ダーク・ファンタジー小説
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- バッドエンドアリスの招待状
- 日時: 2021/02/02 23:46
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: vQ7cfuks)
僕の親愛なるアリス。
どうしても君に真実を伝えることができない。本当に申し訳ないと思っている。
君の悲しむ顔を見たくないだけなんだ。
どうか、君が何も知らないまま幸せに生きてくれることを願う。
ねえ、アリス。ずっと君はそのままで。何も知らない幼気な子供のままでいてくれ。
秘密は絶対に解き明かしてはいけないよ。
「 お客様 」
すーぱーうるとらすぺしゃるさんくす!!!!!!!!!!!!!!(意味不明)
コメントありがとうございます。励みになります。
読んでくださる皆様もありがとうございます。もしよろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。
■電波 様
□小夜 鳴子 様
藍色の宝石 【中編集】/5作品目
(1作品目)優しい蝉が死んだ夏 >>003
(2作品目) 深青ちゃんは憂鬱だ。 >>029
(3作品目) 意地悪しても、いいですか。 >>039
(4作品目) 恋のつまった砂糖菓子 >>057
- 4-3 ( No.14 )
- 日時: 2017/07/30 22:21
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: lQjP23yG)
「どうして?」
マキは頭にクエスチョンマークを浮かべて、こちらをじっと見た。
「だってみんな兄さんを愛してた。きっと俺は兄さんにならないと、捨てられる。要らないって言われる」
あの公園のベンチに座りなおして、俺はマキに不安を吐露した。けれど、俺の感情なんかガン無視で、マキは当然のように答える。
「ふーん。でも、御門は御門でしょ。お兄さんと同じになる必要はないと思うけど」
どれだけその言葉に救われたか、きっとマキは知らないだろう。俺も口下手だから、なかなか上手く言えない。
マキはバタバタ足をぶらつかせて、その勢いで立ち上がった。そして一回ターンをしてこちらを向いた。
「わたしはニコニコ笑って気持ち悪い御門より、今の御門の方が好きだよ?」
何気にディスられてることにも気づいていたけど、それよりマキに「好き」と言われたことが嬉しかった。俺と同じ感情ではないことはわかっていたけれど、それでも。
もう帰ろう、と夕焼けの赤い空を見ながらマキは言った。蝉の鳴き声がしなくなったその場所で、マキの声だけが響く。俺は頷いてゆっくり立ち上がった。マキの隣を歩いていいのは自分だけだと勝手にそう思いこんで、小さな彼女の手のひらを握る。嫌がりながらもその手を握り返す彼女が可愛くて、俺も強く握り返した。この子が俺のものになればいいのに、俺のものだけになればいいのに。伸びた影をじっと見た。自分の今の表情を、マキにも、誰にも、見られたくなかった。
「だからぁ、好きなんだって!」
「うるさいっ。勘違いだって、そんなの」
「勘違いじゃない、だって三年も片想いしてきたんだよ」
「あああああああっ、もううるさいいいい」
逃げ回るマキに、追いかける俺。かれこれ三十分近くこの鬼ごっこが続いている気がする。
マキはどうして信じてくれないのだろう。あれ、いや、違う。
マキは信じたくないんだ。自分が愛されようが、いずれ捨てられることを知っているから。
「マキ、じゃあこうしよう」
たった一つ、逃げ道を準備しないとマキは心を許してくれない。
「いつでも俺のことを捨てていいから。要らなくなったら、いつでも」
笑った俺を、きっとマキは不快に感じただろう。でも、それがきっと彼女の逃げ道になったのだと思う。差し出した手をゆっくり握った彼女は、あの時の彼女と何も変わらない。
「わたしは、好きになりたくなかったよ」
いつか要らないと言われるのが、怖かった。一緒だね、俺たち。
ごめん。困らせてごめん。それでも君を手に入れたいんだ。誰にももう、渡したくない。
◇槙野つくも、御門雪無 高1
回想 槙野つくも、御門雪無 中1
- 5-1 ( No.15 )
- 日時: 2017/08/04 09:41
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: GlabL33E)
- 参照: 槙野つくもの愛情
「風子のこと、御門はどう思ってるの?」
ベッドの上で本を読みながら不意に尋ねた。風子に告白されたという話を聞いたのは、ついさっきのことだ。当然のように「マキに言う必要あった?」と答えた御門に、何も言えないわたしは、偶然を装って尋ねる。
「風子ちゃん? そうだね、妹って感じで可愛いよ」
「好きになったりしないの。風子、結構可愛いじゃん」
「んー、それはないかな。俺が好きなのはマキだけだし」
ぎゅーっと勢いよく抱きしめられて、本が下に落ちた。流れでキスに持ち込まれて、そのまま二人でベッドに入った。
「それより、俺はマキが風子ちゃんのこと好きになるんじゃないかって不安なんだ」
