ダーク・ファンタジー小説
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- バッドエンドアリスの招待状
- 日時: 2021/02/02 23:46
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: vQ7cfuks)
僕の親愛なるアリス。
どうしても君に真実を伝えることができない。本当に申し訳ないと思っている。
君の悲しむ顔を見たくないだけなんだ。
どうか、君が何も知らないまま幸せに生きてくれることを願う。
ねえ、アリス。ずっと君はそのままで。何も知らない幼気な子供のままでいてくれ。
秘密は絶対に解き明かしてはいけないよ。
「 お客様 」
すーぱーうるとらすぺしゃるさんくす!!!!!!!!!!!!!!(意味不明)
コメントありがとうございます。励みになります。
読んでくださる皆様もありがとうございます。もしよろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。
■電波 様
□小夜 鳴子 様
藍色の宝石 【中編集】/5作品目
(1作品目)優しい蝉が死んだ夏 >>003
(2作品目) 深青ちゃんは憂鬱だ。 >>029
(3作品目) 意地悪しても、いいですか。 >>039
(4作品目) 恋のつまった砂糖菓子 >>057
- 7 ( No.19 )
- 日時: 2017/08/22 21:03
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: y68rktPl)
- 参照: 槙野つくもの悪戯
やりたいことは全部やった。
願いごとは、子供の望むことのような単純なものだった。
「御門、もういいや。ありがとう」
毎日空の写真を撮る。晴れの日も雨の日も、台風がきたとしても毎日毎日写真を撮る。その日しか切り取れない空を、アルバムに綴った。
わたしが入院すると決めた時に、御門は何も言わずに一枚の紙を出した。
「……ごめん。忘れてた」
「うん、大丈夫。しよう、結婚」
「そう、だね」
死ぬって分かってるくせに、未亡人になりたがる御門。未亡人は女性の場合なんだっけ、と昔やった御門とのやりとりを思い出して少し笑った。
「好きな人と幸せになるって、罪悪感はんぱないね」
「俺も罪悪感でいっぱい。マキと同じくらい」
入院の手続きと同じタイミングで役所に行って婚姻届を出した。お幸せにと声をかけられたけれど、これから幸せになるための結婚じゃない場合どう答えたらよかったんだろう。ありがとうございます、と笑顔を作って御門が答えてたのに胸が痛くなった。
この結婚は、御門がわたしのことを忘れないための呪いだと思う。
ずっとずっと一緒に居られるわけないから。だから、するんだ。どうしようもなくバカだ、わたしたち。
「ずっとずっと好きでいてなんて言わないから」
八月の真ん中。
御門の誕生日にアルバムを渡した。空の写真集と名付けたそのアルバムを見た御門はただ一言、大事にすると笑った。
「わたしがいなくなったら、他の誰かと幸せになってね」
これで、御門に忘れられることはない。御門の唯一になったわたし、ズルをして手に入れた幸せ。可哀想じゃない、わたしは可哀想じゃないんだ。
「ごめんね……ごめんね……」
どうか神様、もう少しだけ時間をください。
御門ともう少しだけ、もう少しだけ、一緒にいたいんです。
ほら、叶わない願いごとばっか。
「そっか。妊娠したんだ、おめでとう」
わたしが風子に笑いかけると、風子はくしゃくしゃの顔で笑った。罪悪感はなかった。
「酷いや。風子がどんな気持ちでマキに報告したのか、ちゃんとわかってる?」
ごめん、わかんないや。
御門は持ってきたフルーツバスケットからリンゴを取り出してするする剥いていく。対面した風子だけが泣きそうな顔で声を荒げた。
「御門はあげないよ」
リンゴを剥き終わった御門が透明の小皿に乗せてわたしの前の机に置いた。
御門が話を聞いてるのかはよくわからない。何も反応せず、ただわたしの隣に座っている。
「紅茶でも入れるね」
