ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- もしもきみが、ここにいたら
- 日時: 2011/02/03 16:38
- 名前: とある板の住民 (ID: y0p55S3d)
移転しました
キーワード「空前絶後のこの世界で」
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- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.9 )
- 日時: 2010/10/23 11:52
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
※プロローグ変更しました
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.10 )
- 日時: 2010/10/27 15:16
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
- 参照: 四十川→あいかわ 瞬の苗字
__第五話「緊急事態」
教室にチャイムが鳴り響く。授業終了を知らせるチャイムだ。みんな一斉に机の上のものを片付けると、席から立ち上がる。
一つだけ誰も座っていない空席を見つめながら、俺も立ち上がった。
「起立、礼」
学級委員の号令で、みんな浅く礼をする。そして、自分の友達の近くに散らばっていった。
何一つ変わらぬ教室の光景。そんな光景に違和感が潜んでいる。
俺の右斜め前の空席——机の中はカラッポで、今朝から誰も座っていない。元々、誰もいなかったようだ。
「あやめ、今日は学校来ないのかな?」
茶髪のショートカットの女子が、俺の隣でそう言った。
一見活発そうに見えるその女子は、携帯をカチカチといじりながら、俺の目の前に立った。
「ねえ、瞬ぴょんはなんか知らないの?」
゛瞬ぴょん゛。このふざけたあだ名に文句を言うのもそろそろ疲れてきた。何でも、クラスに馴染めない俺を少しでも明るい奴に見せる為に可愛らしいあだ名をつけてあげるとか言って、このふざけたクラスメートにつけられたあだ名なのだ……いい迷惑だ。
「何で、俺に聞く」
あやめには決して見せないような無愛想な表情を浮かべながら、俺はその女——川島に対して言う。
「えっ、だってあんた、あやめの彼氏じゃないの?」
川島は目をパチクリさせながらそう言った。本気で驚いたような顔をしている。
「だっていっつも一緒にいるし、無愛想な瞬ぴょんとあそこまで打ち解けてるの、あやめくらいだよ?」
と、その時、
「おっと、もう一人忘れてないか?」
会話に突然首を突っ込んできた男の声。男は俺の肩をポン、と叩くと、得意げな表情で口を滑らす。
「なあ、瞬ぴょん。この山本様だって、おまえの大事な友達だろ?」
白い歯を見せながら笑う男——山本の笑顔は何だか憎めなかった。
山本は、クラスに一人はいるムードメーカーみたいな存在の男子だ。実際にムードメーカー、いやもとい、ただの馬鹿野郎で、いつもクラスを和ませる為に一人ふざけては先生には怒られている。
だが、男子女子ともに山本に対する想いは熱い。両性から友達として愛される、ある意味いいやつで……俺と正反対だ。
あやめとは少し違う意味の存在感だけど、誰からも愛されてるっていう意味では山本とあやめは似ていると俺は思う。
山本は数少ない俺の友達、というか話し相手だが………そんな山本が、どうして俺にやたらと絡みに来るのか……未だにわからない。
「大事ではないけどな」
俺は席につき、頬杖をついてからそう言った。
山本は頬を膨らませながら、川島のように俺の目の前に立つ。
「えー! 何でだよ、瞬ぴょん! 同じクラスの大事な友達だろー!」
「だから瞬ぴょんって呼ぶな。あと、クラスの奴なんてどうでもいい」
川島はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「あやめ以外の奴なんて、どうでもいいってことかあ」
……うるさい。
「あっ、瞬ぴょんが顔赤くしてる! 俺にもそんな顔見せないくせにっ!」
おまえは俺のなんなんだよ。
呆れて、言葉にもならなかった。にしても、俺はそんなに顔を赤くしているのか?
「にしてもさー、ほんっと……何であやめ学校に来ないんだろ? もうちょっとでお昼なのに」
話がころりと変わる。川島はあやめの親友として、心配しているのだろう。
「確かに……俺も七比良にメールしてみたけど返事ないし」
携帯をいじりながら退屈そうに山本はそう言った。改めて、あやめはみんなに愛されているのだと思う。
「もしかして七比良、まだ寝てるのかな?」
「あんたじゃあるまいし、あやめがこんな昼まで寝てる訳ないでしょ」
「じゃ、学校サボり?」
「それもない。あんたと違って、あやめは真面目よ」
正論だ。山本が不真面目なのはともかく——あやめが昼になっても学校に来ないというのは、本当に可笑しい。今日は雨でも降るのか?
