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もしもきみが、ここにいたら
日時: 2011/02/03 16:38
名前: とある板の住民 (ID: y0p55S3d)



移転しました


キーワード「空前絶後のこの世界で」

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Re: もしもきみが、ここにいたら オリキャラ締め切り12/30 ( No.49 )
日時: 2010/12/29 14:49
名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)

__第七話「トクベツ」

高さ三メートルはある大きな茶色の扉の前で、正木先輩は足を止めた。
艶やかな茶色の扉は、ドアノブが金色になっていて、この扉を開けた先がいかに重要な部屋なのか示している。しかもかなり大きいので、俺ならこの扉を開けるのにきっと苦労するだろう。

正木先輩は小さく深呼吸すると、二つのドアノブを力強く握り締めた。

「心の準備はいいか?」

俺は小さく「はい」と返事した。その声は小さすぎて正木先輩の耳には聞こえていなかったのかもしれないが——きっと返事なんて、もとからいらなかったはずだ。

正木先輩はゆっくりと、扉を押し開ける。
ギイイ、という木が軋む音をたてながら、扉は徐々に開いていく。扉の隙間から見える部屋の明かりを、俺は吸い込まれるように見つめた。







「やっと来たか」

扉が完全に開けられた瞬間に——部屋にいた一人の男が、そう言った。

「はじめまして、四十川くん」

男の低い声が、空気を切る。
俺は会釈しながら、その男の容姿をまず見た。

黒髪は肩の上くらいまでの長さで、真っ黒なスーツを着ている。見たところ日本人のようだが、とても賢そうな顔をした男だ。おそらく、この人が統括だろう。

次に、目だけで部屋の様子を確認してみる。

黒の絨毯に、白のテーブル、そして黒のソファが部屋の中央に置かれている。来客と話をするために置いてあるのだろう。他には白の本棚などがあるが、それ以外には何にもない。いたってシンプルな部屋だ。

「いろいろ聞きたいことがあるだろうが、まずはそこのソファに座ってくれ」
「はい、失礼します」

何だか面接を受ける時みたいにすごく緊張する。礼儀を弁えたつもりで、俺は慎重に腰掛けた。ふわふわのソファに心地よさを感じながらも、表情を引き締める。


正木先輩が扉を閉め終わると同時に、男も俺の向かいにあるソファに座った。

「私は゛鷲塚 響(わしづか ひびき)゛。この組織の統括だ」

少し変わった名前だが、俺だって他人のことを言えないような名前だ。

「……四十川 瞬です」

もう名前を知られているようだが、念のため名乗っておく。統括は相変わらずクールな表情のまま、

「さて、単刀直入に言う」

と、話を切り出した。
俺は身を固め、固唾を飲み込む。今から真剣な話をされるのだと覚悟し、言葉を待った。

「この世界に、゛魔法゛は存在する」



——まるでアニメのワンシーンを見ているような気分だ。正木先輩が言っていることと同じようなことを、目の前にいる真面目そうな男が言った。
魔術は存在するのだと、ようやく自分に言い聞かせたのに、改めて言われると現実感がない。

「この組織に初めて入った人はみんな、君みたいな反応をしていた。でも、みんな一週間もしないうちに自然とこの環境に溶け込んでくる。だから、君もすぐに慣れるさ」

呆然とした俺を気遣ったのか、男はそう言った。しかも、単純なことに俺は少し安心する。他の人も、俺と同じだったのだな、と。

「この組織……MSSは、魔術と科学が共存した組織で、鎌倉時代から続いている。国連にも認められてる。統括の私は日本人だけど、世界中の選ばれた人のみがMSSの一員だ。MSSに入った人はみんな仲間で、お互いを支えながら、世界中の貧しい地域や困難な事件や事故、犯罪の取り締まりをしている」

統括がそういい終わった瞬間——正木先輩が、二つのコーヒーを机の上に置いた。ぺこりとお辞儀してから、また元の位置にもどるその姿は、廊下で話していた時と随分イメージが違う。

白のマグカップに入った茶色いコーヒーは、ゆらゆらと湯気をあげている。

「つまり、MSSは世界警察みたいなものだ」

統括はそう言い切ると、マグカップを手に持ち、コーヒーを一口飲んだ。
俺はマグカップの底を見ながら、口を開く。

「でも……世界警察ってことは、かなり規模が大きいですよね。俺、そんな組織があるなんて知らなかったんですが」
「当たり前だ。魔術が存在することは、一般人に知られてはいけない……日本でMSSの存在を知っている一般人は天皇や総理大臣、かなり有力な政治家だけしか知らない。それでもほんの数人だ。もし魔術が存在することを一般に公表した者がいたら、それは立派な犯罪になる。それを取り締まるのも、MSSの仕事だ」