「何それ。わたしがレズになるとでも?」
「でも、マキは風子ちゃんに罪悪感を感じてるだろ。その感情が捻じ曲がったらさ、そうなるかもしれない」
優しくわたしの髪に触れた御門は、冗談だよと笑って言った。
でも御門はそんな冗談言わない。きっと本当にそう思ってる。わたしが本当に妹を好きになることはないだろうけど、それでも御門の言葉には胸が騒いだ。
「好きと嫌いと、罪悪感は紙一重だよ」
わたしより一足先に十七歳になった御門は、歯を見せて笑った。その言葉の真意は分からない。だから、わたしは御門のようには笑えなかった。
「ねぇ、御門。手ぇ握って」
御門がわたしのことを要らないっていう日が、近づいているようで怖かった。だから甘えるのなんて死んでも嫌だったけど、そうやって御門の気を引いた。
大きな御門の手を握りながらわたしは思い出す。いつでも捨てていいから、と最後の告白をした御門のことを。
「マキは、そうやって俺に期待させる……」
本当はずっと好きだった。きっと御門がわたしに恋をするより先に、わたしは御門に恋に落ちていた。
初めて御門を見た日、可哀想なガキだと思った。親に自分の存在を否定されて、結局自分が何になりたいのか分からなくなっていた御門。無理やり作られた笑顔を振りまくその少年に、最初はただ興味本位で声をかけた。なんとなく自分と似ていると思ったのだ。
だけど御門はわたしなんかとは全然違う。わたしなんかより、もっともっと強い。
それが羨ましかった。格好良かった、キラキラして見えた。
でも言えない。
わたしも好きなんて絶対に言えない。
きっとそれは御門もわかってる。わたしは捨てられるのが怖いのだ。大好きな御門のそばにいられなくなるのが、怖くて怖くて仕方がない。だから絶対に言えない。好きだと、言えない。
- 5-2 ( No.16 )
- 日時: 2017/08/04 09:43
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: GlabL33E)
「好き」と伝えられないのは昔からだった。お母さんにも上手く伝えられずに、だから捨てられた。
お母さんが再婚をすると言って、私の親権を取り消したとき、彼女は私にこう言った。
「つくもは私のことを嫌いだったんでしょう」
そうじゃない、そうじゃないんだ。確かにあなたは酷い女だったし、親としては失格だった。それでも大好きだった。たった一人の私のお母さん。
嫌いじゃないよって言えばよかった。けど、それすらも言えない。
御門に言えないのも同じだ。
ただ、好きの伝え方を知らないだけ。
「御門は私のどこが好きなの?」
デート中に質問すると、御門が驚いたようにこちらをじっと見つめた。そんな変な質問してないはずなのに。
「どしたの、急に」
「どしたって、いや、気になって」
「いつものマキなら「別に御門がわたしのこと好きだろうがどうでもいい」って感じなのに。熱でもあるの、それか変なものでも食べた?」
御門の手のひらが私のおでこに触れた。熱なんかないのに、対応が酷い。
「どこがって、そんなの」
「かお?」
「え、ちょっと待って。もしかしてマキは顔に自信あった?」
「あ、なにそれめっちゃ失礼!」
あ、自分で墓穴を掘った。顔に自信があったら、きっと御門がわたしから離れていくなんて考えもしないよ。
氷だけになったメロンソーダをもう一度飲む。ずずっと嫌な音がしてすぐにストローから口を離した。
「やっぱり、美味しくない」
「ん、なにが」
「メロンソーダ。風子の大好物なんだって、飲み物だけど」
コップを持って軽く振る。カランコロンと中の氷が音を響かせた。
「それは初耳」
「うん。わたしも最近知った。あの子、意外と子供っぽくて可愛いんだよ」
風子は未だに御門のことが好きみたいだ。会うたびに「別れないんですか」と連呼してくる彼女にどう反応するのが正しいのかわからなくて、とりあえず「別れない」と笑顔で答えてる。付き合ってると言えば付き合ってるけど、わたしと御門の関係はかりそめだ。ちょんとつつけばあっという間に壊れる。そのわたしたちの関係に触れようとしたのが風子だった。それさえなければ、わたしたちはこのままでいられたのに。
「ねぇ、御門」
「ん。なに」
「結局わたしのどこが好きなの?」
ポツリと最後に漏らした言葉に、御門は小さく笑って答えた。窓越しでも聞こえる蝉の声。その声とともに、御門は言葉を紡いだ。
「全部。」
にひひとムカつくぐらいの笑顔で笑ったあと、アイスコーヒーを勢いよく飲み干した。同じくカランコロンと氷の音が響いて、御門はふうと小さく息を吐いた。
◇槙野つくも、御門雪無 高2
- 6-1 ( No.17 )
- 日時: 2017/08/10 17:15
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: /48JlrDe)
- 参照: 遠野風子の決別
煙草もビールもやめろと言われた。
最後にマキと会ったのは二ヶ月前。御門くんと結婚するらしい風子の姉は、それっきり連絡してくることはなかった。結婚式に招待されたらどうしよう、と考えながら風子はお腹をさすった。
「ね。どうしよう」
