ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- もしもきみが、ここにいたら
- 日時: 2011/02/03 16:38
- 名前: とある板の住民 (ID: y0p55S3d)
移転しました
キーワード「空前絶後のこの世界で」
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- Re: 君のいない物語 ( No.4 )
- 日時: 2010/10/16 19:14
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
都合によりタイトルを変更します
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.5 )
- 日時: 2010/10/23 11:39
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
_第三話「不幸の責任」
都会じゃなくても、喫茶店くらいはある。ちょっと小さいけど、小奇麗でオシャレな人気の喫茶店だ。家から徒歩で二十分くらいの、誰でも気軽に通える、そんなカフェだ。
「いらっしゃいませ、お二人ですか?」
可愛らしい制服を着た女の定員が、笑顔で出迎える。
あやめが「二人です、テーブルで」そう言うと、店員がにこにこ笑いながら席まで案内してくれた。接待のいい喫茶店だ。
店員は冷や水の入ったコップを二つテーブルの上に置くと、ペコリと頭を下げて厨房のほうへともどっていった。
「なんか、いい感じの店員さんだったね」
目の前のイスに座っているあやめが、微笑みながらそう言う。こうして二人でテーブル越しに話すのは久しぶりかもしれない。
あやめはテーブルに置いてあったメニューを開くと、パラパラとページをめくり始めた。
「あ、瞬は何注文するの?」
「コーヒーでいい」
「飲み物もいるけどさ。どうせなら、こっちのパフェ食べようよ」
あやめがメニューに細い人差し指を指す。指した先にあるのは゛ロイヤルチョコレートマウンテン゛というデザートで、女の子が好きそうなチョコレートがいっぱい使われたパフェの写真が、そこにあった。
「……まだ朝の九時だぞ? 一人でそんないっぱい食べれるのか?」
俺がそう言うと、あやめは顔をあげてはにかんだ。
「二人で食べるから、いいの」
いつそんなこと決めたんだ——そう言おうとする前に、あやめはすぐそこにいる店員を呼びとめた。店員はテーブルの前までくると、「ご注文承ります」と一言。
「コーヒーと、オレンジジュース、あとチョコレートマウンテンをそれぞれ一つずつ、以上で」
「ご確認お願いします。コーヒー一つ、オレンジジュース一つ、ロイヤルチョコレートマウンテンを一つ。以上でよろしいでしょうか」
「はい、ありがとう」
ペコリ、と丁寧に頭を上げて、また店員は厨房のほうへと去っていった。
適当にあたりを見渡してみると、やはり休日の朝ということもあって、お店はガラガラだった。繁盛してないわけではないが、さすがにこの時間帯に喫茶店にいる高校生は俺たちくらいだろう。
「ねえ瞬。今日はいつまで一緒にいれるの?」
「いつまでって……」
子供のような無邪気な笑顔を浮かべるあやめ。
俺はいつも通りの無表情。そこまで無愛想な顔をしているつもりはない。
「じゃあ今日は、久しぶりに二人でどこか行こうよ」
何の意識もなく放たれたその言葉——これはデートのお誘いでも何でもないことを、俺は理解していた。俺がそういう性格っていうのもあるかもしれないが、第一にあやめは相手が男だろうと女だろうと、゛それっぽいこと゛を軽く言ってしまうのだ。
このお子様な言動が、いったい何人の男子をその気にさせては絶望させ……気の毒なので、考えるのはやめておこう。
つまり、こいつと俺が二人で肩を並べて街を歩いても、それは周りから見て゛デート゛かもしれないが、俺とあやめにとってはただのお友達同士のショッピングに過ぎない。
「別にいいけど……どこ行くんだよ」
俺が無愛想な顔をしたのにも関わらず、あやめはにこにこ笑っていた。
「大切なのは行き先じゃなくて、誰と行くか、でしょう?」