ゆっくりと体を起こしてわたしは部屋を出た。
風子はわたしのことをどう思ってるんだろう。コップに湯を入れながら、そんなどうでもいいことを考えた。どうせ、最低な姉だという印象は変わらないだろうに。
コップを三つお盆の上に置いて、一つのコップに魔法をかけた。風子がわたしのことをずっと覚えてくれていますように。
病室に戻った。うまく笑顔は作れているだろうか。うまく、君の前から姿を消せるだろうか。
考えるだけで胸がいっぱいになった。そんな、夏の最後の意地悪。
◇ 槙野つくも 20歳、御門雪無 21歳
遠野風子 19歳
- 8-1 ( No.20 )
- 日時: 2017/08/22 21:15
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: y68rktPl)
- 参照: 御門雪無の啼泣
好きな人が呆気なく死んだ。蝉がうるさい夏のある日のことだった。水を飲みたいと譫言のように呟いた彼女のために自動販売機に行ったのが間違いだったのだろうか。俺が病室を出たほんの三分の間に彼女は息を引き取った。タイミングはバッチリ、まるで俺に死を看取られたくなかったかのように、彼女は永遠の眠りについた。
「最低だよ、つくも」
葬式でぼそりと俺は呟いた。隣にいた風子ちゃんが青い顔でこちらを見た。顔は泣き腫らしたのか真っ赤で、ちょっとつついたらまた泣き出しそうな表情だった。
「なんでもないよ」
つくも、槙野つくも。彼女の名前を生前俺は呼んだことがない。たったの一度も、俺は「つくも」と呼んだことがないのだ。
彼女自身、名前で呼ばれることを嫌っていた。それでも、あんなに自分の名前に拒否反応を表すのはきっと、何か理由があったんだと思う。
「死んだんだな、マキ」
俺の愛しい恋人、俺の愛しい奥さん。呆気なく秋を迎える前に死んだ。
最後にとんでもないことをしでかして、死んだ。きっと最後の復讐だったのだと思う。今までの人生の復讐、自分の「経験するはずだった幸せ」を壊された彼女の唯一の、怒りだった。
「ねぇ、御門くん」
「どうしたの」
焼かれるマキを待っている時に、ふと隣にいた風子ちゃんが呟いた。
「これがマキの望む未来だったんなら、風子は受け入れなくちゃならないのかな」
お腹をさすりながら、目の縁に涙をためて風子ちゃんは言った。
骨だけになったマキを見ながら、俺は返答に少し悩んだ。マキのやったことが正解だとは思わない。それでも、彼女の復讐を知っていたとしても、俺が止めることはできなかった気がする。
「俺さ、ずっと思ってた。もしかしたらマキは風子ちゃんのことが好きなのかもしれないって」
「……え?」
「いろんな意味でさ、マキは風子ちゃんに依存してたし。ずっとずっとマキは君に罪悪感を持ってた」
だけど、それは間違いだったんだってマキが死んだ今わかったよ。
「でも、逆だった。本当はマキは死ぬほど君のこと嫌いだったんだね」
死んだのは二人。一人は槙野つくも、もう一人は彼女が殺した新しい命。
優しかった彼女は、いとも簡単に殺人犯になった。まるで幼い頃にいとも簡単に殺していた蝉を仕留めるように、音もなく。
彼女の残した最後の手紙に書かれていたあの悲鳴を、風子ちゃんはどう受け取ったのだろう。小さくなったマキを抱きしめながら、俺は鼻をすすった。
- 8-2 ( No.21 )
- 日時: 2017/08/18 09:13
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: G1aoRKsm)
マキの最後の復讐は、結果的には成功した。だけど、本当にそれが彼女が望んでいた結果かどうかは誰にも分からない。
ただ一つ、風子ちゃんのお腹の子が死んだのは、彼女が紅茶に混ぜた薬が原因ということ。それを知っているのは俺と風子ちゃんの二人だけということ。
「美夜子さんには、言わないの?」
流産したと風子ちゃんが俺に電話してきた日、俺は安直な質問をしてしまった。
『言わないですよ。だってこれが、きっとマキの最後の復讐だったと思うから』
電話越しに聞こえる泣いた後あとの独特の掠れ声に、ごくんと唾を飲み込んだ。風子ちゃんにとって、いや母親にとって、娘を殺されるということは人生で一番悲しいことに違いない。