俺も念のため、さっきあやめにメールを入れておいたが……他の奴等同様に、返事は一切なし。無視されているわけじゃないと信じているが、心配だ。
思わず、ため息をついてしまう。心配で、退屈で、不安で……そして何より……嫌な予感が、脳裏をよぎる。
「ねえ……瞬ぴょん。あんた、本当に何も知らないの?」
川島が神妙な顔で、もう一度俺に聞いてきた。しかし、俺には同じ答えしかなかった。
「本当に……知らない」
あやめと俺は恋人同士でなけりゃ家族でもご近所さんでも、なんでもない。かといって、ただの友達なのかと聞かれると……イエスとは答えれん。
昨日まで俺の近くで泣いたり笑ったりしていたあやめが、妙に愛しい。あやめに握られた手が、今でも暖かいような気がした。
俺とあやめの関係って、いったい何なんだろう? 恋人という関係を真っ向にくだらないと思っている俺には見当もつかなかった。
ただ、昨日のあやめと俺のやりとりは……お友達同士でやることじゃないのだと、わかっている。あれはまるで……恋人同士だった。
自意識過剰なのかと自分を疑ったりもする。でも、確かに昨日のあやめが俺にしたことは……
昨日の一件のおかげで、俺は気分が晴れたと思えた。でも、それはあやめがいてくれたからであって……
改めて、自分がいかに情けないのかを知った。
頼むから、あやめに早く会いたい。不安なのもあるが……何か、違和感のようなものが、心にひっかかる。それも全部、あやめに会ってしまえばなくなってしまうような気がした。
「ったく……遅いんだよ……あいつ」
不安から生まれた愚痴が、口からこぼれる。もう一度ため息をついた。
と、その瞬間、
「四十川くん」
教室の扉が開けられると同時に、一人の女教師の声が教室に響いた。
周りにいたみんなは今までしていた会話をやめて、一斉に俺のほうを見る。
゛四十川(あいかわ)゛は、間違いなく俺の名前だ。
全員の視線が俺に集まっている中、女教師は眉間にシワを寄せながら、俺の元へ来た。
「四十川くん……ちょっといい?」
その若い女の先生は、よく見るとうちの担任だった。いつもは浮かべないような険しい表情だったので、誰だかわからなかった。
俺が返事をする間もなく、先生は細い腕で俺の右腕を弱くひっぱった。
「何ですか? 先生……」
ただ事ではないのだと悟った俺は席から立ち上がり、先生にひっぱられるまま教室を歩く。みんなの視線がより一層強くなり、ざわざわと軽く騒ぎになっていた。
周りの雰囲気に関係なく、先生は早歩きで俺の腕を引っ張りながら、さっさと教室を出て、廊下にまで出た。廊下に出ても、廊下にいた生徒達が俺のことを見て小さく騒ぐ。
が、そんなことお構いなしに、先生は廊下を突っ切って、あっという間に見慣れない部屋の扉の目の前までに着いた。
扉のドアノブには゛生徒指導室゛と筆で書かれた看板が、ひもで吊らされていた。
生徒指導室……その名の通り、生徒を指導する部屋である。この部屋に入ったことのある生徒といえば、よっぽど生活態度の悪い奴しか用がない部屋で、あまり使われることはない。
「入って」
先生はその部屋の扉を、何も気に留めずに簡単空開けた。初めて見た部屋を俺はキョロキョロと見渡してみたが、窓が一つと教室に置いてあるのと同じイスが二つだけの、本当に狭い部屋だった。生徒を指導するにはこれくらいでいいかもしれないが——というか何故、俺はこの部屋に案内されたのか。
俺は無愛想なだけでそこまで生活態度も悪くないし、不良じゃない。問題を起こした覚えもないし——
最悪な考えが、頭をよぎった。嫌な予感、違和感、全てが繋がったというべきだろうか。
「四十川くん、そこに座って」
先生はイスに座ると、そう言った。俺は息を呑み、先生の前にあるイスに座った。
「もうすぐ授業なのに、ごめんなさい……部屋もここしか空いてなくて。でも、緊急事態なの」
日常生活で、緊急事態という言葉を聞いたのは初めてだった。よっぽどまずいことということだ。
そしてどうやら、俺は生徒指導室に怒られに来たわけじゃないということだ。しかし安心は出来なかった。
「どうしたんですか……先生? 緊急事態って……どういうことなんですか?」
俺がそう尋ねると、先生の眉間によっていたシワが、ふっと消えた。涙目になったのを隠すためか、俺から目をそらすと俯いてしまった。
「落ち着いて……聞いてね」
もったいぶった言い方だったから、落ち着くことなんで出来なかった。先生も俺も、落ち着いてはいないと思う。
手に変な汗が滲む。熱くもないのに、俺の額に僅かだが汗が流れた。
「あやめちゃんが、行方不明なの」
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.11 )
- 日時: 2010/10/24 15:51
- 名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
