ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 神の能力者
- 日時: 2011/04/23 20:50
- 名前: メゾ (ID: viAVUXrt)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_m/view.html?590552
はじめまして!メゾといいます。
小説を書くのは初めてだけど、読んでくれると嬉しいです♪
参照は、この物語の主人公・トレアちゃんのイラストです!もし宜しければ見てくださいね^^
それでは、「神の能力者」始まります><
*ストーリー*
人間を超えた存在、「特殊能力者」。主人公、トレアも人間を超えた存在。同じ存在の仲間と共に弟、リュランの仇、『月の騎士』を倒そうとする。
*前回までの物語*
「超」の能力者のトレアは、「炎」の能力者、コルルと「氷」の能力者、ソマリを仲間にする。
「無」の特殊能力の持ち主、ナタリーも仲間にし、ゆっくりと動き出そうとした矢先、学園がテロリストに襲われる。なんとか生徒たちを非難させることができ、月の騎士を捕まえようと、計画を立てていたところにミュリがペルソナとともに現れる。自分が皇女だということが知られ、ミュリは裏切られたと思い、復讐のため、月の騎士の一味になる。「死怨」という名をもらい、「操」の能力をかけられ、完全な僕となった。
目次>>54
登場人物紹介>>55
トレア、コルル、ソマリのプロフィール>>21
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- Re: 神の能力者 ( No.89 )
- 日時: 2012/04/07 20:43
- 名前: メゾ (ID: MSa8mdRp)
第五十四話 「彼のこと」
真資料室。その光がさしていない空間の中には人影があり、ペンライト一つで本棚の隙間の狭い通路を歩いていた。
「何か探し物?」
突然、どこからか声がする。人影は、それに全く気付いていなかった。その声がかかると同時に、室内に明りが差し始める。人影の容姿が明るみになった。
「ダメだって言ったのに…。ここは本来あなたは来てはいけない所なんだよ?まあ、誰にもここのことを話していないから存在を消していないんだけどね」
さらっと恐ろしいことを言いながら、本棚の上に座っていた声の主は言う。声の主であるトレアは、三メートル以上ある本棚から飛び降りた。そして優雅に人物の前に降り立つ。
「……影の能力者について、何か参考になるものはないかと思って」
ナタリーはペンライトを消しながら彼女と目線は合わせずに呟いた。トレアは、ああ、と頷くと、続けた。
「そうね…。それについては今日の夕食後にでも話そうと思っていた所。実際、ロニエの記憶についての情報は一切ない。シリユとかいう女の人の一番近くにいたユオに聞くのが一番手っ取り早そうなんだけどね」
そこで言葉を切る。トレアは、一度ユオを撃ち殺したことがある。と言ってもユオ自身、死ぬことのない不老不死の持ち主なので、殺した、ということはなく、すぐに再生していた。彼女もそこまで気にしているそぶりはなく、まるでなかったかのような態度であった。
しかし、トレアとしては傷つけていることは忘れられないので、会いたくないという部分が心のどこかにある。
「知りたい?」
突然、トレアの背後から声がした。振り向くと、自分とまったく同じ体系、同じ顔をした少女が立っている。その少女はにこやかにほほ笑んで、言う。
「久しぶり。トレアは優しいね。まだそのこと気にしてくれていたんだ。もう忘れても良かったのに。だって、私が言葉足らずだったのが悪かったんだもの」
ユオは二人の方へ歩いてくる。そして、近くも遠くもない距離で足をとめた。
「でも、撃ったことには変わりはない。情に流された私に原因がある。悪かった」
ナタリーたちに話しかけるときのような温和な言い方ではなく、いつもの軍のトップとしての話し方で謝罪をする。すでに彼女は目を特殊能力者を示すものに変えていた。ナタリーはあまりユオのことを警戒はせず、いつも通りの目にしている。
「今日は、あなた達が知りたいと思っている『影』の特殊能力者について、そして『時』の特殊能力者のことについてなの」
