ダーク・ファンタジー小説
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- バッドエンドアリスの招待状
- 日時: 2021/02/02 23:46
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: vQ7cfuks)
僕の親愛なるアリス。
どうしても君に真実を伝えることができない。本当に申し訳ないと思っている。
君の悲しむ顔を見たくないだけなんだ。
どうか、君が何も知らないまま幸せに生きてくれることを願う。
ねえ、アリス。ずっと君はそのままで。何も知らない幼気な子供のままでいてくれ。
秘密は絶対に解き明かしてはいけないよ。
「 お客様 」
すーぱーうるとらすぺしゃるさんくす!!!!!!!!!!!!!!(意味不明)
コメントありがとうございます。励みになります。
読んでくださる皆様もありがとうございます。もしよろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。
■電波 様
□小夜 鳴子 様
藍色の宝石 【中編集】/5作品目
(1作品目)優しい蝉が死んだ夏 >>003
(2作品目) 深青ちゃんは憂鬱だ。 >>029
(3作品目) 意地悪しても、いいですか。 >>039
(4作品目) 恋のつまった砂糖菓子 >>057
- 2-2 ( No.9 )
- 日時: 2017/08/21 19:31
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
五月になって御門先輩と同じ生徒会に入った。御門先輩は風子のことを覚えてくれているみたいで、いつも優しく声をかけてくれた。
「風子ちゃん」
名前を呼ばれるたびにドキドキして、期待した。だけど、同じ生徒会の先輩に御門先輩に恋人がいると聞いたとき、風子は深い底の見えない穴に突き落とされたような感覚に陥った。
「御門先輩、に彼女いるんですか?」
「うん、そうだよ。まぁあれだけかっこよきゃいるよね、彼女の一人や二人」
短いスカートで唇が少し赤かったその先輩はケラケラと風子を小馬鹿にしたみたく笑った。きっと無駄な片思い、と言いたいのだろう。
「同じ学年の槙野っていう女子生徒。お似合いのカップルだよー、誰もつけいる隙なんてない」
言い切ったその先輩はすぐに生徒会室から出ていった。残っているのは風子だけ。力が抜けてソファーにへたりこむ。やっぱり、風子の恋は叶わないのだろうか。あの先輩が言うように諦めた方がいいのだろうか。
冷たいソファーの上で、体育座りをして縮こまる。体だけ大きくなっても、こういうところで小心者な自分が嫌いだ。
いっそ、告白して玉砕すれば諦められるかも。
家に帰って、新しい母親に「こんな時間まで何やってたの」と言われ腕を掴まれた。まだ六時だというのに、鬱陶しい。
なんでもいいでしょ、とその腕を払うと「心配なの! 風子ちゃんのことが!」と大声をあげて挙句泣き出した。出張で帰ってこないお父さんを恨みながら、風子がこの女をあやす。
いい子じゃないと、理想の子じゃないと、きっとこの女は子供を愛せない。欲しいのは自分の思い通りになる人形でしょ、と言ったところでどうにもならないのはわかっていた。
この女に捨てられた実の娘に同情する。こんな頭のおかしい女の子供ってだけで本当不憫だ。
「お母さんはね、風子ちゃんが心配なの」
繰り返しいう言葉は、きっと建前だ。本当に心配してるのは風子のことじゃない。風子が施設に奪われたとして、責められるのが自分だという現実が怖いのだ。
吐き気がして風子はご飯を食べずに部屋に引きこもった。制服を脱いでゆっくり呼吸をする。見えたハサミで自分の喉を潰したい。ぼたぼたと落ちる赤黒い血液を想像して、風子の口角が自然と上がった。
「死ぬ前に、やっぱり御門先輩に告白しなきゃな」
