいや、そんなもんじゃない。
「汚い能力でごめんな。いい成績取って頭なでてもらえるような優等生が羨ましいわ」
……そうだ、これは自虐だ。
『感情を支配するなんて、なんて忌々しい』とか。
『だから、子供の性格が悪くなったんだ』とか。
母ちゃんも父ちゃんも、友達も親戚も仕事の人も。美祢でさえ。
いっつもいっつも、「なんでお前は」ばかり言うて。
自分でもうっすら感づいていることを面と向かって怒鳴られるのが一番きつかった。
空気を読む。周りと合わせる。みんなが簡単そうにやっていることが、ボクは苦手で。
かといって自分のことはちゃんとできるかって聞かれたら、全然そうでもなくて……。
「こんなチカラもう要らんって思っとるのに、このチカラでお金もらって生活しないと生きていけん。あーあ、もっと気楽ーに生きれたらええのになぁ」
両手を広げながら、怪物の周りをくるりと一周する。ボクが近づくたび、悪霊は「グ………ググ……」と苦しそうな声をあげた。
「……そんな顔せんでも、そのうち術がお前を地獄へ送るで。だからもう無駄な抵抗はやめや」
「ウ……ウウ……」
「うわ、めっちゃくちゃ頑張ってるやん。なんなん? 人様困らせたお前が命乞いなんて甚だめいわ」
そこでボクは言葉を切った。冷や汗が背筋を伝う。
なんやこの感覚。どこが根源か分からんけど、嫌ぁな殺気の気配がする。
「っ、まさかまた悪霊が増殖したんか?」
念のため、白衣のポケットから呪符をもう一枚抜き取り、右手にセット。
体制はそのままに、首だけ左右に動かす。
協力者である篠木さんはきっと今頃戦闘中や。助けは呼べん。あかん、今回来はった彼女はめちゃくちゃ強い霊能力者なのに。こっちに移ってきたばっかりで、仲いい人もそんなにおらんし。
「ああ、もうええ! く、来るなら来い!」
全身にグッと力を籠め、右足を一歩前に出して宙を睨んだ。
最悪の場合、受け身でしのげばいいか。な、なんとかなるんだろうか。
しかし予想に反して、殺気の持ち主はボクに襲い掛かってはこなかった。
道路の右側、植え込みの陰から姿を現し、その愛らしい顔を曇らせる。
セーラー服の襟が、風でひらひらと揺れた。
「なんか敵扱いされててマジ草なんですけど~」
相手は、茶色の髪を低い位置で二つ結びにした、幽霊の少女だった。
彼女は桃色のエネルギーの球のようなものを右手のひらに浮かべ、左手の人差し指をゆっくりとボクに突き付ける。
「わたしとちょっとお話しできませんか。夜芽宇月サン」
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