表情を崩さず、淡々と言い放った。
*
「まず、ロニエの記憶のことね。私も彼女から詳しいことは聞いていないの。ただ、「超」の特殊能力者のそばに置いておいてほしい、そう言われただけ。あの子は私にとって分身だから、断ることができなかったの」
ユオが語る。三人は話が長くなるだろうとふんで、椅子に腰かけていた。ナタリーはちょこんと椅子にすわり、目の前に出されたココアを飲んでいる。紅茶とどちらがいいかと聞いたが、彼女は苦い顔で首を振った。どうやら紅茶が苦手らしい。常に無表情なナタリーがあのような表情をしたのを見て、トレアは面白くて吹き出しそうになったほどだった。
「まさか、あいつは「神の一部」なのか?」
トレアが尋ねる。するとユオはそちらの方を見て頷く。また話しだした。
「そう。ロニエには「シリユ」という別名を名乗っていたようだけど、本名は「ラニア」というの。人の手によってつくられた「人造人間」」
「……人造人間?」
ナタリーが小声で聞き返す。後はトレアがつないだ。
「人造人間が、「神の一部」になれるのか?」
「なれないよ。それに、私にはもうすでに一人いるもの。ある人間に捕まってね、無理矢理作らされた。あの時の様子を思い出すと、寒気がするね。あそこまで神を恐れない人間は初めて見た」
ユオは自分の腕をぎゅっと掴み、震えを止めようとする。よほど恐ろしい目にあったらしい。でなければここまで脅えるはずがないだろう。
「まぁ、そういうことがあって、私には二人の「神の一部」が存在している。そして、ラニアは何か目的があって彼をあなたに近づけたのだと思う」
トレアは神妙な顔つきをして考える。だとすれば、普通にここに出向いて「さようなら」ぐらい言って彼を別れればいいのではないか?あそこまで自分に執着していることは見ていて分かっていたはずだし、黙って見放すとあのような暴走を起こすのは分かっていたのでは?疑問が浮かびだした。
「そのように考えてしまう理由は分かる。でも、ラニアにも色々な事情があるの。そこは分かってあげてほしい」
彼女はそう言って瞼を伏せる。二人とも黙ってその仕草を見ていた。
「…だいたい分かった。つまり、彼の記憶についての情報はお前も知らないということだな?」
「……そういうことになるわね」
「だったら、直接あいつに聞くしかないということか」
「……探すの?」
消え入りそうな声が聞こえた。トレアは今度は不敵に微笑んで言う。
「当たり前。仲間なんだから、それぐらいはしなくちゃ。絶対にロニエの記憶を取り戻してみせる」
そう強く決心した。ナタリーは小さく頷き、じっと見つめる。ユオは少し笑った。
*後書き*
はい。やっと終わりました。
もう「時」の能力者に付いて書くのはめんどくさくなったので、次回に回します。すいません。
でわでわ、今回もこの辺で。ありがとうございました^^
メゾ
- Re: 神の能力者 ( No.90 )
- 日時: 2012/04/25 19:12
- 名前: メゾ (ID: MSa8mdRp)
第五十五話 「時を司る少女」
「ここか?ユオが言っていたところは」
コルルが自分の目の前にあった草を斬りはらい、道を開けた。後ろからトレア、ナタリー、ロニエ、ソマリがついて来る。
「うん。たぶん。何も見えないけどね」
トレアが少し苦笑いしながら返す。ずっと大きな森の中を進んでおり、やっと視界が開けたかと思ったら、目の前に広がっていたのはただの一つの大きな池だった。
「どこなの?ユオ」
*
「ここに、「時」の特殊能力者がいるわ」
ユオが地図を差し出し、ある一点を指さす。トレアが思わず身を乗り出し、それを見た。ナタリーも興味深そうに置かれた地図を見ている。
「私のお願いとしては、あの子の様子を見てきてほしいってこと。もちろん、あなた達にお願いする以上、自分の目的を最優先して頂戴。私の件は、ついでで構わない。頼めるかな?」
「別に構わない。ただ、そこは今は立ち入り禁止区域となっていて、人は誰も住んでいないはずだが?」
尋ねた。すると彼女はうっすらと笑い、
「大丈夫よ。ちょっと不思議な所に住んでいるから、見つかっていないだけ。きっとお出迎えがあるわ」
と優しく言う。謎が多く残ったが、とりあえず、向かうということになった。