最も、魔術が存在するなんて世間に言ったところで、この組織の人間以外誰も信じないだろう。だから俺も、未来予知のことなんて誰にも話さなかったのだ。

統括はマグカップを机の上に置くと、言葉を続けた。

「説明しそびれたが、誰でも魔術を使えるというわけではない。魔術が使える人間は、限られている——才能を持った者のみ魔術を使えるのだ。今では魔術を使える人間は徐々に減ってきており、世界中の全員を合わせても一万人程度だ。組織は、才能を持った者のみをサーチする機械を作った。魔術と科学が共存した結果、生まれた機械だ。その機械を使って、魔術を使える人間を見つけ出し、組織に勧誘している。勧誘を拒否された場合、その者に魔術の公表を禁じるだけだ」


にわかには信じられないとんでもない話だが——ただ単に「魔術が存在する」とだけ言われるより、説得力はある。
妙に入り組んだ話だが、頭の中に整理してみる——つまりMSSは世界警察で、魔術を使える人間を見つけ出し勧誘しているが、魔術の公表は絶対にしない——こういうことだろう。
話を理解できる自分が何となく怖い。もし俺が普通の人間だったら、こんな話されても机を蹴っ飛ばして家に帰るだろう。

「君のような、自分の魔術に自覚を持ちにくい人間もいる。そういう人間は、成人してから組織に勧誘するのだが、君は特別だ」

ありがたみを感じない特別さにすっかり慣れてしまった俺は疲れているのだろうか。

と、その時——統括が急に、頭を下げた。とても深くだ。
ひざに頭がつくくらいに頭を下げ、声を低くしながら、

「……頼む。MSSの一員になってくれ。君の魔術が必要なんだ」

そう言った。
統括の黒曜石のような瞳が真剣さを訴えているようで、目をそらせなかった。

Re: もしもきみが、ここにいたら オリキャラ締め切り12/30 ( No.50 )
日時: 2010/12/22 10:30
名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)

やっぱり説明が入るとすごくわかりづらくなる
解説もあとでつけます

Re: もしもきみが、ここにいたら オリキャラ締め切り12/30 ( No.51 )
日時: 2010/12/29 14:55
名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)

__第八話「呪いの宣告」


空気が一気に重くなったような気がした。
自分よりいくつも年上の人生の先輩が、頭を深く下げている。要求はどう考えても俺に向けられているわけで——ここに来てから、まったく現実味のないことばかりだ。

「そんな、頭なんて下げないでください」

俺は呆れと戸惑いを交えながら、そう声をかける。
それでも、統括は頭を上げることはなかった。

「第一、組織の一員になれとか……それって世界警察になるのと同じことですよね? 俺、まだ自分がその……魔術使えるだとか、実感があまりないし、それにそんな重要な役割を任せられても」

黒髪の生え際を見つめながら、そう言い訳をしてみる。統括は無言で頭を下げたままだ。
困ったな、と思いながら、俺は口を開く。

「……俺、助けたい人がいるんです」

正木先輩のきょとんとした顔をチラチラ見ながら、

「その人を助けてくれるっていうから、正木先輩の後をついてきたんです。だから、それを具体的に説明してもらわないと、返事も出来ないんですよ。魔術の原理とか、そういうのは置いといて、俺を勧誘する理由から話してもらえますか」

俺がそう言うと——統括はようやく、頭を上げた。俺もようやく安心した。

「……そうだな、すまない。そこから説明しよう」

統括は小さく息を吸ってから、言葉を続ける。

「君の助けたい人、その人は……゛七比良 あやめ゛さんだね」

俺は頷く。

「私達も、今、彼女を捜しているんだ」

そう言われた途端——俺がどうやってここに連れてこられたのか、思い出す。強制的に意識のないままここに連れてこられたのだ。
怒りを思い出した俺は、

「まさか、あやめのことも無理矢理連れてくるつもりですか」

皮肉交じりにそう言い放つ。
が、統括は表情を歪めないまま、まず「すまない」と謝った。

「君をここに無理矢理連れて来てしまったことは、深く詫びる。だが、それだけ慌てているということを理解してほしい」

詫びるのはもっと早くにしとけ——そう言おうと思ったが、統括の真剣な表情を見ると何も言うまい。

「……落ち着いて聞くんだよ」


俺が頷くと、統括は重そうな口で言葉を続けた。




「彼女は誘拐された」




突然にして放たれたその言葉は——一瞬で頭の中を真っ白にした。

何分くらい、唖然としていたのだろう。
突然、自分の大事な人が誘拐されたと宣告され……どうしていいのか、わからなくなった。


゛そんな訳がない゛
゛何かの間違いだ゛

否定の言葉ばかりが、頭の中でこだましている。信じたくなかったのだ。


確かに統括は今、その口で言った——


゛あやめが誘拐された゛


ニュースで何度も見かけたことがある゛誘拐事件゛。そんな事件に遭った人は身近に一人もいない。
だから——あやめがそんな事件に遭遇したなんて信じられないわけで——でも、何故か心臓の音が加速していく。
誘拐なんて、ありえない。それでも、統括が言っている言葉が事実のように聞こえるのは——心当たりがあるからだ。