もうすぐ梅雨の季節がやってくる。きっと今年もすぐにあの暑苦しい夏がやってくるのだろう。そして夏の化け物であるあの蝉たちが大声で合唱を始めるのだろう。
ああ、嫌だな。
教科書を地面に散らかして踏み潰す。びりっと破れた音に快感を覚えた。自分が少しおかしいということはずっと前から気づいている。
- 2-3 ( No.10 )
- 日時: 2017/08/21 19:36
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
「ごめん風子ちゃん。俺、付き合っている人がいて」
告白は玉砕だった。そりゃそうだ、御門先輩には彼女がいるのだから。
体育館裏に呼び出して告白、というシュチュエーションに憧れがあって先輩を呼び出した。結局返事はノーだったけれど、言えただけ良かった気がする。
六月が来て、梅雨の季節に入った。でも、今日はそれを感じさせないほど、気持ちよくカラッと晴れていた。御門先輩がいなくなった体育館裏に風子は一人突っ立ったまま、太陽の光をガンガンに浴びる。夏の気配を感じた。
「先輩の彼女ってどんな人だろう」
最初はどうでも良かった。だけど、振られて何故かそれが無性に気になった。
だからちょっとだけ、みてみようと思った。お似合いのカップルと言われる彼女を。
風子の知っていることは、その人が御門先輩と同じ学年の二年生で、槙野という苗字の先輩だということ。
いろんな人に聞きまくって、その槙野っていう先輩の教室を覗きに行った。
風子の目に映ったのは、とても綺麗な女の人が御門先輩と楽しそうにお話している様子だった。胸がざわざわして、何だか嫌な感じがした。風子が嫌な女になっていってる気がした。
「あれっ、風子ちゃんじゃん。もしかして俺に用かな?」
御門先輩が風子を見つけて声をかけて来た。振った相手にも優しくしてくれる、そんな先輩がやっぱり好きで大好きで。
「えっと、あのっ」
上手く言葉が出てこなくてパニクっていると、その人が風子に声をかけて来た。
それが風子にとマキの初めての会話だった。
「この子、御門の後輩?」
風子をじっと見つめたその人は、何故かすごく青ざめた顔をして前髪をいじった。御門先輩がそうだよ、と肯定したあとも風子を見る目はおかしかった。その違和感には御門先輩も気づいたみたいだ。どうしたの、と尋ねる。
「風子ちゃんだよね、遠野風子ちゃん」
その人が呼んだ名前はまさしく風子の名前だった。初めて会うはずの風子のことを知っているなんて、よほど彼女が物知りなのか、風子が有名人なのか。
「そう、ですけど。先輩、風子のこと知ってるんですか?」
尋ねたあと、槙野つくもは譫言のように何回も何回もごめんなさいを繰り返して、風子の顔を見て泣き出した。異様な光景だった。
槙野つくものクラスメイトたちがギョッとした顔でこちらを見ている。風子は今すぐにもここから出て行きたかった。気持ち悪い空間だった。
「お母さん、元気?」
槙野つくものその言葉ですぐに気づいた。突然泣き出した理由も分かった気がした。
お母さんが捨てた娘というのは、きっとこの人だ。号泣する槙野つくもを見て、何が泣くほど辛いことなのかを風子は察した。
「風子がお母さんに殺されたら、槙野先輩のせいにしていい?」
不意に出て来たのは槙野つくもを責める言葉だった。
何故か、すごく傷つけたいという衝動が芽生えて来た。御門先輩の彼女ということではないけれど。
あぁ多分、罪悪感で死にそうなんだろうな、と風子は少しだけ槙野つくもに同情した。
◇槙野つくも、御門雪無 高2
遠野風子 高1
- 3 ( No.11 )
- 日時: 2017/08/21 20:07
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
- 参照: 槙野つくもの幸福
「御門の両親はなんて言ってるの。結婚の話」