トレアの決定により、特殊能力者だけで行くこととなった。セシェルも同行すると言ったが、「なるべく人数は少ない方がいい、それに、一般人は危険かも」とユオに言われた、と言うと、渋々引き下がった。セシェルはかなり信用されているようで、特殊能力もことも、ユオについても知っている。その彼を連れて行かないということは、かなりの危険があるかもしれないということを覚悟している。だから、このメンバーで行ったのであった。
*
「池の中に人間は住めないよ。呼吸できないし」
パシャパシャと水をかき混ぜながらソマリが言った。ロニエとナタリーは歩きすぎで体力を消耗したらしく、大きな岩に座り、休憩している。コルルとトレアは周りを見渡し、何かないか探していた。
「間違いだったのかな〜…」
トレアが小さくつぶやく。ロニエはそれを聞き、ため息をつく。ナタリーもさすがに疲労の表情を露にした。
「あんたら誰や?人間か?」
いきなり背後で声がする。びっくりして振り返ったが、誰もいなかった。全員が目を丸くし、お互いの顔を見ている。
「ここや。ここ。あんたらには見えへんのか?」
トレアの超聴覚で場所を特定した。とっさに銃をホルスターから取り出し、相手がいるであろう方向に向ける。目の色はすでに黄色に変わっていた。
「人間に刃ぁ向けられんのは久しぶりやのう。いつからそんな変な形の武器が出来上がったん?」
ガサッとトレアが銃を向けた方向の茂みが揺れる。五人が一斉に構え、戦闘に備えた。
「私たちは人間よ。ここにいる「時」の特殊能力者に会いに来たの」
そう言うと、一層激しく草が揺れた。
「ほう!和泉に客人か!あやつ以外今まで来おへんかったのになあ」
声の主が笑うと、草も一緒に笑うかのように色々な方向になびく。
「お出迎えせなあかんからな。そろそろ焦らすのはやめたろ」
そう言うと、一つの影が現れた。
「俺の名は枝垂じゃ。お前たちの迎えに来た」
男の子。身長はロニエやナタリーよりも小さい。銀色の髪、銀の目をしている。少し吊りあがった目は、怖そうな印象も与える。
服は着物を着ており、時代の差を感じさせていた。
「迎え?どういうこと?」
ロニエが思わず尋ねた。そうすると、彼は八重歯をのぞかせ笑い、
「お前らだけではたどりつかんやろおもて、案内役や。もともと、これは俺だけやのうて、八重もおったんやけどな。途中ではぐれたんや」
と言った。
「さっきから、「和泉」「八重」って誰のことなんだ?」
コルルが腕組みして聞いた。彼はその大きな態度にむっとしたが、
「和泉はお前らが捜しとる「時」の能力者じゃ。八重は俺の妹」
と話した。
「お兄ちゃん!勝手に先さき行かないでよ!」
枝垂の後ろの茂みから、もう一つの声が聞こえる。
茂みから出てきたのはちょうど枝垂と同じくらいの少女だった。銀色の瞳に銀の髪。後ろに一つでまとめ、リボンで留めていた。前髪は眉の上で短く切られており、可愛らしい。愛着のある顔立ちだった。
「おお!八重。そこにおったか」
「置いて行くなんてひどいよ。探したのに」
兄(おそらく)に、頬を膨らませて反論する。
「あの〜…。ごめんなさい。とりあえず、和泉…さん?に会わせてもらえるかな?」
きりがないと思い、トレアが口をはさんだ。すると、枝垂が見上げながら言った。
「…そやな。そろそろ行くか。あいつもまっとるやろうしな」
くるりと彼は身を翻し、目の前に広がる大きな池を見る。八重も隣に来て見つめた。やがて二人はゆっくりと目をつむり、しばらく精神を集中させていた。二人が目をつぶっている間に、風が強く吹き付けたり、草が激しくなびいたりと、周りの空気が怪しくなった。
「なんだ…?」
そう、誰かが呟く。ちょうど、その次の瞬間だった。
「行くで」
カッ、と全く同じタイミングで目を見開く。銀の目がいつの間にか光り輝く青色に変化していた。
変化はそれだけではなかった。池の水が大きく波打ち、中心に引き込まれていっているのである。大きな音がし、落ち葉なども一緒に引き込まれる。
「これは一体何?!」
音が大きすぎて聞こえないため、大声で尋ねる。しかし、枝垂はそれを聞いておらず、その中心へと———
飛びこんだ。
「!!」
驚き、目を見張った。いつの間にか、隣には八重がいた。
「行きましょう?和泉に会いたいのでしょう?」
小さな手でトレアの手を握る。その手に力を込め、一緒に飛び込んだ。
「っ!」
何があったのかは、もう分からなくなっていた。
*後書き*
疲れた!!