まただ——また思わせぶりな言動と表情——そんな笑顔で言われると、さすがに顔が熱くなる。
あやめと俺は、ただの幼馴染。
昔から、明るくて優しくて人気者のあやめと、無愛想で誰とも仲良くしようとしなかった、冷たい俺。
思えば、男友達とよりも……あやめとの方が打ち解けている気がする。
……恋人になりたいとか、そういう感情はなかった。
高校生活は人生の青春だとか、恋人のいる青春とか……そんなものはどうでもよかった。青春とか、恋人と毎日一緒にいる生活なんて……うらやましいと感じたことがなかった。
妬んでいるわけではない……くだらない、そう思っているだけ。
「……もうちょっとで俺達……高三になるんだよな……」
自分の口からこぼれた言葉。あやめは無垢な笑顔を浮かべたまま、首を横にかしげた。
「そうだけど……どうして?」
「俺達って、大人になったらどうしてると思う?」
「……? そりゃあ、仕事とか、してるんじゃない?」
俺は水滴のついたコップに目を落としながら、重い口を開いた。
「……おまえは、あの神社の巫女として生きていくのか?」
あやめの無邪気な笑顔が、一瞬にして薄い微笑みに変わった。どこか寂しそうな、そんな表情だった。
「……そうだね。私も、あの神社で働きたいって思ってるもん」
「たった一人で……家族もなしに、そんなこと出来ると思っているのか?」
カララン。店内の静けさを切るように、コップの中の氷が崩れる音がした。俺はただ息を呑む。
笑顔を崩したあやめが、悲しそうに見えた。置いてけぼりにされた子犬みたいに目に涙を滲ませる。
罪悪感を覚えながらも、俺はあやめにしっかりと目を合わせながらまた口を開く。
「俺とおまえは、同じ境遇だから……だから、何かあったら何でも言ってほしい」
あやめは顔を俯ける。かすかに震えた声だけが聞こえた。
「……同じ……境遇?」
心臓が重く鳴り響く。俺は固唾を飲み込んだ……多分、すごく必死な顔をしていると思う。
「そうだ、俺とおまえは同じ境遇なんだ……父親に捨てられた——」
そこまで言いかけて、言葉をなくした。自分でも失言だったと、やっと気づく。
目の前で、両目からポロポロと涙をこぼすあやめが、今にも消えそうな笑顔で俺を見つめていた。あやめの薄い桃色の頬に、一筋の涙が流れる。
「ダメだよ……瞬。自分まで、傷つけるようなこと言っちゃ……」
あやめの声は震えていた。俺は「違う」と弱く否定するだけで……謝罪の言葉すら、言葉にならなかった。
「瞬は優しいから、私のこと心配してくれてたんだよね? だけど……ね」
その瞬間、あやめの笑顔が完全に崩れた。目から大粒の涙が溢れだし、頬に流れて一筋になる。
胸に……ナイフが刺さったみたいだった。
「ダメだよ……」
声をさらに震わせながら、あやめは口を開く。
「自分の辛さを……誰かのせいにしちゃ……ダメだよ……」
顔をぐしゃぐしゃにしながら、頑張って笑おうとするあやめを見て……目頭が熱くなった。
この時の俺には、まだなにもわかっていなかった。もしこの時の俺に何かメッセージを伝えられるのなら、伝えてやりたいくらいだ。
今すぐ彼女を抱えて、どこかへ逃げろ、と。
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.6 )
- 日時: 2010/10/20 16:00
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
三話できました
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.7 )
- 日時: 2010/10/24 14:48
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
_第四話「生き甲斐」
俺達は落ち着いてから、喫茶店を出た。残ったのは、あやめの目がちょっと腫れたのと、どうしようもない気まずさだった。
「……ごめん」
コンクリートの道を歩きながら、俺は呟く。たまにチラチラと、あやめの横顔を見つめる。
「いいの。私、涙腺弱くって、勝手に涙出ちゃうんだ。この前の授業のときもね、数学がわかんなくて、先生の問題あてられちゃったんだけど……変だよね? 怒られてもないのに、泣きそうになっちゃうんだ」