「うーん、好きにしろって感じかな。もうあの人たちは俺に興味なんてないから」
御門の自虐は久しぶりに聞いた。それを言わせているのが自分だと気づきたくなくて、わたしは無理やり笑顔を作る。
近くにあったぶさかわ猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。一年以上前にゲームセンターのUFOキャッチャーで御門にとってもらったぬいぐるみ。まだここにいてくれたんだ。無性にそれが嬉しかった。
ベッドから起き上がって御門の隣にちょこんと座る。一ヶ月ぶりの彼の隣は何だか安心した。
「それより、プロポーズの返事。聞きたいんだけど?」
御門がわたしの方に向き直って言った。正座の上に握りこぶしがちょんと乗ってる。真面目な話をする時の御門はいつもそうだ。そういや高二の夏の時もこうだった。
「返事って。わたしが「結婚しよう」って言えば全部解決する話?」
「そうじゃない。言ったじゃん、昨日。俺は最期までマキのそばにいたいんだ。だから、お願いだからこの先も俺のそばにいてくれよ」
震える声で、泣きそうな声で、絞り出した御門の言葉に胸が痛くなった。
「わたしは死ぬんだよ。御門、未亡人になっちゃうじゃん」
「それは女の場合な。って今、わざと間違って話逸らしただろう」
「あ。ばれた?」
ヘラヘラ笑うわたしを御門は怒らなかった。きっとどうすれば正解なのかわたしが決めあぐねているのに気づいてるんだろう。正座した足が痺れてきて、わたしはゆっくり足を崩した。
「風子と結婚すれば御門は……」
「それ、何回言うの?」
御門がわたしの腕を掴んでぎゅっと顔を近づけた。
「俺が好きなのはマキだよ。俺が愛してるのはマキ、ただ一人なんだって」
わたしと同じ二十歳のくせに、わたしなんかにはとても言えない言葉をさらりと言ってしまう。御門はずるい。ずるいや。
恥ずかしい言葉をいとも簡単に言ってのけて、そのくせに後になって赤面する。恥ずかしいのはこっちだよ。
御門の大きな手のひらが頬に触れる。あったかいその手にもっともっと触れられていたい。
死ぬときまで、その手に。
「うん。ごめん」
上手く言えなくてごめん。
ゆっくり顔を近づけて、御門の唇に重ねた。
「わたしも愛してる。御門が大好き」
ごめんね、あと何ヶ月生きられるかすらわからない。明日死ぬかもしれないし、今突然倒れて死んじゃうかもしれない。
それなのに、わたしに好きって言ってくれてありがとう。一緒にいてくれるって言ってくれて嬉しかった。
「わたし、御門のお嫁さんになりたい」
わたしが死んだあとのことを考えるのはもうやめた。いま、幸せになることだけを考えよう。
これが最後の告白だ。最期まで君と一緒に笑っていよう。約束だよ。
◇槙野つくも、御門雪無 20歳
- 4-1 ( No.12 )
- 日時: 2017/08/21 20:11
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
- 参照: 御門雪無の後悔
「そんなにいい子で疲れない?」
上から降って着た声の主は、黒いパーカーに短パンの小柄な少年だった。笑っていたはずの口角が引きつったまま動かない。睨みつけるようなその少年の視線に自分が愚かだと気付かされた。
「理想の息子を演じるのって絶対疲れるよ。早く諦めた方がいい」
塀の上に上ったその少年は、勢いをつけてこちらに飛び降りてきた。
小学生だろうか。汚れたスニーカーに鋭い瞳。記憶に残るには十分すぎるほど綺麗な顔。
「なんで君にそんなこと言われなきゃいけねーんだよ」
「あ。ごめん、関係ない人間が余計なこと言った。気にしなくていいよ、ちょっと同情しただけ」
少年の言葉が一つ一つ、俺の胸に刺さる。
「君、名前は?」
あとで知ったのだけれど、その子は施設児童だった。親がいない子供だそうだ。
「わたし? わたしはマキ」
またあとで知ったのだけど、その子は少年ではなく、少女、だった。