「枝垂」が一発で出てこない!!
ということでもうここら辺で終わります!!
ありがとうございました〜^^
メゾ
- Re: 神の能力者 ( No.91 )
- 日時: 2012/05/09 14:10
- 名前: メゾ (ID: MSa8mdRp)
第五十六話 「時を操る少女」
「お、気が付いたか?」
「驚かせちゃってごめんなさい…」
目を覚ましたら、幼い兄弟が顔を覗き込んでいた。どうやら気を失っていたらしい。体を起こすと——
「ここは———?」
目の前に広がっていたのは水晶の床、壁、テーブル、椅子、エトセトラ、エトセトラ…。まさに水色一色、と言わんばかりの景色があった。周りは幻想と思わんばかりのものばかりで、一瞬別世界かと思ったほどである。トレアは周りを見渡し、コルル達を探した。彼らは枝垂と八重の後ろでまだ気を失っており、目が覚めたのはトレアが初めだったらしい。
「ここが、和泉の家じゃ。綺麗じゃろ?」
枝垂が八重歯を見せながらニッと笑う。少しだけ首を上下に動かし反応した。
トレアを見上げていた八重が立ち上がり、
「じゃあ、和泉に会いましょうか?」
と言って銀の目を光らせる。トレアもいつまでも座っている訳にはいかないので、ゆっくりと立ち上がり、彼女の目線の方に視線を向けた。
「ようこそ。待っておったぞ」
瞬きした、その一瞬の間に、彼女は現れる。
「?!」
黒の髪を床に付きそうなほど伸ばしていた。その黒髪は見事で、艶が出ている。青色の瞳は、トレア達が特殊能力を使う時にでる模様が描かれていた。日本の平安時代にいそうな女性(?)で、十二単を着こなしている。手には扇子、頭には豪華な飾りがついていた。見るからに重そうな着物で、軍の制服で来ているトレアからしてみれば、暑苦しそうでたまらない。年は十代後半から二十代前半くらいで、少し大人びた印象を与えた。
「あなたが、和泉…?」
「いかにも。妾が和泉ぞ。お主が神の使いで来た者か?神にそっくりじゃのう?」
「ユオの使いできたの。元気そうね?」
トレアの質問に枝垂と八重が反応する。和泉はそれに気付いたようで、少し扇子を開き、口元を隠すと、うっすら笑って言った。
「元気…?うむ、まあまあと言ったところであろう。決して万全ではないがな」
「……?」
意味が分からず顔をしかめていると、うーん、と言いながらロニエが起き上がった。
「あ、起きた」
枝垂が言う。トレアは彼の方に近寄り、起きるのを手伝った。彼は頭を振り、目を覚まそうとしている。まだ寝ぼけ眼だが。
「お主、こやつの記憶を知りたいのであろう?」
ピクッと体が震える。目線をあげ、和泉の方を見た。
「お主の過去を見たぞ。確かに、その少年はお主の弟にそっくりだ。だが、妾はまだそやつの記憶は見ておらん。神によって消されておって、過去が存在しておらんのだ」
「つまり、過去に付いて知ることはできない…?」
トレアが言う前に、ロニエが言った。彼はふらりと立ち上がると、目をこすり、和泉に向き直る。
「僕は僕を知ることはできないの…?」
悲しそうな声で言った。和泉は扇子を閉じ、言う。
「別に、知れないことはない。あやつの力を借りればな」
パッとロニエの顔色が変わった。トレアも驚いて目が大きく開く。それを見て、和泉はくすっと笑った。頭の飾りが忙しなく動く。
「妾の力は過去、未来を行き来する力。また、時を戻したり、進めたりすることができる。しかし、失われたものを取り戻すことはできん。神ではないからな」
「では、その力は誰が持っているの?」
問うと、彼女は扇子をすっと広げ、横に振って風を起こした。風が当たり、髪がなびく。思わず目をつむり、目の乾燥を防いだら、
「ノア、という幼子が持っている。なんなら今からそこに送ってやっても良いぞ」
目の前にはあの飛びこんだ池があった。和泉はその前に優雅に立っている。双子も彼女のそばにいて、十二単をつかんでいた。
「…?ここは、どういう場所なの?」
「というと?」
目を細め、聞いてきた。
「どうして、飛び込んだはずなのに、呼吸ができているの?どうして池が見えているの?あなた達は何なの?」
少し間をおいて、答えてくれた。
「……ふむ。一つずつ答えて行こう。
まず、ここは池の中ではない。あの池は、いわばカムフラージュのための「門」だ。あの池に、妾、この双子がいた上で、飛び込めば、扉が開き、この「異空間」に飛べる、という作りになっておる。ここは水中ではないから、呼吸ができる、ということだ。