「マキのこと、恨んだりしないの?」
『しませんよ。これが結果です。風子が今まで無自覚でマキを傷つけてきた結果』
風子ちゃんのことを大事に大事に、妹のように可愛がっていた。俺が知ってたマキは偽物だったのだろうか。
心の奥深く、彼女の真っ黒な部分では風子ちゃんのことを殺したいほどに嫌ってたのだろうか。
電話を置いて、俺はベッドに寝転んだ。当たり前のように隣にいたマキはもうどこにもいない。俺の隣で幸せそうな寝顔を見せることはない。そろそろ、マキが「いない」現実を受け入れなければならないのに……自然と溢れた涙を服の袖で拭って少し笑った。
いなくなるなんて、わかってたはずなんだけどな。
「そういや、マキが最後にあれくれたんだよな」
空の写真集。彼女はそのアルバムをそう呼んでいた。中はまだ見ないでね、と笑いながら言っていた俺の誕生日、きっと「わたしが死んでから見てね」という意味だと思い、俺は一度もそのアルバムの中は見ていない。
だけど、もう彼女はいない。
自然とページをめくる手が動く。
「御門 雪無 さまへ」
たくさんの空の写真に、その空を見た日の短い日記が添えられていた「空の写真集」。その最後のページ、俺の誕生日の日の朝焼けの空の写真とともに一通の便箋がはさまっていた。
俺の下の名前覚えてたんだ。と、何でかそれで笑ってしまった。
そういや俺もマキの名前を呼んだことなかったけれど、マキも俺の名前を呼んだことなかったな。
「御門へ
御門がこの手紙を読んでるのはきっと、わたしが死んだ後だと思います。御門は変なとこでバカ真面目だから、きっとわたしとの約束を守ってくれたんだよね。ありがとう。
空の写真集、どうでしたか。御門に買ってもらっためちゃんこ高いカメラで撮った写真だから、やっぱ綺麗に撮れてたでしょう?
特に、最後に撮った御門の誕生日の日の朝焼けは綺麗でした。何でかわかんないけど、涙が出てきたの。これが感動したってことなのかなって思った」
マキの文字だ。少し角ばった漢字と、それとは対照的な丸字のひらがな。
懐かしくて、辛くて、暖かくて、憎い。
もう、この世にはいない人間の残した文字。
マキがこの手紙を残したのにはきっと意味があるのだろう。俺はベッドからゆっくり体を起こし、二枚目の手紙の文字を目で追った。
それは、彼女の罪の告白から始まった。
- Re: 優しい蝉が死んだ夏 ( No.22 )
- 日時: 2017/08/21 18:39
- 名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY (ID: hd6VT0IS)
「蝉の声が聴こえる。……優しい、君の泣き声とともに」
はじめまして、では全然無いですが、はじめまして。めいこ、というものです。別になるこでも構わないのですが(笑)
あ、初めの文章は、この小説を読んで、何となく思いついた言葉たちです。私の勝手な妄想のようなものなので、あまり気にしないでくださいね。
私、いつもほとんど掲示板は見ないのですが、ついこの間、自分が昔書いていた小説を読み返した後、複ファ、コメライ、と掲示板を巡っていました。題名で気になるもの、作者さんで気になるものをたまにタッチしてプロローグなんかを見ていたのですが、そこでこの題名に惹かれ。タッチしてプロローグを見て「あ、好き」となりました。
読み進めて行く中で、「この文章の感じ、誰かに似ているな……」なんて思いました。結果はビンゴだったわけですけれども。
立花さんの文章には立花さんにしかない癖みたいなものがありますね。どこか現実離れしているような、ふわふわと幻想的な印象を受けます。そんな雰囲気が私は大好きです。
さて!
マキちゃん。実は、途中まで名前が「マキ」なのだと勘違いしていました。「え、槙野?」となり、自分が色々と読み飛ばしていたことに気がつきました。ごめんなさいm(_ _)m
御門くん。なんてイケメンなのだろう、と思いました。こんな子とお付き合いしたい、と考えながらも、少し狂気のようなものを感じました。まあ、入学式にあんなことされたら誰だって恋に落ちてしまいますよね!