名前を何となく変更してみたがいままでと何もかわりません
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.12 )
- 日時: 2010/11/01 17:01
- 名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
__第六話「後悔」
なんとも言えない気分だった。自分が呼吸する音だけが聞こえる。
この沈黙の間さえ、痛くないと感じるほどだ。
俺は今、真っ青な顔をしているんだろうな、きっと。目の前にいる先生が、本当に申し訳なさそうな表情をしている。
怒り、不安、心配……いろんな悲しみが、心の底から湧き上がった。重く鳴り響く心臓の鼓動が、徐々に速まっていく。
唖然と自分の足元を見た。
頭の中でいろんな言葉が次々と交差して……ごちゃごちゃになった。手に持っていた財布をうっかりおとして、入っていた小銭がいろんなところへ落ちっていって……収拾がつかなくなった時みたいに。
「昨日、あやめちゃんが家に帰ってこなかったらしくて……今もずっと」
沈黙を破ったのは先生だった。
俺は固唾を飲み込み、俯いていた顔を上げた。
「それだけで、どうして行方不明になるんですか!? ただ、家に帰るのが遅くなっただけじゃ……!」
自分の喉から出た声が自分のものじゃないように思えた。震えていて、無駄にやかましくて、必死な声だったから。
そんな俺に対して、先生は辛そうに口を開く。
「あやめちゃんの家庭は、おじいちゃんと二人暮らし……四十川くんは知っているわよね?」
俺は静かに頷いた。
あやめが七比良神社の神主であるあやめのおじいちゃんと二人暮らししていることは、小学生の頃から知っている。
先生は再び口を開いた。
「あやめちゃん、おじいちゃんと一緒に神社でお勤めしてるから、毎日八時までには絶対家に帰っているの。真面目なあやめちゃんが、おじいちゃんを一人にしてどこかへ消えるなんて、先生も考えられない……携帯に電話してみたけど、繋がらないの」
「そんなの……携帯をどこかに落としたとか、壊れたとか……! 繋がらない理由なんて、たくさんあるじゃないですか!」
「それはともかく、結局あやめちゃんがどこにいるのか見当もつかないわ」
俺は言い返す言葉をなくす。頭の中で、いろいろと考えてみたが……先生の言っていることが正論のような気がしてきて、強く言い返せなかった。
連絡出来ないことが問題じゃない——あやめが家に帰っていないことが問題なんだ。
深呼吸してから、先生に問う。
「じゃあ……誰かの家にいるとか? それともどこかの店とかで暇を潰してるとか……真面目なあやめがそんなことするとは考えれませんが、少なくとも、行方不明になったということよりは考えられますよね?」
言った後で気づく。あやめの親友の川島ですら、あやめが学校に来ていない理由を知らなかった。川島があやめをかくまっていないとしたら、誰がかくまう? それに、どうしてかくまう必要があるんだ?
そして、この辺りは二十四時間営業のフード店が一つあるが、あやめみたいな見た目が華奢な女の子がいたら家に連絡されてしまう。
「さっきまで、私を含めたいろんな先生達が、地元を走り回ってあやめちゃんを探したわ。もちろん、四十川くんが言うように家を訪問したりお店の中も探したし、聞き込みもした……だけど、誰も……あやめちゃんを見ていないらしいの」
俺の質問はあっけなく否定されてしまった。それも、かなり信用のある話で……先生達が必死になって探したのだと、だがそれでもあやめは見つからない……
「四十川くん、あなたをここに呼んだのは……いくつか聞きたいことがあるからなの」
先生は生徒に見せないような、不安そうな顔をした。目に涙を浮かべるのをこらえているようにもみえた。
「あやめちゃんがいなくなったのは昨日……四十川くん、あやめちゃんと二人で喫茶店に入ったらしいわよね?」
「そうですが……、それがいったい……いや、まさか、先生……」
再び脳裏をよぎる嫌な予感が、俺を苦しめた。そんなことはない、絶対に違う。
必死に自分に言い聞かせるが、もう自分を納得させることなんて出来なかった。
「あやめちゃんがいなくなったのは……あなたと別れてからなの」
その言葉は静かに放たれた。
そして再び唖然とする自分……そうすることしか出来なかった。
なんだよ、それ……? あやめは昨日……俺にあんなに優しく笑いかけてくれたんだぞ? 俺のせいで泣いたりもしたのに……なのに、笑って……励ましてくれた。
そのすぐ後にあやめはどこかに消えたっていうのかよ? 俺があやめに「また明日な」って声かけて、あやめが笑いながら手を振ってくれた。それから行方不明になったってことなのか?
理解できない……理解なんてしたくない!