次は、ここから、池が見えていることについてか。先ほども行ったと通り、ここは異空間、どこにも属さない、いわば外れた場所に値する。だから、あの池が見えるのだ。
最後の質問に答えよう。妾は「時」の特殊能力者。これでよいか?」
「……それだけなの?異空間に入れるということは、人間ではないんじゃないの?」
「………それは、お主も人間ではないことを認めた、という解釈をしたうえで答えてよいのか?」
「じゃあ、人間ではないのね?」
間が開く。和泉は目を細め、眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいる。負けじと、睨む。ロニエはそんな二人を交互に見ながらおろおろしていた。双子も冷汗を流している。
やがてあきらめたようで、はあ、とため息をつき、着物の裾を乱れていないが直すしぐさをした。
「ああ。人間ではない。元、人間だ」
「…今は?」
「今は、不老不死で、この空間に縛り付けられている愚かな人柱——とでも言おうか?」
「人柱?」
そう言ったときに、八重が和泉の前に立って、両手を広げた。
「ダメ!和泉、それ以上言っちゃダメ!」
和泉はそれを見下ろし、少しだけ驚く。枝垂も少しうつむいていた。
「トレアさんも、これ以上聞かないで。これは、私たちと主の問題だから、これ以上、知ろうとしないで!」
目に涙をため、彼女は言う。その剣幕に気おされて、引き下がった。
その大声により、コルル、ソマリ、ナタリーが起きた。三人ともまだ現状が理解できていない様子だった。
「……まあ、いいだろう。喧嘩をしに来たわけではないだろうし。八重、下がりなさい」
なだめて、頭を撫でてやる。見かけよりも優しいらしい。
「すまないな。また話が聞きたくなったら来るがよい。今回はこの辺にしてもらってもいいか?」
「…ええ」
「では、送ろう。枝垂」
枝垂は頷き、一歩前に出る。和泉はそれを見届けると、扇子を大きく広げ、瞳を輝かせた。コアッと音がし、光が周りに満ちる。目を細めると、和泉がうっすらと笑い、言った。
「妾の能力と、枝垂の力でお主たちを送る」
「和泉、姿を戻してもいいんか?」
枝垂が後ろを首だけまわして一瞥し、尋ねる。彼女はその問いにうむ、と言って頷いた。
「よっしゃー!やったるで」
そう言って、彼はうーんと背伸びをする。何が始まるのだろうと思っていると、光が一段と大きくなった。
「また会えるといいな。では」
「……え?!」
フワッと風が吹いたと思うと、そこで視界が真っ白になる。決して意識を失ったわけではない。意図的に視界が見えなくなるように操作されているらしかった。
「和泉!!」
叫んだが、返事はなかった。
まだ、聞きたいことはたくさんある。『彼』のことを。あの人が、自分と会わなくなって一体何があったのか。誰が彼を変えてしまったのか。
『オリビア、約束だよ』
彼がそう言ってある約束をしてくれた。彼は今、それを覚えていてくれているのだろうか。
和泉の力を借りて、彼の過去を見せてほしかった。何故彼が自分に刃を向けるのか、知りたかった。あれだけ可愛がっていた、弟を殺したのは何故?殺したりなんかしたら、トレアやセリアが悲しむのは目に見えていたはずじゃないのか。
「大嫌いだよ。ペルソナ」
そう呟いて、トレアは目をつぶった。
*後書き*
長くなったよ〜。ということで、疲れました。
なんだか、毎度毎度「疲れた」ばかり書いているような気がします。なんだか、一回くらい「疲れませんでした」みたいなテンションで後書きに突入してみたいと思うばかりです。
でわでわ、今回はこの辺で。ありがとうございました^^
メゾ
- Re: 神の能力者 ( No.92 )
- 日時: 2012/05/13 21:51
- 名前: メゾ (ID: MSa8mdRp)
第五十七話 「人柱の少女 全編」
「お疲れ様。ありがとうね」
目を開けると、ユオが顔を覗き込んで、自分を見ていた。あの時の枝垂と八重を思い出させる。そっくりな顔。和泉にも言われた記憶がある。
「元気ではないようだったよ?和泉」
上半身を起こし、周りの様子を探りながら話す。ここは、自分のベットの上だった。いつの間にか、眠っていたらしい。誰かに運ばれたのか?