自分の大事な人が、自分のそばを離れていく。そんなことは幼いことに経験して、もう二度とあんな思いはしたくないと思った。

あの時と同じ悲しみが今、俺の胸に突き刺さっている。

目頭が熱くなるのを堪えながら、俺は重い空気を吸い込んだ。どろどろに溶けた空気が、喉にへばりついて剥がれないような気がした。


「細かい事実は、組織が調査しているところだが、居場所さえ掴めやしない、だから君の……」


沈黙を打ち破るように、統括が言葉を紡ぎ始めた。

「君の予知能力が必要なんだ」


唖然としたままの俺に、統括の顔は見えなかった。
冷静な言葉だけが頭に入ってくる。







真っ白になった頭の中で——俺はまた自分を呪った。

Re: もしもきみが、ここにいたら オリキャラ締め切り12/30 ( No.52 )
日時: 2010/12/29 14:50
名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)

__第九話「頼れる人」


瞬くんが黙り込んでから、一時間が経った。
あやめちゃんが誘拐されたことを告げ、瞬くんはすっかり落ち込んでしまい、話が出来ない状態にまでなってしまった。
そんな彼を統括の部屋に置いておくわけにも、家に帰すわけにもいかないので、ひとまずは、個室にもどってきたというわけだ。
廊下を歩いている時、人形みたいになった彼を見て、ああ失敗したな、と思った。


「瞬くん」

俯いたままベッドに座っている彼に、声をかける。返事はないが、それでも僕は必死に笑ってみせた。

「今日はここに泊まっていいで。別に建物の中なら出歩いても大丈夫やから、用あったら僕のこと呼んで」

こんなこと言っても、彼には聞こえていないのかもしれない。僕は疲れを覚えながら、部屋を出た。

白い壁にもたれながら、小さくため息をつく。

自分の大事な人が誘拐されたと知って、かなり落ち込んでいたな。しかも自分が魔術使えるとか意味のわからないことまで教えられて、混乱してしまったのだろう。
やっぱり一度にいろいろなこと教えるべきじゃなかったな……時間がないのは事実やけど、これじゃあ彼がいつ立ち直ってくれるか。
本当なら瞬くんを巻き込むべきではないんだろうけど、彼の力がどうしても必要だ。出来れば早めに、組織に入って欲しいところだが……

目を閉じてから、もう一度ため息つく。
と、その時、

「そんなため息ばっかついて、どうしたんだよ?」


——と、誰かが言った。その女の子の声で、我に返る。口調は確かに男の子っぽいが声は確かに女の子だ。
目を開くと、いつからいたのか——目の前に、オレンジ色のオーバーオールを着た小柄な女の子が立っていた。
茶髪のショートヘアで、黒縁の眼鏡をかけている。どこか中性的だがどこか女の子らしい——そんな不思議な女の子だが、僕の妹だ。

「そんなところに突っ立って、どうしたんだよ? 兄貴」

首をかしげながら、゛奈緒(なお)゛はそう言った。
僕は笑いながら、

「いや〜、この部屋にむっちゃイケメンおるんやけどちょっとお疲れ気味、みたいな? んでもって僕もちょっと疲労困憊って感じでな?」

とボケてみる。
奈緒は苦笑しながら、

「……兄貴のその意味わからない説明に私も疲労困憊」

と的確なツッコミをした。
血が繋がっていない兄妹とは思えないくらいの仲のよさで——奈緒の笑顔を見ていると、少し気が楽になる。どう見ても苦笑しているけど、それでも奈緒の笑顔だ。

「ていうか、兄貴ももう二十四歳なんだからさ〜……あんまり妹に心配かけんなって」
「おまえがもっと女の子らしい口調と性格やったらなあ……」
「口調については兄貴だけには文句言われたくないんだけど」

ツッコミが的確すぎて、僕も思わず苦笑してしまう。

「ところで、イケメンって誰それ?」

奈緒は首を傾げながらそう言った。
僕は苦笑を浮かべながら、

「頼りのない予知能力者や」

と、それだけ口にした。

Re: もしもきみが、ここにいたら オリキャラ締め切り12/30 ( No.53 )
日時: 2010/12/25 11:08
名前: からあげ ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)

あげ


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