「あの時のマキは本当に男みたいだった」
そう言うとマキは頬をリスみたいにぷっくり膨らませて眉をあげた。
「いつの話をしてるの。めっちゃ昔じゃん、会ったばっかの時はわたし、中学一年生だよ?」
「中一の割には、態度デカかったなーマキ」
「うるさい。同い年なんだから態度でかかろうが関係ないじゃん」
スカートをはいたあの時の少年が、俺のすねを勢いよく蹴る。高校が同じになってから、マキの機嫌がすこぶる悪い。多分、俺がこの前に告白したからだろう。
「マキ、なんで怒ってんの?」
「御門がわたしに好きとか変なこと言うから」
変なことじゃないじゃん。心の中で反抗するものの、声には出さない。きっとマキに言ったら、もっと機嫌が悪くなるから。
窓から外を見つめるマキは、俺の方なんか全然見ずに適当に相槌を打つ。俺の恋愛感情を偽物だと勝手に否定する。
「好きだよ。マキ」
「そんなの嘘だ。勘違いだ」
風で彼女の髪がふわりと靡いた。あの時の男の短い髪がここまで伸びたかと思うと、それだけ年月が経ったんだなと思いしらされる。
『ふーん。でも、御門は御門でしょ。お兄さんと同じになる必要はないと思うけど』
あの時、自分の中で一番葛藤していた感情を、いともあっさり壊された。
マキは俺の悩んでることは馬鹿らしいほどちっぽけなことだと教えてくれた。
俺を救ってくれたマキに、ただ純粋に恋をした。
「好きなんだ。マキ」
高一の春、君に好きと伝えた。出会いから、三年。一度も君は自分のことを語ってくれない。
- 4-2 ( No.13 )
- 日時: 2017/08/21 20:15
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
小学三年生の時、七つ年上の兄さんが死んだ。交通事故であっけなく、俺たち家族が見守る中、永眠した。家族はみんな泣いてて、俺もすごく悲しくて泣いた。
兄さんは有名な進学校に通う、将来も嘱望されている若者だった。母さんも父さんもみんな兄さんを可愛がっていて、死んだことをなかなか受け入れられなかったのだろう。
「雪無、あなたは圭一のようになるのよ。圭一みたいに、勉強もスポーツも頑張って、みんなから愛される存在になるの。わかったわね」
兄さんが死んでから、俺は兄さんのようになるように育てられた。猫をかぶるのは当然だったし、愛想笑いも得意になった。
でも、何でかすごく辛かった。自分を自分と認めてもらえない歯がゆさが、苦しかった。
「今日もいるんだ。ここに」
マキがよくいる公園に自ら足を運んだ。彼女はやっぱり男の子みたいな格好で、暇そうにベンチに座ってる。
「何か用?」
素っ気なく返されてイラっとしたけれど、俺は別にと言ってマキの隣に座った。沈黙が三分ほど続いて、ようやく口を開いたのはマキだった。
「あんた、本当に何の用? わたしに何を求めてんの?」
今よりきつい口調で、怒り任せに吐かれた言葉。マキの睨みつけるようなその瞳は、恐ろしかったけどとても綺麗で、見惚れて声が出なかった。
言い放ってぷいとそっぽを向いたマキは、そのまま立ち上がってスタスタ歩いていった。俺はどうすればいいのかわからずに「待って」と言って追いかけることしかできなかった。
「ねぇ、マキ」
「ああああああうるさい。用がないなら話しかけないで」
「用なんかない!」
勢いよくマキの腕を引っ張ってこちらに向かせる。
「俺がマキに会いたいって思っただけ」
言ったあと、マキの顔が女の子になった気がした。ピンクに頬を染めた彼女はやっぱり俺を睨みながら、大きなため息を一つついて手を払いのけた。
「うるさい」
十二歳のマキは、弱かった。ツンとつついたら砂の塔のように呆気なく壊れそうだった。脆いその心を必死に隠して、彼女は俺のすねを勢いよく蹴った。
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