「そうでしょうね。最近、彼女、体調悪いようだし」
分かっていたのか、なら行かなくても良かったじゃない。なんて思いながら呆れる。ため息をつきながら、聞きたいことを聞いた。
「和泉は、自分を「人柱」と呼んでいた。何かあるの?」
ユオは目を大きく見開き、トレアの方を見る。何かまずいのかな?八重にしても、このことに関して聞こうとするのを遮った。和泉はさして気にする様子はなかったが。
「……あの子は、昔、人柱にされた子なの」
*
大昔、数えるのが面倒になるくらい昔のこと。「和泉」と名付けられた少女はとある村に生まれた。彼女のもつ青色の瞳は、周りの者から嫌われていた。
「もののけ!」「呪われている。近づくな」「触ると呪いがうつるぞ」
などと言われ、彼女は孤立していた。美しい風貌に嫉妬してか、やたらと顔に向かって石などを投げてくる。一度はやけどを負わされた。ひどい時には刃物で体を斬られたこともある。
ふつうの親なら、捨てる、そんなのは当たり前だったから。しかし、彼女を、両親は裏切らなかった。大切に育て、傷を負えば手当をし、泣いて帰ってくれば、慰めてあげた。そんな優しい両親に心配をかけたくなくて、和泉はなるべく泣かずに、見つかりにくい傷は隠して家に帰って来ていた。いつも笑顔で、明るく、どんなに蔑まされても決してめげずに、父と母のために生きるために、自分を保っていた。
だが、そんな日常が、いつもでも続くはずはなかった。
ある日、和泉が散歩から帰ってきた時。いつもののように
「ただいま。お母さん。お父さん」
と、声をかけ戸を開けた。いつも通り、返事が返ってくるのかと思いきや、いつまでたっても返事は帰ってこない。嫌な予感がし、ぼろぼろの家の中を走り、二人の影を探す。
「いない……。なんで?!」
無造作に伸びた髪を振り乱し、青色の瞳をくりくりと動かしながら周りを見渡した。どんなに叫んでも、誰一人として何も言ってくれなかった。
「知りたい?どこにいるか」
後ろから、声がした。現実が信じられず、しばらく無心で立っていたらしい。帰ってきたときは確か昼だった。今はもう、夕方になっている。どれくらい立ったのだろう。背後から声をかけてきたのは、和泉を苛める筆頭と言えるこの村の村長の娘だった。
彼女は不敵に笑い、上唇を舌で舐めながら
「教えてあげる。ついてきて?」
とにかく二人に会いたい。そう思うと、これから何をされるかなんて見当がついていたはずだったのに、つられてしまった。フラフラとおぼつかない足取りで見えにくい道を進んでいく。
「……どこにいるの?お父さんと、お母さん…?」
まだ幼い和泉は、体力が限界に近付いていた。娘は、ぐるりと振り返り、不気味に笑った。そして、吐き捨てる。
「はっ。馬鹿じゃないの?生きている訳ないじゃない。お父さんに頼んで殺してもらったの。だって、あの二人が生きているとあんた、どんなにひどいことしても笑っているんだもの。ムカつくの、そういうの。だから、殺したの。あんたの笑顔の元。どんな顔をしているのかが楽しみで様子を見に行ったけど、ホント、楽しかった。あんなに絶望した顔を見せてくれるんだから」
光を、失ったような気がした。希望が、失われた。生きる理由が、なくなった。
力が入らなくなり、ガクンと崩れ落ちる。目から涙がこぼれ、ポタポタと地面にシミを作って行く。娘はそれを見て、腹を抱えて笑いだす。
「あはははははは!!それが見たくてここまで連れてきたの!」
彼女は和泉の肩に手を置き、呼吸を整えた後、囁く。
「あんたもこれから同じ運命をたどってもらうよ。まあ、みんな「呪い」で死んだと思ってくれるから、すごい好都合なんだよね。神にささげる儀式をまだ行っていなかったから、いいタイミング」
間をおいて、
「あんたには、「人柱」になってもらうよ」