「神主さんがあやめちゃんを最後に見たのは、あやめちゃんが四十川くんと出かけるということを伝えた時よ。つまり、それからはずっと四十川くんと行動していて……そこからいなくなった、という考えが今は優先されるわ」
先生の冷静な言葉だけが聞こえる。
俺は俯いてから、重い口を開いた。
「俺とあやめが別れた後に誰もあやめを見ていないんですか……」
「今のところ、あやめちゃんの目撃証言は喫茶店の人たちくらいね」
「そりゃそうですよね……ひとけの少ない朝っぱらから、喫茶店に行ったんだし……目撃した人なんて、そう少ないと思いますよ」
「——四十川くん、あやめちゃんの為にいくつか質問があるの……答えてくれるかしら」
俺は俯いたまま頷いた。拒否なんてするはずも、出きるわけもなかった。
「……、まず、四十川くんは何時頃にあやめちゃんに会いに行ったの?」
「八時くらいです。神社にあやめがいるかな、と思って……そしたらあやめと出かけることになったんです」
「それで……あの喫茶店に寄ったの?」
「行くところもなかったし……あやめが寄りたいって言ったから、久しぶりに二人で喫茶店に入ったんです。確か、九時頃でした」
「その時のあやめちゃんに、何か変わったことは?」
頭に浮かぶのは、大粒の涙をこぼしながら必死に笑おうとするあやめの姿。喫茶店でのあの出来事だけが、頭の中で再生される。
俺は決して楽しくもないのに、顔をあげて微妙に笑ってみせた。
「はは……俺、馬鹿です。傷つけた。あやめのこと……、傷つけてしまった。すみません……もしかすると、俺のせいで、あやめが……、あやめが……」
言葉の途中で、俺はまた俯いてしまった。涙が溢れそうになるのを堪えた。
「四十川くんのせいじゃない。あやめちゃんが、そんなに弱い子だと思うの?」
「……思えません」
喫茶店を出てから、何事もなかったかのように微笑むあやめを思い出す。そうだ、あいつは優しいから、俺が傷つけたことをまるで何事もなかったかのようにしてくれたんだ……可笑しいよな。あいつ直前まで泣いてたのに笑いながらパフェ食べてたんだぞ……? 可笑しいよな……
俺があやめを傷つけたことに何も変わりはない……
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.13 )
- 日時: 2010/10/27 15:14
- 名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
「——先生、質問を続けてください」
俺は自分に対する怒りを抑えながら静かにそう言った。先生がどんな表情をしているのかは、俯いているので見えない。
「じゃあ……喫茶店を出てからは? ここからは、あなたしか知らないと思う」
「十一時すぎくらいに、喫茶店を出て……そこから二十分くらい、歩いてました」
「どこを歩いていたの?」
「……目印になるようなものがないから、どこって言えばいいのやら」
「後で地図を渡すから、その時教えてね」
刑事に取調べをされている囚人の気分だ。実際、そうなのかもしれない。あやめが家に帰っていない理由が俺だとしたら、俺はあやめや先生達や神主さんに、なんて謝ればいい? ……謝ればいいって問題なのか?
取調べは続く。
「それから、二人はどこへ向かったの?」
「歩きながら話してました……で、あやめがやっぱり神社にもどりたいと言ったので、そこで別れました。俺もそのまま、家へ帰りました」
俺が知っているのはここまでだ。
まとめると、あやめは昨日俺と別れてから一度も家に帰っておらず、あやめの目撃証言もない。連絡もつかずどこにいったか見当もつかない……
時々、テレビで見ることがある——誘拐事件。小さな女の子が大人に誘拐されるという、最低な事件だ。まさか、あやめは誰かに誘拐された——? いや、そんなこと考えてはいけない。
じゃあ、あやめはいったいどこに? 迷子? 家出? ……最悪の場合もある?
考えはどんどんひどい方へと進んでいった。嫌な予感ばかりがよぎる。
「……あやめちゃんがいなくなった理由はどうであろうと、無事に帰ってきたらそれでいい……そうでしょ? 四十川くん」
俺は顔を上げてから俯いた。先生の薄い笑顔を見て、泣きそうになった。
「……俺、今日は心当たりのある場所に行ってきます……俺もあやめを探します」
「ありがとう。きっと見つかるわ」
根拠もなく先生はそう言ってくれたが、とても安心した。そんな簡単に見つかりはしないだろうけど、少し心が軽くなった……ほんの少しだけ。
俺は重い体に何とか言い聞かせ、イスから立ち上がった。
「今から、早退します」
それだけを言い残し、ドアを開ける。
部屋から出る瞬間、先生の薄い笑みが崩れていくのが見えた。
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