いつものように笑いながら、他愛のない話をするあやめ。怒っているようには見えないし、悲しそうでもない……だけど、本当は楽しそうでもなかった。
「悔しい時もすぐ泣いちゃったりして、なんで自分が泣いちゃうのかわかんなくて……それでもっと泣いちゃって、ほんとにおかしいよね」
いつもと何も変わらない、愛くるしい彼女の笑顔。だけど、それが作り物の笑顔だということが、すぐにわかってしまう……
「でも、人間から泣くっていう゛機能゛をなくしたら……それもそれで、悲しいよね?」
優しい口調で、俺に問いかけるあやめ。弱く相槌だけ返すと、それでも彼女は満足そうに微笑む。
「笑わない人がいれば怒らない人もいる……だけど、そんな人こそ本当は笑いたいって思う時もあるだろうし、怒りたいってストレスを溜めているかもしれない」
あやめは俺の顔を覗き込むと、薄く微笑んだ。優しい笑顔なのに、俺は微笑み返すことは出来なかった……
「笑わない人、喜ばない人、怒らない人、悲しまない人、泣かない人……そんな人、この世にはいないと思う……」
思わず足を止めた。あやめも立ち止まる俺につられて、二、三歩先で足を止める。きょとんとした顔で、こちらを振り返った。
キツい言葉で言い返せないから、こうしてせめて、態度だけでも示したかったのだろうか……俺は。
「……自分で言うのもなんだが、俺は……おまえや……周りの奴等みたいに、笑ったり泣いたり……あんまりしない」
僅かに口を開けながら黙って話を聞くあやめから、俺は目をそらした。
「……俺は、なんでおまえがそこまで笑えるのかわからない。なんで……泣けるのかも、わからない」
吹く風だけが、沈黙の間にもたらしてくれる唯一の安らぎだった。あやめの黒髪が風になびくのみてから、俺は再び、ゆっくりとあやめの表情をうがかってみた。
そこにはいつもの笑顔はなかった。かわりに、可哀想なものを慰めるような表情を浮かべていた。だけど、あまり喜べない表情だった。まるで自分が馬鹿にされているような……゛可哀想だね゛と声をかけられたような、そんな気分。
ようやく、あやめがフッと笑った。
そして沈黙は破かれる。
「大丈夫」
小さな手が、俺の手を包み込んだ。
とても暖かくて、自分の手がどれだけ冷えているのかよくわかった。
「瞬は、ちゃんと笑ってる。瞬はね、自分が思っている以上に無愛想なんかじゃないよ。瞬が笑ってくれるから、私も笑えるんだよ」
天使に囁かれたようだった。肩の荷が、ひとつひとつおろされていく……そんな気分にまで達していた。
俺は言葉を詰まらせながらも、問う。
「おまえは……辛くないのか」
やっと言えたその言葉の意に反して、あやめは最高の笑顔を浮かべた。雲すら晴れていくような、太陽の笑顔を。
「瞬がいるから、平気だよ」
今まで生きてきて、初めて言われた言葉だった。
自分の存在を頼ってくれるような言葉をかけられるのは、初めてだったから。
……衝撃、というよりも、感動だったのかもしれない。
鎖で繋がれたかのように不自由に感じた手足が、体が、一気に解かれていくようだった。
今なら、笑える気がする。これからは、自分も……彼女のように笑いながら生きていける気がした。そう思った根拠に形はないけれど、形あるものよりずっと頼れる気がする。
目頭が熱くなった。指先まで熱くなった。
鼻の奥がツーンと痛くなる。喉はカラカラだ。
俺は涙をこらえながら、心の底から呟いた。
「ありがとう——」
再び訪れる沈黙は、重く感じなかった。安堵の沈黙と言ってもいいくらいだ。
音のない世界で、彼女の肌のぬくもりだけが、正確に感じ取れる。
あやめは自分の唇を、俺の唇にゆっくりと重ねた。
俺の手を、優しく握りながら、黙って唇をくっつける。
彼女の頬に流れた一筋の涙が、俺の頬にまで染みた。
これが……そう、つい昨日の出来事だった。
- Re: もしもきみが、ここにいたら ( No.8 )
- 日時: 2010/10/23 11:25
- 名前: とある板の住民 ◆qTm8IKA.tA (ID: d3Qv8qHc)
四話完成しました
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