聞こえなかった。何も響かない。
誰か、
助けて。
絶望から、
出して。
いつの間にか、髪の毛は整えられ、着物を着せられ、着飾れられ、村の人々が注目していた。人々の群れの一番目立つ、少し高い所に立たされていた。どうりでみんなが見ているはずだ、もう少しで「もののけ」が死ぬんだから。みんなが恐れる「呪い」が消え去るんだから。
目の前に広がる池に目を移す。綺麗な、よどみのない美しい水色。それに、自分が映っている。光を通さない瞳はすっかりと汚れ、青色ではなく黒に見えた。
ああ、死ぬんだ。お父さんや、お母さんのもとに行ける。
嫌われたまま、生き続ける必要がなくなった。
良かった。
そう考えると、なんだか笑えてきた。
こみ上げる感情を抑えることができず、笑いだす。
この世のすべてを手にしたように笑う。大きく、思い切り。
周りなんて、知らない。どうにだってなってしまえ。
村人たちはざわめいた。いきなり、これから殺される少女が笑いだしたのだ。驚きを隠せない。娘も困惑の表情を浮かべる。
「呪われた子を人柱なんかにしたら、祟りがくるんじゃないのか?」
村人の一人が言った。その言葉に全員が反応し、和泉を止めようとする。祟りにあってなんかたまらない。誰もが己の命が助かりたいがために止めようとした。
しかし———
和泉は池に飛び込んだ。
笑いながら。泣きながら。この世界すべてを呪いながら。
「みんなも、この世界も、全部、全部、大嫌い。さようなら」
そう言って、水の中に身を沈めた。
*後書き*
比較的、書きやすい回でした。
これが書きたくて、早めに更新しました。次回も、これの続きということで早く更新したいと思います。
和泉ちゃんに対するいじめは、ひどいものでした。書きながら、「うわ。これホントひどい、ごめんなさい」なんて言ったぐらいでした。
でわでわ、今回はこの辺で。ありがとうございました^^
メゾ
- Re: 神の能力者 ( No.93 )
- 日時: 2012/05/19 20:47
- 名前: メゾ (ID: MSa8mdRp)
第五十八話 「人柱の少女 後編」
「みんなも、この世界も、全部、全部、大嫌い。さようなら」
そう言って、身を投げる。視界はぼやけ、体温が奪われた。次第に呼吸がままならなくなり、苦しさに悶える。しかし、それもつかの間だった。
もう少しで、お父さんたちのところに行ける。
この苦しさを乗り越えれば、楽しい所へ行ける。
そう思ったから。そう考えると、水面に顔を出そうとする自分の行動をやめようとすることができた。呼吸なんてしなくてもいい。死ねるんだから。
(人柱。やっと来たか)
意識が消える寸前で、その言葉が聞こえた。どこからなのかは分からない。その声が聞こえた瞬間に、呼吸がすっと楽になる。もともとそこに空気があったかのようで、さっきまでの苦しさはみじんもなかった。やっと、その言葉の意味を理解する。自分は、人柱としてここに身を投げたのだ。みんなが「神」として敬う主の所へ行き、村のために命をささげる。
(お前は、もののけではないか。あやつら、お前をささげたのか?馬鹿としか言いようがないな)
主と思われる声の持ち主が続ける。
(人柱は、村をこよなく愛す者がなるべきなのだ。お前のようなものが人柱になっても村を愛していない以上、加護を与えることはできん)
つまり、自分が身を投げたのは間違いだった、と言いたいんだね?
心の中でそう思う。みんな、大嫌いなまま、村も大嫌いなまま、こうやって死んだ。人柱になっても、加護はもらえない。死んでいく愚かな人たち。本当、主様の言う通り、馬鹿な人たち。お父さんやお母さんを殺した、最低な人たち。死んじゃえばいいのに。
(お前は、ここで死んでもいいのか?人柱になるか?)