好きな人は変わらず御門くん。愛しているのも御門くん。だけど、お腹に宿った新しい命の父親は御門くんじゃなかった。
「風子は御門くんじゃなきゃ、ダメなのに」
最愛の人は、マキにとられた。一番大好きで大嫌いなお姉ちゃんにとられてしまった。
風子はマキのことを少しだけ恨みながら、空っぽの部屋で寝転んだ。
「え。待って、風子ちゃんって今何歳だっけ?」
店員が来て注文を聞かれた。御門くんがアイスコーヒーを頼むのは、いつもの癖なのだろうか。流れで風子もメロンソーダを頼んだ。
もう四年くらいの付き合いになるけれど、初めてデートに誘った。きっと向こうはデートなんて一ミリも思ってないだろうけど。
「十九歳ですよ。御門くんの一個下でした、後輩でしたー」
信じたくなかったんだろう。
御門くんの挙動不審な様子に笑いをこらえきれなくなって、風子は口角を上げた。
「それって、もうマキに言ったの?」
「ううん。今日初めて御門くんに言った」
なんで一番に言うのが俺なんだ、とぽつりと不満を漏らして御門くんは頭をかいた。好きな人だからだよ、と答えたかったけれどこの状況じゃ絶対に言えない。
「今何周目?」
「五周目」
淡々と言葉を交わしていく。
二十分後には御門くんのアイスコーヒーはもう空だった。風子のメロンソーダも氷が溶けて薄くなっている。
「相手は?」
「誰だと思います?」
逆に質問してみたけど、御門くんは分からないと短く答えただけだった。
「御門くんだったらよかったのに」
「ん、何か言った?」
「ううん。なんでもないよ」
聞こえないくらいの小さな声で呟いて、御門くんを見た。
御門くんがマキのことしか見えてないって、そんなの最初から分かっていたじゃないか。
だから風子がキスをした相手もエッチをした相手も、御門くんじゃない。いちばん自分がわかっている。
御門くんと出会うきっかけになった、明るい地毛はもう染めた。バッサリ短く切って、御門くんのことを忘れようとした。それでも大好きだった。忘れることなんてできなかった。
「風子がお母さんになるとか、マキには死んでも言えないよ」
妊娠した。相手は誰なのか見当がつかない。それも自業自得だ、風子が自暴自棄になったのが悪い。
でも、マキだったらなんて言うだろう。優しいから一緒に育てようとかほざくかもしれない。
その優しさが風子を傷つけているということにマキは一生気づかないだろう。マキは無意識に人を傷つける天才だから、きっと風子も傷つけられる。
人の感情をいつも簡単に抉る。それも大事な奥の、深いところを。
- 6-2 ( No.18 )
- 日時: 2017/08/11 21:52
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: lQjP23yG)
御門くんに連れられて来たのは市民病院だった。風子のお母さんが入院していた病院で、小さい頃の風子はこの場所が嫌いだった。病気に蝕まれていくお母さんが可哀想で、痛がっているお母さんを救ってくれない病院の人たちが悪魔に思えた。
「ここ」
ネームプレートの名前を見て、風子は声が出なかった。御門くんがガラッと扉をあけてこちらを見る。今まで言えなくてごめんね、と御門くんは小さな声で謝った。
「あ、やっほー。風子」
右手の手のひらをヒラヒラ振りながら、マキは笑ってる。点滴の管に繋がれて、起き上がるのもやっとみたいなのに、表情だけは明るい。でも風子はすぐわかる、四年も一緒にいたのだから。
無理やり笑った顔だって、すぐに気づいた。
「何がやっほー、なの」
「え、だって風子がわたしに会いに来てくれるなんて嬉しいじゃん」
「それくらい、いつでも……」
お母さんが死んだ光景がフラッシュバックして、一瞬吐き気がした。口元を押さえて地面を見る。マキの顔を見たくなかった。
「いつでも、くるよ」
入院してるって、どうして教えてくれなかったんだろう。毎日のように鬱陶しいメールを送って来てたのがパタリと止んだのは、このせいなのだろうか。
どうして一番大事って言ってた風子に教えてくれなかったんだろう。
結局一番大事なのは、御門くんのくせに。
「そんな顔しないでよ」
そんな顔ってどんな顔?
風子の今の表情が、おかしいっていうの?
「マキ、あのね」
二ヶ月も連絡せずに、ようやく会おうと思ったきっかけはきっとこれだ。
風子はマキのことをよく知っていると自負している。だってマキのことが世界で一番大嫌いだから。
あの日、あの夏の日、飛び降りたあとマキに言われた言葉を思い出す。
「風子が世界で一番大事」嘘だ。嘘だよ。
だって、風子のこと思うなら、それなら。
「死なないよね、マキ」
ボロボロと無意識にこぼれていく涙に心は追いつかなかった。この光景は見たことある。何度もなんども、苦しみながら生きたいと思いながら、それでも近づいてくる「死」と言う恐怖。
「言えなくて、ごめんね」
そっと風子の頭を撫でて、優しい顔でマキは笑った。
風子はマキのことなら何でも知っている。だって、マキのことをずっと、
風子を救ってくれるヒーローだって思ってたから。
◇ 槙野つくも、御門雪無 20歳
遠野風子 19歳
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