風子ちゃん。多分、現実にいたらけっこう嫌いだったタイプかな、と思います(笑)目の前で飛び下りとかされたら、もう絶交です。バンジージャンプするなら、せめて命綱つけろやこの野郎!と(笑)けれど、恋に振り回されている感じが、青春時代の不安定な心の揺れを感じました。
「母親」を通して間接的にマキと風子は姉妹、という関係になっている、という設定に度肝を抜かれました。湊かなえさんの小説を読んでいる気分でした……物語が繋がる感じです。その設定使いたかった!!(おいおいおい)
この小説、シリダクというより、複ファでもいいんじゃあないかなって思います。それくらい、大人向けの小説だと思いました。
「優しい蝉」というのが個人のことを表しているのかはわかりませんが、「死んだ夏」、とあるので、今現在死にそうなマキが「優しい蝉」なのだろうか……と思えばまさかの。ま さ か の。マキちゃん、君はなんてことをしでかして死んでくれちゃったんだyo。
私の考える、蝉とは何なのか(他の方へのネタバレは良くなさそうなのでここで止めておきます笑)。
私はよく、歩いていたら蝉を潰してしまいますねー(は?)。
マキが「私は思い出にしかなれない」というのにもゾクッとしました。確かに。死人は思い出になるよな、と思わず頷いてしまいました。私には全然思いつかない発想で……おみそれしました。
ところで、未亡人の男版は、やもおというらしいです。漢字だと、寡男、鰥夫。読めるか!!って感じですね。
雰囲気、構成がとても好きな作品です。本当は最終回を迎えてからコメントをしようかと考えていたのですが、待ちきれませんでした(笑)
気になった点が、風子視点で書かれているとき、風子は自分のことを「私」ではなく「風子」と呼んでいたので、三人称かと少し混乱してしまいました。登場人物に違いを出すために必要なことだと思うため、変える必要は全くないです。私がただ少し感じたことなので、気にしないでください!
誤字もほんの少し見られましたが、読んだ後必死に探しても正確な位置はわかりませんでした。ごめんなさい(汗)
というか、すごく気になるところでレスが止まっていますね。すごくすごくvery気になる!
ではでは。これからもよろしくお願いしますね。
- 8-3 ( No.23 )
- 日時: 2017/08/22 21:08
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: y68rktPl)
「風子の子供を殺したことを後悔することは絶対にない。当然のことをした、と思ってる。
御門にはきっとわからない感情の一つだと思うけど、それでもわたしは風子を憎んでいたし、傷ついてほしいと思ってた。
最低な姉だったと思います」
紅茶に薬を混ぜました。それも結構効くやつ。
マキは淡々とその真実を告げた。手紙の文字は、あの優しかったマキとは別人だと思うほど、残虐な事実だけを残した。
「ずっと昔に蝉を殺したことがある。そりゃ誰だってあると思うんだ、一回くらい。でもそんな幼い頃に無残に殺した話じゃなくて。わたしはその蝉を明確な殺意を持って殺した。その蝉が嫌いだったわけでもない、その蝉を憎んでいたわけでもない。それでも、殺したいって思った。……今思えば酷いことしたなって」
三枚目になって突然内容がガラッと変わった。
読んでいてもよく意味は分からなかった。
だけどこれは、マキが最後の最後で書いた手紙。マキが絶対に言葉にしなかった本音が、これを読めばわかるのだと思うと、文字を追う目は止まらなかった。
「あの夏、殺した蝉が風子に化けて出てきたと思ったんだ。わたしの唯一のトラウマが、風子に会ったときにフラッシュバックした。だからあの時泣いちゃったんだ。笑えるでしょう、高校生にもなってそんなバカなことを考えてた」
手紙を読む手が止まった。これ以上、読んではいけないと思った。
マキの告白は真実と嘘が入り混じっている。きっと俺以外の誰にも分からない、積み重ねた嘘がいま形になった。
「風子はわたしにとっての、あの時殺した蝉だった。だから必死に可愛がって、ご機嫌をとった。殺してごめんっていつも思ってた。
風子が飛び降り自殺をしようとした時、黒板には「死ね」って書かれてあった。それを誰にも気づかれないように消した。風子のその悲鳴はお母さんに向けてのものだっただろうし、わたしにじゃないことも十二分に理解してた。だけど、あの時の蝉を思い出して吐き気がした」
風子になって、わたしに「死ね」と言いにきたんだと思った。
明日はマキの葬式だ。きっと風子ちゃんも彼女たちの母親の美夜子さんも来るだろう。
俺がマキと結婚したと伝えたらどんな顔をされるだろう。どうでもいいか、そんなの。
暑くなってエアコンの電源を入れた。二十四度まで下げて、手紙を机の上に置いてベッドに寝転ぶ。
「マキは誰も殺せなかったんだね」
読んでわかった彼女の唯一の嘘。
風子ちゃんには絶対に言わないでおこう。最後まで、俺は、俺だけは気づかないふりを続けなければならない。
マキが望む未来を、叶えようと思った。
優しい蝉はどこにもいない。
ただ、音もなく殺されたのだ。
◇槙野つくも 20歳、御門雪無 21歳
遠野風子 19歳
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