主が尋ねてきた。ここで死ねば、お父さんたちに会える。でも、ここで死ぬのは、なんだが負けたような気がした。村の皆に。このまま、お父さんたちの仇を討てないまま死ぬのは、悔しい。
「……死に、たくない………」
気づけば、うつむいてそうつぶやいていた。目に涙がたまる。ついに我慢できなくなり、ぽろぽろと涙を流した。悔しい、悔しい、悔しい。
(………分かった)
静かな主の声が聞こえた。少しだけ、優しく話しかけてくれたような気がする。
(お前は、神の能力者だな?その色、おそらく「時」の力だろう。殺すのは惜しい。私に、その力を分けてもらう。その代わり、お前を永遠に生かしておいてやる)
「…本当?」
(私は嘘はつかん。私の力を使えば、人の命を永遠にすることなど造作もない。しかし、お前をここまで追い詰めた村の奴らにこのまま加護を与えるのもどうかと思っている)
和泉も迷った。自分の「能力」といったものがどういうものか知らないが、力を分け与えてまで、村の皆のために尽くそうとは思えない。そんなことをして、こちらには何のメリットもない。むしろ、損しか残らないような気がする。
「……お父さんと、お母さんの仇を討ちたい」
(…それは、村人を殺す、ということか?和泉よ)
声が冷たくなった。人間に対し、これは主からしてみれば裏切ることになる。敬われ、あがめられていた、それを裏切り、刃を向ける。村を潰すことになる。主は、土地に根付き村をつくる。自殺と言える行動だった。
(後悔は、しないんだな?)
主は、止めるつもりはないようだった。むしろ、彼女の我がままに付き合おうとしていた。和泉は顔を上げ、涙にぬれた顔で尋ねる。
「しないよ。だけど…そんなことしていいの?」
(お前を人柱にした奴らが悪い。私はお前の見方だ。裏切りはせん)
そこで、主は声を消した。
次の日———
村は一夜にして滅んだ。原因不明の病により、村人は次々と倒れ、どこからともなく火がたち、家を焼いていった。残ったのは、焼け野原と、数々の屍の山。人が生きていた後なんて、一つも残っていなかった。
そこに、一人の少女がたたずんでいた。
それを見て、なにも感じていない。普通の人なら、悲鳴を上げてもおかしくないような状況なのに。彼女は、当たり前、と言わんばかりの表情をしていた。むしろ、せいせいしたような。
「ありがとう。私のために、こんなにしてくれて」
少女は独り言のように呟く。誰もいないので、返事はないはずだった。しかし、
(構わない。私からしてみれば、天罰と同じようなもの。人という生き物は、罰を与えないと道を外れて行く。ちょうど良かったのだ)
と、声がした。にこりと薄く笑い、和泉は身をひるがえす。黒髪がなびいた。青色の瞳は輝き、前の日の、絶望した光を通さない目はなくなっている。嘘のような代わり方だった。
「帰ろう。もう、誰もいなくなったし。お父さんと、お母さんの仇も討つことができた。満足だよ」
(そうか、それは良かった)
風が吹き、落ち葉が舞い散った。
*
すべてを聞いて、トレアはあれほど八重が和泉の過去について聞くのを嫌がっていた理由が分かった。まさか、このようなひどい過去を持っているとは知らなかったので、無神経に聞いた自分を腹立たしく思う。
「最近、主の体調が悪いらしいの。和泉の体は主とリンクさせてある。主の調子が悪くなれば、その影響を受けて、彼女自身も悪くなってしまう。だから、様子を見に行ってほしかったの」
「そう…」
「あの子は、能力をあまり使えない。たくさん使うと、体力をすぐ消費して倒れてしまうから。「時」は、もともと人間が手を出してはいけないもの。それに関する能力なんだから、一度にトレア達以上の体力を使う。だから、体に負担がかかるんだ」
能力も、メリットだけが多いのではないことを思い知る。
ユオは、すっと立ち上がり、手をトレアの目の前で振る。どうやら、もう時間のようだった。
ニコニコ笑い、彼女は言った。
「じゃあ、またね。今度は、和泉の言った「ノア」に会わせてあげる」
そう言い残して、姿を消した。
*後書き*
やっと和泉ちゃんの過去が終わりました。これから、他の皆の過去についても書いていけたらいいなと思います。
次回はそろそろペルソナ君たちを書いてあげたいです。
ではでは、この辺で。ありがとうございました^^
メゾ
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